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ビタミンPの効果とその作用

ポリフェノールのヘスペリジンやルチン、ケルセチンなどの総称であるビタミンP。ビタミンによく似たはたらきをもつ物質(ビタミン様物質)で、ビタミンCのはたらきをサポートする成分です。毛細血管の強化や高血圧の予防、血流の改善などに効果があるといわれています。ビタミンPは柑橘類に多く含まれていいます。
ここでは、ビタミンPがもつ効果・効能や作用のメカニズム、研究データなどについて解説。ビタミンPを多く含む食べ物や相乗効果についてもまとめています。

ビタミンPとはどのような成分か

ビタミンPは、ビタミンに似たようなはたらきをもっている物質(ビタミン様物質)の総称で、その数は数千種類にものぼります。代表的なものは、ポリフェノールの一種であるヘスペリジンやルチン、ケルセチンなどです。[※1]

柑橘系の食品に多く含まれており、毛細血管の強化や毛細血管膜の透過性を整えるはたらき、血流の改善、抗酸化作用、免疫力の向上など、さまざまな効果があるとされています。

また、ビタミンPはビタミンCのはたらきをサポートする成分としても注目されています。ビタミンCが酸化して壊れるのを防いでくれるほか、ビタミンCの吸収を高めたり、効果を安定させたりするはたらきがあるといわれています。[※2]

自然界には、ビタミンPとビタミンCが一緒に含まれているものが多く存在します。[※3]

ビタミンPの効果・効能

ビタミンPには、以下のような効果・効能があるといわれています。[※2][※3][※4]

■毛細血管の強化

毛細血管をしなやかにして拡張するはたらきや毛細血管の透過性を維持するはたらきがあり、血管の健康を維持する効果があります。

■血流の改善

毛細血管を広げて血流を良くするため、血行不良からくる肩こりや腰痛、ひざ痛などの症状を改善します。

■免疫力の向上

ビタミンPのはたらきによって、免疫力が高まります。

■アレルギー症状の緩和

ビタミンPであるヘスペリジンには抗アレルギー作用があり、アレルギーの症状を緩和させる効果があります。

■血液中の中性脂肪を減らす

ヘスペリジンには血中の中性脂肪を分解するはたらきがあり、生活習慣病を予防する効果があります。

■抗酸化作用

抗酸化作用によりコレステロールの蓄積を抑えるはたらきがあるため、動脈硬化や糖尿病、高血圧などの予防に効果があります。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

ビタミンPに分類される成分は数多くあり、それぞれ作用が異なります。ここでは、代表的なビタミンPとしてルチン、ヘスペリジン、ケルセチンの作用についてご紹介します。

ルチン

ルチンは、ビタミンCの吸収を高め、体内におけるコラーゲンの合成を助けるはたらきがあります。また、血管を弾力のある状態にして壊れにくい状態を維持したり、血流をスムーズにしたりするはたらきがあります。このような作用によって、高血圧や動脈硬化、脳卒中などの予防に効果があるとされています。[※4]

ヘスペリジン

ヘスペリジンにも末梢血管を強くするはたらきがあり、血流の改善に効果的だとされています。血流が改善されることで体温の上昇が促進されるため、冷えを改善するともいわれています。ヘスペリジンはみかんの皮に多く含まれており、みかんの皮を乾燥させてできる「陳皮(ちんぴ)」は漢方としても使用されています。[※5]

ケルセチン

ケルセチンもルチンやヘスペリジンと同様に血流を改善するはたらきがあるほか、抗炎症作用も持ち合わせていることから、関節痛を緩和する効果も期待されています。

また、ビタミンPには共通して抗酸化作用があり、コレステロールの蓄積を抑制して動脈硬化を予防してくれます。[※6]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

ビタミンPは以下に該当する人におすすめです。

  • 生活習慣病を予防・改善したい人
  • 血流の改善を図りたい人
  • 血圧が高めの人
  • コレステロールの値が気になっている人
  • 糖尿病や脳卒中、動脈硬化などを予防したい人
  • 関節痛を和らげたい人

ビタミンPの摂取目安量・上限摂取量

ビタミンPとしての摂取目安量や上限摂取量は特に定められていませんが、ビタミンPの一種であるルチンは1日あたり25~50mgが必要量とされています。

そば粉1gに対して1mg程度のルチンが含まれているため、そば1食分でルチンの必要量を摂取することができます。[※7]

ビタミンPのエビデンス(科学的根拠)

ビタミンPに分類される「ルチン」「ケルセチン」「へスペリジン」の研究データをご紹介します。

ハムダード大学のKhan MMらは、ドーパミン不足によって起こるパーキンソン病に対するルチンの効果を調査しました。

実験では、パーキンソン病を発症したラットに対して体重1kgあたり25mgのルチンを3週間投与したのち、神経行動活性を測定・観察。

その結果、ドーパミンの受け皿となる受容体の量が増え、運動機能に改善が見られたのです。また、脳神経を保護するはたらきも確認できました。

以上の結果から、ルチンにはパーキンソン病や脳神経疾患を予防する効果があると考えられています。[※8]

徳島大学の名誉教授・寺尾純二らが行った実験では、糖化(糖が酸化して体がさびる現象)によって誘発される糖尿病への効果が報告されています。

実験では糖尿病のラットを用意し、たまねぎ入りの餌(0.023%のケルセチンを含有)を12週間にわたって投与しました。

その結果、酸化ストレスバイオマーカー(体のさびを測定する指標)と血糖値の改善が確認されました。実験結果から、ケルセチンが含まれているたまねぎには、糖尿病を予防する効果が期待できると示唆されています。[※9]

ヘスペリジンに関しても、さまざまな機関で研究が行われています。特に注目されているのが、「糖転移ヘスペリジン」です。

ヘスペリジンは水に溶けにくい性質のため、これまで体内への吸収率の低さが問題視されていました。そこで開発されたのが、ヘスペリジンに糖を結合させて水溶性を高めることにより、吸収性を向上させた「糖転移ヘスペリジン」です。[※10]

グリコ健康科学研究所の宅見央子らは、糖転移ヘスペリジンによる皮膚表面温度の回復効果を検証しました。

冷え症と診断された女性11名を対象に糖転移ヘスペリジンと粉砂糖を用いた偽薬を摂取してもらったのち、冷水で冷やした手の表面温度と血流量がどのように変化するのか調査しました。

検証の結果、糖転移ヘスペリジンを摂取したときのほうが手の温度の回復が早く、血流量も高かったと報告されています。このことから、糖転移へスペリジンによる冷え性改善効果が期待されています。

また、グリコ健康科学研究所の宅見央子らは、糖転移ヘスペリジンの摂取における自律神経の変化についても調査しています。

実験では女性11名に偽薬である粉砂糖500mg入りの飲料と糖転移ヘスペリジン500mgの飲料を摂取してもらい、摂取前から摂取後にかけての心拍の変動を解析。

実験の結果、糖転移ヘスペリジンを摂取したときのほうが、リラックス時に優位になる「副交感神経」のはたらきが盛んになり、自律神経のバランスを安定させることが確認されました。[※11]

研究のきっかけ(歴史・背景)

ビタミンPは、ハンガリー出身の生理学者であるセント=ジェルジ・アルベルト博士によって、レモン果実中から発見されました。セント=ジェルジ・アルベルト博士は、ビタミンCの発見でノーベル生理学・医学賞を受賞した世界的な生理学者です。

ビタミンPが発見された当時は、たんぱく質の透過性増加を抑える作用にちなんで、Permeability(透過性)の頭文字からビタミンPと名付けられました。

しかし、それ以降の研究でビタミンPは1つの物質ではなく、複数の似た物質が混合したものだと解明されました。[※12]

その後もビタミンPの研究がすすめられ、出血性疾患に対する効果が報告されましたが、その作用はどちらかというと栄養素ではなく薬理的なはたらきだと考えられ、ビタミンとしては認められていません。

専門家の見解(監修者のコメント)

ビタミンCのはたらきをサポートする作用があるとされるビタミンP。管理栄養士であり、日本野菜ソムリエ協会の講師でもある中沢るみ氏は、自身の著書でビタミンCが豊富な柑橘類・レモンについて触れており、ビタミンPについても次のように記しています。

「柑橘類がほかのビタミンCが豊富な野菜とちょっと違うのは、『ビタミンP』という栄養素が入っていること。実はこのビタミンPには、ビタミンCの吸収を助けてくれるという作用があり、ビタミンCと一緒に食べると、とっても効果的なのです」

「そもそもの存在自体をあまり知られていないビタミンPですが、このビタミンPこそが、あの白いワタや薄皮に多く含まれている栄養素。だから、白い筋や薄皮を果肉と一緒に食べることで、より柑橘類の果肉自体が持つビタミンの吸収を助けてくれるわけなんですね」

(「野菜の新常識 体にいい食べ方はどっち!?」より引用)[※13]

また、ビタミンPの効果・効能については以下のように述べています。

「ビタミンPは単体で食べたとしても、体にいい栄養素で、毛細血管を丈夫にして高血圧を予防し、脳出血を防ぐ効果があるとして、大変注目されているのです」

(「野菜の新常識 体にいい食べ方はどっち!?」より引用)[※13]

柑橘類を食べる際、ついついむいて捨ててしまいがちな白いワタや薄皮。その部分にビタミンPが豊富に含まれており、血流の改善や血圧を下げる作用などが期待できるのです。

血圧が気になる人や血流の改善を図りたいという人は、みかんなどの薄皮やワタなどを意識的に摂取するように、工夫して食べると効率よくビタミンPが摂取できます。

ビタミンPを多く含む食べ物

ビタミンPは果物や野菜などの食品に多く含まれています。まずへスペリジンは、みかんやレモン、グレープフルーツといった柑橘系の皮やすじなどに多く含まれています。ほかにも、さくらんぼなどの果物にも豊富に含まれます。

同じくビタミンPであるルチンは、みかんやレモンなどの柑橘系に加えて、そばやアスパラガス、いちじく、トマトなどに多く含まれています。ケルセチンはたまねぎやりんご、緑茶などに豊富に含まれています。[※3]

1食分のそばを食べることで十分な量のルチンを摂取できますが、そばをゆでる際にルチンが溶けだしてしまいます。そのため、そばと一緒にそば湯まで飲むと、効率よくルチンを摂取することができるでしょう。

相乗効果を発揮する成分

ビタミンPは、ビタミンCのはたらきをサポートするため、サプリメントなどの場合はビタミンCと一緒に配合されることが多い成分です。

ビタミンPとビタミンCを一緒に摂取することで、ビタミンCの吸収率率が向上するほか、ビタミンCの抗酸化作用を高めるといわれています。[※14]

また、ビタミンPは、ビタミンCと一緒にはたらき、ウイルスや細菌から毛細血管を保護するほか、ビタミンCが消耗されるのを防ぎ、強くしなやかな血管を維持してくれます。[※1]

ビタミンPに副作用はあるのか

ビタミンPは、過剰摂取しても特に問題はないとされています。ビタミンC同様、水溶性の成分であるため不要な分は尿として排出されてしまうからです。

ヘスペリジンを配合した風邪薬に間質性肺炎などの副作用が報告されていますが、ヘスペリジンが直接関与しているという報告はあがっていません。

参照・引用サイトおよび文献

  1. 江崎グリコ株式会社「へスペリジンについての研究」
  2. 『腰の痛みがみるみるよくなる100のコツ 決定版』(主婦の友社 2014年7月発行)
  3. 一般社団法人オーソモレキュラー.jp「ビタミンP」
  4. 中村丁次『もっとキレイに、ずーっと健康 栄養素図鑑と食べ方テク』(朝日新聞出版 2017年8月 p155,p236)
  5. わかさの秘密「ヘスペリジン」
  6. わかさの秘密「ケルセチン」
  7. 独立行政法人農畜産業振興機構「食と健康」
  8. Khan MM, Raza SS, Javed H, Ahmad A, Khan A, Islam F, Safhi MM, Islam F.「Rutin protects dopaminergic neurons from oxidative stress in an animal model of Parkinson's disease.」Neurotox Res. 2012 Jul;22(1):1-15. doi: 10.1007/s12640-011-9295-2. Epub 2011 Dec 23. PubMed PMID: 22194158 DOI: 10.1007/s12640-011-9295-2
  9. Azuma K, Minami Y, Ippoushi K, Terao J.「Lowering effects of onion intake on oxidative stress biomarkers in streptozotocin-induced diabetic rats.」J Clin Biochem Nutr. 2007 Mar;40(2):131-40. doi: 10.3164/jcbn.40.131. PubMed PMID: 18188415 PMCID: PMC2127222 DOI: 10.3164/jcbn.40.131
  10. グリコ健康科学研究所「血管の健康を保つ ヘスペリジン|ヘスペリジンの研究」
  11. 【PDF】宅見央子 他「糖転移ヘスペリジンの血流改善作用」(応用糖質科学 第 1 巻 第 2 号 186―193 (2011))
  12. 【PDF】糸川嘉則「代替医療としての「ビタミン・ミネラル」」(日本補完代替医療学会誌 第1巻 第1号 2004年2月:41-52)
  13. 中沢るみ『野菜の新常識 体にいい食べ方はどっち!?』(2016年3月発行)
  14. 一般社団法人日本サプリメント協会「ソバ(ルチン)」