イノシトールの効果とその作用

サプリメントに含まれている成分「イノシトール」について、論文や専門書に掲載されている効果や体内での働き、摂取量などを紹介しています。脂肪肝の改善から動脈硬化の予防まで、さまざまな働きをもつイノシトールについて、正しい知識を身につけましょう。

イノシトールとはどのような成分か

イノシトールは体内でブドウ糖(グルコース)から作られる糖アルコールの一種です。体内で生合成でき、欠乏することがない生理活性物質として、神経系に作用しています[※1]

植物中ではフィチン酸、動物の体内ではイノシトールリン酸として存在している成分です。フィチン酸は豆や穀物、ナッツ類に多く含まれていますが、動物はフィチン酸をほとんど吸収できず、逆に鉄や亜鉛の吸収を阻害する[※2]ので、気を付けましょう。

イノシトールには9種類の異性体が存在しますが、体内で広く効果を示すことがわかっているのはミオイノシトールだけ[※3]です。そのため、一般的に取り上げられる「イノシトール」とは、ミオイノシトールのことを指します。

イノシトールの効果・効能

イノシトールには次のような効果があると言われています。

■脂肪肝の予防・改善

イノシトールは体内でリン酸と結合してイノシトールリン酸になると、血中のコレステロールや脳の神経系に働きかけます。脂肪を排出しやすくする効果から、脂肪肝や動脈硬化の予防に効果的。肝臓の脂肪やコレステロールも流れやすくするため、脂肪分の多い食事やお酒を好むかたは摂っておきたい成分です。[※1][※3]

■神経機能の正常化

神経系の細胞膜に多く存在する「ホスファチジルイノシトール」の構成成分であるイノシトール。リン脂質は脳への栄養供給や神経の正常化を担っている部分です。
そのため、神経伝達や脳機能を正常に保つのに欠かせない成分であり、うつ病や統合失調症など、特定の精神疾患に対する有効性も確認されているようです。[※1][※3]

■パニック障害・強迫性障害の改善

1日10g以上のイノシトールを摂取することで、パニック症候群や強迫性障害に効果があるという臨床報告があります。神経機能の正常化に加え、脳機能の活性化にも関わっているため、近年ではアルツハイマー型認知症やダウン症でもその治療効果が期待されています。[※1]

■多嚢胞性卵巣症候群の改善

肥満や高血糖、生活習慣に起因するリスクが原因で発生する、多嚢胞性卵巣症候群を改善したという研究報告もあります。多嚢胞性卵巣症候群は若い女性が発症しやすい排卵障害のひとつ。

体内のインスリン濃度が上がり、男性ホルモンが過剰に分泌されてしまうことにより発症しますが、イノシトールを摂ることで、インスリン抵抗性が改善され、ホルモン異常を改善できることがわかっています。欧米では不妊治療に使用され、臨床結果も発表されているようです。[※5][※6]

どのような作用があるのか

イノシトールの大きな特徴は、「抗脂肪肝ビタミン」と呼ばれるほどの脂肪排出効果です。体内の脂肪の流れを良くすることで、脂肪が肝臓に溜まって脂肪肝を形成することを防いでくれます[※1][※4]。血中の脂肪やコレステロールの流れも改善してくれる[※1][※4]ので、血が流れにくくなり血圧を上げるということもありません。そのため、将来的な動脈硬化の予防にもつながります。

また、体内ではリン脂質にあるホスファチジルイノシトールを構成する成分として存在。特に神経細胞の中に多く含まれています[※1][※4]。リン脂質は脳細胞への栄養供給や神経機能を維持する働きを担っており[※1][※4]、非常に重要な成分です。そのリン脂質を構成するイノシトールは、神経の伝達や脳の活動を正常に保つうえで摂るべき成分と言えるでしょう。

現在注目されているのは、不妊症の1つとして知られる多能胞性卵巣症候群への作用です。肥満や高血糖など生活習慣因子が引き金になって起こる多能胞性卵巣症候群は、インスリン増加によるホルモン異常で排卵がしにくくなる症状。イノシトールは体内のインスリン抵抗性を高めて男性ホルモンの増加を抑制する[※6]ので、黄体ホルモンによる排卵異常を改善する効果が期待されています。[※5][※6]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

イノシトールは脂肪肝予防や神経機能の正常化に役立つことから、生活習慣病予備軍の方や不安になりやすい方におすすめです。脂肪を排出しやすくし、肝臓に余計な脂肪がたまらないようにしてくれる作用は、脂肪肝だけでなく動脈硬化の予防にも役立ちます。

また、パニック障害やうつなどの症状が出ている方は、イノシトールを多めに摂取することで状態の改善が見込めるでしょう。

欧米では不妊症の治療として使われているため、多能胞性卵巣症候群の方はイノシトールを継続的に摂取することで症状が良くなる可能性があります。

イノシトールの摂取目安量・上限摂取量

1日に必要なイノシトールの量は定められていませんが、成人男女でおよそ250~500mgが必要とされています。食品100gあたりに含まれているイノシトールはオレンジで約200mg、グレープフルーツで約150mg、サツマイモで約60mg。[※8]そのため、果物や野菜を毎日摂る習慣がある方は、イノシトールが不足することはないでしょう。フルーツに多く含まれていますが、毎食摂るのが難しい場合はサプリメントを活用すると良いでしょう。

一般的に推奨する摂取量は500~2,000mgと言われており、それ以上摂取すると下痢や軽度の胃腸障害を引き起こす可能性があります[※8][※13]。イノシトールは体内に吸収されない成分なので、多く摂っても余ったものは排出されるため、多量に摂ると糖アルコールの性質上、健康を害することも。健康効果を得るために大量摂取するのは止めましょう。

イノシトールのエビデンス(科学的根拠)

脂肪肝対策や神経機能の正常化に役立つイノシトールは、現在さまざまな研究が進められています。動物実験だけでなく、ヒトでの臨床試験も実施しており、より正確性の高い結果も得られるようになりました。

J. STAMLER氏のグループが行った実験では、生後5週間のヒヨコを対象に、コレステロール2%・イノシトール1%・コリン1%を含むエサを15~25週摂取させ、イノシトールの効果を調べました。実験後にイノシトールを抜いたコレステロール2%を与えたヒヨコと比較。その結果、イノシトールを与えたヒヨコはアテローム性動脈硬化症が抑制されました。これにより、イノシトールの動脈硬化予防の効果が示されています。[※1]

他にも多嚢胞性卵巣症候群の肥満女性44名を対象とした試験では、無作為に対象者を選別してプラセボとイノシトールを投与する二重盲検比較試験を実施。イノシトールの異性体を1日1,200mg、6~8週間摂取させました。

その後、血中トリグリセリドとテストステロンレベルの減少、血圧の低下があったことがわかっています。この結果から、イノシトールが更年期障害の予防・改善に効果をもつことが証明されました。[※1]

また、20名のパニック障害患者を対象とした臨床試験では、イノシトールを1日18gまたは150mgのフルボキサミンを摂取させました。1ヵ月間継続摂取させたところ、パニック障害の主な症状である攻撃性や嘔吐、恐怖感が改善されたことがわかっています。

このことから、イノシトールにはパニック障害および強迫性障害を改善する効果があると考えられています。[※1]

イノシトールは脂肪肝の予防だけでなく神経機能の活性化にも役立つことから、現在も色々な研究が進められています。今後もエビデンスから新たな効果が見つかるでしょう。

研究のきっかけ(歴史・背景)

イノシトールは100年前に哺乳動物の筋肉組織から抽出されました。研究が進んだ1940年には、マウスやラットを使った実験から、細胞の成育や毛髪の維持を保つ効果が発覚[※1]。初めはその効果から、ビタミンB群の一種と考えられていました。
その後の研究で、体内のグルコースから合成できることが発見されています。体内で合成でき欠乏することがないため、現在ではビタミン様物質として扱われています。

専門家の見解

健康や神経機能の維持に効果があるイノシトールについて、専門家も肯定的にとらえているようです。
イノシトールには排卵率や月経不順の改善作用が確認されており、偽薬や現在使われている改善薬よりも妊娠率が高くなると報告されました。[※9]
また、排卵誘発の周期を調整する成分としての有効性も、専門家の解析によりわかっています。[※10]このことから、不妊治療にイノシトールが活用できると考えられています。

リプロダクションクリニック大阪院長の北宅弘太郎医師は、多能胞性卵巣症候群への研究結果を受けて、以下のように述べています。

「生産率や流産率については今後の解析が必要であるが期待できそうだ。」(着床不全・着床障害 傾向と対策「イノシトール:多嚢胞性卵巣症候群への有効性」より引用)[※10]

不妊症の1つである多能胞性卵巣症候群は、肥満やホルモン異常などが原因で排卵が起こりにくくなる病態です[※11]。イノシトールを摂取することで神経機能の正常化や肥満の改善を行い、根本的な原因を改善してくれるとのこと。

医療分野ではまだまだ活発的に研究されており、臨床試験による報告も挙がっています。今後、より専門的な研究も増えることが期待できるでしょう。

イノシトールを多く含む食べ物

オレンジやグレープフルーツなどの柑橘類をはじめ、スイカやメロン、桃などのフルーツに多く含まれているイノシトール。果物以外では、グリーンピースなどの豆類やさつまいも、トマト、キャベツ、小麦胚芽などの食品にも豊富に含有されています。

イノシトールはもともと体内で生成できる物質ではありますが、それだけでは十分な量とは言えません。効率良くイノシトールを摂取するためにも、イノシトールを豊富に含んでいる食品を毎日の食事に取り入れましょう。

相乗効果を発揮する成分

同じビタミンB群の一種であるコリンは、イノシトールと相性が良い成分とされています。一緒に摂取することで相乗効果を発揮。脳の活性化や脂質の代謝に効果が倍増するとも言われています。

また、イノシトールとコリンが結びついてできるレシチンを摂取するのもおすすめ。レシチンは卵黄や大豆製品などに多く含まれている成分で、エネルギーの代謝効率をアップさせてくれます。

そのほかにも、血糖値の低下や肥満予防の効果が期待されているのです。さらに、脂肪の代謝を促すことで肝臓内への脂肪の蓄積を防止。肝硬変や脂肪肝を予防・改善する効果があることも報告されています。[※1][※3]

イノシトールに副作用はあるのか

イノシトールに摂取時の副作用は確認されていませんが、糖アルコールは消化吸収されにくいため、摂りすぎるとお腹がゆるくなります[※12][※13]

健康なかたであればお通じが良くなるだけですが、胃腸が弱い方は便通が良くなりすぎると下痢や脱水症状を引き起こす可能性も[※8][※13]
普段からトイレに行く回数が多い方は、大量摂取を避けましょう。