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ラクトースの効果とその作用

飲料として、食材として身近な存在の牛乳。牛乳に含まれている糖質がラクトースです。ラクトースは私たちの腸内環境を改善するとともに、生活習慣病にも効果的な低GI食品であることもわかってきました。ラクトースの摂り方や健康効果を紹介します。

ラクトースとはどのような成分か

ラクトースとは、別名で乳糖とも呼ばれる、哺乳類の乳に含まれている糖類のことです。二糖類の1種でブドウ糖とガラクトースが結合したものを言います。[※1]

母乳に含まれるラクトースは、甘味度はショ糖の5分の1以下ですが、乳幼児の大切なエネルギー源となります。[※2]植物のなかではレンギョウの花粉に含まれていることでも知られています。[※1]

牛乳に含まれている炭水化物の99.8パーセントはラクトースです。ラクトースはエネルギー源であるだけでなく、カルシウムや鉄分の吸収を助ける役割があります。さらには腸内環境を改善するなどの効果もあるため、健康成分として注目を集めています。[※3]

ラクトースの効果・効能

ラクトースには以下のような効果・効能が報告されています。

■腸内環境を整える

ラクトースは腸内で乳酸菌の栄養源となり、乳酸菌を増やします。[※2]この乳酸菌が腸内の細菌のバランスを整えるため、腸の健康を保つことができます。[※4]つまり、ラクトースが乳酸菌を増やすため、腸内環境を改善する効果が期待できるのです。

■栄養の吸収を助ける

カルシウムやマグネシウムの吸収を助ける効果があります。[※2]

■便秘を予防する

ラクトースは腸内の浸透圧を高め、周囲から水分を取り込みます。それにより、腸内の内容物が柔らかくなるため、便が排出しやすくなります。[※5]

ただし、日本人の成人の約10%は、体内の「乳糖分解酵素(ラクターゼ)」の働きが弱いです。乳糖分解酵素の弱い人が牛乳を飲むなどしてラクトースを摂取すると、お腹がゴロゴロしたり、下痢になったりすることもあります。[※3][※5]

■血糖値の上昇を抑える

ラクトースの、血糖値の急激な上昇を抑える効果が注目されています。[※6]ラクトースはゆっくりと吸収される、いわゆる低GI食品です。

GI(グライセミック・インデックス)とは、食品に含まれる糖質の吸収度合いのこと。低GI食品は糖質の吸収がゆるやかであるため、糖尿病や肥満の予防・改善の効果が期待されます。[※6]

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

ラクトースは、小腸で「乳糖分解酵素(ラクターゼ)」という消化酵素によって、グルコース(ブドウ糖) とガラクトースに分解・吸収されます。

乳児はまだ、炭水化物などに含まれるデンプンを消化するのに必要な消化酵素(アミラーゼ)が分泌されないため、ラクトースは重要なエネルギー源となるのです。[※2]

小腸で分解されるラクトースですが、難消化性であるために、一部が未消化のまま大腸に達します。未消化のラクトースは腸内の善玉菌の栄養源となり、善玉菌優位の腸内環境を作り上げるのです。

善玉菌が、悪玉菌の増殖を抑制する乳酸や酢酸を産生し、腸を刺激してぜん動運運動を高めます。結果として、便秘の解消といった整腸作用が認められます。[※7]

整腸作用の反面、牛乳を飲むなどラクトースを大量に摂取したことによって、お腹がゴロゴロする、下痢をするなどの症状が現れることがあります。これは乳糖不耐症と呼ばれるものです。

乳糖不耐症は、乳糖分解酵素(ラクターゼ)が先天的に欠乏しているか、活性が低いために、ラクトースがうまく消化されないまま大腸に送り込まれて症状が起こると考えられています。

お腹がゴロゴロするのは、腸内で細菌がラクトースを発酵する際に、ガスが生成されることが原因です。[※7]

また、ラクトースには、腸管壁のカルシウムの透過性を高め、吸収を促進する作用も認められています。[※7]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

胎児・乳児に必要なエネルギーを得るためには、ラクトースの摂取が必要です。母乳に含まれるラクトースを分解することで、必要な栄養を得ることができます。

また、便秘気味の人など、腸内を整えたいと考えているならラクトースが助けとなります。便秘気味だと、お肌の調子も悪くなります。ラクトースを摂取すれば、便秘を解消する働きとカルシウムの吸収を助ける働きによって、便秘に伴う肌荒れを防ぐ効果が期待できるでしょう。[※7]

ただし、乳糖不耐症の人が無理にラクトースを摂取すれば、腸の中でガスが発生し、下痢などを引き起こすため、注意が必要です。

ラクトースの摂取目安量・上限摂取量

ラクトースの摂取目安量は定められていません。

注意すべきなのは、赤ちゃんにラクトースを摂取させるとき。母乳であげることは問題ありませんが、ラクトースが多く含まれるからと言って、牛乳をあげるとアレルギーが心配です。

また、乳糖不耐症の人が分解しきれない量のラクトースを摂取すると、大腸でガスが発生し、そのガスの処理が体内でできないと下痢を引き起こします。[※7]

そのため一度の大量摂取はおすすめしません。なお、牛乳を飲んで摂取する場合、乳糖不耐症でなくとも、冷たさに過剰反応してお腹を壊すこともあります。ラクトースの摂取は、自分に合った適切な量が望まれます。

ラクトースのエビデンス(科学的根拠)

ラクトースの化学式はC12H22O11です。[※1]加水分解でグルコースとガラクトースになります。グルコースは、人間のエネルギー源となるブドウ糖のこと。白米やパンなどの炭水化物を摂取できない乳児にとって、ラクトースは重要な存在です。

また、ラクトースは分解に時間がかかります。そのためいつもの食事に牛乳を加えるだけで血糖値の上昇を抑えることができると言われています。

白米だけを摂取する人と白米と牛乳を摂取する人の血糖値の動きを調べた実験では、牛乳を飲むことで、飲んでいないときよりも血糖値の上昇が抑えられることが報告されています。[※5]

研究のきっかけ(歴史・背景)

日本では広く牛乳が飲まれるようになったのは1871年です。「天皇が毎日2回ずつ牛乳を飲む」という記事が新聞や雑誌に載ったのがきっかけとなり、国民の間で牛乳の引用が広まるようになりました。[※8]

第二次世界大戦後、栄養状態が悪い地域の改善のために、牛乳を飲ませるという施策がとられ、そこで牛乳が飲めない人は多数いることが判明しました。

牛乳を飲めないのは食物アレルギーのひとつと考えられていましたが、ラクトースを消化できないことが原因だとわかり、ラクトースや乳糖不耐症の研究が進みました。

専門家の見解(監修者のコメント)

ラクトースが消化できないと、お腹がゴロゴロしてしまうため、ラクトースを多く含む牛乳を飲むのを敬遠する人もいるかもしれません。しかし、東京農業大学応用生物科学部の清水誠教授は、ラクトースを摂取しやすい方法について以下のように述べています。

「牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする人も、①一度に多量に飲まないで分けて飲む、②牛乳は温めて飲む、③乳糖を少量にした牛乳を利用する、④代わりにヨーグルトやチーズを食べる、⑤できるだけ毎日牛乳を飲む(牛乳を飲む習慣をつける)、⑥腸内細菌叢を改善する、といった工夫で牛乳を摂ることができるようになります。

乳糖は難消化性オリゴ糖のひとつであり、それ自身が腸内細菌叢に影響を及ぼす可能性がありますから、できるだけ毎日牛乳を飲むことで、腸内細菌叢が変化し、乳糖の分解や代謝を増進できる、という期待が持てます。」(清水誠 一般社団法人Jミルク メディアミルクセミナー ニュースレター No.36)[※9]

ラクトースを多く含む食べ物

ラクトースは哺乳類のミルクに含まれている糖質です。そのため、牛乳などに多く含まれています。

また、牛乳以外の乳製品にもラクトースは含まれます。いつもの食事にヨーグルトやチーズなどの乳製品を加えることでも健康効果が期待できるでしょう。

カレーにヨーグルトを加える、シチューにスキムミルクを入れるなど、料理の中で工夫してラクトースを摂取してみましょう。

相乗効果を発揮する成分

ラクトースはカルシウムやマグネシウム、鉄分などの吸収を助ける効果もあります。[※7]そのため、これらの栄養を含む食品を一緒に摂ることで相乗効果が期待できるでしょう。

また、カルシウム不足による骨粗鬆症が問題視されています。ラクトースのカルシウム吸収を助ける作用を利用して、小魚や納豆とともに牛乳やチーズを摂取してみるなど、生活の中で対策を始めましょう。

ラクトースに副作用はあるのか

ラクトースはさまざまな健康改善に役立つ効果を発揮しています。しかしその一方でラクトースが含まれている牛乳などを飲んだときにお腹が緩くなることもあります。

日本人の成人の10パーセント程度はラクターゼの働きが弱いと言われており、乳糖不耐症といいます。[※3]これは、成長とともにラクターゼ(乳糖分解酵素)という成分の働きが弱くなるのが原因です。[※2]その結果消化不良となって、下痢などのトラブルにつながります。

なお、牛乳に対する食物アレルギーやガラクトースを代謝する酵素が少ないガラクトース血症とは別物です。

乳糖不耐症は成長とともにラクターゼの働きが衰えるだけで、生まれつき小腸に含まれているラクトース分解酵素が欠乏しているケースが原因の場合もあります。

そのため、乳糖不耐症なのかわからない乳児に、ラクトースが多く含まれるものを与えると、危険です。もし乳糖不耐症の乳児ならば、ラクトースが入っていない粉ミルクなどを与えましょう。

牛乳を飲むとお腹が緩くなる、ゴロゴロするという人もいるでしょう。このような場合は温めて少しずつ飲むことで量を増やしていくとラクトース分解酵素が活性すると言われています。[※3]

また、牛乳をヨーグルトに加工すると約30パーセントの乳糖が乳酸菌によって分解されるため、ヨーグルトであれば乳糖不耐症の人でも症状あらわれないこともあります。

海外などではラクトースフリーの牛乳なども販売されていますが、日本では一般的でないため工夫して摂取する必要があるでしょう。

ラクトースの飲み方によっても乳糖不耐症が出るかどうかは変わるため、研究が継続されています。