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マグネシウムの効果とその作用

日本人のミネラル不足としては、カルシウムばかりに注目が集まっていましたが、実際にはマグネシウムの方がずっと不足していることが分かってきました。マグネシウムは体内で約300種類もの酵素のはたらきをサポートし、生命維持のために極めて重要な働きをしてくれます。また、骨や歯の健康にとっても必要な成分であり、正常な心拍と血圧の維持、血糖値コントロールといった役割も果たします。この多岐にわたって働く必須ミネラルは、マグネシウムが不足しがちな日本人がいま見直すべき重要な成分なのです。

マグネシウムとはどのような成分か

体に必要な五大栄養素のうちのひとつであるミネラルは健康のためには欠かせない栄養素です。約100種類あるミネラルの中で、人間の体に必須だとわかっているミネラル(必須ミネラル)は16種類あり、その中のひとつがマグネシウムです。

マグネシウムは体内の多くの酵素の働きをサポートし、カルシウム・ナトリウム・カリウム・リン・ビタミンCなど、生命維持に必要なさまざまな代謝に関与しています。

三大栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物)のように直接エネルギー源にはなりませんが、体の機能を維持し、健康を保つために重要な役割を担っています。

これまでマグネシウムはあまり関心をもたれない栄養素でしたが、厚生労働省が発表した「第6次改定日本人の栄養所要量」で、所要量が定められたことや、普段の食生活では摂取しにくい成分であることがわかり、その重要性に注目が集まってきています。

マグネシウムの効果・効能

マグネシウムは人間の体内にある300種類以上の酵素を活性化させる働きがあり、栄養素の合成や神経伝達などにも深く関わっています。血液の流れをスムーズにするために働くほか、血圧を調整して高血圧を防ぐ働きもあります。

また、マグネシウムは筋肉の収縮と弛緩にも重要な役割を果たし、血栓ができるのを防ぐため、心筋梗塞や動脈硬化などの成人病の予防や、腸のぜん動運動を調整する手助けもするので、便秘解消の効果も期待できます。

さらにマグネシウムは、骨や歯の健康にも重要な役割を果たしています。これにはカルシウムとの連携が必須で、マグネシウムはカルシウムが骨や歯に届くように調整しており、これによって骨の代謝がスムーズに行われるようになり、骨に弾力を与えて丈夫にします。

カルシウムを摂取するとマグネシウムも必要になるので、この二つの成分をバランスよく摂取することが骨の健康維持には大切なことです。

また、神経の興奮を抑える働きもあるため、何かとストレスの多い現代社会において非常に大切な成分として期待されています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

人間の体内にあるマグネシウムは約25gで、そのうち50%~60%は骨に、40%は軟部組織に、総マグネシウム量の1%未満が細胞外液と血中に存在すると言われています。[※1]

マグネシウムはカルシウムと拮抗することによって筋収縮をコントロールしたり、血管を広げて血圧を下げたり、血栓を作りにくくする作用があります。

摂取したマグネシウムは主に小腸で吸収され、肝臓で排出されます。通常1日に約120 mgのマグネシウムが尿として排泄されますが、マグネシウム濃度が低い場合は、尿中の排泄量は減少します。

マグネシウムの摂取量が不足すると、腎臓でマグネシウムの再吸収が促されたり、骨からマグネシウムが出されることで、血中のマグネシウム濃度を一定に保っています。[※2]

マグネシウムが欠乏すると低マグネシウム血症となる場合もあり、吐き気、眠気、脱力感、食欲不振などの症状が出ることがあります。

マグネシウムの不足が長期に及ぶと、骨粗鬆症や糖尿病のような生活習慣病のリスクを高めることが示唆されています。[※3]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

マグネシウムの摂取量が少ないと、生化学的経路に変化を生じて、疾患のリスクが高まります。[※1]心血管疾患、高血圧症、2型糖尿病、骨粗鬆症など、現代人を悩ませるいくつもの疾患に対して予防の効果を発揮するのがマグネシウムです。健康で長生きをしたいと願う多くの方の心強い味方となるでしょう。

女性の方で便秘に悩んでいる方は多いと思いますが、マグネシウムは腸のぜん動運動を活発にし、排便しやすくする働きがあるので便秘の解消に役立ちます。

また、豆腐をつくる際に使われる「にがり」には、塩化マグネシウムが豊富に含まれており、この成分はダイエットをサポートする成分としても有名です。

食事の際ににがりを一緒に摂ると、脂肪や糖の吸収が抑えられ、血糖値の上昇を抑えるのでダイエットにも効果があります。[※4]

マグネシウムの摂取目安量・上限摂取量

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、男性の1日のマグネシウムの推奨量を18~29歳は340mg、30~49歳は370mg、50~69歳は350mg、70歳以上は320mgと設定しており、女性の場合は、18~29歳は270mg、30~69歳は290mg、70歳以上は270mgと設定しています。

通常の食事による過剰障害の報告はないため、耐容上限量の設定は設けられていませんが、通常の食品以外(サプリメントなど)からの摂取量については、成人で1日に350mg、小児は体重1kgあたり5mgと制限しています。[※5]

ただし、運動不足や睡眠不足、過度なストレスを抱えているときなどには、体内で消費されるマグネシウムの量が増加するので、必要となるマグネシウムは増えます。

「平成27年国民健康・栄養調査」を見ると、1日のマグネシウムの平均摂取量は243.9mgで、推奨量と比較するとやや不足気味です。食品群別の摂取量では、野菜穀類、豆類からの摂取量が多いという結果が出ています。[※6]

日本人のマグネシウム摂取量の不足を補うためには、主食や野菜をきちんととって摂取量を増やすことが望まれます。

ただし、マグネシウムは通常の食品からは過剰摂取になる心配はほぼありませんが、サプリメントや健康食品などから過剰に摂取した場合には下痢になる可能性があるため、適切な服用を心がけましょう。

マグネシウムのエビデンス(科学的根拠)

国立がん研究センターと国立循環器病研究センターが行った、食事からのマグネシウム摂取量と虚血性心疾患との関連を調べた研究によると、男女とも、虚血性心疾患の発症リスクは、食事からのマグネシウム摂取量が増えるほどリスクが減少する傾向にあることがわかりました。

男性の虚血性心疾患の発症リスクは、食事からのマグネシウム摂取量が最も少ない群と比較して、比較的多い群からリスクが低くなり、女性では、中間~多い群で、リスクが低くなるという結果が出ました。

この研究は、「食事からのマグネシウム摂取と循環器疾患の発症リスク」を調査したアジア人における初めての研究で、マグネシウムは魚、野菜、果物、大豆に多く含まれ、これらの食品を多く摂取することで、循環器疾患の予防が期待できることがわかりました。[※7]

日本人の摂取量が不足しがちなマグネシウムですが、健康維持・生命維持のためには欠かせない成分であり、その効果を裏付ける研究結果が多く発表されています。今後もさまざまな研究が進み、新たなエビデンスが発表されるでしょう。

研究のきっかけ(歴史・背景)

マグネシウムは1808年にH.デーウィによって発見されました。 1886年にアルミニウムと同時期に商業的な生産が始まりましたが、マグネシウムは製錬が難しかったこともあり、アルミニウムよりも産業としての成長は遅れました。

第一次世界大戦を契機に軍事利用を目的とした金属マグネシウムの需要が伸び、世界中で生産されるようになりました。[※8]

日本では、自然塩が全国的に広がっていく過程で、にがりの主成分であるマグネシウムについての論議が国会で行われました。平成16年4月から厚生労働省によって、マグネシウムは「栄養機能食品」として、銅、亜鉛とともに追加されることが決定しました。

それまでは「食品添加物」と表示していたのを「栄養機能食品」へと表示が変わりました。行政においても「マグネシウムの重要性」が認められたわけです。[※9]

専門家の見解(監修者のコメント)

マグネシウムと生活習慣病の関係について、東京慈恵会医科大学教授の横田邦信先生は次のようにコメントしています。

マグネシウム摂取量が少ない群からの糖尿病発症が有意に多いという報告や、マグネシウム摂取量が多いと糖尿病発症リスクが10~20%減るという報告があります。
さらに、マグネシウム摂取量が多いと炎症性マーカ濃度(IL-6、高感度CRP)が低いことが報告され、動脈硬化との関連でも注目されています。
原因としては、腹部肥満に基づくインスリン抵抗性の他に、慢性的なマグネシウム摂取不足によるインスリン抵抗性がありますが、特に、戦後、マグネシウムの慢性的摂取不足に陥っていることが大きく関わっているとみられます。
これが日本人はあまり太っていなくても糖尿病になりやすいことを説明できる“マグネシウム仮説”なのです。
マグネシウムは神経、筋肉の伝達にも関与しており、不足すると“こむら返り”が起きやすくなります。こむら返りは痛みを伴う筋肉の痙攣のことで、運動時に起こるほか、糖尿病や肥満の患者さんでみられます。
血行障害や十分な栄養を補給できなていないことが原因である場合には、マグネシウムを補充すると有効なことが知られています。
(糖尿病ネットワーク『マグネシウムと生活習慣病 現代の日本人の食生活はマグネシウム不足』より引用)[※10]

マグネシウムを多く含む食べ物

マグネシウムは大豆製品、魚介類、海藻、ナッツ類に多く含まれています。[※1]魚介類で特に多く含まれているのは、あさり、するめ、いくら、いわしの丸干しなどです。

大豆製品では、きな粉、納豆、油揚げ、ゆで大豆などに豊富です。海藻では、わかめ、ひじき、あおのり、あおさ、こんぶなどに多く含まれています。

これらの食材は煮物を作ったり汁物に入れたりするのに便利なので、毎日の食事に積極的に取り入れていきましょう。

また、ナッツ類では、アーモンド、ごま、カシューナッツ、アマランサスなどに豊富に含まれています。こちらは手軽に食べられるので、おやつの時間や間食で少しずつつまんで摂取できます。

アマランサスはそのバランスの取れた栄養価からスーパーフードと言われており、サラダやスープなどに使うことができる使い勝手の良い食材です。ただしナッツ類はカロリーもかなり高いため、食べ過ぎには十分に注意しましょう。

相乗効果を発揮する成分

マグネシウムはカルシウムと一緒に摂取することで相乗効果を発揮し、丈夫な骨と歯を作ります。

理想的なカルシウムとマグネシウムの割合は、1対1であると考えられており、両方をバランスよく摂取することでより高い効果を得ることができます。

マグネシウムに副作用はあるのか

健康な人であれば、食物からマグネシウムを摂りすぎたとしても、過剰分は腎臓から尿中に排泄されるため、健康を害するリスクの心配はありません。ただし、治療薬やサプリメントを過剰に摂取すると下痢になってしまうこともあります。[※1]

また、腎機能が低下しているときは高マグネシウム血症が生じやすくなり、吐き気や血圧低下、心電異常などの症状が現れます。

主成分が塩化マグネシウムである「にがり」も、過剰に摂取すると腹痛や下痢を起こすことがあるので注意が必要です。[※2]