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ヨクイニンの効果とその作用

ヨクイニンは、ハトムギの皮を除いた種子の部分で、薬膳料理や漢方薬に用いられる植物です。日本では、江戸時代には栽培されており、イボ取りや鎮痛薬として利用されてきました。最近では美肌効果に注目が集まり、化粧品にも利用されています。ここでは、ヨクイニンの効果効能や作用、歴史、研究データや副作用などの情報をわかりやすく解説しています。

ヨクイニンとはどのような生薬か

ヨクイニンは、雑穀で知られるイネ科の植物ハトムギの種子の部分です。9~10月にハトムギの実を収穫し、皮の部分を取り除いて乾燥したものがヨクイニンとして使用されます。

ハトムギと成分はほぼ同じですが、ヨクイニンは生薬として、ハトムギはお茶やシリアルなどの食品として利用されます。生薬として用いられる場合は「ヨク苡仁」と表記されます。

※生薬とは、植物や動物などの天然のものが原料の薬のことです。乾燥や切断など簡単な加工をして使われます。生薬を複数組み合わせたものが漢方薬です。

原産は中国やインドシナ地方で、古くから漢方薬の材料として用いられてきました。日本でも江戸時代には栽培されていた記録があり、肌荒れや水イボなど肌トラブルの解消に利用されていました。

漢方では、ヨクイニンには消炎鎮痛作用や利尿作用、膿を排出する作用などがあるとされており、むくみやリウマチ、関節炎の解消に用いられます。[※1]

漢方として使われるほか、お茶や化粧品、せっけんなどいろいろな製品に利用されており、美容や健康のサポートをしてくれます。

ヨクイニンの効果・効能

ヨクイニンは、以下のような効果効能があるとされています。

■イボの解消

肌の新陳代謝を高めるはたらきがあり、イボ取りに役立ちます。また、ヨクイニンには体の免疫機能を活発にするはたらきがあり、水イボなどのウィルス性のイボにも効果的です。

■肌の調子を整える

肌のターンオーバーを正常にし、肌の調子を整えるはたらきがあります。

■むくみの解消

体内の水分バランスを整えるはたらきがあり、むくみの解消に役立ちます。

■鎮痛効果

痛みのもとになる体内の水分量を調節し、関節炎や筋肉痛、神経痛などの痛みを和らげる効果が期待できます。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

ヨクイニンに含まれる脂肪酸の一種コイクセノライドには、新陳代謝を高めるはたらきがあります。

新陳代謝によって肌が新しく生まれ変わります。この周期は20代で28日くらいといわれていますが、年齢を重ねるごとに長くなり、年齢×1.5倍、遅い人だと2倍ほどかかることもあるいわれています。

新陳代謝が乱れると、新しい皮膚細胞ができても古い角質がはがれ落ちにくくなります。このことが、肌荒れやイボ、ニキビ跡が治らないなどの肌トラブルの原因になってしまうのです。

ヨクイニンに含まれるコイクセライドによって新陳代謝が活発になると、肌のターンオーバーが正常化され、イボの解消や肌荒れの改善につながっていきます。

ヨクイニンのはたらきをみてみましょう。漢方では、体の中や関節に水分が溜まりすぎると、血の流れが悪くなり、体が冷え痛みの原因になるとされています。

ヨクイニンは、体内の水分バランスを調整するはたらきがあり、余分な水分や老廃物を排出するのに役立ちます。このはたらきによって、肌トラブルや関節や筋肉の痛みが解消すると考えられています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

ヨクイニンは、次のような人におすすめです。

  • 肌荒れが気になる人
  • 肌のきめを整えたい人
  • イボやニキビ跡が気になる人
  • 関節や筋肉の痛みを和らげたい人
  • デトックスしたい人

ヨクイニンの摂取目安量・上限摂取量

ヨクイニンには、決められた摂取量目安や上限はとくに定められていません。

市販のヨクイニン(生薬)は、ヨクイニンエキスの摂取量を1日あたり1000mg~2000mgとしている製品が多いようです。ヨクイニン粉末の場合は、1日6gを2~3回に分けて服用するとされています。[※2]

製品に記載されている用法用量を守って服用しましょう。

ヨクイニンのエビデンス(科学的根拠)

ウィルス性のイボ(尋常性疣贅)に対するヨクイニンの年齢別効果について、彦根市立病院薬剤科の三露久生医師、同院皮膚科の林進医師らは、次のような研究結果を発表しています。

ウィルス性のイボの治療で、1986年4月~1988年3月までの2年間に彦根市立病院を受診した患者114名を対象にアンケート調査を行いました。

患者には、ヨクイニンエキス錠(9錠中ヨクイニン乾燥エキス1000mg含有)を1日当たり9~18錠を3回に分けて、2週間以上服用してもらいました。

アンケートは60%に当たる68人から回答が得られましたが、指示通り服用しなかった9人を除き、59名の結果を分析しました。年齢は生後7か月~60歳、性別は男性28名、女性31名でした。

このアンケートの結果を年齢別に次の4つのグループに分けて分析しました。

  • 乳幼児(0~5歳)7名
  • 学童(6~11歳)23名
  • 青年 (12~17歳)14名
  • 成人 (18歳以上)15名

アンケートの回答内容を、ヨクイニンの有効・無効を次のように分けました。

有効
完全に消失し、現在もイボはない
無効
いったん消失したが、またイボができた
消失せず治らなかった
治らなかったので、ヨクイニンの服用をやめた後自然に治った

以上の区分によるアンケートの結果は次のようになりました。

  有効 無効
乳幼児 5 2
学童 17 6
青年 8 6
成人 3 12
合計 33 26

この結果、乳幼児と学童では71~74%の患者がヨクイニンエキスの服用でイボが完全になくなり、成人では20%に効果が認められたことがわかり、若年者のほうが効果が高いことが示されました。

ウィルス性のイボは自然に治るといわれていますが、完治するのに6ヶ月以上かかるといわれています。ヨクイニンの内服療法が、痛みや副作用が少ない最適な治療法であることを示しました。[※3]

ヨクイニンの抗がん効果について、タマノ井酢株式会社の久保田昭正農学博士、国立予防衛生研究所の沼田光弘教授らは、ヨクイニンを醸造してつくった食酢を使って実験を行いました。

ヨクイニンを蒸し煮にした後、アルコール発酵させてできた食酢と、生のままのヨクイニンをアルコール発酵して作った食酢の2種類を作り、この食酢に硫酸アンモニウムを加え、ヨクイニンの成分を抽出。それぞれの抽出物125μg/ml、250μg/ml、500μg/mlを、正常な細胞とがん化した細胞に加え変化を観察しました。

この結果、正常な細胞に対しては、どちらも変化はありませんでしたが、がん化した細胞に対しては生のヨクイニンを使った抽出物のみが、がん細胞の増殖を抑えました。特に、500μg/mlを加えたグループでは、がん細胞の成長率が11%とかなり増殖を抑えたことがわかりました。

そこで、2の食酢から得た抽出物を、腹部にがんを発生させたマウスに2mlを、1日1回5日間与えたところ、腫瘍が完全に消えました。

このことから、生のヨクイニンを原料として作った食酢から、抗がん作用があることがわかり、ヨクイニンに抗腫瘍効果があることが示されました。[※4]

研究のきっかけ(歴史・背景)

西暦200年ごろに書かれたとされる中国最古の薬草にかんする書物「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」には、最高級の薬として紹介されています。

その後中国で1596年ごろに発行された「本草綱目(ほんぞうこうもく)」にも、胃腸や脾臓、呼吸器のはたらきをよくし、熱を下げると記述されています。また、おかゆやご飯にして食べる方法も紹介されていました。

中国のほかにも、インドやブラジル、ギリシア、ローマでも保健や美容に効果がある食べ物として利用されていた記録が残っています。[※5]

日本に伝わったのは、奈良時代とも江戸時代ともされていて、はっきりしていません。江戸時代の儒学者である貝原益軒(かいばらえきけん)は、その著書「大和本草(やまとほんぞう)」に美肌やイボを取る療法を紹介しており、江戸時代には民間で広く利用されていたようです。[※5]

現代になると、ヨクイニンの薬理作用に関する研究が行われ、その効果が明らかになってきています。1961年にはヨクイニンの抗がん作用物質が抽出され、抗がん効果も期待されるなどさらに研究が進められています。[※6]

現在、健康や美肌への効果に対する期待が高まり、漢方薬だけでなく化粧品の有効成分として利用されています。

専門家の見解(監修者のコメント)

東京女子医科大学八千代医療センター皮膚科の三石剛准教授は、ヨクイニンのイボ治療の効果について次のように解説しています。

「ハトムギ由来の漢方薬、ヨクイニンは体の免疫を活発にする作用があり、ウィルス性イボには効き目がある。処方薬のほか『市販薬でも100パーセントのヨクイニンエキスだと効果が期待できる』」

(NIKKEI STYLEヘルスUP「顔・手足のイボ、増えたり広がったりしたら」より引用)[※7] 

症状が軽いうちは、市販されているヨクイニン製剤を摂ってみるのもよいようです。

また、美容コンサルタントで韓方薬膳料理専門家の余慶尚美氏は、ヨクイニンの美容効果について、次のように紹介しています。

「お肌のターンオーバーを整えるのにも優秀な生薬であり、食材でもあるので、積極的に摂ってもらいたいです。

お肌だけでなく、余分な体の水分の排出をサポート、たまた、胃腸の働きを高めてくれます」

(余慶尚美「美巡ライフスタイル/イボ取りだけじゃない!美白やダイエットに効果的な『ヨクイニン』のパワーとは」より引用)[※8] 

また、余慶氏は薬膳で使う焙煎していないヨクイニンを食事に取り入れ、美肌効果を高める方法を紹介しています。

「ハトムギは、焙煎したハトムギのお茶のハトムギ茶が気軽にスーパーなどで入手できますが、焙煎していないものとなると・・・通販や薬膳専門店のお店等で購入することになると思います。(中略)私はハトムギをよく、ご飯と一緒に炊いたり、スープに入れたりしています」

(美巡ライフスタイル「NHKでは紹介しきれていない『ハトムギ~シミ・美白&潤い肌へ』の補足、注意点」より引用)[※9] 

生のヨクイニンは専門店で買うことができ、ご飯やスープなどのメニューとして手軽に食事に加えることができるようです。

ヨクイニンを上手に摂取するには

ヨクイニンは、病院で処方してもらうほか、薬局で市販されている錠剤や粉薬で摂ることができます。

漢方薬は、食前か食間の空腹時に飲むと効果が高まります。また、薬の成分を吸収しやすくするために水またはぬるま湯で服用します。用法用量は、製品に記載されている内容を守りましょう。

相乗効果を発揮する成分

ヨクイニンのサプリメントや製剤と一緒に配合されることが多い成分は以下のものです。ヨクイニンと一緒に摂ることで相乗的な美肌効果が期待できます。

ビタミンB
ニキビや肌あれを緩和する効果を高めるため、皮膚や粘膜を健康に保つ
ビタミンC
抗酸化作用があり、コラーゲンの生成を助ける
ビタミンE(トコフェロール)
抗酸化作用により肌の老化を防いで若々しさを保つ効果がある

ヨクイニンの副作用

通常の食品として、用法用量を守って摂る場合の副作用は確認されていませんが、まれに胃のむかつきや下痢などの症状が出ることがあります。

また、次のような人が摂る場合は注意が必要です。

妊娠中の人、授乳中の人
ヨクイニンは子宮収縮を促すことがあるので、妊娠中に多量摂取するのは避けましょう。また、十分な研究データがないため、授乳中の人は摂取を控えたほうがよいでしょう。
3歳以下の子ども
十分な研究データがないため、小さな子どもは摂取を避けたほうがいいでしょう。