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田七人参の効果とその作用

田七人参は中国で古くから利用されている薬用植物です。生育条件をそろえるのが難しいため、希少価値の高い生薬として知られています。田七人参の効果効能や作用機序、これまでに報告されているエビデンスや副作用などの情報をわかりやすく解説していきます。

田七人参(デンシチニンジン)とはどのような植物か

田七人参(デンシチニンジン)は、止血や鎮痛、消炎など、さまざまな作用をあわせもつウコギ科の薬用植物です。中国では古くから生薬として利用されてきた歴史があるほか、近年ではその効果を裏づける研究結果が複数報告されています。

田七人参は、主に中国の田陽、または田東という地域で生産されているため、「田」という漢字が使われてきました。田七人参以外にも、三七人参(収穫に3~7年かかるため)や金不換(金に換えられない価値があるため)という名前でも呼ばれています。

田七人参は日本であまり栽培されていないため、高麗人参・朝鮮人参と比べて日本人に馴染みの薄い植物です。しかし、田七人参には、高麗人参・朝鮮人参の5~7倍ものサポニンが含まれています。サポニンとは苦味のもととなる配糖体の一種です。

田七人参に含まれるサポニンには、過剰に増えた活性酸素や細菌など、体にダメージを与えるものを除去するはたらきがある[※1][※2]ため、健康・医療業界で注目されています。

田七人参の効果・効能

田七人参は、次の症状・疾病・疾患に対する効果効能が期待されています。[※3][※4][※5] [※6][※7]

■血行不良・冷え症・高血圧

血液の流れを改善する効果があり、血行不良によって起こる冷え症や高血圧を改善できます。

■出血

マウスに田七人参を与える実験で、止血作用が確認されています。

■痛み・炎症

近年の研究では田七人参に抗炎症作用と鎮痛作用が認められ、関節リウマチや皮膚炎などを改善する目的で利用されています。

■虚弱体質

滋養強壮作用(弱った体や臓器を元気にするはたらき)によって、疲れやすい体質を改善します。

■高血糖

血糖値の上昇を抑制する成分が含まれているため、高血糖や糖尿病の予防効果が期待できます。

■血中コレステロールの増加

血中コレステロールを減らす作用によって、高コレステロール血症や動脈硬化を予防します。動脈硬化が原因となる心臓病や脳梗塞、脳卒中などの予防にも効果的です。

■肝臓疾患

肝臓を保護する作用があり、肝臓疾患(肝炎・肝硬変・肝がん)の予防に役立ちます。

■婦人系疾患

田七人参には女性ホルモン(エストロゲン)に似た作用があるため、エストロゲン不足によって起こる婦人系疾患を予防する効果が期待できます。

■がん

田七人参には、がん細胞の増殖を抑制する成分が含まれています。また、体の組織や臓器を抗がん剤や放射線のダメージから体を守るはたらきがあるため、がん治療の補完する役割でも利用されています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

田七人参の作用をわかりやすく解説します。[※1][※2][※9][※10]

田七人参には、12種類のサポニンが含まれています。そのはたらきは、免疫力の活性化、自律神経や血圧のコントロール、肝臓の機能の向上、がん細胞の増殖抑制など、種類によって異なります。そのため、田七人参を摂取することで、体力・免疫力の低下や神経伝達物質による痛み、高血圧、肝臓疾患やがんなど、さまざまな症状・疾患を予防できるといわれています。

田七人参だけに含まれる「田七ケトン」という成分には、血中コレステロールや中性脂肪を除去する作用があります。そのため、田七人参の摂取はメタボリックシンドロームや血中コレステロールが増えると起こりやすい疾病・疾患(高コレステロール血症、動脈硬化、心臓病、脳梗塞など)の予防につながります。

また、田七人参に含まれる「パナキサトリオール」という成分は、血液中の糖を筋肉に取り込むサポートをしてくれます。この作用によって血糖値の上昇が抑えられ、筋肉細胞の質が向上するという研究結果が報告されています。

そのほか、田七人参に含まれるフラボノイド化合物は、血流改善に役立ちます。

普段、私たちの体では、血管が収縮・拡張を繰り返すことで体全体に血液が送られていますが、血管の弾力が失われると収縮・拡張がうまくいかなくなり、血液の流れが悪くなります。

田七人参に含まれるフラボノイド化合物は血管に弾力性を与えるはたらきがあり、血管の収縮・拡張をスムーズにしてくれるため、血流改善につながると考えられています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

田七人参は虚弱体質の人でも摂取できる数少ない生薬なので、体力がない、または体の調子がすぐれないという人におすすめです。

田七人参の摂取目安量・上限摂取量

田七人参の摂取目安量は、1日1~1.5mgです。目安量を3回に分けて、それぞれ食前に摂取してください。

上限量はとくに定められていませんが、過剰摂取すると副作用があらわれる可能性があるため、摂り過ぎに注意しましょう。[※11]

田七人参のエビデンス(科学的根拠)

田七人参に含まれる成分「パナキサトリオール」が血糖値に与える影響を調べるために、首都大学東京の藤井宣晴教授と京都大学の伏木亨教授、ライオン(株)研究開発本部生命科学研究所が共同研究を行いました。[※12]

田七人参にはパナキサトリオールがごくわずかしか含まれていないため、研究ではライオン(株)の独自技術でパナキサトリオールの含有量を高めた田七人参の加工粉末を使用しています。

■高血糖マウスを使った動物実験

田七人参加工粉末を混ぜたエサを10日間摂取させた高血糖状態のマウスと、田七人参粉末を混ぜていないエサを10日間摂取させた高血糖状態のマウスを比較する実験を行いました。

実験開始から10日目に、血液中の糖(2-デオキシグルコース)が下肢筋肉に取り込まれる量を測定・比較しています。

実験の結果、田七人参加工粉末を摂取したマウスのほうが、普通のエサを摂取したマウスよりも筋肉に取り込まれる糖の量が多いことがわかりました。

高血糖の人は血液から筋肉に取り込む糖の量が少ない傾向があるため、この研究で筋肉に取り込まれる糖の量を増加させた田七人参は、高血糖を改善できる可能性があると考えられます。

■血糖値が高いヒトを対象とした実験

藤井教授らは、血糖値が高い20~50代の男女12名を対象として、田七人参加工粉末を含むカプセルを1日1回、8週間にわたって継続摂取してもらい、実験前の血糖値と比較する実験を行いました。

実験の結果、カプセル摂取開始から8週間後の血糖値が、実験開前の血糖値よりも低下していたことが確認されました。このことから、田七人参を摂取することで食後血糖値の上昇を抑えられる可能性が示唆されています。

研究のきっかけ(歴史・背景)

田七人参は東洋医学で古くからくすりとして利用されてきた生薬で、1500年代につくられた中国の医学書『本草綱目』にも記されています。主に、止血目的の外用薬として使われていました。

1800年代、中国から『本草綱目』が伝わったのをきっかけに、日本でも田七人参の存在が知られるようになりました。

しかし、当時の田七人参は中国の雲南~広西省周辺にかけて自生しているものがほとんどで、日本で入手するのは難しかったため、日本漢方ではあまり注目されなかったようです。

1980年代には、傷の止血だけではなく、体内出血(吐血、胃潰瘍、内臓出血など)の治療にも田七人参が利用されはじめ、健康・医療業界が注目するようになりました。

その後、田七人参の研究が進められて有効成分や作用機序が明らかになり、最近では生活習慣病やがんを予防する効果も示唆されています。

専門家の見解(監修者のコメント)

銀座東京クリニックの院長を務めるかたわら、国立がん研究センターでがん予防の研究を行っている福田一典医師は、webサイト「がんサポート」で連載している記事の一部をご紹介します。

「日本では高麗人参や紅参や田七人参が漢方薬やサプリメントとして利用されています。これらはジンセン類と総称され、その滋養強壮作用は古くから知られています。

漢方では人参は補気薬の代表で、種々のストレスに対する体の抵抗力を高め、がんによって引き起こされる食欲不振や体力減退や全身倦怠感、がん治療後の身体衰弱や生体防御能の低下の改善に効果があることが多く報告されています」

(がんサポート「治癒力を引き出す がん漢方講座 第19話 倦怠感を改善する漢方治療」より引用)[※7]

福田医師の話によると、漢方に利用される人参類(高麗人参、田七人参、アメリカ人参)には、がんによる衰弱や不快感、倦怠感などの症状を改善する効果が期待できるそうです。今後、がん治療の補助的役割として田七人参が利用されていくでしょう。

ただし、漢方に利用される人参類には注意すべき点もあります。福田医師は、自身の著書内で解説していた人参類の注意点をご紹介します。

「人参類は、がん治療で消耗した体力の回復を促進するために有用ですが、エストロゲン作用があるため、ホルモン依存性の乳がん患者には勧められないという意見があります。

また、薬物代謝酵素への影響を指摘する意見もあり、ワーファリン(血液凝固を阻害する薬の1つ)の効き目を弱めてしまうため、ワーファリン服用中は、人参類の摂取に注意が必要です」

(彩図社『がんに効く食事 がんを悪くする食事』より引用)[※13]

女性ホルモン依存性の乳がん、またはワルファリンカリウムを服用している人は、田七人参を摂取する前に一度医師に相談してください。

田七人参を手軽に摂取するには

生薬としての田七人参は希少価値が高く手に入りにくいため、サプリメントで摂取するのがおすすめです。

サプリメントには、パウダー・カプセル・錠剤とさまざまなタイプがあるので、自分が飲みやすい形状を選んでください。

田七人参が使われている漢方

田七人参を使用する漢方薬をご紹介します。[※14]

■人参湯(ニンジントウ)

胃や腸に元気がないときに服用する漢方薬です。

■桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)

お腹を温める効果があるため、冷え性やお腹を下しやすい人などに適した漢方薬です。そのほか、胃腸障害にともなって頭痛や動悸をもつ人にも良いとされています。

■人参栄養湯(ニンジンエイヨウトウ)

体力が落ちているときに、全身の状態を改善させる目的で服用する漢方薬です。出産後や貧血の症状があるときに使われます。

田七人参の副作用

田七人参は比較的安全性の高い生薬ですが、過剰摂取、または長期間継続摂取すると次のような副作用があらわれる可能性があります。[※11][※15]

  • 口が乾く
  • 皮膚が赤くなる
  • 緊張や動悸
  • 血圧上昇
  • 頭痛
  • 睡眠障害
  • 胸やけや胃もたれ
  • 吐き気や嘔吐など

また、長期間継続摂取した場合にも過剰摂取と同様の副作用があらわれることがわかっています。体に異変を感じた際は、速やかに田七人参の摂取を中止してください。

田七人参が禁忌となる人

次の条件に該当する人は、田七人参の摂取を避けてください。

  • 初潮が早い
  • 閉経年齢が遅い
  • 妊娠したことがない
  • 出産歴がない、または初産が高齢出産
  • 授乳したことがない
  • 肥満である
  • 腫瘍がある

これらの条件に該当する人は、体内に女性ホルモン・エストロゲンを溜め込んでいる傾向があります。

田七人参にはエストロゲンとよく似た作用があるため、体内のエストロゲン量が多いときに田七人参を摂取すると体内のエストロゲン量が過剰になり、乳がんや子宮がん、卵巣がんや子宮筋腫などの発症リスクが高まります。[※13]

注意すべき相互作用

田七人参を併用することで相互作用が起こる可能性がある医薬品は以下です。[※13]

■経口避妊薬(ピル)・ホルモン補充剤(エストロゲン製剤)

乳がんや子宮がん、卵巣がんや子宮筋腫の発症リスクが高まります。服用中の人は田七人参の摂取を避けてください。

■ワルファリンカリウム(血液凝固抑制剤)

田七人参と併用すると、ワルファリンカリウムの効き目が弱まる可能性があります。