美容目的や疲労回復目的で注目されているプラセンタ。プラセンタの活用は約4000年前とも言われ、現代においても医療・美容・健康に欠かせない素材です。医薬品や注射薬としても使用されていますが、ここでは健康食品や化粧品に使用されるプラセンタについて、その基礎知識や成分の効果効能などについて渋谷DSクリニックの林裕之先生が詳しく解説します。プラセンタといっても原料や抽出方法など多種多様であり、正しい知識や有効な活用法を知ることは大切なことなのです。
プラセンタとは哺乳動物の「胎盤」のことで、妊娠中の母体だけに、臨時に作られる臓器でもあり、出産とともに体外に排出される臓器でもあります。胎児に栄養を送り込む他、胎児のあらゆる臓器の代行の役割を担い、胎児と母体を結んで、胎児の命を育てるのに不可欠な臓器です。当然プラセンタそのものにも豊富な栄養素や成長因子が含まれており、人間以外の哺乳動物は出産後にこの胎盤を食べる習性があります。これは産後の体力回復説が有力視されていますが、わかっていないことも多くあります。いずれにせよ、赤ちゃんを育てるだけのエネルギーや栄養素を持つ胎盤を特効薬として使えないかと着目した人たちは昔から降り、その流れで現在もプラセンタに注目が集まり、健康・美容・医療において欠かせない成分となっているのです。
プラセンタに注目が集まったのは近年のことですが、歴史は長く紀元前から使われていた記録もあるのです。例えば中国では秦の始皇帝が不老不死の妙薬に用いたとされていますし、日本では江戸時代に使用されていた記録があります。西洋ではクレオパトラやマリー・アントワネットが若返り目的に使用していたとされますし、西洋医学の父とされるヒポクラテスも治療に利用していたという伝承があります(いずれも文献は残っていないので証明はされていません)。プラセンタ療法の基礎が作られたのは1930年代の旧ソ連時代で、日本では終戦前後の栄養源としてプラセンタ製剤が作られるようになりました。1950年代には医療現場で治療法や注射製剤の開発が行われ、更年期障害と肝機能改善の注射薬が誕生しています。
プラセンタは万能とされますが、中でもヒト由来のプラセンタは特定の製薬メーカーだけによって医薬品に利用されています。また日本ではヒトプラセンタは医薬品扱いであるため使用方法も限定されています。医師の判断により、肝臓疾患や更年期障害の治療といったケースで使用される場合は保険適用となることが多く、その場合肝臓疾患で「ラエンネック」、更年期障害で「メルスモン」という薬品名で呼ばれます。美容目的の場合は保険適用外の利用となります。また厚労省からの許可がおりているのは皮下注射による利用のみで実は点滴としては許可されていません。クリニックで点滴を受診すれば効果は変わらないという説と、点滴は許可されていないからやめるべき、効果は注射とは違う、という専門家の意見もあります。医薬品として認められているヒトプラセンタは、効果や安全性が高いとされていますが、やはり薬ですので副作用が全く報告されていないわけではありません。深刻な副作用は過去50年で報告されていませんが、平成18年10月より一度でもヒトプラセンタ注射を受けたことのある人は献血ができなくなっています。これはヤコブ病の感染が起こらないことが100%証明されないから、とされています。しかし自分が必要な時の輸血はできます。
プラセンタ製品の多くが「豚プラセンタ」を原料としているので、なじみのある人も多いかもしれません。豚の分子構造は人間とよく似ているとされ、豚プラセンタは体内での吸収率も高いとされています。豚プラセンタが主流になる前は牛プラセンタが主流でしたが、狂牛病の発生で厚生労働省が注意喚起し、牛に変わり生産量の高い豚プラセンタがメジャーとなったのです。安全性については日本SPF豚協会認定の契約農場のSPF豚を原料としたものを選ぶと安全性がより高いとされます。またその効果効能に関するエビデンスについては金沢大学、企業ではスノーデン株式会社、岩瀬コスファ株式会社、日本ハム中央研究所などから報告があります。
馬由来のプラセンタは豚由来のプラセンタよりも含まれているアミノ酸が非常に豊富で、原料としては高価でありながらも、それだけ効果の実感も高いと評価され、アンチエイジングや美容の悩みがある方に人気の成分となっています。一般的なプラセンタについて「馬と豚でどちらが良いのか」という疑問が最も多いようですが、豚と牛、あるいはそこにヒトを加えて効果の差を全体的に調べた研究は今のところないようです。
動物由来のプラセンタのなかでも羊の胎盤は人間のものに近いため、ヒトへの馴染みがよいといわれます。またプラセンタのアミノ酸の組織もヒトのそれと類似しているとされます。しかし日本では伝染病(スクレイピー)などのリスクを考慮してあまり使用されていません。有名なものにニュージーランド産やスイス産の羊プラセンタがあります。羊は病気にかかりにくい動物で豚のようにワクチンや薬剤の摂取もあまりないので、安全性や純度の理由からも特に北米やヨーロッパで人気が高いのです。
植物には胎盤はないので正確にはプラセンタではありませんが、植物が発芽する部分の胚座と呼ばれる部分が植物プラセンタと呼ばれています。胎盤由来のプラセンタとは全く異なる成分ですが、アミノ酸やコラーゲン、ミネラルなどの栄養素が含まれています。ただし動物性のプラセンタに含まれるような成長因子は含まれていません。植物由来プラセンタは正確にはプラセンタではなく、植物の抽出エキスですが、狂牛病問題以降、動物由来のプラセンタに抵抗がある人たちから受け入れられています。ライ麦由来のものが有名で美肌や美容などの効果が報告されています。
動物の胎盤から作られるプラセンタではありませんので、胎盤由来のプラセンタとは全く異なる成分です。植物由来のプラセンタと呼ばれる成分が注目されているのと同様に、鮭の卵巣膜を原料として作られる魚由来のマリンプラセンタと呼ばれるものがあります。動物のプラセンタには含まれないエラスチンが豊富に含まれる他、コラーゲンやコンドロイチン硫酸なども含まれますが、動物由来のプラセンタと同等の効果を期待するのは間違いであり、そもそもプラセンタではないということを理解した上で使用することが大切です。
プラセンタは動物の胎盤で、プラセンタという成分があるわけではないので、天然の食品でプラセンタが含まれる食品も当然ありません。プラセンタ抽出物はサプリメントやパウダー、ドリンクタイプの健康食品などに含まれる形で市販されています。プラセンタを食品から摂取したいのであれば、サプリメントや健康食品を利用することになりますが、それでも胎盤をそのまま食べるわけではなく胎盤から抽出されたエキスを加工したものが添加されている食品ということになります。商品を選ぶ際には企業理念や原材料、安全性などを確認し、信頼できるものを選ぶ必要があります。
何由来のプラセンタかによって効果・効能に多少の違いがあるとされますが、大きい作用としては「活性酸素除去作用」と「細胞賦活作用」の2つです。また一つの症状を改善させるというより、全身的に作用するため、更年期の症状を治療するつもりが、冷えが改善された、朝起きられるようになった、肌のツヤが良くなったというような想定外の効果が得られることが多く報告されています。アンチエイジングを中心に美容系の効果に注目が集まりますが、医薬品としても優れたさまざまな効果を発揮しており、肝臓疾患や更年期障害の治療のほか、頭痛、肩こり、不眠、めまい、胃腸障害などを改善すると報告されています。
プラセンタの効果効能の中でも、肌に対する効果は非常に多く報告されています。ハリ、ツヤ、シミ、シワ、キメ、毛穴、目の下のくまなどに効果があるとされますが、肌の若返り全体に作用します。これはプラセンタに含まれる成長因子のFGFやFGFといった成分が肌細胞の再生を促すからと考えられます。またビタミンCやビタミンE以上の抗酸化力があるため、活性酸素を除去することでエイジング対策ができるのです。
プラセンタは「美白」や「保湿」の効果が認められている医薬部外品の有効成分で、厚生労働省が美白有効成分として認めている20種類の成分の1つに数えられています。しかしこれは内服によるものではありません。とはいえプラセンタエキス配合の美容液やクリームなどのコスメでも、市販のもので角層の奥まで届くものはないでしょう。厚生労働省が認めるような美白効果はやはりクリニックなどの機関でイオン導入などによって肌の奥に浸透させる必要があります。しかし、サプリメントのプラセンタエキスの摂取でも、血流を促進し新陳代謝を活性し、皮膚の生まれ変わりを正常化するため、シミやくすみの改善を促すことが報告されています。
プラセンタにはグロースファクターと呼ばれる成長因子が大量に含まれていて、この成長因子は、細胞の生まれ変わりのスピードを高め、新陳代謝を活発にします。成長因子は皮膚の再生だけでなく、神経の成長や肝細胞の再生を促進するなど、さまざまな部分で再生や成長を促します。そのためアンチエイング全体に有効だとされるのです。しかしプラセンタは若返りの媚薬ではありませんし、研究が続けられている状態です。
更年期障害には個人差があり、ひどい症状を訴える人も入ればまったく症状を訴えない人もいます。しかし男女とも45~55歳くらいの更年期に、ホルモンバランスに変化が起こるのは確かであり、それを避けられる人はいません。プラセンタによる更年期障害の治療は保険適用で、その有効性は高く評価されています。ちなみに更年期障害の3大治療とは「ホルモン補充療法」「漢方薬」「プラセンタ治療」です。この3つの治療法の中でプラセンタ療法を選ぶメリットといえば、更年期障害の緩和を促しながら、見た目のエイジングケアの恩恵も受けられるということです。
もともと、母乳の分泌がうまくいかない人の治療にプラセンタが使用されているのですが、これはプラセンタに女性ホルモンを促す作用があるからだと報告されています。女性ホルモンの分泌が乳腺細胞の増殖を促進すれば豊胸効果が得られるのではないか、とバストアップ効果も期待されていますが、はっきりとしたエビデンスもなく、個人差があり、効果は実感しにくいようです。
プラセンタには血流促進作用があるため、頭皮の栄養状態を整えて毛母細胞を活性するのではないかと考えられています。また育毛に必要な成長因子が含まれていることも期待の理由です。白髪を予防する作用や脱毛予防にも活用できるのではないかと研究が進められています。
プラセンタ更年期障害などの婦人科系疾患に効果があり、近年は不妊治療でもその効果が期待されています。プラセンタにはホルモンは含まれていないとされますが、女性ホルモンを活性し、卵巣機能を活性すると考えられるからです。しかし日本ではプラセンタによる不妊治療は保険適用外です。
プラセンタにはアレルギーの対する抗アレルギー作用が認められています。そのためアトピー性皮膚炎にも効果があるのではないかと期待されますが、アトピーの症状も個人差があるため、すべての人に有効とはいえず現在研究段階です。そのため保険適用でもなく、まだまだ研究に時間がかかりそうです。
プラセンタにはアレルギー反応の原因となる抗体を抑制する働きがあることが臨床研究で確認されています。プラセンタは美容効果やアンチエイジング効果で人気があるため、アレルギー抑制作用については知らない人が多いようですが、その働きを治療に生かしているクリニックもあります。
プラセンタは食品ですから、摂取量の目安は定められていません。1日300〜500mgで肌の改善が期待できるというのが通説です。プラセンタエキス純末なら100mgでも十分とされますが、商品ごとに減量由来や希釈率もさまざまなで、なかにはかなり薄いプラセンタエキスしか含まれていないものもあるため、まずは商品選びの方が大切になってきます。トラブルを避けるためには商品ごとにすすめる最低量から摂取し、様子を見た方が無難です。
プラセンタの副作用はほとんどないと言われますが、全く副作用が報告されていないわけではありません。プラセンタエキスを含む健康食品の摂取でアトピー性皮膚炎が悪化した事例やプラセンタ注射が原因と考えられる薬剤性肝障害などが報告されています。またたんぱく質などにアレルギー反応がある人は注意が必要です。医薬品との相互作用のリスクも低いとされていますが、医薬品を摂取している人がプラセンタエキスのサプリメントや健康食品を摂取する場合や、医薬品を摂取している人がプラセンタ注射を検討している場合は当然医師に相談しましょう。