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ラクトフェリンの効果とその作用

ラクトフェリンは鉄と結合する性質によって赤く変化するため「赤いたんぱく質」とも呼ばれます。母乳に多く含まれ、子どもの感染症予防の効果を持っています。近年の研究によって、口腔内の健康を保つ作用やダイエット作用なども解明されてきています。ここではラクトフェリンのさまざまな効果効能について解説します。

こすぎレディースクリニック 椎名邦彦先生監修

ラクトフェリンとはどのような成分か

ラクトフェリンとは人の母乳に多く含まれる成分です。

赤ちゃんの体を大きくさせる栄養成分としてだけでなく、抵抗力の弱い赤ちゃんを細菌やウイルスから守る感染防御成分が含まれていると考えられ、数々の研究が行われています。

ラクフェリンは母乳のなかでも生後1週間の「初乳」に多く含まれ、少し赤みがかった色をしているのが大きな特徴です。

これはラクトフェリンが鉄と結合する性質を持っていて、その際に赤く変色するからです。

ラクトフェリンの最初の発見は1939年のことです。デンマークの科学者によって牛乳から発見されました。

ラクトフェリンの名前は「ラクト=乳」「フェリン=鉄」に由来しています。

ラクトフェリンは人間だけでなく、他の哺乳類動物の乳に含まれています。しかし特に私たち人間の母乳、しかも初乳に豊富に含まれていることがわかっています。また母乳だけでなく、唾液、涙、血液などの体液にも含まれていることがわかっています。

牛の乳(生乳)にも含まれていますが、その濃度は動物の種類によって大きく異なります。最も多く含まれているといわれているのが私たち人間の出産直後の初乳で、その濃度は牛の初乳の約10倍もあるといわれます。

赤ちゃんはお腹の中では無菌状態で育ちます。生まれてすぐから、外界と接触することになりますが、それにはいろいろな感染リスクも伴います。

そのため、特に初乳に含まれるラクトフェリンの感染防御作用が赤ちゃんにとっては重要であることがわかっているのです。

ちなみに初乳100mlのなかには、約600mgのラクトフェリンが含まれると報告されていますが、3週後の母乳では約200mgまで減少してしまうそうです。

もちろん粉ミルクの中にもラクトフェリンが含まれているものも多くあります。[※1]

ラクトフェリンの効果・効能

ラクトフェリンには以下のような効果・効能が期待されています。[※1][※2]

■感染防御作用効果

ラクトフェリンには、抗菌や抗ウイルス作用があります。新生児を感染症から守り、大人でもノロウイルス等の感染症発症予防に役立つと考えられています。

■ピロリ菌や大腸菌の増殖抑制効果

ラクトフェリンの一部はラクトフェリシンという抗菌ペプチドになり、これがピロリ菌や大腸菌などに対して強い殺菌効果を発揮することが報告されています。

■腸内環境を整える効果

ラクトフェリンは乳酸菌やビフィズス菌を腸内で増殖させる効果があります。

■貧血の改善効果

ラクトフェリンは鉄と結合しやすく、鉄の吸収促進する働きがあるため、貧血の予防になると考えられています。

■内臓脂肪の低下効果

ラクトフェリンを2か月摂取することで、内臓脂肪が低下するという研究成果があります。

■免疫力を高める

ラクトフェリンは免疫細胞であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)の働きを高める作用があると報告されています。

■美肌作用

ラクトフェリンを肌に塗ることで、コラーゲンやエラスチンなどの美肌成分が増加することが確認されています。[※3]

■歯周病の予防

ラクトフェリンは歯周病の原因となるバイオフィルムを抑制除去する作用があることが確認されています。[※4]

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

ラクトフェリンが体内でどのように消化吸収され機能性を発揮するのかは、まだまだ研究が必要とされる部分も多いです。

しかしすでに多数の論文(6000本以上)によってラクトフェリンの複数のメカニズムが解明・報告されています。

例えば、ノロウイルスなどの細菌に対して抗菌作用を発揮するメカニズムについてはふたつの経路が確認されています。

ひとつ目は、吸収されたラクトフェリンが、体内に入ってきたウイルスに直接張り付きウイルスが細胞内に侵入するのを阻止するというメカニズム。

ふたつ目は、ラクトフェリンの一部がラクトフェリシンというペプチドになり、これが免疫物質となってウイルスの増殖を抑えるというメカニズムです。[※5]

2001年には人の小腸だけでなく、精巣、卵巣、骨格筋、膵臓、肝臓、乳腺、甲状腺などほぼ全身でラクトフェリンを受け取る受容体が見つかったことも報告されました。

これはラクトフェリンが体内に吸収された時に、全身でさまざまな働きをする可能性のあるたんぱく質であることを示唆しています。[※6]

近年は、直接肌に塗布するラクトフェリンのクリームなどの化粧品も研究開発されています。

これは、ラクトフェリンに肌の新陳代謝を活性し、コラーゲン・ヒアルロン酸・エラスチンの量を増やす働きが確認されたからです。[※3]

皮膚からの吸収メカニズムについてはまだ未解明の部分が多く、今後の研究が待たれるところですが、ラクトフェリンが可能性を秘めた成分であることを物語っています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

ラクトフェリンはどんな人にも安全で、有効な成分の一つです。

特に歯周病や炎症が気になる人、免疫力を高めたい人、免疫力が落ちてきた時、感染症の気になる季節に摂取することをおすすめします。

また、抵抗力が落ちている時は貧血になりやすく、貧血になりやすい時は風邪をひいたりしやすい時期です。

このような時期に鉄分を補いつつ、ラクトフェリンも 活用するのも、免疫力を高めるのによいとされます。

ラクトフェリンには内臓脂肪の低下目的とした商品もありますが、これには継続摂取が必要ですから、あくまで体質改善に役立つ程度と考えた方がよさそうです。

ラクトフェリンの摂取目安量・上限摂取量

ラクトフェリンの摂取量に目安や決まりはありませんが、1日に150〜300mgの摂取を継続することが適当とされています。

また午前中や日中よりも就寝前に摂取することで効果が発揮されやすいことが報告されています。

ちなみに現在、機能性表示食品としてラクトフェリンの商品がいくつか販売されていますが、これらの含有量はいずれも270mgとなっています。この量もひとつの目安になるでしょう。[※7]

ラクトフェリンはチーズなどの食品にも含まれていますが、熱や酸に弱く、消化酵素によっても分解されやすいため、体内に取り込むことが難しい成分とされています。

効率よくラクトフェリンを摂取するためにはサプリメントの利用は有効といえるでしょう。そして、1回摂ったから良いというものではなく、一定量を毎日継続して摂ることが腸内環境を整え、効果を感じられる秘訣だとされています。

ラクトフェリンのエビデンス(科学的根拠)

ラクトフェリンの効果効能については多数のエビデンスが報告されています。

■内臓脂肪低下作用

ラクトフェリン商品の中に「ラクトフェリンの摂取によって内臓脂肪の減少と高めのBMI値の改善が期待できる」と表示されているものがあります。

その根拠となる試験によると、BMI25以上の健康な成人(日本人)28名を2つの群に分け、1日300mgのラクトフェリンを8週間継続して摂取するラクトフェリン群とプラセボ群で比較しています。

その結果、内臓脂肪量もBMI値も、ラクトフェリン摂取群のほうが減少したことが確認されました。[※8]

■風邪の予防作用

オーストラリアでは ラクトフェリンの風邪予防効果について以下のような試験が行われています。

風邪をひきやすい成人105名 (試験群53名、平均32.9±16.3歳、オーストラリア) を対象とした二重盲検無作為化プラセボ比較試験で、ラクトフェリン200 mg+乳清タンパク質100 mg含有カプセルを2個/日、90日間摂取させたところ、ラクトフェリン摂取群は風邪の発症率の低下が認められたことが確認されました。[※9]

■ピロリ菌の除去

ラクトフェリンとピロリ菌の関係を調べた研究論文は複数ありますが、「ラクトフェリンの摂取はピロリ菌の除菌率を上げる可能性があるにせよ、根拠には限界があるため、さらなる検討が必要である」と、しています。[※9]

■美肌作用に関する研究

ラクトフェリンは美肌にも大きく貢献する成分であるとされています。

サラヤ株式会社では星薬科学大学との共同研究で、ラクトフェリン0.5%濃度のラクトフェリン液を傷ついた細胞に塗布することで、肌細胞を修復する作用が確認されたことを報告しています。

またラクトフェリン液の塗布で肌の弾力や潤いを支える肌深部のコラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチンを増やす働きが確認できたことも報告しています。 [※3]

研究のきっかけ(歴史・背景)

ラクトフェリンは1939年にデンマークの科学者によって発見されました。[※10]

日本では森永乳業によって1960年代から研究がスタートし、粉ミルクにラクトフェリンを配合した世界初の育児用ムルクを誕生させています (1986年)。[※11]

さまざまな機能性や生理活性が報告されているラクトフェリンですが、そのきっかけとなった大きな研究にも森永乳業が関与しています。

ラクトフェリンはたんぱく質ですが、通常のたんぱく質は胃や腸で消化されると機能が失われるのに対し、森永乳業は、ラクトフェリンは一部が活性ペプチドにはラクトフェリンの数百倍も高い抗菌作用があるという発見をしたのです。

この活性ペプチドはラクトフェリシンと命名され、国際特許も取得され、これによってラクトフェリンの研究はますます発展し、今では他のメーカーや大学などもラクトフェリン研究に力を入れているのです。

乳児や幼児のためのものと考えられていたラクトフェリンは、高齢者や成人にとっても重要な成分であることが解明されつつあり、今後ますます健康品などに利用されていくことが期待されています。

ラクトフェリンを多く含む食べ物

相乗効果を発揮する成分

ラクトフェリンと相乗効果があると考えられる成分が乳酸菌です。

さまざまな乳酸菌やビフィズス菌はプロバイオティクスといい、腸内で生きたまま健康効果を発揮するために働く役割を担っていますが、ラクトフェリンはプレバイオティクスといい、乳酸菌やビフィズス菌の餌となり増殖を増やす働きを担っています。

そのためラクトフェリンを摂取することによって、乳酸菌やビフィズス菌などが増え、腸内環境を整え、活性することが期待されるのです。

ラクトフェリンに副作用はあるのか

ラクトフェリンの副作用は報告されていません。

母乳に豊富に含まれており、また抵抗力のほとんどない赤ちゃんが飲んでも大丈夫な成分ですから、基本的には安全といえるでしょう。

特に食品に含まれるものや量なら安全です。

ちなみにアメリカではラクトフェリンは2001年にGRASとして安全性が認められています。GRASとは、Generally Recognized As Safeの略で、アメリカの添加物の中で特に安全性が認められたものに与えられるものです。

通常の添加物と比較するとGRASがつくことにより、FDA(アメリカの連邦食品医薬品局)のお墨付きである証拠となります。

しかしサプリメントや健康食品からの摂取の場合、過剰摂取は腸の働きを活発にし過ぎて、お腹がゆるくなったりする可能性もあります。

また大量に摂取すると、湿疹や食欲減退、また逆に便秘の原因になることもあるようです。

また 原材料は乳製品ですので、乳製品に対してアレルギーがある人は特に注意が必要です。

他の医薬品との相互作用については明らかになっていない部分も多く、妊婦さんや授乳中の人も摂取する前に医師に相談した方がよいでしょう。[※9]