荒川生協診療所 菅野 哲也先生

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医師と患者の間にある溝を埋めていきたい

荒川生協診療所 菅野 哲也先生

経歴

福島県立医科大学医学部卒業。一般内科での研修後も一貫して総合診療に従事し、地域のプライマリ・ケアを担う研修医の育成に務めてきた。2010年に荒川生協診療所の所長として赴任、家庭医として小児の診察から高齢者の在宅診療まで幅広い診療を行っている。日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医。

インタビュー

地域に役立つ家庭医として日々診療に励む菅野先生。荒川生協診療所は無床の診療所であるが、お年寄りのデイケア施設も併設されている。また所長である菅野先生の方針もあり、赤ちゃんからお年寄りまで診療科目によらず、すべての初期診療を行ってくれる医療機関だ。要望があれば区内の在宅患者さんの訪問診療もしてくれる。まるで「よろず相談所」のこの施設は近隣住民にとってはなくてはならない大切な場所として愛されている。

先生が「家庭医」を目指すようになったきっかけを
教えてください。

この診療所に赴任する前は12年程内科の勤務医をしていました。その時も特に決まった専門は持たずにいろいろな外来の患者さんを診ていましたが、医学部の頃から「何でも診られる医者になりたい」という強い思いがありました。聞いたことがあるかもしれませんが、例えば飛行機のなかで具合が悪くなった方が出た時、それがどんな症状であっても自信を持って手を挙げる医者でありたいと思っているのです。特に家庭医は患者さんだけでなくその家族の健康状態も診ます。患者さんのケアをどうするかは、その家族の健康状態によっても最適な方法が変わってくるからです。

「家庭医」というのは国の定められた
診療科なのでしょうか?

細かい分類や違いはあるのですが「家庭医」は「総合診療医」ともいえます。平成27年に専門医制度が刷新されることになっているのですが、その時に「総合診療医」は19番目の専門医資格として認められることになっています。総合診療医は、患者さんの症状だけを診るのではありません。患者さんが言わないことまでも1度の診察で読み取る能力が求められます。

家庭医も総合診療医も目指すことは「赤ちゃんからお年寄りまで、性別、病気の種類に関わらず関係なく患者さんを診る能力を持ち、そこでケアできない場合は適切な専門医につなぐ能力がある」ということです。スペシャリストに対してジェネラリストの役割が果たせればと思います。そして患者さんにとって何でも相談できる最も身近な医者でありたいと思っているのです。

日々診療をされているなかで最近気になることはありますか?

やはり認知症の問題でしょうか。メディアでも認知症が注目され「モノ忘れ外来」は大人気です。しかし認知症が早期発見できたとしても現時点では進行を遅らせる程度で、治す薬は開発されていません。認知症を加齢に伴う現象の一つと捉え、理解を深めて付き合うことも大切です。認知症は昔もありましたが、病気として認識されていなかったので、不可解な言動をするお年寄りを叱ったりする場面もありました。しかし今はその症状を理解することができます。そのような症状がある方をぞんざいに扱うのではなく、人間同士の付き合いをすることで改善することもたくさんあります。

そういった有益な情報を私たちはどうやって入手すれば良いでしょう。

そうですね。家庭医は医療情報や病気の知識だけを持っているわけではありません。患者さんを抱える家族の方々が、自らの健康を守りながら家族の病気を支える方法などもアドバイスできます。
そこで私の場合は「あらかわカフェ」とネーミングした談話会を定期開催しています。会社員の方から自営業の方まで毎回さまざまな方が集まってくれます。例えば医師と主婦が同じテーマで意見を交わせる場は珍しいようで、参加者には非常に喜ばれています。医師だけでは何もできない時代ですから、やはり地域の皆さんとつながることが大切です。

医師や医療と良い関係を築くために私たちのほうからできることはありますか?

特に震災以降「多職種連携」ということが医療のなかでもキーワードになっていますが、それを超えて一般の人たちともっとつながりたいと思っている医師は少なくありません。とはいっても、医学部ではコミュニケーション能力や傾聴する能力が重視されているわけではなく、そういった部分は個人の努力によって後から身につけるしかありません。医者も人間ですし、相性というものもあるでしょう。「医者とは話しにくい」「医者は話しを聞いてくれない」という声をよく聞きますが、少なくとも総合診療医はどんな小さなことでも話してほしいと思っています。もちろん健康な方からの話も聞きたいと思っています。遠慮はいりませんので、どんなことでもお気軽にご相談いただければと思います。

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