カルシウムの効果とその作用

骨や歯を構成する成分として知られるカルシウム。骨粗しょう症の予防のほかにも、精神の安定や生活習慣病の予防など、さまざまな効果が期待されています。日本人にはとくに不足しやすいミネラルのため、食事やサプリメントからしっかりと補いましょう。

監修者所属テキスト監修者所属テキスト ナチュラルクリニック代々木 佐野正行先生監修

カルシウムとはどのような成分か

カルシウムはミネラルの1種です。ミネラルとは、からだの機能維持や調節に欠かせない微量栄養素です。私たち人間に必要なミネラルは16種類とされていて、これを必須ミネラルとしています。

カルシウムは必須ミネラルのなかでも体内に最も多く存在する主要ミネラルで、成人では体重の1~2%を占めています。体内に存在するカルシウムのうち、99%は骨や歯の構成成分です。残りの1%が筋肉や神経組織などの細胞内外の体液や血液中に存在しています。[※1]

食べ物で摂取したカルシウムは胃で分解されて小腸で吸収されます。そして血中に入り、残りは骨に蓄えられて骨を形成します。

血液中のカルシウム濃度は常に一定に保たれるようになっていますので、カルシウムが不足して血液中のカルシウムが減少すると、骨の中のカルシウムが血液中に移動して補います。私たちのからだを支える骨は、カルシウム貯蔵庫という役割もあり、カルシウム不足に備えているのです。[※1]

カルシウムの効果・効能

カルシウムには多くの働きがあり、以下のようにさまざまな効果をもたらします。[※2]

■骨粗しょう症の予防

カルシウムの摂取不足により骨から血液中にカルシウムの移動が続くと、いつしか骨はもろくスカスカの状態になっていきます。高齢になってからの骨粗しょう症の発症を予防するためには、若いうちからカルシウムをしっかり摂ることが大切になります。[※2]

■高血圧の予防

カルシウム不足で骨から血液中にカルシウムの移動が続くと、カルシウムが蓄積されて血管が硬くなり、高血圧を引き起こす原因になります。そのため普段からカルシウムを不足させないことが、高血圧の予防につながります。[※2]

■精神を安定させる

カルシウムは、神経伝達物質として情報伝達をスムーズにすることから、神経の興奮や緊張などの刺激に対する感受性を和らげ、精神を安定させる効果があるとされています。カルシウムがイライラに効くと言われているのはこの作用のためです。[※2]

精神の安定には睡眠の質も重要です。最近の研究によると、いつ眠り目覚めるかという、睡眠と覚醒の制御に神経細胞内のカルシウム濃度が関与していることが発見されています。[※3]

■ダイエット

ダイエット中に牛乳を摂取することで、筋肉量や骨量を保ったまま体脂肪を落とすことができるというデータが報告されています。[※4]

また、過度な食事制限では、「食べたいのに食べられない…」という精神的ストレスから逆に過食に走ってしまうという現象も起こりがちです。

カルシウムは精神を安定させる効果も期待されていることから、食事制限中のストレスを和らげてくれる効果も期待できます。

■大腸がんの予防

国立がん研究センターなどの調査により、カルシウムを多く含む食事を摂取すると、大腸がんのリスクが低下することが分かっています。[※5]

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

高血圧症の治療薬に「カルシウム拮抗薬」があります。カルシウム拮抗薬が血圧抑制に作用するメカニズムは以下の通りです。

血管は平滑筋という筋肉からできています。血管平滑筋が縮むと血圧が上がり、緩むと血圧が下がるというように、血圧は血圧平滑筋の状態により変化しています。

血圧平滑筋はみずからの意思で動くわけではありません。血圧平滑筋の収縮は、細胞外から血管を取り巻く細胞内へ侵入するカルシウムイオンによってコントロールされています。

細胞外から細胞内へカルシウムが侵入する経路は、「カルシウムチャネル」と呼ばれています。カルシウムチャネルを通じてカルシウムイオンが侵入すると、血管の収縮が起こり、血圧が上昇します。

カルシウム拮抗薬はカルシウムチャネルに作用し、細胞外からカルシウムイオンが侵入することを防ぐ作用があるため、血圧の上昇を抑制するのです。[※6]

一方、食事やサプリメントから摂取したカルシウムは、カルシウム拮抗薬とはまったく別の働きをします。

血液中のカルシウムは、神経伝達やホルモンの分泌、出血を止める作用、筋肉の収縮や酸素活性の調節など、体内の生理機能を調整する重要な役割を担っています。そのため、血液中のカルシウムは、常に一定の濃度で保たれている必要があります。

食事からのカルシウムが不足し続けると、血液中に足りなくなったカルシウムを補うために、カルシウムの貯蔵庫である骨から血液中にカルシウムが溶け出ていきます。

カルシウムが不足しているのに、血液中ではカルシウムが増えてくるというこの逆説的な現象は、「カルシウムパラドックス」と呼ばれています。

溶け出たカルシウムは血管に入り、細胞に運ばれますが、これが続くと骨から過剰にカルシウムが溶け出され、細胞内のカルシウムのバランスが崩れていきます。

血管にカルシウムが蓄積すると血管が硬くなって動脈硬化や高血圧症につながりますし、脳に蓄積するとアルツハイマー型認知症のリスクが高まります。骨からカルシウムが出ていくため、当然ですが骨はもろくなり、骨粗しょう症を引き起こす恐れもあります。[※2]

このような事態を防ぐためには、食事やサプリメントなどからカルシウムをきちんと摂取することが必要です。

カルシウム拮抗薬とカルシウムは、一緒に摂取してもどちらの作用にも影響を及ぼしません。カルシウム拮抗薬が小腸からのカルシウムの吸収を阻害することはありませんし、カルシウムの摂取がカルシウムチャネルに作用することはありません。[※7]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

骨粗しょう症の予防には、若いうちからしっかりとカルシウムを摂取して、健康な骨を形成することが必要になります。

とくに学校給食がなくなる高校生や、一人暮らしを始める大学生頃からの食生活では、カルシウムが不足しがちです。

骨粗しょう症の予備軍にならないよう、日頃から意識して摂取する必要があります。

カルシウムの摂取目安量・上限摂取量

日本人の食事摂取基準には、カルシウムの1日の推奨量が定められています。[※8]

男性では骨密度が急速に増加する12~14歳の時期に1,000mgと、全年代中でもっとも多い推奨量となり、女性でもどうように12~14歳の時期に800mgともっとも多い量が推奨されています。

カルシウムの摂取上限量は18歳以上で1日2,500mgと設定されていますが、通常の食生活をしていれば、摂り過ぎる心配はほとんどないと言えます。

日本人にとってカルシウムはとくに不足しがちな栄養素です。厚生労働省の調査でも、日本人のカルシウムの平均摂取量はすべての年代で推奨量にとどいていません。[※9]

カルシウムのエビデンス(科学的根拠)

大腸がんの予防効果について、国内では以下の2つのエビデンスがあります。

九州大学の研究チームは、2000年から2003年にかけて、福岡市とその近郊の大腸がん入院患者836人と非大腸がんの住民861人を対象に、食生活や生活習慣を調査しました。

カルシウムの摂取量によって5つのグループに分け調べたところ、最も多いグループは最も少ないグループに比べて大腸がんのリスクは36%低下したということです。[※10]

国立がん研究センターの発表した研究においても、カルシウム摂取による大腸がんの予防効果が示されています。

40歳から69歳の男女約80,000人を対象に、アンケートによる食生活の調査を実施。5年の追跡期間中に761人に大腸がんの発症が確認され、カルシウム摂取量と発症リスクを比較したところ、1日のカルシウム摂取量が多いグループは、少ないグループに比べて大腸がんの発症リスクが40%近く低いという結果が認められました。[※5]

どちらの実験の知見でも、大腸がん予防に効果的な1日のカルシウム摂取量は700mg以上と共通しています。

以上の検証結果からも、大腸がんの予防にカルシウムの摂取は効果があるという見方ができます。

研究のきっかけ(歴史・背景)

カルシウムは、1808年イギリスの化学者ハンフリー・デイビーによって発見されました。[※11]

以来研究が進み、人間に必要な必須ミネラルとして、骨や歯の形成はもちろん、さまざまな生理機能への作用が認められています。

2007年に世界がん研究基金 (WCRF)と米国がん研究機構(AICR)がまとめた報告書には、カルシウムが「ほぼ確実」に大腸がんを予防すると記載されています。[※10]

専門家の見解(監修者のコメント)

国立国際医療センター研究所の溝上哲也氏は、日本人のカルシウム摂取量の現状と問題を呈し、以下のように見解を述べています。

「カルシウムは細胞内でのエネルギー代謝などあらゆる基礎的な部分に深く関わっています。極端にカルシウムが不足すれば問題なのは当然ですが、ある程度不足しているというレベルでも生活習慣病発症の危険性を高める可能性もあるわけですから、どれくらい摂取すれば十分といえるのか、データに基づいた再検討が必要ではないでしょうか。(中略)
カルシウムの摂取量が多くなると前立腺がんのリスクが高まることが報告されていますので、よいことばかりではないのですが、日本人の現在の摂取量を考えると、もっと摂取量を増やしてもいいと思います」
(全国発酵乳乳酸菌飲料協会/はっ酵乳、 乳酸菌飲料公正取引協議会 食生活と健康情報「カルシウムとビタミンDの大腸がん予防効果」より引用)[※10]

カルシウムを多く含む食べ物

カルシウムを多く含む食品には、牛乳やチーズなどの乳製品をはじめとして、魚介類、海藻類、豆類、野菜類などがあります。

カルシウムを含む食品の代表といえば牛乳です。牛乳コップ1杯にあたる200mlには、約220mgのカルシウムが含まれているとされます。日本人の30~49歳の男女のカルシウム推奨量は1日650mgです。コップ1杯の牛乳を毎日飲めば、3分の1はカバーできることになります。[※12]

また、食品にはカルシウムの吸収を阻害する成分が含まれている場合があり、食品によって吸収率が異なるという特徴があります。

ほうれん草に含まれるシュウ酸や、豆類・穀類に含まれるフィチン酸や食物繊維は、カルシウムの吸収を阻害してしまう栄養素でもあります。そのため、カルシウムの吸収にはマイナスに働きますが、ミネラルやそのほかの栄養素もたっぷりと含みますので、あまり気にする必要はないでしょう。

注意したいのは、スナック菓子などの加工食品や冷凍食品に大量に含まれるリンです。過剰なリンはカルシウムが小腸で吸収されるのを阻害し、カルシウムを体外へ排出してしまいます。[※2]

相乗効果を発揮する成分

■カルシウムとビタミンD

カルシウムは小腸の上部で吸収されるときに、活性型のビタミンDが必要になります。カルシウムの吸収を促すためには、ビタミンDの存在が欠かせません。[※2]

大腸がんのリスクも、カルシウムの摂取量が多く、かつビタミンDの摂取量が多い人のほうが低下するという調査報告があります。[※10]

ビタミンDはキノコ類や魚に多く含まれますが、日光に当たることで体内でも合成されます。不規則な生活や、長時間のデスクワークなどで日差しを浴びる機会が少ない人は、ビタミンDの不足に注意しましょう。

■カルシウムとマグネシウム

マグネシウムはカルシウムと同様に、骨や歯の形成に必要なミネラルです。骨の50~60%にはマグネシウムが含まれています。[※13]

マグネシウムの摂取量が不足すると、カルシウムと同じく骨に蓄えられているマグネシウムが使用されるため、結果として骨がもろくなってしまいます。骨の健康のためには、カルシウムとマグネシウムをバランスよく摂取することが大切です。

マグネシウムはアーモンドなどの種実類や魚類、野菜や豆類などに豊富に含まれます。

■カルシウムとCPP

カルシウムの吸収率を高める成分として最近注目されているのが、牛乳の主要タンパク質であるカゼインに酵素を作用させて得られるCPP(カゼインホスホペプチド)です。

CPPは「ミネラルの吸収を助ける」として、特定保健用食品にも使用が許可されています。[※14]

カルシウムに副作用はあるのか

カルシウムは通常の食事をしている分には過剰摂取になることはほとんどありません。

カルシウムの過剰摂取で考えられる副作用には、高血圧や動脈硬化、腎臓障害、泌尿器系の結石などのほか、鉄、マグネシウム、亜鉛などの吸収阻害があります。[※15]

注意すべき相互作用

カルシウム拮抗薬にはグレープフルーツとの相互作用に注意が必要です。薬の効きがよくなりすぎるため、副作用が出やすくなる恐れがあります。[※16]

カルシウムのサプリメントは、骨粗しょう症の治療薬(ビスホスホネート)やフルオロキノロン系・テトラサイクリン系の抗生物質、抗けいれん薬などとの相互作用に注意が必要です。[※15]

薬を服用している人がカルシウムのサプリメントを摂取する場合は、かかりつけ医に相談しましょう。