梅の効果とその作用

日本の文化や食生活に欠かせない梅。昔から薬効のある食材として利用されてきましたが、近年の研究により、科学的データに基づいたすばらしい効能が明らかになっています。その効果はダイエットから生活習慣病の予防まで多岐にわたり、「天然のサプリメント」としてわたしたち現代人の健康維持にも役立ってくれます。

梅とはどのような果実か

梅はバラ科サクラ属の落葉高木の実で、日本の食文化には欠かせない食材です。「梅はその日の難のがれ」、「梅は三毒(食べ物、水、血の毒)を絶つ」などと言われ、民間薬や漢方として重宝されてきました。

伝統的に“カラダにいいもの”として伝わってきた梅ですが、近年の研究で、その小さな実に秘められた健康パワーが明らかになりつつあります。

日本における梅の生産量が最も多いのは和歌山県で、国産の梅全体の60%以上が和歌山県で生産されています。[※1]

和歌山で採れる代表的な品種に南高梅があります。収穫は5月下旬から6月下旬で、収穫時期になると、漬けるための角砂糖や塩、保存容器などとともに、スーパーなどで梅をたくさん見かけることができます。

梅の実は熟しても甘くならず、強い酸味があるのが特徴です。そのため、果実といってもそのまま食することはなく、梅干し、ジャムやシロップ、梅エキスなどに加工して利用します。

「生の梅には毒がある」という話をどこかで耳にしたことがある人もいるかと思います。実際に、未熟な生の青梅の種や実には、種を守るため青酸と糖が結合した「青酸配糖体」という物質が含まれています。青酸は呼吸困難やめまいなどを引き起こす毒性のある成分です。

ただし、青梅に含まれる青酸の量は決して多くなく、成人でも300個以上食べないと影響は出ないと言われています。そのため、生のまま実を食べてしまったからといってただちに症状があらわれるということはありません。

注意したいのは、青梅の種です。青梅の種には実の10倍以上の青酸配糖体が含まれているとされるため、子供が誤って種ごと食べてしまうようなことがないようにしましょう。

毒性は梅の実が成長して大きくなるにつれて分解されていき、干したり漬けたりして加工することでさらに分解が進みます。そのため梅は生ではなく、加工することで、より安全に食べられるようになるのです。[※2]

毒性は梅の実が成長して大きくなるにつれて分解されていき、干したり漬けたりして加工することでさらに分解が進みます。そのため梅は生ではなく、加工することで、より安全に食べられるようになるのです。[※2]

梅の効果・効能やその作用

はるか昔から民間療法などに用いられてきた梅。現在さまざまな研究がなされ、その効果が解明されてきています。梅の代表的な効果・効能は以下のとおりです。

■クエン酸による疲労予防・回復効果

梅には多くのクエン酸が含まれています。梅干しが酸っぱいと感じるのはこのクエン酸によるものです。クエン酸には疲労物質である乳酸を分解してくれる作用や、糖質や脂質をエネルギーとして変換する「クエン酸回路」を正常に保つ作用があるとされ、疲労の回復に欠かせません。

■血液をサラサラにする効果

ドロドロの血液は高血圧や動脈硬化・心筋梗塞などの病気のリスクを高めます。梅を摂取することで血液をサラサラにして、さまざまな生活習慣病のリスクを減らす効果が期待できます。

疲労やストレス、生活習慣の悪化で活性酸素が増えると、体液は酸性に偏り、血液はドロドロになります。血液をサラサラの状態に保つためには、アルカリ性の食品を積極的に摂って、酸性を中和する必要があります。

梅はその酸っぱい味から酸性と思われがちですが、じつはアルカリ性の食品です。梅干しのクエン酸はクエン酸サイクルをスムーズに回すことで、血液を酸性からアルカリ性に戻し、血液をサラサラの状態にしてくれます。[※3]

■食欲を増進させる効果

梅を想像するだけで多くの人は唾液が出てきます。唾液の分泌が促進されると、胃酸の分泌まで促進されるため、食欲の増進につながるのです。

ちなみに、梅干しを想像して出た唾液は口の中の汚れを流してくれるため、虫歯を予防する効果も期待できます。[※3]

■ダイエット効果

紀州産の梅干しには、脂肪燃焼に効果が期待できる「バニリン」という成分が発見されています。バニリンは過熱すると効果が高まるため、熱した梅を食べる「焼き梅ダイエット」がメディアなどで取り上げられています。[※4]

■食中毒予防効果

梅は強い殺菌・抗菌力を持つとされています。昔からお弁当に梅干しを入れると腐りにくいといわれるのは、梅が持つ殺菌・抗菌力によるものです。

食中毒菌の原因菌とされる黄色ブドウ球菌を入れた2本の試験管の一方にだけ梅干しを入れて一晩温めておいた実験でも、梅干しを入れたほうでは菌の繁殖を抑えられたという結果が報告されています。同様の実験で、病原性大腸菌(O-157)でも同じ結果が得られました。[※5]

■インフルエンザ予防

梅干しから発見されたポリフェノールの「エポキシリオニレシノール」にはインフルエンザウイルスの増殖を抑える作用が認められています。[※3]

■胃ガン予防

ピロリ菌は日本人の半数が感染しているとも言われる菌で、胃炎や胃潰瘍、さらに胃ガンの原因になることが知られています。梅に含まれる抗酸化物質の「シリンガレシノール」には、ピロリ菌の運動能力を抑える効果が発見されています。[※3]

■生活習慣病の予防

梅干しには、糖尿病を引き起こす酵素の働きを阻害する作用があります。さらに高血圧症の原因となるホルモンの働きを抑制することで、動脈硬化の発症も予防します。[※3]

梅に含まれる成分

梅には、たんぱく質、カルシウム、カリウム、リン、鉄などのミネラル、ビタミンA・B1・B2・Cなどが含まれています。[※6]

有機酸が多いことも特徴で、クエン酸・フマール酸・リンゴ酸・オキザロ酢酸アルファケト・グルタル酸・イソクエン酸・アコニット酸・コハク酸という8種類の有機酸[※7]が含まれています。

これらの有機酸がクエン酸サイクルを円滑に回して、疲労回復や生活習慣病の予防など、さまざまな効果をもたらしています。

さらに、梅の健康効果に重要な成分として注目されているのが、「梅リグナン」です。

リグナンとは、植物由来のポリフェノールの1種で、抗酸化作用をはじめとするさまざまな機能性をもちます。梅に含まれる梅リグナンには、以下の種類が発見されていて、それぞれに健康に役立つ作用が報告されています。[※8]

・シリンガレシノール
ピロリ菌の運動を抑制
・ピノレシノール
抗酸化、抗炎症作用
・エポキシリオニレシノール
インフルエンザウイルスの増殖を抑制
・リオニレシノール
抗酸化、細胞のガン化を防ぐ作用

このように、小さな梅の実には、たくさんの栄養や健康に有効な成分が含まれています。梅はまさに“天然のサプリメント”なのです。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

疲労やストレスを感じている人、夏バテ気味で食欲が落ちている人、食生活が乱れていて生活習慣病が気になる人などに、梅の成分は役立ちます。

流行りのパワーフードやサプリメントに飛びつくのも悪くはありませんが、毎日の食事に梅のような伝統的な食品を追加するのもひとつの方法です。

梅の摂取目安量・上限摂取量

梅干しを摂取するうえで、気になるのはその塩分です。日本人の1日の塩分摂取の目標値は、男性8g未満、女性7g未満[※9]とされています。生活習慣病予防の観点では6g以下が理想ともされており、欧米に比較して日本人は塩分過多といわれています。

梅干しに含まれる塩分は、3~20%ほど。商品により製造方法や粒の大きさなどが異なるため一概には言えませんが、1粒あたりに含まれる塩分の量は1~5gだと考えてよいでしょう。塩分の量だけで言えば、梅干しは確かに少ないとは言えません。

しかしその一方、梅干しにはナトリウム(塩)を体外に排出する作用のあるカリウムが含まれていて、さらに高血圧を抑制するというデータも報告されています。[※10]

そのため梅干しを適量摂取することは、塩分による高血圧を引き起こすより、むしろ高血圧を抑制する効果のほうか強いと考えられます。

最近では減塩の梅干など健康志向に着目したものがありますので、塩分が気になる人は減塩タイプを選ぶと良いでしょう。

梅のエビデンス(科学的根拠)

梅の健康効果については近年、科学的根拠を追及するための検証が進められており、さまざまな報告が発表されています。

ダイエット効果については、和歌山県紀南地域在住の女性201人を対象とした調査で、紀州産梅干しを毎日摂取している人はそうでない人に比べて、BMI値が低いということが分かっています。

さらに脂肪細胞分析した結果、梅に含まれるバニリンという成分に、脂肪細胞へ刺激を与える作用があることが発見されました。[※11]

インフルエンザの予防効果については、和歌山県立医科大学内の機能性医薬食品探索講座が行った実験で、梅干しから抽出したエキスを、新型インフルエンザ(H1N1型)と同様のウイルスに感染させたイヌの肝細胞に加えたところ、ウイルスの増殖が抑えられたという結果が得られています。

この作用は世界で初めて発見された、梅に含まれるポリフェノールの一種である「エポキシリオニレシノール」によるものだということが解明されました。

ただしインフルエンザの予防効果を得るためには、1日に梅干しを5粒食べることが必要だということですので、塩分のことを考えると現実的ではありません。[※12]

生活習慣病の予防効果については、以下の実験結果も報告されています。

肥満2型糖尿病モデルマウスに飲水中に混ぜた梅エキスを2週間投与して血液を調べたところ、投与しなかったマウスに比べて、インスリンの感受性の改善および血糖値の低下が認められました。また、血中コレステロール、中性脂肪濃度の低下も示唆されています。[※13]

研究のきっかけ(歴史・背景)

梅の原産は中国で、約2000年前の中国最古の薬物学書にも、すでに梅は登場しています。日本へは約1500年前、烏梅(ウバイ)として中国から伝わりました。

烏梅は梅を薫製・乾燥したもので、真っ黒い姿からその名が付けられた漢方です。平安時代の日本最古の医学書にも梅干しについての記述があり、室町時代には武士の貴重な栄養補給として用いられるなど、古くから薬用として利用されてきました。

江戸末期にコレラ菌が流行したときにも、高い殺菌力が知られていた梅が活躍したと言われています。[※14]

薬用、食用とされる一方で、和歌や浮世絵、歌舞伎や能のモチーフとして扱われるなど、日本の文化にも梅は寄り添ってきました。

古くから日本人になじみの深い食材として利用されてきた梅ですが、健康に役立つさまざまな成分が研究されるようになってからの歴史はそれほど長くありません。

小さな実に秘められたパワーは大きく、今後のさらなる研究が進むことが期待されます。

専門家の見解(監修者のコメント)

横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター

内分泌・糖尿病内科の山川 正先生は、論文の中で、梅研究の現状を次のように述べています。

「梅とその加工食品は、古来より日本を代表する健康食品として食され、最近では日本食に対する健康食品としての評価から広く、国外においても消費されるようになってきた。
しかし、緑茶におけるカテキンや、赤ワイン中のポリフェノールというような、梅に含まれる有用な化学物質の検出は立ち遅れており、梅加工食品の疾病への有効性およびその科学的根拠を立証した報告は非常に少ない」

(紀州梅効能研究会 研究成果「梅エキスの生活習慣病(糖尿病、高脂血症)に及ぼす効果」より引用)[※13]

梅には日本人の死因の上位を占める生活習慣病の予防効果なども認められています。今後のさらなる研究により、さまざまな病気の予防や治療に、梅の機能が応用されていくことを期待します。

梅の利用法

梅のおもな加工方法に、梅干し・梅酒・梅ジュース・シロップ・ジャム・エキス・砂糖漬け・ピクルスなどがあります。

実が若い頃に収穫された青く硬い梅は梅酒や梅エキス・ピクルスなどの梅干し以外の用途全般に、次に出る少し黄色の梅は梅酒やシロップ・ジャムなどに、黄色く熟した完熟梅は梅干しに適しているとされています。[※15]

買ってきた梅はまず水に浸してアクを抜いた後に、乾かして水分をきれいに拭き取り、竹串などでヘタを取り除きます。

その後、好きな用途に加工して利用します。梅は収穫後も追熟が進み傷みやすいので、日持ちはあまりしません。新鮮なうちになるべく早めに加工して、保存するようにしてください。

梅の加工品は、材料さえあれば家庭でも簡単につくることができるため、初夏を感じる季節の行事として「梅仕事」を楽しむのもおすすめです。

梅の加工品の中でも最もポピュラーなのが梅干しです。梅干しは「1日1粒で医者いらず」と昔から言い伝えられる、日本の伝統的な健康食品です。

生では日持ちがしない梅ですが、梅干しにすると非常に保存性が高くなります。適切に保存された梅干しであれば、100年経っても食べられるものもあると言われるほどです。

ただし、最近売られている減塩調味を施した「調味梅干し」は塩分が抑えられているため、保存性はそれほど高くありません。

とくに、塩分が3%を下回るものは、カビが入ることもありますので、なるべく涼しいところに保存して、早めに食べきるようにしましょう。

相乗効果を発揮する成分

梅の酸っぱさは食欲を増進してくれるので、肉などのたんぱく質と一緒に食べることでスタミナがアップします。

梅干しのクエン酸と、豚肉のビタミンBは、ともに疲労回復効果が期待される成分です。

梅に副作用はあるのか

梅は昔から安全に食べられてきた食品ですので、副作用の心配はありません。

ただし、いくら健康にいいとはいえ、梅干しを毎日10個以上など大量に食べ過ぎると塩分の過剰摂取になってしまいますので気をつけましょう。