中央内科クリニック 村松 弘康先生

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タバコの害を理解することこそ大切なセルフメディケーション

中央内科クリニック 院長 村松 弘康

経歴

1989年、東京慈恵医科大学卒業後、同大学の呼吸器内科に入局。国立国際医療研究センター呼吸器科、同愛記念病院アレルギー・呼吸器科などを経て、主に気管支喘息やCOPDの診療・研究に従事し医学博士号を取得。2004年5月に慈恵医大講師、2008年4月からは武蔵野大学客員教授に就任し、現在も学生への教育を続けながら、実家である中央内科クリニックの院長も務める。

インタビュー

人形町にある「中央内科クリニック」は開業50年を超える歴史ある医院。院長の村松先生は呼吸器内科とアレルギー科を専門としていて、喘息や無呼吸症候群、禁煙外来などに力を入れている。特に村松先生ご自身がタバコの有害性を知ってから禁煙外来には力を入れていて、現在も毎月1回慈恵医大で受講無料の「卒煙教室」を開講している。

慈恵医大での卒煙教室も大変人気がありますが
「卒煙」サポートに力を入れるようになったきっかけを教えてください。

皆さん驚かれるのですが、かつては私自身も喫煙者でした。しかしタバコについて知れば知る程、恐ろしいものだとわかります。喫煙は日本人の4大死因であるがん、心疾患、肺炎、脳血管疾患のすべてを増やし、これにより多くの命と医療費が失われています。メタボ検診も大事ですが禁煙指導は最重要です。タバコの煙には約4,000種類以上の化学物質、約200種類の有害物質、そして70種類以上の発がん物質が含まれていて、仮に食品基準で判断すれば販売許可さえおりないでしょう。現役医師でも喫煙者がいますが、その有害性が明らかに軽視されていることが問題なのです。

体に悪いとわかっていながらも医者でさえ
なかなかやめられないというのはどうしてなのでしょう?

やはりリスクを過小評価し過ぎていること、そして本人も気づかないうちに「ニコチン依存」にさせられているからです。ニコチン依存症はWHOも「精神及び行動の障害」に分類しています。発がん性や疾病リスクがあると知りながら吸い続ける精神状態は正常ではありません。ニコチン依存の恐ろしいところは身体的にだけでなく心理的依存を生むところにあります。

喫煙者だけでなく非喫煙者も「タバコを吸うのは本人の自由」と考えていますが、発がん物質を吸いたいと思う人などいるわけがありません。タバコ会社はメディアを巧みに使って宣伝をし、巧妙に人々、特に未成年者をニコチン依存へと誘導しています。このことについてもWHOは非難しています。ニコチンという依存物質で喫煙者はタバコ会社にお金も時間も健康も奪われているのです。

やめたいのにやめられないという人におすすめの禁煙方法はありますか?

あらゆる疾病リスクが高まることを知ることも一つですが、まずは自分がニコチン依存症にさせられていて、本当の意味での自由を奪われていることを理解すべきです。喫煙者はニコチンが体内に入っている状態で神経のバランスを取っているため、ニコチンが切れるとイライラしたり集中力がなくなったりします。そのため3ヶ月はニコチンを断つことで体のバランスを取り戻す必要があります。また私の指導ではタバコを嫌いになってもらうようにします。無理にやめようと禁煙するとタバコに未練が残り、また手を出してしまいます。とにかく未練が残らないよう「嫌いになって卒煙」することが大切です。

日本でもタバコを吸えない場所が増加していますが世界はどんな状況でしょう?

世界では喫煙率ゼロを目指す取り組みがスタートしています。特に屋内が全面禁煙でないのは先進国では日本くらいで、日本は「タバコ後進国」とさえ言われています。飲食店の分煙はまったく不十分です。

最近は中国のPM2.5が問題になっていますが、タバコの煙にもPM2.5が大量に含まれています。環境省は大気中のPM2.5の上限を1日平均で35μg/㎥と定めていますが、北京では連日100μg/㎥以上と大変危険なレベルです。しかし日本の飲食店においても、全面禁煙以外の店舗はほとんどすべてで100μg/㎥を超えており北京と同じような状況なのです。最悪なのが車のなかでの喫煙によるもので、窓を開けても1600μg/㎥を超えるレベルで、これは米国の環境保護庁が示す緊急事態(251μg/㎥以上)に匹敵します。

最後に読者の方や禁煙を考えている方へメッセージをお願いします。

WHOは「世界では1年に600万人が喫煙で死亡している。60万人が受動喫煙で死亡している。6秒に1人が喫煙で命を落とし、1分に1人が受動喫煙で命を落としている」と警鐘を鳴らしています。「タバコくらい……」という意見もありますが「タバコだけは絶対にいけない!」と考えてほしいのです。日本人の4大死因だけでなく、日本人が寝たきりになる4大疾病の「脳卒中」「認知症」「老衰」「骨折」も全て喫煙によってリスクが高まります。

また受動喫煙の被害も無視することはできません。何十年も先の発がんなどの問題だけではなく、喘息の患者さんのようにタバコの煙に敏感な人たちは、他人のタバコの煙で咳が止まらなくなり、本当に苦しんでいます。受動喫煙を受けて、実際に毎日苦しんでいる人たちがいることも知ってください。

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