名前から探す

葛の効果とその作用

葛(くず)は地面を這うツルが特徴のマメ科の植物です。根は「葛根(カッコン)」として生薬・漢方に使用されています。また、葛の花から抽出したエキスに含まれている葛由来のイソフラボンは、体脂肪を減らす作用のエビデンスがあるトクホ成分、機能性関与成分として認められています。[※1]

ただし、これは有効成分としてのエビデンスであり、表示できる文言も限定的なものでした。一部製品の広告表示などに優良誤認を招くものが含まれているとして、2017年には葛の花由来イソフラボンを含む健康食品が一斉処分を受けてしまいました。[※2]

一斉処分となった事件の真相や葛の効果効能、作用のメカニズム、副作用や相互作用などを解説しています。

葛(くず)とはどのような植物か

葛は紀元前200年頃から漢方薬に用いられてきた歴史のある植物です。生薬とて使われるのは根の部分。「葛根(カッコン)」と呼ばれ、おもに風邪の諸症状に効くとされてきました。

日本では葛根のほかに、葛の花から抽出したエキスを健康食品として利用しています。

葛の花からとれるエキスには女性ホルモンに似たはたらきをもつ成分が含まれているため、ホルモン不足による骨粗しょう症や更年期症状を予防する効果が期待できます。

また、内臓脂肪や皮下脂肪を減らす研究結果も報告されているため、女性の人気を集めています。[※3]

葛の効果・効能

葛の花から抽出したエキスには次のような効果効能が期待できます。[※1][※3][※4]

■ダイエットをサポートする効果

葛の花エキスに含まれるイソフラボンは、体脂肪を減らす効果が認められています。

■二日酔い予防

葛の花エキスは、悪酔いや二日酔いの原因となる物質の分泌を抑えてくれます。

■肝機能を維持する効果

血中アルコールの上昇を抑えることで、アルコールを分解する肝臓の負担を低減します。

■血糖値の上昇を抑える効果

葛の花から抽出したエキスに含まれるイソフラボンを使った実験にて、血糖値の上昇を抑える効果が認められています。

■女性ホルモン不足の症状を予防

女性ホルモンとよく似たはたらきをもつ成分が含まれているため、女性ホルモンの分泌が低下すると起こる骨粗しょう症や更年期症状の予防につながります。

また、葛根を主薬とする漢方「葛根湯(カッコントウ)」は、次のような効果が期待できます。[※5]

  • 発汗作用
  • 解熱作用
  • 神経痛緩和
  • 筋肉痛緩和
  • 血行障害改善

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

葛の花から抽出したエキスには、テクトリゲニン類に分類されるイソフラボンが豊富に含まれています。

テクトリゲニン類は、皮下脂肪や内臓脂肪の両方を減らす効果が認められている成分。脂肪がつきやすいお腹周りのダイエットをサポートしてくれるため、サプリメントに配合されています。

また、テクトリゲニン類は、幸せホルモンと呼ばれる女性ホルモン「エストロゲン」と同じはたらきをもつことが明らかになっています。ただし、ほかのイソフラボンに比べるとはたらきが弱いため、婦人系の症状疾患への効果はあまり期待できないといわれています。[※3][※4][※7]

また、葛の花から抽出したエキスには「サポニン」という成分が含まれています。サポニンは、血中の悪玉コレステロール値を下げ、血栓ができにくい血液に改善してくれる成分。そのため、葛の花から抽出したエキスを摂取することで、血栓詰まりが原因の症状・疾患(動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞など)の予防につながります。

また、サポニンには、無駄な脂肪が体内に蓄積されるのを防ぐはたらきもあるため、イソフラボンのダイエット効果と相乗します。

そのほか、サポニンには活性酸素のはたらきを抑える作用があります。活性酸素のはたらきが抑えられると、酸化による過酸化脂質や中性脂肪、シミやしわ、たるみやくすみなどの症状を予防できます。[※6]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

葛の花エキスは暴飲暴食しがちな人におすすめの成分です。とくに、脂っこい食事やアルコールをとる機会が多い人は積極的に摂取することをおすすめします。

さらに葛の花エキスに含まれるイソフラボンが脂肪を分解し、サポニンがアルコール代謝で疲労した肝臓をいたわってくれます。

葛の摂取目安量・上限摂取量

アルコール依存症の改善を目的とする場合は、葛の根から抽出したエキスを1日あたり1.2g、計2回摂取します。

更年期症状の改善を目的とする場合は、葛の花エキス由来のイソフラボン100mgを含む製品を1日1回、3か月間継続摂取します。[※7]

また、葛の花エキスに含まれるイソフラボンを1日あたり22~42mg摂取することでダイエット効果が期待できるという研究結果が報告されています。[※8]

葛のエビデンス(科学的根拠)

葛の花由来のイソフラボンは脂肪を燃焼する効果が認められ、機能性関与成分に登録されており、現在56件の機能性表示食品に利用されています。[※8]また同様にトクホの関与成分としても有効性の表示許可を得ている成分です。

しかし、2017年の5月ごろから葛の花由来イソフラボンを含む製品を取り扱っている企業が次々と謝罪文を発表し、健康食品業界に大きな波紋を広げました。

原因は、葛の花由来イソフラボンのダイエット効果を裏付けるために実施された臨床試験のデータの内容です。

実験の対象となったのは軽肥満(BMI25以上)の男女90名。葛の花由来イソフラボン(テクトリゲニン類)が42mg配合された錠剤を12週間飲み続け、確かにお腹の内臓脂肪が減少したと報告されています。

しかし、実際のところ、葛の花由来イソフラボンの摂取だけで内臓脂肪が減ったとは考えにくいことが判明しました。

まず、対象者の1日の摂取カロリーですが、2,000 kcal程度に設定されていました。ちなみに30~49歳の男性に必要なエネルギー量はおよそ2,300~3,050kcalです。必要量を下回るほど摂取カロリーを減らして痩せるのは当然といえます。

また、対象者らは試験期間中、毎日約9,000歩のウォーキングを行っていました。9,000歩のウォーキングのカロリー消費量はおよそ297kcalですので、試験結果と同じ効果を得るには、9,000歩のウォーキングする必要があることになります。

詳細よりも効果を強調していたために消費者に誤解を与えてしまい、謝罪文が次々と発表される事態に発展したようです。[※9][※10]

このような背景から、たとえ研究や実験によって機能性が認められている成分であっても、公平性のある実験によって導き出された結果なのか、一度調べる必要があるかもしれません。

研究のきっかけ(歴史・背景)

葛は中国原産の植物です。紀元前から生薬として使われてきた歴史があり、西暦600年頃にはアルコール依存症や糖尿病、インフルエンザによる胃腸炎、難聴など、幅広い症状の治療に用いられてきました。

葛が日本やアメリカに分布したのは1800年代。葛の花の効果が研究されはじめたのは1980年代です。研究は、(株)太田胃散を筆頭に行われ、肝機能やアルコール代謝を改善するメカニズムが明らかになりました。

その後、葛の花から抽出したエキスは、発がんリスクや遺伝的障害を予測する試験(変異原性試験)や毒性試験が行われ、安全性が報告されています。[※4]

ただし、研究のほとんどは小規模なもので、効果を裏付けるデータとしては不十分だという声もあがっています。[※7]

専門家の見解(監修者のコメント)

東洋経済新聞社編集部の中山一貴氏は、葛の花由来イソフラボンの誇大広告で16社が一斉処分を受けた事件に関して、次のような記事を書籍に掲載しています。

「2017年11月、消費者庁はニッセンなど16社に対し、景品表示法違反として再発防止などを求める措置命令を出した。食品で16社が一斉に処分されるのは最多。機能性表示食品への処分は初めてだ」(週刊東洋経済編集部 編集『間違いだらけの健康常識』より引用)[※2]

この事件は、健康食品業界に大きな波紋を広げました。機能性が認められているはずの「機能性表示食品」において、誇大広告で処分されるというのは前代未聞だったからです。処分の詳細については、書籍内で次のように解説されています。

「処分された企業の商品はいずれも、葛(くず)の花由来イソフラボンという成分を含む。企業が届け出ていたのは、同成分の機能によって『内臓脂肪を減らす』効果だけで、外見上の痩せる効果は実証できていない。

だが、実際の新聞広告やホームページでの宣伝内容は、『誰でも飲むだけで簡単に痩せられる』ような印象を消費者に与えかねないと問題視された」(週刊東洋経済編集部 編集『間違いだらけの健康常識』より引用)[※2]

内臓脂肪を減らすことと痩せるはイコールではありません。しかし、今回の事件ではそう思わせるような誇大広告がいくつもあったそうです。信用できる効果の見分け方について、次のように解説しています。

「17年10月に公開された同庁の『健康食品Q&A』には、『食事のコントロールも運動もせず、健康食品だけで安全に、楽に痩せることはありません』とある。『飲むだけでやせないことは、言わずもがなである』」(週刊東洋経済編集部 編集『間違いだらけの健康常識』より引用)[※2]

機能性表示食品を策定している消費者庁は、「健康食品を利用する際のポイント」という資料で、健康食品だけで痩せることはないと注意喚起しています。

健康食品はあくまでも栄養バランスの偏りや不足をカバーして、健康を維持するものです。病気の治療や、体に劇的な変化をもたらすものではないことを念頭においておきましょう。

葛の摂取方法

葛は高価で品薄な食品です。スーパーやオンラインショップには「葛粉」が売られていますが、実際のところ100%の葛粉ではないものがほとんど。市販されている「葛粉」は、基本的に葛粉と似た性質をもつジャガイモやサツマイモのデンプン粉でつくられています。そのため、葛粉を摂取しても期待するような葛の効果を得られない可能性のほうが高いでしょう。[※11]

葛粉の効果を得たい場合は、葛根を処方した漢方薬を利用することをおすすめします。

相乗効果を発揮する成分

風邪の引きはじめには、葛とショウガ紅茶を組み合わせて飲むことをおすすめします。発汗作用が高まり、体がぽかぽかと温まるため、風邪の症状がやわらぐでしょう。[※12]

発熱しているときは、すりりんごに葛を加えたものを食べると、体の熱や渇きが解消されます。[※13]

ただし、大量摂取すると作用が強くなりすぎて逆効果になってしまうこともあるため、摂り過ぎは禁物です。[※7]

葛の副作用

葛は基本的に安全性の高い植物です。ただし、まれにアレルギー症状があらわれます。マメ科植物のアレルギーをもっている人は摂取を避けてください。

また、葛の花エキスには血栓ができるのを防ぐ作用があるため、血液系の疾患をかかえている人や手術を控えている人は出血リスクが高まります。

また、葛の花エキスには血糖値を下げるはたらきがあるため、糖尿病で薬物療法を受けている人が摂取すると、血糖値が下がりすぎてしまう可能性があります。摂取前に必ず医師に相談しましょう。

また、乳がんや子宮がん、卵巣がんや子宮内膜症、子宮筋腫などの病気は、イソフラボンの影響で悪化するおそれがあるため使用禁止です。[※7]

注意すべき相互作用

葛と併用摂取することで相互作用が起こる医薬品は以下です。[※7]

■エストロゲン製剤(卵巣ホルモン補充薬)

葛とエストロゲン製剤を併用すると、カフェインの分解を抑制するエストロゲンが増えすぎてしまうため、神経過敏、頭痛、頻脈などの症状が起こります。

■メトトレキサート(抗がん、抗リウマチ、妊娠中絶薬)

葛がメトトレキサートの排出を抑制してしまうため、メトトレキサートの副作用が強くあらわれる可能性があります。

■抗血栓薬(動脈硬化、高コレステロール血症治療薬)

医薬品の効果が強まり、出血リスクや紫斑(しはん)ができるリスクが高まります。

■糖尿病治療薬

医薬品の効果が強まり、血糖値が過度に下がる可能性があります。

■抗乳がん剤(タモキシフェンクエン酸塩)

葛が抗乳がん剤の効果を弱めてしまいます。

■避妊薬

葛が避妊薬の効果を弱めてしまいます。

下記の条件に該当するハーブ・生薬・食品もまた、効果や副作用を強めてしまう恐れがあります。漢方処方されたもの以外は、併用摂取を避けてください。[※7]

■血糖値を下げるハーブ・生薬・食品

ニガウリ、シナモン、クロム、デビルズクロ―、フェヌグリーク、ニンニク、グアーガム、セイヨウトチノキ、朝鮮人参、サイリウム、エゾウコギなど

■血液凝固を抑制するハーブ・生薬・食品

アンゼリカ、クローブ、タンジン、フェヌグリーク、フィーバーフュー、ニンニク、ショウガ、イチョウ、朝鮮人参、ポプラ、レッドクローバー、ウコンなど

■エストロゲンと似たはたらきをもつハーブ・生薬・食品

アルファルファ、ブラックコホシュ、セイヨウニンジンボク、亜麻の種子、ホップ、イプリフラボン、甘草、レッドクローバー、大豆など

参照・引用サイトおよび文献

  1. 機能性表示食品データベース「葛の花由来イソフラボン」
  2. 週刊東洋経済編集部 編集『間違いだらけの健康常識』(東洋経済新報社)
  3. 栄養機能素材の情報番組サプリのチカラ「葛の花エキスのチカラ」(NPO法人日本サプリメント評議会政策監修アーカイブ)
  4. 東洋新薬「葛の花エキスTM」(2016年3月3日)
  5. 漢方のツムラ「葛根湯(カッコントウ)」
  6. 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「サポニンと効果と摂取量」
  7. 田中平三ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)
  8. 機能性表示食品データベース「葛の花サプリメント」
  9. 株式会社データ・マックス健康情報ニュース.com「『葛の花』機能性表示食品、謝罪広告の真相」
  10. 【PDF】消費者庁「葛の花由来イソフラボンを機能性関与成分とする機能性表示食品の販売事業者16社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(平成29年11月7日)
  11. 【PDF】公益財団法人 日立環境財団「厄介物の『葛』から高機能性の食品づくりを目指して 」
  12. 石原結實『新書版 体を温め、病気を治す 症状別44の処方箋』(新星出版社 2014年9月発刊 p123)
  13. 『薬膳・漢方食材&食べ合わせ手帖』(西東社 2012年発刊 p37)