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ゴマリグナンの効果とその作用

ゴマリグナンは抗酸化作用をもつゴマ特有の成分です。ゴマの有効成分として有名な「セサミン」もゴマリグナンのひとつで、セサミンのほかにも複数のゴマリグナンが存在します。セサミン以外のゴマリグナンはごくわずかな量しか含まれておらず、あまり注目されてきませんでしたが、近年の研究で各ゴマリグナンの有用性が明らかになってきました。ここではゴマリグナンの種類、効果効能と作用のメカニズム、副作用、ハーブやサプリメント、医薬品との相互作用などについて解説しています。またゴマリグナンの摂取目安量や研究データ、研究者のコメントなどもご紹介しています。

ゴマリグナンとはどのような成分か

ゴマリグナンとは、ゴマから採れるリグナン類(植物の根や茎、種に含まれる成分)の総称です。リグナン類は、幸せホルモンとも呼ばれる「エストロゲン」とよく似た働きや、強い抗酸化作用をもっています。[※1]代表的なリグナン類はセサミンやイソフラボンです。

ゴマリグナンはゴマから採れるリグナン類の総称とお伝えした通り、ゴマリグナンに分類される成分は複数存在します。代表的なゴマリグナンは以下の5つです。

1.セサミン

もっとも有名なゴマリグナンです。すりゴマやねりゴマ、ゴマ油など、すべてのゴマ製品に含まれています。[※1]

2.エピセサミン

ゴマ油精製の過程でセサミンから変化したゴマリグナンです。基本的にセサミンという名前で販売されている健康食品の中には、エピセサミンも含まれています。[※2]

3.セサモリン

セサミン同様、もともとゴマの中に含まれているゴマリグナンです。セサミンと同様にゴマ、すりゴマ、ねりゴマ、ゴマ油に含まれている成分です。[※1]

4.セサモール

もとはセサモリンだったゴマリグナンです。ゴマを焙煎して濃い茶色のゴマ油をつくる過程でセサモールに変化します。[※3]

5.セサミノール

もともとゴマの中に含まれているセサミノールと、透明なゴマ油(太白油や白絞油)をつくる過程でセサモリンから変化する二次生成セサミノールがあります。 [※4]

これらのゴマリグナンには、活性酸素を撃退する抗酸化作用が共通して備わっています。

ゴマリグナンの効果・効能

ゴマリグナンには、以下のような効果・効能があります。

■美肌効果

ゴマリグナンの抗酸化作用によって、シミやくすみ、たるみやしわを防げます。[※1]

■肝機能を高める効果

肝細胞を傷つける活性酸素の働きを抑えることで、肝機能を高めます。[※1] [※3]

■二日酔いや悪酔いを防ぐ効果

ゴマリグナンを摂るとアルコールを分解する肝臓の機能が高まるため、二日酔いや悪酔いを防げます。[※3]

■悪玉コレステロール減少効果

ゴマリグナンを摂ると肝臓で善玉コレステロールが正常につくられるようになり、動脈硬化や心筋梗塞の原因となる悪玉コレステロールが減ります。[※5]

■ホルモンバランスを整える効果

ゴマリグナンはホルモンバランスを整えて、ホルモンバランスの乱れによる不安やイライラ、不眠などの症状を改善してくれます。また、ホルモンの異常分泌によって起こる更年期障害への効果も期待されています。

■がん予防効果

がん発症のリスクを上げる過酸化脂質の発生を防ぎます。[※6][※7]

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

ゴマリグナンがもたらす効果のほとんどは、抗酸化(活性酸素の働きを抑える)作用によるものです。

本来、活性酸素はウイルス感染を防ぐ白血球の働きを高めたり、収縮した血管をゆるめたりするのに必要なものです。

しかし、紫外線やストレス、喫煙や過度な運動などさまざまな要因によって過剰生成された活性酸素は、細胞を攻撃したり、がんや動脈硬化の要因になる「過酸化脂質」をつくったりします。

活性酸素に細胞が傷つけられると肌がたるんでシワが増えます。さらに、活性酸素にはメラニンの生成を促す働きがあるため、肌がくすんでシミも増えます。そのため、活性酸素が過剰生成されている人は老けた印象の肌になるのです。

また、活性酸素は幹細胞を傷つけて肝機能を低下させます。肝機能が低下すると善玉コレステロールの生成量が減り、悪玉コレステロールの量が増えて血管の通り道が狭まってしまいます。[※5]

ゴマリグナンは活性酸素の働きを抑えて、これらの問題を改善していきます。[※7]

ちなみにゴマの50%は不飽和脂肪酸(リノール酸やオレイン酸)で構成されており、不飽和脂肪酸には、血中の悪玉コレステロールを溶かして排出したり、悪玉コレステロールを減らしたりする働きがあります。ゴマを食べるとゴマリグナンと不飽和脂肪酸の作用があいまって、動脈硬化や心筋梗塞のリスクを低減する力が強まります。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

活性酸素は、紫外線や自然放射線を浴びたり、ストレスを感じたりすることで日常的に発生しています。[※7]肌の老化や生活習慣病の予防策として摂取しておくといいでしょう。

日常的な要因のほかに、食品添加物やタバコも活性酸素を発生させる要因です。[※7][※8]冷凍食品やインスタント食品ばかり食べている人またはヘビースモーカーの人は、活性酸素が過剰生成されている可能性が高いため、積極的にゴマリグナンを摂取することをおすすめします。

ゴマリグナンの摂取目安量・上限摂取量

日本経済新聞グループの日経BP社から発行された書籍『日経ヘルスサプリメント事典2008年度版』には、ゴマリグナンの摂取目安量は1日あたり10mgと記載されていました。

ゴマに換算すると1日あたり約3000粒(重量7.5g)となります。[※9]ゴマリグナンの量はゴマの焙煎方法によって変化するため、摂取目安量をゴマ油に換算することはできません。

ゴマ油に含まれる脂肪酸(n-6系脂肪酸)の目安量は、厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要」を参考にするといいでしょう。

n-6系脂肪酸の摂取目安量/日
年齢 男性 女性
18~29歳 11g 8g
30~69歳 10g

参考:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要|n-6系脂肪酸の摂取目安量g/日」

ゴマリグナンのエビデンス(科学的根拠)

食品総合研究所・食品機能部・栄養化学研究室に所属する井手隆氏は、2000~2005年にかけてゴマリグナンの研究を実施しました。[※2]研究ではセサミンの機能のほか、これまであまり注目されてこなかったエピセサミンとセサモリンの機能も報告されています。

■代謝機能に関するゴマリグナンの研究

セサミン、エピセサミン、セサモリンを0.2g含む飼料をそれぞれ用意し、ラットに10日間与える試験が行われました。

試験の結果、エピセサミンとセサモリンは、肝臓内の脂肪酸酸化系酵素(エネルギーを合成する酵素)の働きを活性化させ、遺伝子発現(たんぱく質を合成する過程)を高めることが明らかになりました。セサミンにも同様の作用が認められましたが、エピセサミンとセサモリンの作用のほうが強かったと報告されています。[※2]

■吸収率に関するゴマリグナンの研究

体重1kgあたり80mgのゴマリグナンを1種類ずつ投与する実験にて、吸収率の高さはセサモリン(0.119/dl)、エピセサミン(0.083/dl)、セサミン(0.045/dl)であることがわかりました。

研究データを実際の最大吸収率を見積もった場合、セサモリンの吸収率はセサミンの3倍、エピセサミンの吸収率はセサミンの2倍になると考えられています。[※2]

研究のきっかけ(歴史・背景)

ゴマは紀元前3000年頃からナイル川流域で栽培されていた歴史があります。油脂を採取できる貴重な作物として利用される中で、長期間貯蔵しても発芽率や機能性が落ちない点が注目され、ほかの油料作物にはない成分が含まれているではないかと考えられてきました。

紀元前3世紀頃には、ゴマの薬理効果が中国の医学書『神農本草経』に記されました。その内容は、臓器の機能向上、肌・骨・脳の活力向上、老化防止などです。

ゴマ自体は、古来より健康にいい作物として知られてきましたが、ゴマに含まれるゴマリグナンの研究の歴史はまだ浅いものです。ゴマの種子に含まれるセサミンやセサモリンはわずか0.3~0.5%で、それよりも少ないセサモールやセサミノールはあまり注目されていませんでした。

しかし、ゴマ油をつくる過程でセサモリンがセサミノールに変換されることがわかってからは、セサミノールが注目を集めるようになりました。近年の研究では、二次的に生産されたセサミノールが、ゴマリグナンの中でもとくに強い抗酸化作用をもつことが明らかになっており、さらなる研究が進められています。[※4]

専門家の見解(監修者のコメント)

食品化学を研究する名古屋大学大学院生命農学研究科の大澤俊彦教授は、一般的なリグナン類とゴマリグナンの違いについて日本油化学会誌に以下のような見解を掲載しています。

「リグナン類緑体は多くの植物から見出されているが、油糧種子中に存在するリグナンとしてはゴマリグナンが特異的である。新しいタイプの天然抗酸化物質として油脂食品の酸化防止という食品系での応用、開発の可能性が考えられる」(日本油化学会誌「リグナン類の機能性:特にゴマリグナンを中心に」第48巻第10号より引用)[※6]

大澤教授の見解から、ゴマリグナンはこれまでに発見されているリグナン類とは違うタイプのものであり、食品の油や体内脂肪の酸化を防ぐ成分であることがわかります。

通常、不飽和脂肪酸(主に植物や魚から摂れる液状の油)は酸化して傷みやすい傾向がありますが、ゴマ油はゴマリグナンの働きによって酸化しにくい特性があります。今後、ゴマリグナンの抗酸化作用の応用が進めば、防腐剤不使用の傷みにくい油脂食品が増えていくことでしょう。

ゴマリグナンを効率的に摂取する方法

ゴマの表面はセルロースという炭水化物に覆われているため、ゴマをそのまま食べてもゴマリグナンをうまく消化・吸収できません。効率的にゴマリグナンを摂取するには、セルロースが砕けた状態のすりゴマやねりゴマ、ゴマ油を利用しましょう。[※3]

相乗効果を発揮する成分

ゴマリグナン(セサミン)と相乗効果を発揮するのは、抗酸化作用をもつビタミンEです。ラットを使った研究では、ゴマリグナンが体内のビタミンEが分解されるのを阻害し、血中のビタミンE濃度を上昇させたと報告されています。[※11][※12]

ゴマリグナンに副作用はあるのか

ゴマリグナンを含むゴマは、食品としての安全性が確認されています。子ども、妊娠・授乳中の女性に関しても、重篤や副作用は報告されていません。

ただし、ゴマは血糖値や血圧に影響を与えるため、糖尿病や低血圧の人は健康を害するおそれがあります。また2週間以内の手術を控えている人も、血糖値への影響を防ぐために術前の摂取を避けてください。[※13]

注意すべき相互作用

ゴマを摂取することで、血圧や血糖値が下がる可能性があります。降圧作用をもつハーブやサプリメント、降圧薬や糖尿病治療薬などの医薬品を併用摂取すると相互作用が起こり、低血圧になる危険性があるので注意しましょう。[※13]

参照・引用サイトおよび文献

  1. 九鬼産業株式会社「ごま博士の解説でよくわかる ゴマリグナンって何?」
  2. 【PDF】井手隆「病態モデルによる食品成分の相互作用による脂質代謝調節機能の解明」(食品総合研究所・食品機能部・栄養化学研究室 2000-2005年)
  3. 『これは効く!食べて治す 最新栄養成分事典』(主婦の友社 2017年9月発行 p152)
  4. 『食品機能性の化学』(食品機能性の化学編集委員会 2008年発行 p331)
  5. サントリー健康情報レポート「コレステロールとゴマの稀少成分」
  6. 【PDF】大澤俊彦「リグナン類の機能性:特にゴマリグナンを中心に」(日本油化学会誌 第48巻 第10号 1999年 p81-88)
  7. 厚生労働省e-ヘルスネット「活性酸素と酸化ストレス」
  8. 笹塚美容皮フ生体「食品添加物と活性酸素」
  9. 加藤栄著『日経ヘルスサプリメント事典2008年度版』(日経BP社 2007年9月発行 p124)
  10. 【PDF】厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要」
  11. Yamashita K, Nohara Y, Katayama K, Namiki M. Sesame seed lignans and gamma-tocopherol act synergistically to produce vitamin E activity in rats. J Nutr 122: 2440-2446 (1992)
  12. Yamashita K, Iizuka Y, Imai T, Namiki M. Sesame seed and its lignans produce marked enhancement of vitamin E activity in rats fed a low alpha-tocopherol diet. Lipids 30:1019-1028 (1995)
  13. 田中平三ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)