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なつめの効果とその作用

なつめとは、アジアを中心にみられる10cmほどの低い木です。赤茶色の果実は古くから飛騨地方にて、甘露煮にして食べられています。果実は甘く、最近はドライフルーツやジャムとして販売されています。中国では、乾燥させたなつめの実を「大棗(タイソウ)」と呼び、脾臓(ひぞう)を守る生薬として重宝されてきました。風邪のひき始めに効くことで有名な葛根湯や桂枝湯に配合されるほか、47種類以上の漢方処方製剤に用いられています。薬力が強すぎる生薬の効き目を緩和するはたらきがある点も、なつめならではの特徴です。[※1]ここでは、なつめの特徴や調理方法、その歴史などの情報をご紹介。またなつめの実を使った生薬「大棗(タイソウ)」としての効果効能や作用のメカニズム、研究データや副作用などをわかりやすく解説しています。

なつめとはどのような植物か

なつめとは、主に日本や中国、韓国でみられるクロウメモドキ科の落葉樹です。高さは10cmほどで、落葉樹では珍しい光沢のある葉や5~7月にかけて咲く黄緑色の花が特徴的です。[※2]夏に芽が出ることから「なつめ」という名前がついたと考えられています。9~10月頃には2cm大の甘い実が収穫できます。

実の両端には2本の棘が生えており、虫や鳥から種を守るためのものだと考えられています。その特性から、棘をたて並びにした「棗」と書いてなつめと読みます。

なつめの実は甘みが強いことからジャムやお菓子などに用いられるほか、韓国では乾燥させた実を「サムゲタン」という薬膳料理に使用します。また、漢方では「大棗(タイソウ)」という強壮目的の生薬として、47種類以上の漢方処方製剤に調合されています。[※1]

一部では、名前の響きがよく似ているヤシ科の常緑樹「なつめやし」(デーツ)と混同されていますが、実の形が似ているというだけで、まったくの別ものだということを覚えておきましょう。

なつめの効果・効能

なつめの実を乾燥させた生薬「大棗(タイソウ)」は、東洋医学において次のような薬理効果があるといわれています。[※1][※2]

■アレルギー症状を抑える効果

乾燥させたなつめから抽出したエキスによって、アレルギー症状を抑えられる可能性が高いといわれています。[※1]

■滋養強壮

体を温めて新陳代謝を高めたり、免疫力を活性化したりすることで、体のエネルギーを取り戻します。

■鎮静・鎮痛

痛みをやわらげたり、神経の興奮を鎮めたりする効果があります。

■利尿のサポート

肝臓の機能を高めて、尿の排出を促します。

■胃腸保護

荒れた消化管を補修するはたらきがあるといわれています。

そのほか、次のような効果もあるとされています。

■抗がん

■抗炎症

■抗肥満

■抗酸化

ただし、これらの効果は大棗としてのものであり、食品としてのなつめに関しては科学的な根拠に基づく効果効能が確認されていません。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

なつめの実を乾燥させた「大棗(タイソウ)」は、胃腸を守る生薬です。糖類や有機酸、トリテルペンやサポニン、ベンジルアルコール配糖体などの有効成分が豊富に含まれています。

体にどのような作用をもたらすのか、そのメカニズムは解明されていませんが、複数の成分が影響しあって胃腸保護や滋養強壮、鎮痛や鎮静などの薬理効果が生まれていると考えられています。[※3]

またフルーツとしてのなつめにも、パントテン酸やカルシウム、ナイアシン、鉄分や葉酸、ミネラルや食物繊維などの有効成分が豊富に含まれています。

ストレスに対抗するホルモンのはたらきをサポートするパントテン酸や、神経の高ぶりを抑えるカルシウムは、体と心を落ちつけてくれる成分です。

なつめに含まれるナイアシンには、血管の拡張をうながす作用があります。これは、血管収縮や筋肉硬直などによって起こる頭痛や冷え、肩こりなどの症状改善につながると考えられています。

なつめには鉄分と葉酸の両方が含まれているため、血液をつくるのに必要な成分を効率よく補えます。ちなみに、なつめに含まれる鉄分の量は鉄分が多いことで知られるプルーンの約1.5倍です。鉄や葉酸不足によって起こる貧血を予防できます。

また乾燥なつめ100gあたり、800~1000mgのカリウムが含まれています。カリウムには、体内に溜まったナトリウムと水を排出する作用があるため、むくみ解消効果が期待できます。

なつめに含まれるマグネシウムは、硬くなった便に水分を与えて柔らかくし、便の排出をうながしてくれます。さらに、なつめには胃腸の調子を整える食物繊維も含まれています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

なつめの実には鉄分が豊富に含まれているため、貧血の女性におすすめです。中国では、貧血に対して著しい効き目をもつ食品として知られています。[※4]

なつめの摂取目安量・上限摂取量

中国には「一日食三棗」ということわざがあります。これは、毎日3粒のなつめを食べれば老化防止になるという意味です。

岐阜薬科大学の第9代学長を務めた薬学博士の永井博弌 (ながい ひろいち)氏は、書籍『軽症うつがみるみる晴れる100のコツ 決定版』内で、1日あたり5~10粒のなつめを摂取することを推奨しています。[※4]

これらの情報から、1日あたり3~10粒の範囲で食べるのが適量です。上限摂取量はとくに設けられていませんが、ドライフルーツの場合は砂糖が加えられていますので、食べ過ぎは禁物です。

なつめのエビデンス(科学的根拠)

大学や研究所では、乾燥なつめの薬理効果を裏付ける研究が多数行われていますが、はっきりとした効果が確認されているのはアレルギー反応に関するエビデンスのみとなっています。

1981 年に九州大学薬学部と岐阜薬科大学、久光製薬研究所が合同で行った研究では、乾燥なつめ(大棗)からエタノールで抽出したエキスには、アレルギー活性を抑える糖が含まれていることがわかりました。この糖はなつめの実には存在せず、エタノールでエキスを抽出する過程で二次産生されたものだと報告されています。[※6]

また、2013年にSureshらが行った研究では、アレルギー活性に対する乾燥なつめ(大棗)からエタノールで抽出したエキスの作用が確認されました。エタノールで抽出した乾燥なつめエキスをラットに経口投与したところ、アレルギー反応を引き起こす顆粒物質の放出が抑制され、皮膚アナフィラキシー反応が低下したと報告されています。[※7]

2016年には、富山大学大学院医学薬学教育部の三橋陽平らが、乾燥なつめ(大棗)からエタノールで抽出したエキスを濃度別(2.5 ~40 mg/mL)に用意して、それぞれをラットに投与する実験を行いました。その結果、濃度5mg/mL 以上の乾燥なつめエキスを投与したマウスの体内では、アレルギー反応を引き起こす顆粒物質の放出量が著しく抑えられ、強力な抗アレルギー活性が確認できたと発表されています。[※1]

これらの実験結果からわかるように、エタノールを使って抽出した乾燥なつめ(大棗)エキスを利用することで、アレルギー症状やアナフィラキシー反応を抑制する効果が期待できます。

研究のきっかけ(歴史・背景)

なつめは五果(5つの臓をそれぞれサポートしてくれる果実)のひとつとして中国で親しまれてきました。五果のうち、腎臓は桃、心臓はすもも、肺は杏、脾臓は栗、そして肝臓はなつめとなっています。[※8]

万葉集の歌の中になつめを詠んだ歌が2種存在することから、なつめが日本にわたったのは奈良時代頃だと考えられています。生薬としての薬理効果が注目されて研究は少しずつ進められていますが、効果を裏付ける根拠はほとんど見つかっていないというのが現状です。

ただし食歴もながく、生薬としても長年活用されてきたことから、効果実感が高い食品であり、生薬であることは間違いありません。

専門家の見解(監修者のコメント)

岐阜薬科大学の第9代学長を務めた薬学博士の永井博弌 (ながい ひろいち)氏は、書籍『軽症うつがみるみる晴れる100のコツ 決定版』にて、なつめの漢方作用について解説しています。

「ナツメは、良質なタンパク質や脂質、カルシウムのほか、ビタミンC、葉酸、カリウム、鉄などが豊富に含まれています。そのため、滋養強壮効果が高く、内臓の機能を活発にするとともに、精神を穏やかにするので、リラックスして不眠症を改善します」(主婦の友社『軽症うつがみるみる晴れる100のコツ 決定版』より引用)[※5]

永井氏の解説をみるとわかるように、なつめの滋養強壮効果はひとつの成分によるものではなく、なつめに含まれるさまざまな栄養成分が作用しあって生まれているものだと考えられます。

なつめを使ったレシピ

なつめの実を使って、少量の砂糖で甘いジャムをつくれます。なつめの実がなければ漢方薬局で売られている刻みナツメで代用可能。砂糖がなければ、黒砂糖やはちみつで代用できます。

■なつめジャムのつくり方

【用意するもの】

  • なつめの実…80g
  • 砂糖…50g

【つくり方】

  1. なつめの実を細かく刻みます
  2. 鍋に水と刻んだなつめの実を入れ、火にかけます
  3. 沸騰したら黒砂糖をくわえます
  4. 汁気がなくなるまで30分ほど煮込みます
  5. 粗熱をとり、ミキサーにかけたら完成です

一度加熱したなつめの実はあまり日もちしません。なつめジャムをつくったら密封容器に入れて冷蔵庫で保管し、1~2日のうちに食べきるようにしましょう。[※5]

■乾燥なつめのつくり方

【用意するもの】

  • なつめの実

【つくり方】

  1. 収穫したなつめの実を50℃以上のぬるま湯で洗います
  2. 実の表面がしわしわになるまで天日干しします。目安は2日です
  3. 天日干ししたなつめの実を15分ほど蒸します
  4. 粗熱がとれたら乾燥するまで再び天日干しします

乾燥なつめは、密封容器で2~3か月保存できます。[※5]なつめの実が大量にある場合は、日持ちする乾燥なつめをつくってみてはいかがでしょうか。

■乾燥なつめを使った薬膳茶の淹れ方

【用意するもの】

  • 乾燥ショウガ…11g
  • 乾燥なつめ…110g(大きめの実を10個ほど)

【淹れ方】

  1. 乾燥ショウガをぬるま湯で洗います
  2. 包丁で乾燥なつめに切れ込みを入れます
  3. 乾燥ショウガと乾燥なつめ、水を鍋に入れて中火で2時間ほど煮込んだら完成です

乾燥なつめと乾燥ショウガを組み合わせると、さっぱりとした甘さの薬膳茶になります。薬膳茶を煮出した後に残るなつめとショウガは、はちみつと醤油でさっと煮るとそのまま食べられます。

相乗効果のある食べ物

月経前には、黒きくらげとなつめの組み合わせがおすすめです。黒きくらげとなつめには、どちらも血を補う働きをもっているため、貧血を防いでくれます。黒きくらげとなつめを鶏ガラでまとめて煮込み、スープにすると飲みやすいでしょう。[※9]

疲れているときは、高麗人参と鶏肉、なつめを一緒に煮込んで韓国料理サムゲタンを作ってみてはいかがでしょうか。高麗人参は熱湯につけた後に一晩おいて  、薄切りにしてから煮込んでください。高麗人参が臓器のはたらきをサポートし、なつめが血を補い、鶏肉が気力を向上させることで相乗効果が生まれ、体力回復につながります。[※9]

大棗(タイソウ)が含まれる漢方処方

大棗が含まれる代表的な漢方処方は以下です。[※10]

  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)…胃腸の調子を整えます
  • 甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)…精神を安定させます
  • 平胃散(へいいさん)…消化不良や食欲不振に有効です
  • 小柴胡湯(しょうさいことう)…免疫力を高めます
  • 桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)…ストレスや不眠症に有効です
  • 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)…二日酔いや胸やけに有効です

ちなみにこれらの漢方処方には、生姜や人参、甘草(カンゾウ)などが共通して含まれます。このことから、大棗、生姜、人参、甘草は相性の良い生薬だといえるでしょう。

なつめに副作用はあるのか

なつめを食べ過ぎると、なつめに含まれる食物繊維の影響で下痢を起こす可能性があるため気をつけましょう。[※9]

また、なつめには血を補う作用があるため、のぼせたような感覚になる可能性があります。高血圧で投薬治療を受けている人は、念のためかかりつけ医に相談のうえ、摂取するとしても少量にすると良いでしょう。[※5]

注意すべき相互作用

医薬品との相互作用は確認されていません。ただし、2012年に発行された書籍『薬膳・漢方食材&食べ合わせ手帖』によると、ねぎや魚と一緒になつめを食べると、まれに腹痛や腰痛などが起こることがあるそうです。安全性を考えるなら、ねぎや魚と一緒に食べるのを避けたほうがいいかもしれません  。[※9]