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ビタミンB1の効果とその作用

水溶性ビタミンのひとつであるビタミンB1は、豚肉や小麦胚芽、ゴマやらっかせいなどの種実類に豊富に含まれています。糖質を分解してエネルギーを生成するはたらきがあるほか、脳神経を正常に動かすはたらきも担っています。このページでは、ビタミンB1の効果や効能、作用のメカニズム、摂取目安量などについて解説しています。

ビタミンB1とはどのような成分か

ビタミンB1とは水溶性ビタミンのひとつで、別名「チアミン」「サイアミン」とも呼ばれています。

米やパンに含まれる糖質が、体内で分解され、エネルギーに変換される過程では、酵素が必要になります。その酵素のはたらきを促進させる補酵素がビタミンB1です。[※1]

エネルギーをつくるにはビタミンB1が必要不可欠なため、ビタミンB1が欠乏するとエネルギーが足りなくなり、疲労や食欲不振、肩こりなどの症状が出る場合があります。

また、ビタミンB1は糖を栄養とする脳のはたらきに関与しているほか、神経のはたらきを正常に保つ作用があります。[※2]

ビタミンB1の効果・効能

ビタミンB1には、以下のような効果があります。[※1] [※2][※3]

疲労回復
ビタミンB1には糖質をエネルギーに変換するはたらきや疲労物質を取り除くはたらきがあり、体を元気にしてくれます。
脳神経のはたらきを正常に保つ
糖質を栄養とする脳神経のはたらきを正常な状態に保ってくれます。
皮膚や粘膜を健康に保つ
糖質の代謝を行い、皮膚や粘膜の健康維持をサポートしてくれます。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

ビタミンB1は、糖質が分解されエネルギーに変わる過程で重要なはたらきをします。摂取した糖質は体内でブドウ糖へ分解され、小腸で吸収されます。

このブドウ糖は人間が活動するうえでのエネルギーになります。その際のエネルギーづくりをサポートするのがビタミンB1なのです。[※4]

ビタミンB1が糖質の代謝をサポートすることで、糖質を栄養としている脳や神経のはたらきを正常な状態に保つ効果があります。

近年では、ビタミンB1とアルツハイマー型認知症のかかわりについて研究が進められており、アルツハイマーの予防効果が期待されています。[※5]

また、ビタミンB1は、疲労物質である乳酸を取り除くはたらきがあり、疲労回復や筋肉痛の解消にも効果があるといわれています。[※4][※1]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

ビタミンB1は、次のような人におすすめしたい成分です。

  • スポーツをする人
  • 疲れやすい人
  • 夏バテを予防・改善したい人
  • 筋肉痛を予防したい人
  • 気持ちを落ち着かせたい人
  • インスタント食品中心の人
  • 飲酒をする人

ビタミンB1の摂取目安量・上限摂取量

厚生労働省が定めるビタミンB1の食事摂取基準は、以下のようになっています。[※6]

■1日あたりのビタミンB1摂取基準(mg/日)
  推定平均必要量 推奨量
1~2歳 0.4 0.5
3~5歳 0.6 0.7
6~7歳 0.7 0.8
8~9歳 0.8 1.0
10~11歳 1.0 1.2
12~14歳 1.2 1.4
15~17歳 1.3 1.5
18~29歳 1.2 1.4
30~49歳 1.2 1.4
50~69歳 1.1 1.3
70歳以上 1.0 1.2

出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015 年版)」[※6]

男女ともに、推定平均必要量と推奨量は同じです。ただし、妊娠中・授乳中の人は、年齢当たりの推定平均必要量と推奨量に0.2mg付加した量となります。

また、1歳未満の乳児の場合、以下が1日の摂取目安量となっています。

  • 出生後6か月未満(0~5か月)…0.1mg
  • 6か月以上1歳未満(6~11か月)…0.2mg

■過剰摂取した場合

水溶性ビタミンであるビタミンB1は体外へ排出されやすいため、過剰摂取による副作用はほとんどありません。

■ビタミンB1が欠乏した場合

糖質をエネルギーに変えるビタミンB1が不足してしまうと、疲労物質が溜まり、疲れやすくなります。

そのほか、脳や神経機能が正常に保てなくなり、精神が不安定になって集中力の低下やイライラなどをまねく場合があります。

また、食欲不振や脚気(足のむくみ、しびれ、息切れ、動悸)、ウェルニッケ脳症(意識障害や眼球運動障害などが特徴)といった症状を引き起こすおそれもあります。[※7]

ビタミンB1のエビデンス(科学的根拠)

ビタミンB1を摂取することはとても大切です。しかし、リン酸化障害によって摂取したビタミンB1をリン酸化できない場合、どんなにビタミンB1を摂取しても体内で利用できません。

和歌山赤十字病院の三浦彰医師らは、心不全(脚気心)患者にビタミンB1を投与する試験で、リン酸化障害と心不全の関連性を明らかにしています。

試験の対象者は、階段の昇り降りをする際の息切れや下半身のむくみなどを訴え、入院することになった54歳の男性です。

【1.ビタミンB1を静脈に注入試験】

ビタミンB1(100mg)を5分間かけて静脈に注入したところ、注入完了からわずか15分後に心臓から送り出される血液量が半減して、心臓血管の機能数値は倍増しました。

その後は、尿量が増え、むくみは消え、心不全によって拡大していた心臓が縮小するなどの変化があったと報告されています。

【2.ビタミンB1の経口摂取試験】

試験3日目以降、1日あたり75mgのビタミンB1を経口摂取してもらったところ、血中の総ビタミンB1量は増加しました。

しかし、ビタミンB1の静脈注入によって改善した心臓から送り出される血液量、心臓血管の機能数値などは元に戻っていました。

このことから、三浦彰医師らは、ビタミンB1を血液中から吸収して利用する過程に障害が起こっていると推測。ビタミンB1のリン酸化障害を調べる実験を行いました。

ビタミンB1水溶液(20mg)を投与した後に、ビタミンB1の血中濃度、リン酸化されたビタミンB1の血中濃度、ビタミンB1排出量(摂取開始から3時間内の尿を測定)を測定しています。

その結果、対象者の血中ではビタミンB1がリン酸化されず、投与したビタミンB1 の91.5%が尿と一緒に排出されたと報告されています。

このことから、ビタミンB1の摂取は心不全の症状改善効果が認められるが、リン酸化障害がある患者においては経口摂取ではなく静脈注入が必要だということがわかっています。[※8]

研究のきっかけ(歴史・背景)

ビタミンB1が発見されたきっかけは、1880年代に旧日本軍の間で多発した疾患「脚気(かっけ)」です。

当時日本では白米中心の食事を摂っていました。精米した白米は胚芽が取り除かれていて、ビタミンB1がほとんど含まれていませんでした。また、おかずも十分になかったため、ビタミンB1不足による疾患・脚気が多発したのです。

当時、玄米や小麦でつくられたパンなどを食べている軍人には、脚気の症状がみられなかったことから、精米する際に取り除かれる米ぬかが注目され、研究が進められました。

ちょうど同じころ、オランダの研究者であるエイクマンによって米ぬかの研究が行われ、米ぬかが脚気を改善することを発表。米ぬかに含まれる未知の栄養分子の存在が示唆されました。

この研究発表をもとに、1910年に農芸化学者だった鈴木梅太郎博士が米ぬかの研究を行い、米ぬかのなかから脚気の予防・改善に効く成分の抽出に成功したのです。

これが世界初のビタミンでした。発見した成分には、アベリ酸(のちにオリザニンと名前を変更)という名前がつけられました。

その後、ポーランドのフンク博士が、鈴木博士が発見したのと同じ物質を発見。その物質にビタミン「vitamine」と命名し、世界的に認知されました。これが現在の「ビタミンB1」です。

その後さまざまな研究でいくつかの違ったビタミンが発見され、ビタミンには水溶性と脂溶性があることが判明。区別するために、脂溶性をビタミンA、水溶性のものをビタミンBと位置付けられたため、現在はビタミンB1と呼ばれています。[※9][※10][※11]

専門家の見解(監修者のコメント)

福井大学医学部第二内科に所属する栗山勝教授は、ビタミンB1が欠乏することで生じる神経障害について、以下のように話しています。

「ビタミンB1はエネルギー代謝経路において重要な補酵素となります。その欠乏状態で起きるビタミンB1欠乏症には、大きく分けて、末梢神経障害と中枢神経障害があります」

「末梢神経障害はいわゆる脚気です。脚気は、循環器症状と神経症状を呈し、循環器所見としては、下肢の浮腫や心拡大などのほか、劇症型では急速に心筋虚脱に陥る衝心脚気もみられます」

(「ビタミンB1欠乏による神経障害について~福井大学医学部第二内科・教授 栗山勝先生に聞く~」より引用)[※12]

脚気は、ビタミンB1の不足で起こる病気のひとつで、足のむくみやしびれ、食欲不振、全身の倦怠感といった症状がでます。日本では白米を主食とする習慣が一般化しはじめた明治時代ころに脚気が流行したため、当時は「国民病」と考えられていました。[※13]

「中枢神経の障害が強いとウェルニッケ脳症が起こる場合があります。脳内の第三脳室、中脳水道、第四脳室の周囲や乳頭体が侵されることによって、意識障害、眼球運動障害、運動失調症状を呈します」

(「ビタミンB1欠乏による神経障害について~福井大学医学部第二内科・教授 栗山勝先生に聞く~」より引用)[※12]

ウェルニッケ脳症とは、ビタミンB1 が欠乏することで生じる脳症のことです。軽度~昏睡にいたるまでの意識障害や眼球運動障害などを引き起こします。

また、小脳のはたらきが悪くなり体がふらついたり手足がうまく動かなくなったりする「小脳失調」をまねくおそれもあります。放置してしまうと死の危険がある病気です。[※14]

脚気とウェルニッケ脳症ともに、ビタミンB1が不足することで生じます。インスタント食品中心の人やアルコールの摂取量が多い人はビタミンB1が不足しやすいといわれています。

また、栗山教授いわく、高齢者や胃の切除術を受けたことがある人もビタミンB1欠乏症に注意する必要があるそうです。

アルコールの摂取量に注意して、普段からビタミンB1を多く含む食品を食べるよう心がけましょう。

ビタミンB1を多く含む食べ物

ビタミンB1は、以下のような食品に多く含まれています。100gあたりのビタミンB1の含有量もまとめました。

ビタミンB1を含む食品 100gあたりの含有量(mg)
酵母 パン酵母(乾) 8.81
米ぬか 3.12
豚ヒレ肉(大型種/焼き) 2.09
小麦胚芽 1.82
けし(乾) 1.61
豚ヒレ肉(大型種/生) 1.32
ゴマ(むき) 1.25
まいたけ(乾) 1.24
黄大豆(乾) 0.88
らっかせい(大粒/乾) 0.85
うなぎ(かば焼き) 0.75
トマト(ドライ) 0.68

ビタミンB1は、小麦胚芽や乾燥酵母、豚肉、きのこ類、ゴマやらっかせいなどの種実類などに多く含まれています。

しかし、ビタミンB1は水に溶けやすく熱に弱い性質をもっています。過熱をすると成分が溶けやすくなるうえに、調理方法によっては、約30~50%のビタミンB1が失われてしまいます。加熱は短時間で済ませるようにしましょう。

また、調理する際は溶けだした成分も一緒に摂取できるよう、スープや煮汁を使った料理などで摂取するのがおすすめです。

相乗効果を発揮する成分

ビタミンB1は、ニンニク由来の化合物であるアリシンとの相乗効果が期待されています。水溶性のビタミンB1とアリシンが結合すると、油に溶ける脂溶性の「アリチアミン」という物質に変化します。

アリチアミンは、ビタミンB1よりも吸収率が高く、持続的に作用するため、よりエネルギーを生み出してくれます。

アリシンは、にんにくやねぎ、ニラなどに含まれています。つぶす、切るなどの過程を加えることで作用するため、細かくきざんで薬味として取り入れてみるとよいでしょう。[※1][※15][※16]

ビタミンB1の副作用

食事から摂取する場合は基本的に安全です。

ただし、サプリメントなどで1日約10gのビタミンB1を20日間継続摂取すると、いらだちや頭痛、皮膚へのかゆみなどの症状が出る場合があります。[※17]

注意すべき相互作用

ビタミンB1は、以下のような植物や食品との相互作用があります。[※18]

■植物

ツクシ
ツクシにはビタミンB1を分解する成分が含有されているため、ビタミンB1(チアミン)欠乏症を起こす可能性があります。
ビンロウジ
ビンロウジにはビタミンB1を化学的に変化させるはたらきがあるため、ビタミンB1の作用を弱めてしまうおそれがあります。

■食品

海産食品
生の淡水魚や甲殻類にはビタミンB1を分解する成分が含まれています。多量摂取によって、ビタミンB1(チアミン)欠乏症を引き起こす場合があります。
コーヒーやお茶
コーヒーやお茶に含有する成分・タンニンによって、ビタミンB1を体内に吸収しにくい成分へと変化させる可能性があります。

参照・引用サイトおよび文献

  1. 『最新版 知っておきたい栄養学』(学研プラス 2013年9月発行)
  2. 一般社団法人オーソモレキュラー.jp「ビタミンB群」
  3. 興和株式会社「からだとビタミン」
  4. 米山 公啓 著『脳が捗る習慣術 キレキレ脳で効率UP!』(CLAP 2013年11月発行)
  5. 中村丁次 監修『もっとキレイに、ずーっと健康 栄養素図鑑と食べ方テク』(朝日新聞出版 2017年8月発行 p112-p113)
  6. 【PDF】厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015 年版)」
  7. 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「ビタミンB1の働きと1日の摂取量」
  8. 【PDF】三浦彰 ほか「ビタミンB1燐酸化障害による脚気心の1例」(心臓 Vol.20 No.10 1988年)
  9. 武田コンシューマーヘルスケア株式会社「武田薬報web|タケダが開発した‼ビタミンB1誘導体フルスルチアミンの歴史 脚気~疲労~健康寿命」
  10. 理化学研究所「鈴木梅太郎博士の史料が化学遺産に認定!」
  11. わかさの秘密「ビタミンB1」
  12. 【PDF】株式会社大塚製薬工場「ビタミンB1欠乏による神経障害について~福井大学医学部第二内科・教授 栗山勝先生に聞く~」
  13. タケダ健康サイト「脚気」
  14. 厚生労働省 e-ヘルスネット「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」
  15. 大塚製薬「ビタミンB1」
  16. 【PDF】福西会病院 栄養管理科「栄養ニュース 第210号(H29年3月)」
  17. グリコ「栄養成分ナビ|ビタミンB1」
  18. 田中平三 ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)