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クマザサの効果とその作用

クマザサはイネ科ササ属の薬用植物です。中国では、明の時代から伝わる漢方のバイブル「本草綱目」に薬理効果が記されており、現在は生薬(淡竹葉や淡竹茹など)や民間薬として使われています。ここではクマザサを摂取することで期待できる効果や作用のメカニズム、効果に関する海外の研究情報などをわかりやすく解説しています。また、クマザサの正しい摂取方法や安全性に関する情報もまとめました。

クマザサとはどのような植物か

クマザサは標高が高い場所に自生し、60~120年間枯れることなく地中の成分を吸収し続ける植物です。寒暖差に強いのが特徴で、日本では、主に秋田や長野、福島や山口、鳥取や屋久島などに群生しています。

「熊が食べる笹だから熊笹」と誤認している人が多いですが、正しくは「隈笹」という表記です。秋から冬にかけて葉のふちが白くなる様子から、色の濃淡を表す「隈」という漢字が使われました。[※1]

クマザサの葉には防腐・抗菌作用があり、おにぎりや餅を包む際に使われています。また風邪や高血圧、ぜん息、やけどなどの薬理効果をもつ民間薬として使用されてきました。[※2]

熊が冬場にたくさんのクマザサを食べるのは、冬眠中に腸内に溜まる便や毒素を無害化するためです。

また、古くから伝わる中国の医学書(本草綱目や神農本草経)にもクマザサの薬理効果が記されています。漢方では葉を乾燥させたものを淡竹葉(タンチクヨウ)、茎の上皮を薄く削いだものを淡竹茹(タンチクジョ)という生薬として扱っています。[※1]

クマザサの効果・効能

クマザサに期待できる効果効能をご紹介します。[※1][※2]

■疲労回復効果

疲労回復に欠かせないアミノ酸が豊富に含まれるクマザサを摂取することで、短時間で疲れがとれるようになります。

■消化器系の調子を整える効果

ヘモグロビン不足による胃もたれ、便秘、下腹部の違和感などの症状は、クマザサに含まれる成分がヘモグロビンの代わりとなって働くことで改善されます。

■冷え症を改善する効果

クマザサには新陳代謝を高める成分が含まれているので、冷え性の改善が期待できます。

■貧血の症状をやわらげる効果

クマザサには血液のもととなる成分(ヘモグロビン)が含まれているため、めまいや頭痛、食欲不振などの貧血症状がやわらぎます。

■体を浄化・解毒する効果

クマザサには血液中の悪玉コレステロールや体内に溜まった老廃物の排出をうながしてくれる成分が含まれており、体を浄化してくれます。悪玉コレステロールを排出することで血流が良くなり、動脈硬化の予防にもつながります。

■肌のバリア機能を高める効果

抗酸化作用をもつクマザサを摂取することで、細胞のバリア機能が高まり、お肌の酸化(シミ・しわ・たるみ・くすみなど)を最小限に抑えられます。

■炎症を抑える効果

クマザサは、炎症を起こすたんぱく質の量を減らして傷の悪化を防いだり、腫れの治りを早めたりしてくれます。また、喉の炎症を抑えて咳を鎮める効果も期待できます。

■抗菌効果

体の害となる細菌の発生・繁殖を防いでくれます。クマザサの8割は抗菌作用をもつ成分で構成されているため、高い抗菌効果が期待できます。

■防腐効果

クマザサに含まれる多糖類には防腐効果があるため、食品や化粧品の防腐剤として使用されることがあります。

■血糖値をコントロールする効果

クマザサは血糖値を下げるサポートをしてくれるため、血糖値のコントロールに役立ちます。[※3]

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

クマザサの作用に大きく影響しているのは、クロロフィルという葉緑素(光合成に必要な色素)です。

クロロフィルの基本構造は、体中に酸素を届けるために必要な血中色素ヘム(ヘモグロビンの一部)とほとんど同じです。クマザサのエキスを抽出する際に、クロロフィルの真ん中についているマグネシウムイオンが鉄イオンに置き換えられ、ヘムと同じ構造になります。[※4]

クマザサに含まれるクロロフィルがヘムの代わりになることで、ヘモグロビン不足で起こる症状(疲れやすい、貧血、食欲不振、消化器系の不調など)を改善できると考えられています。

クロロフィルには抗酸化作用もあるため、活性酸素による細胞へのダメージを防ぎ、肌細胞を守ってくれます。[※5]

クマザサの抗菌効果や防腐効果は、クマザサに含まれる香り成分(テルペン類や青葉アルコール・青葉アルデヒド類)の相乗効果によって生まれています。

ただし、抗菌効果・防腐効果はクマザサの葉の鮮度が落ちると低下するため、新しい葉を利用するか、葉が新鮮なうちに抽出したエキスを使用するとよいでしょう。[※6]

またクマザサには、血糖値を下げる目的で分泌されるインスリンのシグナル伝達をサポートする作用があると考えられています。詳しいメカニズムはまだ解明されていませんが、とある実験では、クマザサを与えることで、インスリンに対する感受性が低下して、インスリンが正常に働かなくなる「インスリン抵抗性」の状態が改善したと報告されています。[※3]

クマザサは肥満時に起こりやすい炎症にも作用します。肥満になると免疫細胞が脂肪組織内で活性化し、炎症反応を起こすたんぱく質(サイトカイン)が大量生成されます。

クマザサは免疫細胞(マクロファージ)を増やし、サイトカインを減らす働きを持っているため、肥満による炎症を抑制してくれるのです。[※3]

またクマザサに含まれる多糖類にも重要です。多糖類は細胞の栄養吸収をたすけ、老廃物の排出をうながす働きをもっています。 [※7]

クマザサの葉で包んだおにぎりやちまきが腐りにくいのは、クマザサに含まれる多糖類の防腐作用が働いているためです。

他にもクマザサには疲労回復や免疫力の維持に欠かせないアミノ酸が豊富に含まれており、疲労回復に役立ちます。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

クマザサは不規則な生活で体力が低下している人におすすめしたい植物です。肥満や高血糖、高脂血症や動脈硬化などの症状にアプローチしてくれます。

インスリンの作用が発揮できなくなって血糖値がなかなか下がらない人は、糖尿病(2型)の予備軍になっている可能性が高いので、クマザサを試してみるとよいでしょう。[※3]

クマザサの摂取目安量・上限摂取量

クマザサは日常的に口にする食品ではないため、摂取目安量や上限量は定められていません。

ただクマザサは体内で生成されない必須アミノ酸を8種類も含んでいるので、アミノ酸が不足しがちで疲れやすい人は、クマザサエキスを含むサプリメントや健康茶で摂取すると良いでしょう。

クマザサのエビデンス(科学的根拠)

クマザサは古くから民間薬として使用されてきたため、科学的な研究はあまり行われてきませんでした。しかし最近は、日本の大学や研究所で少しずつ臨床試験が進められています。これまでに報告されているクマザサのエビデンスをご紹介します。

金城学院大学で行われたのは、肥満に関する研究です。肥満のマウスにクマザサの葉から抽出したエキスを与えたところ、体重や脂肪組織の重さが減少する結果となりました。

さらに肥満の人に起こりやすい炎症反応やインスリン抵抗性(インスリンが分泌されても血糖値が下がらなくなる現象)や、肝臓がん・肝硬変などの原因となる肝脂肪症を改善したと報告されています。

研究者らは、細胞に信号を伝えるインスリンの作用をクマザサがサポートしたことで、インスリン抵抗性の改善が見られた可能性が高いと発表しています。[※3]

近畿学院大学薬学部と島根大学薬学部が協力して行った実験では、肝臓を保護する効果のエビデンスが報告されました。発育良好なマウスにクマザサのエキスを与えたところ、肝細胞に対しても抗酸化作用が認められました。実験結果から、クマザサがもつ抗酸化作用は、肝臓の保護につながると考えられています。[※8]

また近畿学院大学薬学部で行われた研究でも、クマザサエキスの投与によって、肝臓および腎臓の細胞の損傷や肝臓を壊死させるおそれがあるカルシウムが減少したと報告されています。[※9]

また、最近では動物実験だけでなく、ヒトを対象とした研究も行われるようになりました。

東京医科歯科大学の特許技術を用いた免疫力測定評価では、クマザサの投与がヒトの免疫力スコアを上昇させたデータが報告されています。[※10]

北陸大学薬学部生体防御薬学教室で行われた実験では、クマザサのエキスが感染ウイルス(ヒトサイトメガロウイルス)に効果があると認められました。

日本人成人の約90%が潜伏感染しているヒトサイトメガロウイルスは、肺炎や消化管潰瘍、網膜炎や脳炎などに発展するおそれがあるウイルスです。

最近では既存の治療薬(GCVやPFA)の耐性をもつヒトサイトメガロウイルスも出現しているため、クマザサ抽出液を用いた新規治療薬の開発が期待されています。[※11]

研究のきっかけ(歴史・背景)

中国では、明の時代(1518~1593年)からクマザサの薬理効果が注目され続けてきました。中国最古の医学書『本草網目』には、クマザサは以下のような症状に対する薬効があると記されています。

  • 出血(吐血や下血を含む)
  • 呼吸器の炎症
  • 首や背中の腫れもの
  • 尿の排出

またアイヌ民族の間では、狩人の矢で負傷した熊がクマザサの葉を傷口に当てていたという言い伝えがありました。

言い伝えや民間薬として使われ続けてきた歴史から「クマザサの薬効は当然のもの」とされてきました。しかし、近年の研究で科学的な根拠にもとづいた薬効が少しずつ報告されるようになっています。[※1]

専門家の見解(監修者のコメント)

クマザサに含まれる有機化合物tricinが、抗HCMV作用(ヒトサイトメガロウイルスの感染を防ぐ働き)をもつことを明らかにしたのは、北陸大学薬学部生体防御薬学教室でクマザサの研究を行った阿久澤和彦氏です。

阿久澤氏は、日本補完代替医療学会誌で次のような考察を述べています。

「クマザサ抽出液から分離・精製したtricinに抗HCMV効果があることが判明した。このtricinによる抗HCMV効果は、クマザサ抽出液と異なり、ウイルス感染前に処理をしても効果があることがわかった。また、その作用は、現在使用されているGCVなどとは異なる」(「クマザサ含有成分によるヒトサイトメガロウイルスの増殖抑制効果|日本補完代替医療学会誌 第7巻 第1号」より引用)[※11]

阿久澤氏の考察によると、クマザサ抽出液から分離したtricinを摂取することで、ヒトサイトメガロウイルス感染前に抗体がつくられるようです。

またクマザサ抽出液から取り出したtricinは、現在の治療薬(GCV)と異なる作用で感染を防ぐことがわかっており、治療薬の耐性をもつヒトサイトメガロウイルスにも効果を発揮すると考えられています。

クマザサの摂取方法

基本的にクマザサをそのまま食べることはありません。乾燥させた葉で淹れた健康茶を飲むのが一般的です。葉や茎から抽出したエキスは、サプリメント配合成分やデンタルケア用品として使用されます。

また防腐目的で食品や飲料水に配合されたり、抗菌目的で基礎化粧品に配合されたりしているようです。

クマザサと組み合わせたい食べ物

クマザサに含まれるクロロフィルには消臭効果があります。そのため、食品と組み合わせる場合は刺身や押し寿司など、匂いの強い食べ物の下に敷くのがおすすめです。クマザサには抗菌作用もあるため、生魚につきやすい菌の繁殖を防いでくれます。

クマザサに副作用はあるのか

クマザサの副作用に関するデータは不十分です。これまでに重篤な副作用は報告されていませんが、安全性を考慮するなら妊娠中の摂取は避けたほうがいいでしょう。[※12]

またイネ科のクマザサは、米または小麦アレルギーをもっている人が摂取するとアレルギー反応が起こる可能性があるため注意しましょう。

注意すべき相互作用

クマザサには血液を固めて止血する作用をもつビタミンKが含まれています。そのため、ビタミンKの働きを抑えて血栓をできにくくする医薬品(ワーファリン錠など)を服用中の人がクマザサを併用すると、ワーファリン錠の効果が薄れてしまうおそれがあります。そのため、必ず医師に相談してから摂取するようにしてください。

参照・引用サイトおよび文献

  1. 村上志緒編集『日本のメディカルハーブ事典』(株式会社東京堂出版 2013年11月発行 p47-48)
  2. 一般財団法人 蓼科笹類植物園「クマ笹に関する文献リスト」
  3. Yoshioka H, Mori M, Fujii H, Nonogaki T. Sasa veitchii extract reduces obesity-induced insulin resistance and hepatic steatosis in obese mice fed a high-fat diet. Nagoya J Med Sci. 2017 Aug;79(3):279-290. doi:10.18999/nagjms.79.3.279. PubMed PMID: 28878433; PubMed Central PMCID:PMC5577014.
  4. 藤井尚治著『健康の医学小事典―“病気の医学”から“健康の医学”へ』(績文堂出版 1978年6月発行)
  5. Green vegetables, red meat and colon cancer: chlorophyll prevents the cytotoxic and hyperproliferative effects of haem in rat colon.-PubMed 2005 Feb;26(2):387-93. Epub 2004 Nov 18
  6. 【PDF】地方独立行政法人北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場「Q&A先月の技術相談から」(2006年11月号 林産誌だより)
  7. Maternal-fetal distribution and transfer of dioxins in pregnant women in Japan, and attempts to reduce maternal transfer with Chlorella (Chlorella pyrenoidosa) supplements.-PubMed 2005 Dec;61(9):1244-55. Epub 2005 Jun 27.
  8. Yoshioka H, Usuda H, Fujii H, Nonogaki T. Sasa veitchii extracts suppress acetaminophen-induced hepatotoxicity in mice. Environ Health Prev Med. 2017 Jun 12;22(1):54. doi: 10.1186/s12199-017-0662-3. PubMed PMID: 29165178; PubMed Central PMCID: PMC5664914. Sasa veitchii extracts
  9. Iwata K, Naito E, Yamashita K, Kakino K, Taharaguchi S, Kimachi Y, Hara M,Takase K. Anti pseudorabies virus activity of kumazasa extract. Biocontrol Sci.2010 Dec;15(4):123-8. PubMed PMID: 21212504.
  10. 株式会社オルトメディコ「食品の安全性評価手法の共同開発 -ヒト試験によるエビデンス取得ー」(2013年2月)
  11. 【PDF】阿久澤和彦ほか「クマザサ熱水抽出物によるヒトサイトメガロウイルスの抑制効果の解析」(日本補完代替医療学会誌 7(1) p25-33, 2010)
  12. たかやま健生堂薬局「生薬解説23 淡竹葉」