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フィチン酸の効果とその作用

フィチン酸とはビタミンB群の一種です。穀類や豆類に多く含まれており、抗がん作用があると発表されたことから注目されていますが、それについてはまだ研究段階です。

またフィチン酸には強いキレート効果があることが知られています。フィチン酸は食品添加物として食品の酸化防止やpH調整などにも利用されています。

フィチン酸とはどのような成分か

フィチン酸はビタミンB群の一種で、ミオイノシトールにリン酸が結合してできる成分です。植物には種子に結晶化した状態で蓄えられています。[※1]

穀物にも含まれていますが、お米を精米することでフィチン酸は取り除かれてしまうため、玄米や小麦のふすまなど、精製されていないものからの摂取が可能です。水に溶けた状態では黄色味をおびた色をしたシロップ状で、酸味を持ちます。また、フィチン酸は人の体内にも存在するビタミンで、心筋、脳、骨格筋などに含まれています。[※2]

フィチン酸には、ミネラルと強く結合しやすい性質があります。そのため食品中のミネラル吸収に影響を与えると考えられてきました[※3]が、フィチン酸が糖に閉じ込められている状態では影響が少ないことがわかってきています。

さらに、このミネラルと強く結びつく働きにより大腸がん予防に役立つことが近年わかり[※4]、フィチン酸は注目されるようになりました。フィチン酸の健康効果は他にも多数の報告があり、サプリメントや健康食品にも使用されています。

フィチン酸の効果・効能

玄米などに含まれているフィチン酸は、次のような効果が期待できます。

■脂肪肝の予防効果

フィチン酸はミオイノシトールに6個のリン酸が結びついた物質で、ミオイノシトールは抗脂肪肝作用が知られています。[※5]

■抗がん作用

フィチン酸には抗がん作用があるのではないか、と注目されています。結腸がんの発生率低下に貢献しているのは、食物中に含まれている食物繊維よりも、フィチン酸の配合量が関係しているという報告があったためです。[※4]

その他にも、食物繊維の摂取量が多いデンマーク人は、半分の摂取量のフィンランド人と比べ結腸がん発症率が高くなっていることが示されました。[※2]フィチン酸に含まれるミオイノシトールにも、大腸がん、乳がん、肝臓がん、肺がんなどの予防効果があることがわかっています。[※5]

■生活習慣病の予防

フィチン酸には血小板の凝固を抑制する働きや、総コレステロールや中性脂肪の低下がみられることがわかっています。

これらは動脈硬化を発生させ、心筋梗塞や脳梗塞の原因となるもので、総コレステロールが高い人は血中ミネラルバランスが悪くなることがわかっており、フィチン酸によりこのバランスが整うことで生活習慣予防に良いとされています。[※2]

どのような作用があるのか

フィチン酸はリンの供給源となります。リンは体内にカルシウムに次いで多いミネラルで、骨や歯をつくる成分となるミネラルです。

他にも筋肉、脳、神経にも存在しており、体が必要なエネルギーをつくるためにも役立っています。[※6]リンはATPの構成成分となり、フィチン酸はリンの重要な供給源です。[※2]

■抗酸化作用
フィチン酸には抗酸化作用があります。人が酸素をとり入れて発生する活性酸素の生成を抑制する働きがあり、生活習慣病やアンチエイジング対策に効果が期待されます。[※2]

■デトックス
フィチン酸には有害物質の排出効果があります。フィチン酸が、ミネラルと強く結びつき排出されるのと同じ形で、体内に入った農薬やダイオキシン、重金属なども一緒に排出するため、いわゆるデトックス効果を求められるためです。[※7]

■抗がん作用
細胞の増殖を抑える働きがあり、抗酸化作用や、金属のキレート作用も加わり、がん予防に効果が期待される成分です。[※2]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

フィチン酸は、ミネラルと強く結びつき排出する効果から、毒素を排出したい方におすすめの栄養素です。

実はミネラルと体内毒素は同じ場所に存在しており、フィチン酸を取り込むことでそれらが一緒に排出されます。その効果はとても強力で、有害物質の影響でがんにも応用が検討されているほどです。

ただし、一緒にミネラルも排出してしまうため、有害物質排出効果を期待してフィチン酸を摂取するなら、数か月や半年くらいで摂取量を調節する必要があります。[※8]

フィチン酸は生活習慣病対策をしたい方にも摂取が推奨されます。血液がドロドロになるのは、血小板が凝固して血栓ができることも原因のひとつです。

血液が正常な状態では、血液が循環し凝固することはなく、血管外の場合のみ凝固して止血ができますが、血栓ができると血管内で血液が固まりやすくなります。

長い間の運動不足や不規則な食事習慣により、血栓ができやすくなるため、フィチン酸による血小板凝固抑制作用による解消を期待できます。[※9]

また、フィチン酸は、総コレステロールや中性脂肪の低下にも役立ち、生活習慣病対策になります。

フィチン酸の摂取目安量・上限摂取量

フィチン酸は1日における推奨摂取量は提示されていません。一般的なアメリカ人やイギリス人は、1日あたり約750mgのフィチン酸が摂取されているとされ、日本人はそれに比べ豆類の摂取が多い食生活のため、1日に750mgよりやや多く摂取していると考えられています。

ただし、食生活は人によって異なり、個々人での管理が必要です。例えば、菜食主義の方はさらに多くのフィチン酸を摂取している可能性が高く、1日あたり1,500mg摂っている可能性があります。[※5]

フィチン酸のエビデンス(科学的根拠)

フィチン酸による脂肪肝抑制効果は、フィチン酸に含まれるミオイノシトールによる効果だと考えられます。

炭水化物がショ糖の場合は、でんぷんと比べて肝臓の脂肪合成が高まりますが、これを抑制する働きが実験により確認されました。

実験では、ショ糖をラットに投与し、さらに0.1%のミオイノシトールを添加させ調べました。その結果、肝臓の脂肪蓄積が抑制されることが確認されています。[※5]

米国のメリーランド大学医学部病理学の教授による研究では、フィチン酸とイノシトールを一緒に摂取することで、抗がん作用が高まることを示すことがわかっています。この方法で作られたものが、サプリメントとして販売された例があります。

穀物に含まれるフィチン酸はミネラルと結合し水に溶けない性質を持っているため、そのままの形では吸収する割合が減ってしまうので、精製したフィチン酸を含むサプリメントを摂取する方法が考案されました。フィチン酸とイノシトールを組み合わせると、2分子に変換されこの物質が抗がん作用をもたらすと考えられているためです。[※10]

研究のきっかけ(歴史・背景)

フィチン酸が初めて発見されたのは、1914年のことで、古くから研究がおこなわれてきました。しかし、フィチン酸はカルシウムや鉄、亜鉛をキレートする働きにより、抗栄養因子と位置付けされてきた歴史を持ちます。そのため、研究の方針は、腎結石の予防や治療に対してのことでした。

がん予防への効果が期待されたのは、1998年京都市でおこなわれた国際シンポジウムで、フィチン酸には抗がん作用があると発表されたからです。[※2]

また、研究によってキレート作用による抗酸化作用もわかってくるようになり、フィチン酸は健康維持に用いることができる栄養へと変わってきています。[※5]

専門家の見解(監修者のコメント)

抗栄養因子と位置付けられてきたフィチン酸が、様々な健康効果を持つことや特に抗がん性を有することに着目されてきたことは、研究者のレポートのなかでも述べられています。

「これまでフィチン酸は抗栄養因子と考えられてきたが,生理的レベルではミオイノシトールと共通の作用を有することもわかってきた。

その他にも,フィチン酸は生体内において種々の生理機能を有する。哺乳動物の脳においてフィチン酸が細胞内小胞輸送に関与している可能性が考えられており,実際にフィチン酸摂取により脳や心臓などの組織中のフィチ ン酸含量が増加することや,これら組織中でフィチン酸が合成されることが報告されている。

これらの事実から,生理的レベルのフィチン酸の摂取 は重要であり,フィチン酸は抗栄養因子というよりはむしろ,ビタミン様物質であるミオイノシトールの供給源,あるいは ビタミン様物質そのものであると考えられるのではなかろうか。(岡崎 由佳子、片山 徹「フィチン酸の栄養的再評価」より引用)[※5]

専門家が考えるフィチン酸とは、ミオイノシトールと似た働きを持つことで、様々な効果があるとされています。フィチン酸にはミオイノシトールが含まれているため、この物質の供給源となることで、効果をもたらしていると考えられるためです。

今後も、研究が重なることでより有用な利用方法や効果の発見も期待されます。

フィチン酸を多く含む食べ物

フィチン酸は穀物や豆類に多く含まれている栄養素です。お米は米ぬかにフィチン酸が多く、ゴマや小麦、トウモロコシなどにも含まれています。豆類はインゲン豆からもフィチン酸を摂取可能です。

お米は精米することで取り除かれてしまうため、フィチン酸の摂取をしたい場合は玄米で食べることが推奨されます。しかし、玄米を食べるとフィチン酸のミネラルをキレートする働きによりミネラルが不足しやすいため、玄米だけを食べるのではなく他の食べ物からミネラルを摂取するようにしましょう。[※2]

ただし、極端な心配は必要なく、普段の食生活で野菜や果物をちゃんと食べていれば、フィチン酸によるミネラルの吸収が阻害されることは、大きな問題とはなりません。[※11]

玄米からフィチン酸をできるだけ除きたい場合は、水に浸したり、発芽した玄米を食べたりすると良いでしょう。こうすると、ミネラルとフィチン酸が分離しやすくなるためです。[※11]

相乗効果を発揮する成分

フィチン酸はイノシトールと組み合わせると、抗がん作用が高まるという研究内容もあるため、一緒に摂ることで相乗効果が期待できます。イノシトールとはビタミンB群のことで、ビタミンB群が総合的に含まれている食品と組み合わせるのがおすすめです。[※10]

イノシトールは、オレンジ、スイカ、メロンの他にグレープフルーツ、桃などに多く含まれます。フィチン酸は穀物に多いため、食事に穀物とおかず、フルーツをデザートに付ける食品なら、どちらの成分も摂取しやすくなるでしょう。[※12]

フィチン酸に副作用はあるのか

フィチン酸はミネラルの吸収を阻害してしまうことから、単体で食べることは望ましくありません。しかし、同時に有害物質の排出をはじめとした様々な作用が期待されるため、まったく摂取しないほうが良いという栄養ではなく、むしろある程度の摂取が望ましいものと言えます。

がん予防のために玄米食を続ける予定の場合は、ミネラル摂取ができるおかずをとり入れたりしてバランスの良い食事に玄米を追加しましょう。また、フィチン酸によるミネラルとの結合は、上述のような食生活を送っていれば大きな心配をする必要はありません。[※7]