ローズの香りや花弁から抽出したエキスがもつ効果効能、作用のメカニズムなどを解説しています。ローズ(薔薇)は、2万種類以上存在するといわれているバラ科バラ属の植物の総称です。ここでは、数あるローズの中でも「バラの女王」と呼ばれ注目されているダマスクローズについてご紹介。また、世界の偉人たちが愛用してきた歴史や副作用に関する情報もまとめています。
ローズの種類は、大きく3つのグループに分けられます。[※1]
■ワイルドローズ…野生に自生している原種
■オールドローズ…1867年以前から存在する原種
■モダンローズ…1867年以降に発表された改良種
今回ご紹介するダマスクローズは、人工交配のローズが出現する以前から愛されてきた歴史あるオールドローズです。
ダマスクローズはローズの中でもとくに香りが強く、女性の病気に効くという言い伝えから、「バラの女王」と呼ばれています。
全国各地で栽培されていますが、女性人気が高いのは「バラの国」として有名なブルガリア産のダマスクローズ。香りの良さが評判で「ブルガリアローズ」とも呼ばれており、ハイブランドの香水に使用されています。
ダマスクローズの特徴は、花を咲かせる期間が20日間と短いこと。開花期は5月下旬から6月上旬です。花が開くと香り成分が逃げてしまうので、香り成分が閉じ込められた状態のつぼみを収穫します。
ダマスクローズの花と水を煮詰めると、精油(ローズオイル)と液体(ローズウォーター)がとれます。精油はアロマテラピーに、液体は化粧水や食品の香りづけなどに使用されています。[※2]
ダマスクローズから抽出した精油やローズウォーターには、次のような効果が期待できます。[※3][※4]
■冷え症を改善する効果
血の巡りを良くして、冷え性を改善してくれます。
■月経症状を改善する効果
ホルモンバランスの乱れを整え、月経痛や月経周期の乱れを改善してくれます。
■リラックス効果
ダマスクローズの香りをかぐと自律神経が整えられ、心身共にリラックスできます。
■美肌効果
細菌の繁殖を抑え、肌の調子を整えます。また、自律神経やホルモンバランスを整えるはたらきによって、ストレスによる肌荒れを予防できます。
■抗菌・抗ウイルス作用
ダマスクローズの香り成分には、細菌やウイルスの繁殖を抑える効果があります。
■お腹の調子を整える効果
腹痛をやわらげたり、腸の調子を整えたりする効果があるといわれています。
■口臭・体臭対策
ダマスクローズに含まれる香り成分には、口臭や体臭を抑えるはたらきがあります。
ブルガリア産のダマスクローズの花弁から抽出した精油には、250種類以上の成分が含まれています。そのうちのほとんどは、ローズの香りを構成する芳香成分です。[※5]
ダマスクローズの香りが脳の視床下部という部分に届くと、神経系や免疫系への情報伝達が正常に行われます。
脳から神経系への情報伝達が正常に行われると、神経や筋肉の緊張状態がやわらぎ、心身共にリラックスした状態になります。
免疫系に正常な指令が行き渡ることで、身体機能や代謝、血液の循環などが改善。その結果、冷え性改善や美肌効果、整腸効果などが得られます。
体の調子がよくなると、ホルモンバランスの乱れも改善。さらに、ダマスクローズには、幸せホルモン「エストロゲン」の分泌を促す香り成分が含まれているため、ホルモンバランスの乱れによる女性特有の症状(月経痛や更年期障害など)に効果的です。
また、ダマスクローズに含まれる香り成分には、抗菌・抗ウイルス作用があります。抗菌・抗ウイルス作用をもつ香り成分は刺激が強いため、精油を使用する場合は皮膚のかゆみや炎症が生じる場合があります。
ローズウォーターに含まれる香り成分は少量で、皮膚刺激が少ないのが特徴。保湿作用をもつ成分も含まれているため、化粧品に使用されています。
さらに、ダマスクローズに含まれる香り成分の1/3を占める「シトロネロール」には、安定した抗酸化作用があります。そのため、ダマスクローズからとれる精油やローズウォーターは酸化しづらく、品質や香りが長期間持続します。[※3]
ダマスクローズは、古くから女性をサポートし続けてきた植物です。女性ホルモンの乱れによる気分の浮き沈みやストレスを緩和するほか、美容効果も期待できます。月経痛や月経周期の乱れ、ストレスや肌荒れなどにお悩みの女性は、積極的に摂取してみてはいかがでしょうか。
花弁のエキスを含む食品の摂取目安量や精油の使用量は、それぞれ製造会社によって異なります。ダマスクローズ以外の含有成分量をふまえて製品ごとに目安量が設定されているため、商品パッケージに記載されている量を参考にしてください。
ダマスクローズの花弁の下にある丸い部分を2~2.5g程度、150mlの熱湯に10~15分浸ければ、ローズヒップティーになります。
1日67g以上のローズヒップを摂取した際に副作用が起こった、という被害事例が報告されているため、過剰摂取は避けましょう。[※5]
ブルガリア酸のダマスクローズのオイルを使った肌質改善効果の研究では、次のような検証結果が報告されています。[※6]以下はブルガリアローズ研究会「人体反応によるローズオイルを食品・化粧品に用いた場合の効果」を参照しました。
■普通肌・脂性肌に対する検証
■乾燥肌に対する検証
上記のような実験結果から、ブルガリアローズ油入りの化粧品は乾燥肌と脂性肌のどちらにも美肌効果が期待できます。また、実験中にかぶれや炎症などの報告がなかったことから、安全性もきわめて高いといえるでしょう。
ローズは霊長類よりも古くから存在する植物です。5000万年以上前の地層から、ローズの化石が多数発見されています。
ローズの栽培技術が確立される以前は、その貴重さから高価な植物として貴族に愛されていました。
世界三大美女のひとりクレオパトラは、ローズオイルを肌に塗り、花弁を枕に散らばせ、常にローズの香りを身にまとっていたことで有名です。その香りで男性を魅了し、古代エジプト女王の座を獲得したとさえいわれています。
ローマ帝国の第5代皇帝ネロもまた、入浴の際にローズウォーターとローズオイルを使っていたそうです。フランスの国王ルイ14世はベルサイユ宮殿全体にローズウォーターを吹きかけ、王妃マリーアントワネットはローズの香水を使用していたといわれています。
ローズの栽培技術が発展したのは19世紀。ナポレオンの妻・ジョセフィーヌが世界中から250種のローズを集め、宮殿内にバラ園をつくったのがきっかけです。その後、アンドレ・デュポンという園芸家にローズの人口交配を依頼したことで、ローズの種類は飛躍的に増えました。
園芸品としてだけではなく、ローズの効果が注目されるようになったのは1500年代以降。当時の中国の本には、ローズが肝臓病に良いと記されています。また、1700年ごろに書かれたフランスの事典には、下痢・吐血にローズウォーターが効くと記されています。[※7]
日本アロマ環境協会認定のアロマテラピーインストラクターとして活躍している梅原亜也子氏は、ダマスクローズについて自身の著書で解説しています。
「古くから人々に愛されてきたバラの香り。つぼみはハーブとしても利用されています。とくに芳醇な香りを放つとされるブルガリア酸のダマスクローズが人気です。ダマスクローズからは『ローズオットー』と『ローズAbs.』という2種類の精油が抽出されます」(『新版 これ1冊できちんとわかるアロマテラピー』より引用)[※4]
「ローズオットーはダマスクローズの花のみを原料に、もっとも古くから行われている水蒸気蒸留法という抽出法で抽出された精油。ローズAbs.はバラの花から揮発性有機溶媒抽出法で抽出されたもので、熱に弱い花の成分も消えずに集めることができます。ローズオットーよりも採油量も多く、その分価格も抑えられています」(『新版 これ1冊できちんとわかるアロマテラピー』より引用)[※4]
ローズAbsとは、ローズアブソリュートの略で、溶剤で抽出した精油のことです。
水蒸気蒸留法は古くから主流の抽出方法で、花と水を煮詰めて成分を抽出します。一方、揮発性有機溶剤抽出法は、溶剤の中にローズを入れて、成分を溶かし出す抽出方法です。
ダマスクローズの香り成分を余すことなく利用したい人は、揮発性有機溶剤抽出法で抽出されたローズAbs.を利用してみると良いでしょう。
ローズの花弁を使った万能ジャムのレシピをご紹介します。
■ローズジャム
【用意するもの】
【つくり方】
ローズジャムはパンやケーキに添えるほか、サイダーで割って飲んでも美味しいのでローズの花弁が手に入った際にはぜひお試しください。
ダマスクローズの精油は、抽出方法によって香りが少し異なります。花と水を煮詰めて成分を抽出した精油(ローズオットー)は濃厚かつバランスの良い香り。溶剤の中にローズを入れて成分を溶かし出した精油(ローズAbs.)は、少し軽めの香りです。
それぞれの香りと相性が良い精油をご紹介します。[※8]
ローズオットーと相性がいい精油 | ローズAbs. と相性がいい精油 |
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ローズオットーとローズAbs.の両方と相性が良い精油 | |
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上記の精油とダマスクローズをブレンドしてキャリアオイルをつくり、芳香浴やディフューザー、ヘアトリートメントなどに使ってみてください。
ダマスクローズの花弁の副作用は報告されていません。目安量を守って摂取するぶんにはきわめて安全です。
しかし、花弁の下にある丸い部分(ローズヒップ)を摂取する場合には、次の疾患・症状の症状悪化、合併症などの副作用が考えられます。[※6]
上記の疾患・症状を抱えている人は、ダマスクローズのローズヒップを摂取しないでください。また、上記に該当しない人でも、人によっては胃痙攣や疲労、不眠などの症状が起こる場合があるため、過剰摂取しないように注意しましょう。
ダマスクローズのローズヒップとの併用摂取で相互作用が起こりうる医薬品は以下です。[※7]
■ホルモン調整役(エストロゲン製剤)
エストロゲンの効果と副作用を増強する恐れがあります。
■抗精神病薬(フルフェナジン)
ローズヒップに含まれるビタミンCがフルフェナジンの効果を弱める可能性があります。
■血液凝固抑制剤(ワルファリンカリウム)
ワルファリンカリウムの効果を弱めるため、血栓ができやすくなります。
■胃腸薬(アルミニウム)
アルミニウムの吸収率を高めて作用を強めてしまうため、アルミニウム服用の2時間前~4時間後はローズヒップの服用を避けてください。