自然界に広く存在する赤い色素成分で、カロテノイドの一種であるアスタキサンチン。エビやカニなどの甲殻類やシャケなどに含まれます。特にアスタキサンチンが含まれる食材を70度以上で加熱すると結合しているタンパク質が変性し、赤色がはっきりするようになります。アスタキサンチンにはさまざまな機能性が報告されていますが、ヒト試験ではまだ断定できない部分も多くあるとされています。意外に間違っていることも多いアスタキサンチンの基礎知識や効果効能を、M’sクリニック南青山の伊藤 まゆ先生がじっくり解説いたします。
アスタキサンチンは老化や炎症の原因となる活性酸素を除去する能力が高いため、美容成分としてだけでなく健康維持の成分としても必須だと考えられています。また近年はアスリートの疲労回復やパフォーマンス向上にも利用されています。
他にも眼精疲労の予防や改善、皮膚障害の予防や改善、疲労の予防や改善、血行促進など体のあらゆる部分の老化を食い止める、幅広い効果・効能が報告されています。
また面白いところではペットの健康にも効果的であるという報告があります。ドックフードにアスタキサンチンを混ぜたものを食べさせると1ヶ月程度でペットの運動量が増えたり、毛並みが良くなったり、便臭が改善されたりするという報告もあるのです。
アスタキサンチンは特に魚類に多く含まれていて、サケ、マス、いくら、筋子、エビなどに特に豊富に含まれています。またアスタキサンチンは脂溶性であるため、油と一緒に摂取することで吸収率が高まります。錠剤サプリメントの他、クッキーやドリンクなどに配合した製品も市販されています。
アスタキサンチンは脂溶性の成分中でも、ビタミンEとの相性が抜群です。ビタミンEは「スーパービタミン」の別名を持ちますが、ビタミンEだけでも優れた抗酸化作用を示します。ところがアスタキサンチンとビタミンEを一緒に摂取することで、活性酸素の一つである一重項酸素の発生を95%まで抑えられるという報告もあるのです。一重項酸素は紫外線を浴びると大量に発生してしまうため、美肌の大敵であることが知られます。アスタキサンチンが美容成分として知られるのもこの辺りの背景があるからです。
アスタキサンチンを摂取することで、目のピントを合わせる調整能力に良い作用が働くことが明らかになっています。眼精疲労を自覚している人がアスタキサンチンを継続摂取したところ、症状が改善されたという報告もでています。このエビデンスを使った機能性表示食品も多数販売されるようになっています。
アスタキサンチンのすごいところは、網膜にも直接的に届くことです。網膜には「血液網膜席関門」と呼ばれるゲートのようなものが存在し、必要なものしか通過させないようなシステムがありますが、アスタキサンチンはこのゲートを通過し、網膜でダイレクトに抗酸化作用を発揮するのです。また眼精疲労と関係の深い肩こりや首の疲れの低減にもつながるという報告もあります。
眼精疲労や肩こりに悩まされる現代人の心強いサポーター成分の一つがアスタキサンチンと言えるのです。
アスタキサンチンには、皮膚の老化を促進させるメラニンの生成を抑制する効果もあります。美白に効果的な成分にビタミンCがありますが、これと比較してもアスタキサンチンのメラニン生成抑制効果は高いとされています。
それだけではありません。アスタキサンチンは活性酸素の中でも一重項酸素の消去に効果的ですが、一重項酸素はコラーゲンを減少させてしまう物質でもあるので、コラーゲンを守るのにもアスタキサンチンが役立つと言い換えられるのです。
近年はアスタキサンチンを塗る、あるいは経口摂取することで(1日2mg、4週間)肌の水分量が高まるという報告もされています。紫外線対策と、肌の乾燥対策は、肌悩みを解消するために最も重要なことです。アスタキサンチンが含まれたコスメもありますので利用してみるのもよいでしょう。
アスタキサンチンは糖尿病や高血圧症などの生活習慣病に対しても効果を発揮していますが、腎臓疾患に直接効果があるというエビデンスは今のところありません。
しかし国内で行われたある試験ではアスタキサンチン摂取による腎臓への影響を調査するために、腎臓の老廃物であるクレアチニンの値が改善の傾向を示したと報告しています。
また、3ヶ月間薬で症状の改善が見られなかった過活動膀胱の人31人を対象に医薬品(抗コリン剤)にアスタキサンチンとビタミンCとトコトリエノールを配合したサプリメントを加えて摂取してもらったところ頻尿、夜間頻尿、尿勢低下などの症状が有意に低下したという報告もあります。まだまだ研究中の段階ですが、今後の研究報告が待たれるところです。
腎臓に直接働くというよりは、体のいろいろな部分で抗酸化作用を発揮した結果、腎臓にも良い影響が出たのではないかという考えが主流です。
動植物に含まれる色素成分カロテノイドの一種として知られるアスタキサンチン。アスタキサンチンは機能性表示食品として、現在5つの健康表示が行われています。
「目の機能をサポートする」「肌の潤いをサポートする」「目の疲労感を軽減する」「睡眠の質を向上する」「疲労感を軽減する」といったものです。
商品の目的によりアスタキサンチン以外に配合されている成分が異なるため、目的に応じた商品選びをするようにしましょう。アスタキサンチンの含有量も目的によって異なっていますが、多いもので12mg程度になっています。
1日に6mgというのが一般的な説で、具体的にはサケの切り身1〜2切れで1日に必要なアスタキサンチンが摂取できます。昔から魚介類を多く食べる日本人にとってそれほど苦になる量ではありません。魚介類や赤い色素のものをあまり摂取していないという人は、サプリメントなどを活用するのも一つの方法です。
アスタキサンチンの副作用は今のところほとんど報告がありません。一つ注意点があるとすれば、アスタキサンチンはカロテノイド類であるため、アスタキサンチン以外のカロテノイド類を同時に摂取すると、アスタキサンチンの吸収が低下する可能性があるということです。もちろん安全であるからといって、過剰摂取するのはよくありません。