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チロシンの効果とその作用

チロシンは非必須アミノ酸のひとつで、髪の毛や肌のシミや日焼けで知られるメラニンの黒色を出している物質です。最近の研究でうつ病の予防や改善に効果があることが期待されています。ここでは、チロシンの効果や効能や作用メカニズムについて詳しく解説します。

チロシンとはどのような成分か

チロシンは脳の働きで重要な役割をしている神経伝達物質の材料になる必須アミノ酸の一つです。フェニルアラニンと呼ばれる必須アミノ酸から体内で生成され、興奮や緊張をコントロールするアドレナリンやノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質の原料になります。

他にも身近なところでは肌のシミや日焼けの原因であるメラニン色素や髪の毛の原料にもなっています。

さらに、全身の代謝や交感神経と副交感神経のバランスを図って、自律神経を安定させる甲状腺ホルモンの分泌にも関わっています。

近年、うつ病や認知症などを扱う精神医学や脳科学の分野では、チロシンの重要性が指摘され始めました。チロシンが脳の神経伝達をスムーズにする役割を持っていることが、研究によって明らかとなっているためです。チロシンが体内で不足すると落ち込みなどの抑うつ状態が起こりやすいとされます。

落ち込みや意欲の低下などが続く場合、チロシンのサプリメントの摂取を考えるかもしれませんが、チロシンは日頃の食事でも十分摂取できますので、まずはバランスのよい食生活ができているかを確認してみてください。

チロシンの効果・効能

チロシンには以下のような効果・効能が報告されています。

■意欲に関与する神経伝達物質の原料となる

チロシンはドーパミンやノルアドレナリンといった脳内の神経伝達物質を生成したり、動きをスムーズにしたり、量を増やしたりします。ドーパミンやノルアドレナリンが不足すると、集中力が低下しやすくなります。チロシンはドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の前駆体であり、脳を活性化させる働きがあります。そのため、集中力を高める効果が期待できます。

■抗ストレス作用

チロシンは神経や脳内の働きを安定させる働きがあるため、ストレスへの抵抗力をアップさせる効果もあります。人は強いストレスを受けるとアドレナリンやノルアドレナリンを消費します。その結果、ストレスを受けた際に攻撃的な反応をしてしまうのですが、チロシンを摂ることで神経機能が調節され、ストレスの緩和につながります。また、慢性疲労症候群の改善にもチロシンは役立つといわれています。

■メラニン色素の原料に

加えて、メラニン色素の主成分であるチロシンを摂取して白髪の予防や、黒髪を維持する効果[※1]が期待されています。

他にもチロシンは、甲状腺ホルモンや成長ホルモンの合成にも関与しています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

チロシンは神経伝達物質の前駆物質として重要な非必須アミノ酸です。脳内を興奮させるドーパミンや集中力を高めるノルアドレナリン、ドーパミンの原料となります。うつ病の発症は、こうした神経伝達物質やチロシンが脳内で不足することが原因だと考えられているため、チロシンを摂取することで、症状の予防につながる可能性が十分にあります。

また、髪の毛やメラニン色素は有害な太陽光線である紫外線から人体を保護することが可能です。チロシンはメラニン色素の原料であるため、白髪予防や皮膚がんの予防にもつながると考えられています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

チロシンは非必須アミノ酸であり、必須アミノ酸であるフェニルアラニンから合成されます。チロシンが不足すると精神的にはイライラや集中力、やる気の低下などが、肉体的には疲労感の増加や白髪の増加などが起こります。しかし、チロシンの単体での摂取を考えるのではなく、まずは、タンパク質をしっかり含んだバランスのよい食事をすることを意識しましょう。

不摂生かダイエット、極端な偏食がチロシンの不足を招きます。

チロシンの摂取目安量・上限摂取量

WHOはフェニルアラニンとチロシンの合計で、成人大人1kgあたり25mg/日を摂取推奨量として設定していますが、アミノ酸は9種類の必須アミノ酸をバランスよく摂取しなければ有効利用されないので、単体での摂取目安量や上限を考えるより、アミノ酸、たんぱく質の摂取量が不足しないようにするべきです。

チロシンのエビデンス(科学的根拠)

チロシンは海外ではサプリメント成分としておなじみの成分です。

非必須アミノ酸ながらも神経伝達物質の原料となるため、集中力やメンタル維持に利用されています。筋トレを行う際に集中的なパワー出力を期待して摂取するアスリートもいます。

特に睡眠障害の分野で応用研究が進んでいます。睡眠過多の症状が目立つナルコレプシー患者にチロシンを経口摂取した結果、軽い覚醒効果が確認されました。この結果により、チロシンはおだやかな覚醒状態へと導く効果[※2]があるといわれています。

さらに、フェルニケトン尿症に対して、チロシンの経口摂取が有効という報告もあります。[※3]

研究のきっかけ(歴史・背景)

チロシンはギリシャ語でチーズを意味する言葉が由来です。チーズから発見されたことから命名されました。もともとは非必須アミノ酸の一種のため栄養的な観点での研究からはじまり、近年、神経伝達物質の原料として注目され、精神医学や運動生理学の分野での研究も進んでいます。

専門家の見解(監修者のコメント)

チロシンの医学的研究はさまざまな専門家の論文発表で公開されています。たとえば、九州大学大学院の高木伸哉氏らの論文では下記のように記述があります。

「急性ストレスに対するL-チロシンとD-チロシンの経口投与がマウスの行動に及ぼす影響と脳内の両チロシン濃度に及ぼす影響を調査した。オープンフィールドにおける行動量にL-ならびにD-チロシンの効果は認められなかった。経口投与35分後にL-チロシン投与により血漿L-チロシン濃度は急激に上昇したが、D-チロシンの投与では血漿D-チロシンの緩やかな上昇が観察された。興味深いことに、対照区の各脳部位(大脳皮質、海馬、線条体、視床、視床下部、脳幹ならびに小脳)において、D-チロシンの濃度はL-チロシンの1.8-2.5倍高かった。すべての脳部位において、L-チロシンの投与によりL-チロシン含量は増加したが、D-チロシンの投与でD-チロシン濃度の上昇は認められなかった」
(高木伸哉 「経口投与したL-チロシンはD-チロシンとは異なり脳部位に速やかに移行する」より引用)[※4]

この論文では、市販されているサプリメントに含まれるL-チロシン方が、D-チロシンと比べて、脳内のチロシン濃度を上げることができるため、ストレス緩和に大きく役立っているとまとめています。

また、九州大学の蕪木祐介氏らによる論文では、多動行動を示す脳内ドーパミン含量の低いハムスターを使った実験において下記のように発表しています。

「ドーパミンの前駆アミノ酸であるL-チロシンの単回投与および長期給与が自発運動量に及ぼす影響を調べた。オープンフィールド試験における自発運動量には変化は見られなかったが,チロシンの長期給与により,ホームケージにおける自発運動量が有意に減少した。同時に脳内のノルエピネフリンの代謝物であるMHPG含量とドーパミンおよびノルエピネフリンの代謝回転率の亢進が認められた。以上の結果から,L-チロシン給与がロボロフスキーハムスターの多動性改善に有効であることが示唆された。」
(蕪木祐介 「L-チロシンがロボロフスキーハムスターの自発運動量に及ぼす影響」より引用)[※5]

このようにチロシンは、ストレス緩和や多動行動の改善が専門家によって確認されています。

チロシンを多く含む食べ物

チロシンはチーズや牛乳などの乳製品や豆腐や納豆といった大豆製品に多く含まれています。両製品とも100gあたり1,000mg以上のチロシンが含有されているため、効率よく摂取することが可能です。また、牛乳の健康成分であるタンパク質のカゼインにもチロシンが多く含まれています。

ほかにも、肉類やマグロやカツオといった赤身の魚もチロシンが豊富です。また、野菜からもチロシンを摂ることができます。その場合にはバナナやアボカド、りんご、タケノコを食べるとよいでしょう。

ちなみに、りんごをむいてしばらく置いておくと黒く変色します。これはチロシナーゼと呼ばれるチロシンを含んだ酵素が空気中の酸素と反応して酸化されるからです。塩水につけておくと変色が防げるのは、チロシナーゼの酵素の働きを抑制するからだとされています。日本の春野菜でおなじみのタケノコにもチロシンが豊富に含まれています。タケノコを茹でると白く泡状のアクが大量に出ますが、これはチロシンが白く結晶化が原因です。

相乗効果を発揮する成分

糖分はチロシンの吸収力をアップする働きがあります。食事には糖分が多く含まれた果物などを取り入れると、チロシンを効率よく摂取することができるでしょう。

りんごにはチロシンと糖分の両方が含まれているため、効率的に摂取するにはおすすめの食材です。りんごを切ると変色することがありますが、これはりんごに含まれているチロシンが空気に触れ参加して、メラニン色素を生成するためです。これは、塩水やレモン汁にりんごをつけることで、防止できます。

チロシンに副作用はあるのか

チロシンは日頃の食事から常に栄養として摂取しているため、通常の摂取量では副作用はないと考えられています。

しかし、高チロシン血症患者のような、チロシンにまつわる疾患を持っている方が、サプリメントなどを使用する場合、医師や薬剤師に相談することが望まれます。

チロシンはメラニンの原材料です。そのため、過剰に摂取すると肌のシミやそばかすにつながる恐れがあります。また、チロシンはノルアドレナリンの量を増加させる働きがあり、血圧の上昇を招きます。そのため、過度な摂取には注意が必要です。

一方、チロシンが不足すると甲状腺ホルモンや神経伝達物質が減少するため、代謝活動の低下やうつ状態につながることも報告されています。メラニン色素の生成も少なくなるため、白髪の原因にもなります[※1]。チロシンは摂り過ぎても、少な過ぎても体に影響を及ぼすため、適度な摂取をこころがけることが大切です。