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生姜の効果とその作用

薬味や料理のスパイスとして大活躍の野菜・生姜。そのまま食べるだけでなく、乾燥させれば香辛料としても使える、食材としても便利な野菜です。その一方で、古来より漢方薬・医薬品として使用される生薬でもあります。生姜が持つ効能や作用、副作用の有無や摂取方法などを詳しく解説します。

生姜とはどのような食品か

生姜の根茎は約90%が水分でできています。残りの成分のうち、1~4%はジンギベレン、クルクメン、ビサボレンを主成分とする精油とオレオレジンが含まれています。

生姜の辛味成分としては、食べた時にピリリとする刺激成分・ジンゲロールが最も多く含まれ、加熱やアルカリ処理を行うと強い辛味を発するショウガオールやジンゲロンが発生します。

ショウガオールとジンゲロンは脱水反応によっても生成されるため、乾燥した生姜の方がより多く含まれ、辛味も増していきます。[※1][※2]

生姜の効果・効能

生姜の根茎には体温上昇効果や胃の働きを助ける健胃作用があるとされ、多くの漢方薬に配合されています。

ほかにも、食欲増進や発汗作用、殺菌作用や風邪の諸症状の改善、喉痛改善などにも効果を発揮します。[※4] 

また、今日では妊娠中や術後、化学療法後の吐き気止め栄養補助食品としても活用されています。[※3] さらには、脂肪細胞分化促進効果において、生活習慣病の改善効果も期待されています。[※5]

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

【体温上昇効果による冷え性の改善】

冷えは万病の元とよく言われますが、体が冷えると免疫力が低下し、体の不調を招きます。生姜に含まれるジンゲロールやショウガオールなどのショウガ由来のポリフェノールは、胃や腸にある温度感受性レセプターを活性化させます。

温度感受性レセプターが活性化すると、交感神経系を介して熱産生を亢進し、体温を上げる効果がはたらきます。たとえば以下のような実験からもそれがわかります。

健康な女性に、ショウガ由来ポリフェノールを6mg含む生姜粉末1gを摂取させた後、手を水へ浸漬させるという実験を行ったところ、浸漬後の温度低下を抑える効果が認められました。

このことからわかるように、生姜の摂取は冬季はもちろん、夏の冷房化での冷え対策にも有効であると考えられます。[※6]

【芳香成分による殺菌・消臭・吐き気抑制効果】

生姜には芳香成分が豊富に含まれています。中でもジンギベロール、ジンギベレン、シンゲロールなどの成分には殺菌効果、食品などの臭みをとる消臭効果、血流がよくなることによる新陳代謝の向上や発汗作用、食欲増進効果、消炎作用、吐き気抑制作用などさまざまな効果が確認されています。[※14]

【嚥下機能改善効果】

トウガラシの辛味成分・カプサイシンには、嚥下反射に関わる温度感受性チャネルのひとつ「バニロイド受容体(TRPV1)」を作動させる作用があることが報告されています。温度感受性チャネルとは、温度を感じるセンサーのような機能です。

生姜の機能性成分であるジンゲロール、ショウガオール、ジンゲロン類には、このカプサイシンと分子構造が類似しているため、TRPV1を活性化させる効果が期待されています。

実際、嚥下障害のある被験者にショウガを添加した薬品を投与したところ、唾液中に物を正常に飲み込むために必要な物質「サブスタンスP」の量が増大し、嚥下反射が向上する可能性が示唆されました。[※15]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

生姜はあらゆる人が摂るべき食品ではありますが、さまざまな効果があるため、以下のような諸症状のある人は摂取を心がけると良いでしょう。

  • 胃腸虚弱の人(健胃作用)
  • 冷え性の人(体温上昇効果)
  • 食欲不振の人(食欲増進効果)
  • 風邪気味の人(風邪の諸症状の改善)
  • 妊娠中や化学療法中の人(吐き気止め)
  • 片頭痛の人(抗炎症効果)
  • 糖尿病の人(生活習慣病改善効果)
  • コレステロール値の高い人(同上)
  • メタボリックシンドロームの人(同上)[※1]

生姜の摂取目安量・上限摂取量

生姜は、食品として適量を摂取することに対しては副作用もなく、安全性が確認されている食材です。ただし、1日5g以上摂取を続けると健康被害があったことが報告されていますので、この数値を目安としましょう。

ただし、胆石をはじめとした持病のある人は健康被害も報告されているので、摂取する際は医療従事者への相談が必要です。また、授乳中や6歳以下の小児には十分な安全性の確認がないため、通常の食品以上の摂取は避けましょう。[※1]

生姜のエビデンス(科学的根拠)

生姜が持つ効果のうち、特に注目されている糖尿病をはじめとした生活習慣病改善効果について、以下のようなエビデンスが報告されています。

脂肪細胞は肥大化すると、悪玉のアディポサイトカインを多く発生させます。悪玉のアディポサイトカインは血栓を作りやすくしたり、インスリン抵抗性を起こしたり、血圧を上げたりという生活習慣病を引き起こす成分です。

一方、同じく脂肪細胞から作り出させる善玉のアディポネクチンには、インスリン抵抗性を改善し、動脈硬化を防ぐ効果があります。[※7]

ショウガ抽出物は、脂肪細胞の分化を促進して肥大化を防ぐグリセロール-3-リン酸脱水素酵素活性を上昇させ、アディポネクチンの遺伝子発現を増強させます。

また、同じく生姜の主成分であるジンゲロールにも脂肪細胞分化促進作用のあるたんぱく質の一種、PPARγ(ピーピーエイアールガンマ)を活性化させる効果があります。ジンゲロールは加熱するとショウガオールとなり、このショウガオールの方がよりPPARγの活性化が強いと判明しています。[※8]

このようなメカニズムから考えると、生姜の摂取は生活習慣病予防に一定の効果があると言って良いでしょう。

研究のきっかけ(歴史・背景)

生姜は熱帯アジアを原産とする植物で、紀元前から健康を目的として活用されていました。特にアジアの医学では、何千年も前から乾燥したショウガを、胃痛、下痢、吐き気などの治療薬として用いられてきました。[※10]

薬用として栽培されていたことが『魏志倭人伝』に記録されていることから、日本には3世紀頃に中国から伝わったのではないかとされています。

江戸時代になるとその辛み成分から「クレハジカミ(=中国の山椒)」と呼ばれ、広く一般に食用として用いられるようになりました。[※9]

専門家の見解(監修者のコメント)

ショウガに期待される効用について、ショウガ研究の第一人者である日本経済大学の教授・木村公喜先生は次のように述べています。

「ショウガは漢方薬の約7割に用いられ、吐気・嘔吐止め(乗り物・つわり・手術後・化学療法など)をはじめ、消化促進、免疫力向上、抗微生物、熱産生、血行改善、発汗、冷え性改善、解熱・鎮痛、咳止め、関節炎、抗酸化、抗腫瘍、血中脂質改善など、様々な健康効果が期待されている。

ラットやマウスを用いた動物実験で、ショウガなどの香辛料には、エネルギー消費量を高める食品成分が含まれていることが明らかにされている。たとえば、ラットを用いた実験で、生姜の辛み成分の一つであるジンゲロンが酸素消費量を増加させ、かつ体内の脂肪の燃焼を盛んにすることでエネルギー消費を促進させることが明らかになっている。

また、麻酔下のラットを用いた実験で、トウガラシ(カプサイシン)、ショウガ(ジンゲロン)、胡椒(ペパリン)の点滴によって、副腎髄質からのカテコールアミン、とりわけアドレナリンの分泌が高まったり、交感神経活動が活発になったりして、身体を温めることが分かっている。しかし、和からし(アリルイソチオシアネート)やにんにく(ジアリルジスルフィド)には、このような作用は認められない。」 [※9]

生姜を使ったレシピ

生姜には様々な摂取方法がありますが、食用として用いるのが一般的です。生姜を手軽に摂取できるレシピをいくつかご紹介します。

【生姜紅茶】

生姜を簡単に摂取するために、比較的簡単な方法が、生姜紅茶です。紅茶1杯に対して、すり下ろした生姜小さじ1杯を加えるだけ。飲みにくいようならハチミツや砂糖を少量加えます。チューブの生姜を使えば、毎日でも飲める手軽なレシピです。

【豚のしょうが焼き】

おかずの定番ともいえる豚の生姜焼き。疲労回復効果があるビタミンB1をたっぷり含んだ豚肉と、食欲増進につながる生姜の組み合わせた料理は、特に夏におすすめです。

薄く小麦粉をまぶした豚肩ロース薄切り肉 200gをフライパンで焼き、すりおろしたしょうが小さじ2杯、みりん大さじ2杯、酒大さじ2杯、しょうゆ大さじ1と1/2杯を混ぜたもので味付けすれば完成です。[※11]

【ジンジャーシロップ】

シロップを作っておくと、水やお湯、炭酸水などで割るだけで、簡単に生姜ドリンクとして摂取することができます。

よく洗ったしょうが100gを皮ごと薄切りにします。鍋に三温糖200gと水2カップを加えて弱火で10分煮詰めたら、生姜を加えてさらに5~8分煮詰めて火を止めます。完成したシロップをザルでこし、適量を水などで割って飲みます。[※12]

相乗効果を発揮する成分

様々な食品や漢方薬との飲み合わせが行われる生姜ですが、古来より用いられてきた代表的なものが、大棗(タイソウ/ナツメ)です。生姜と大棗を同時に摂取すると、食欲が増加し、消化が良くなります。

そのため、ほかの薬がよくなるという効果があります。また、生姜の刺激性を大棗が緩和し、大棗によって生じる腹部膨満を生姜が減少させるという相互効果もあります。[※13]

また、生姜に似た辛み成分を持つと言われるトウガラシとも、がん抑制に対する相乗効果が期待されます。

トウガラシの持つカプサイシンと、ショウガの持つジンゲロールが同じ細胞の受容体と結合する性質を持つことに着目した実験でもそれが証明されています。

ラットに対して生姜とトウガラシをそれぞれ単体で与えた場合と両方与えた場合を比較したところ、単体で与えたグループと比較して、両方与えたラットの方が、がんリスクが80%も低下したという結果が出ています。

生姜とトウガラシをあわせて摂取することで、がんの発症リスクを下げることができる可能性がある、というわけです。[※16]

生姜に副作用はあるのか

一般的に生姜は、通常食品として適切量を摂取することに対しては副作用もなく、安全性が確認されています。また、医療目的の摂取に対しても、安全性が示唆されています。

ただし摂取目安量でも紹介した通り、5g以上摂取すると、腹部の不快感や胸焼け、下痢や口喉の刺激感などの有害事象発現が確認されています。

また、過剰摂取で不整脈が起こったり、外用したりすることにより皮膚炎になる可能性も報告されています。[※1]

参照・引用サイトおよび文献

  1. 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 「健康食品」の素材情報データベース/ショウガ
  2. 永谷園生姜部「生姜の秘密」
  3. アメリカ国立補完統合衛生センター.「Ginger」
  4. タケダ薬品 タケダ健康サイト「生姜・乾姜」
  5. 農研機構「ショウガ抽出物による脂肪細胞分化促進とPPARγの活性化」
  6. 【PDF】公益社団法人日本生物工学会「(株)伊藤園の機能性表示食品」
  7. 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット(現在アクセスできないためリンクなし対応)
  8. 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 「ショウガ抽出物による脂肪細胞分化促進とPPARγの活性化」
  9. 日本経済大学 「生姜摂取と健康づくり」
  10. National Center for Complementary and Integrative Health 「Ginger」
  11. 『きょうの料理ビギナーズ』(NHK Eテレ)「豚のしょうが焼き」
  12. みんなのきょうの料理「ジンジャーシロップ」(NHKエデュケーショナル)
  13. ハル薬局 生薬解説「大棗」
  14. 大学堂薬局 食生活アドバイザー ヒロ先生の食べ物教室「生姜」
  15. 【PDF】高知大学医学部教授 宮村充彦「ショウガを利用した嚥下機能改善品の開発」
  16. 一般社団法人日本インターネット報道協会 J-CASTニュース「トウガラシとショウガ:互いの辛み成分が相乗効果 食べ合わせでがんリスクが8割減」