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グルタミン酸の効果とその作用

アミノ酸の中で、たんぱく質をつくる主要な成分がグルタミン酸です。体内でアンモニアの解毒やエネルギー代謝などさまざまなことにかかわっており、重要な機能を担っています。脳の活性化にも役立つことから、多くの研究が進められています。そんなグルタミン酸について、効果・効能やエビデンスなどをまとめました。

グルタミン酸とはどのような成分か

グルタミン酸はたんぱく質を構成するアミノ酸の一種で、動物の体内で合成できる非必須アミノ酸に分類される成分です。

脊椎動物の中枢神経で神経伝達物質として働き、記憶や学習に大きくかかわっています。また、興奮性の神経伝達をつかさどることも知られています。[※1]

グルタミン酸は昆布などの海草やトマト、きのこ類、ほたてなどの貝類、チーズなどの乳製品、豆類などの食材に含まれているうま味成分です。

特に鰹節に含まれるイノシン酸と組み合わせた場合、うま味成分の相乗効果があります。日本のみそ汁はグルタミン酸の集合体ともいえます。[※2]

グルタミン酸の効果・効能

グルタミン酸には以下の効果・効能があると言われています。

■脳の活性化

グルタミン酸を摂取することで脳の機能が活性化し、記憶や学習能力を向上する効果がわかっています。脳の働きを高めることから、統合失調症や認知症の治療にも利用されています。[※1]

■アンモニアの解毒・排出作用

グルタミン酸は代謝によって、体内の機能に悪影響を及ぼすアンモニアをグルタミンに変換する働きがあります。また、尿の排せつを促進する利尿作用があるため、速やかにアンモニアを体外へ排出する効果が期待できます。[※3]

■高齢者の味覚障害を改善

近年の研究から、グルタミン酸によって唾液の分泌が促されることがわかりました。このことから、高齢者の唾液の分泌を促進させ、味覚障害を改善できることが示唆されています。[※4]

■抗酸化作用

グルタミン酸は体内でグルタチオンを合成する際の原料になります。グルタチオンは生体内の異物を解毒する際に抗酸化作用をもたらすことが知られています。[※5]

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

グルタミン酸は単体で摂取されることはなく、食品からはグルタミン酸ナトリウムの形で摂取されます。グルタミン酸ナトリウムは消化管内で分解され、グルタミン酸のみ腸管から吸収されます。

吸収された後はアミノ基が外れ、α-ケトグルタール酸になってアミノ酸の代謝や糖の新生を行うクエン酸回路へ移動。エネルギー産生の要素として使われます。[※1]

グルタミン酸は血液-脳関門を通過できない[※]ため、血中から脳へは移行しないため、脳内で新たに生成されます。脳内では、グルタミナーゼによってグルタミンから合成。神経伝達物質として作用します。

また、トランスアミナーゼ(アミノ酸の代謝に関与する酵素)がアスパラギン酸からアミノ酸を転移させ、グルタミン酸をつくります。[※1]

脳内で合成されたグルタミン酸は中枢神経系に作用し、脳の高次機能である記憶や学習にかかわる神経伝達を行います。[※1]

グルタミン酸が伝達物質として働くことで、認知症や統合失調症など認知に関与する領域の脳の働きが活性化され、発症予防や進行抑制に貢献すると考えられています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

グルタミン酸は脳の活性化に役立つ成分として知られています。そのため、記憶力・学習力を高めたい人や認知症予防、または進行抑制を望む人は積極的に摂取すべき成分です。

最近では若年性認知症を発症するケースもありますので、若い年代の人も摂取を意識すべきであると考えます。

また、体内でグルタチオンの合成に使われることから、抗酸化作用も期待できます。健康や美容に気をつけている人は、試してみるのもひとつの手です。

グルタミン酸の摂取目安量・上限摂取量

日本ではグルタミン酸の具体的な摂取目安量は規定されていませんが、欧州では食品添加物(化学物質)としてのグルタミン酸ナトリウムの上限摂取量に関して、許容1日摂取量(ADI)を「30mg/kg 体重/日」と算出しています。

ただし、食品添加物として利用されているグルタミン酸ナトリウムは、国際食糧農業機構(FAO)と世界保健機構(WHO)による食品添加物専門家委員会(JECFA)によって1日の摂取量を決めなくてもいい成分とされています。[※6]

日本では1日の摂取量基準値が1.6gと定められています。[※6]

グルタミン酸のエビデンス(科学的根拠)

うま味成分として発見されたグルタミン酸に関する研究は、現在でも進められています。特に神経伝達物質としての作用は多くのエビデンスが報告されており、体内における作用機序が解明されています。

東京医科歯科大学教授の田中幸一らが行った実験では、グルタミン酸の神経伝達機能が低くなっているマウスを使い、グルタミン酸が統合失調症に及ぼす影響を調査しました。

統合失調症の実験ではグルタミン酸受容体を阻害したマウスを観察したところ、一般的なマウスに比べ巣作りや行動時間の減少などが見られています。

このことから、グルタミン酸が神経伝達を行えなくなることが、統合失調症の発症にかかわっていることがわかりました。

また田中教授らは強迫性障害や自閉症におけるグルタミン酸の影響も調べています。

強迫性障害にかかわる「GLT1 遺伝子」を欠損させたマウスでは、思春期に相当する7週齢の時期に異常なほどの毛づくろい行動を見せました。

この行動は強迫性障害・自閉症で起こる「繰り返し行動」に似ていることがわかっています。痛覚や皮膚には異常が認められないため、中枢神経の異常が原因と考えられます。

治療にグルタミン酸の神経伝達を抑制する薬剤があることからも、強迫性障害・自閉症とグルタミン酸の神経伝達には大きなかかわりがあると示唆されています。[※7]

ほかにも、グルタミン酸の作用として抗腫瘍剤の神経毒性を抑える効果が報告されています。

Jackson DVらは84名の対象者を抗腫瘍剤ビンクリスチン1.0mg/m2を摂取するグループと、抗腫瘍剤ビンクリスチン1.0mg/m2+グルタミン酸500mgを摂取するグループに分けて試験を実施。ビンクリスチン週6回の摂取とグルタミン酸1日3回の投与を行いました。

その結果、グルタミン酸を投与したグループはビンクリスチンだけのグループに比べて誘発される神経毒性が減少したことが明らかになっています。[※8]

グルタミン酸の歴史

グルタミン酸は1866年に、ドイツの化学者によって小麦に含まれるグルテンの加水分解物から見つけられました。

日本では1908年に東京帝国大学(現:東京大学)の池田菊苗が昆布のうま味成分としてグルタミン酸ナトリウムを発見。「甘味、塩味、酸味、苦味」の4つに加え、新たに「うま味」が存在することを発表しました。[※1]

神経細胞に与える影響に気付いたのは慶応大学教授の林髞(はやしたかし)氏で、動物の大脳皮質にグルタミン酸を与えると強い興奮性作用を示すことを明らかにしました。

また、LucusとNewhouseらはグルタミン酸塩を皮下に注射すると、網膜に損傷を起こすという結果を報告しています。[※1]

現在は研究が進み、神経伝達物質としての働きもわかってきています。

専門家の見解(監修者のコメント)

グルタミン酸はうま味を出すための調味料として、さまざまな食品に用いられています。しかし、グルタミン酸の神経障害作用を心配する人も多いようです。

安全性について疑問を持たれているグルタミン酸について、安全な食品添加物として利用できるとコメントしている専門家も複数います。

「日常の食生活では決して心配することはないことが強調されている」(「グルタミン酸の科学─うま味から神経伝達まで」ブックレビューより引用)[※9]

「1987 年 に 国 際 機 関(FAO/WHO 合同食品専門家委員会)は、『食品添加物としてのグルタミン酸ナトリウムは、人の健康を害することはないので、1日の許容摂取量を特定しない」との結論を出し、その稀有な安全性は、世界的に確認されるに至りました』(味の素「グルタミン酸の中性子構造解析」より引用)[※10]

大阪大学大学院人間科学研究科の山本隆氏は、「グルタミン酸の科学」の感想として、グルタミン酸が日常生活で摂取するぶんには心配ないとされていることを述べています。

加えて味の素株式会社の鈴木栄一郎氏も、国際機関で認められた安全性の高い成分として報告しており、安全性に関しての心配はないことがわかりました。

グルタミン酸は興奮性神経伝達物質としての神経毒性がありますが、多量に摂らなければ問題ありません。1日の目安量を守って使えば、安全な成分と言えるでしょう。

一方、グルタミン酸の毒性について医師から問題視する声も上がっています。きくな湯田眼科の湯田兼次先生は、細胞外のグルタミン酸濃度が高まることで起こる危険性を提示しています。

「Gluが細胞外に高濃度でとどまると、細胞は死んでしまいます」(「グルタミン酸と緑内障/きくな湯田眼科-院長のブログ」より引用)[※11]

「この毒性によりALS(筋萎縮性側索硬化症)やアルツハイマー病が引き起こされていることが分かってきています」(「グルタミン酸と緑内障/きくな湯田眼科-院長のブログ」より引用)[※11]

湯田先生は、グルタミン酸が細胞外に溜まり、高濃度のままとどまると細胞死を引き起こすという見解です。細胞死だけでなく、この神経毒性の影響で、アルツハイマーや筋肉が縮んで硬くなる病気が起こりやすくなるという危険性も述べています。

高濃度のグルタミン酸は高い細胞毒性を持つため、過剰摂取するのは危険でしょう。体の異常を引き起こさないためにも、使用する際は摂りすぎないように注意することが大切です。

グルタミン酸を含む食べ物

グルタミン酸は昆布やワカメなどの海藻、トマト、ブロッコリーなどに含まれています。効率よく摂取するなら海藻や緑黄色野菜を摂食的に摂りましょう。[※2]

また、料理の味を調える化学調味料にも配合されています。配合されているのは、ナトリウムとくっついたグルタミン酸ナトリウムがほとんどです。

食品添加物としてのグルタミン酸ナトリウムには、さとうきびやデンプンを微生物によって発酵させたものが使われます。[※10]

相乗効果を発揮する成分

グルタミン酸との相乗効果をもたらす成分として、同じうま味成分であるイノシン酸やグアニル酸が挙げられます。グルタミン酸だけでも強いうま味を持っていますが、核酸系のうま味成分であるイノシン酸・グアニン酸を組み合わせることで、うま味のそ相乗効果を引き出すことが可能です。[※12]

ただし、グルタミン酸は成長した脳だと血液-脳関門を通れない[※1]ため、食べ物から吸収することはできません。

脳や体内での代謝効果を期待するなら、グルタミン酸の合成に使われるグルタミンまたはアスパラギン酸を補うようにしてください。

グルタミン酸の副作用

グルタミン酸は中枢神経での神経伝達作用を担う重要な成分ですが、効果を期待して大量に摂取するのは止めておきましょう。

グルタミン酸を過剰に摂取すると、神経細胞の障害を引き起こすおそれがあります。[※1]

精製済みのグルタミン酸が入った化学調味料を使いすぎると、神経細胞に影響が出ます。

炎症や頭痛などさまざまな神経疾患のリスクが高まるため、過度の摂取は控えてください。食事以外から大量に摂取する場合は、事前に医師へ相談することをおすすめします。

また、低酸素症や低血糖症、貧血などの症状が起こると細胞外のグルタミン酸が増加します。

グルタミン酸受容体の一種であるNMDA受容体がグルタミン酸を代謝して、細胞内のカルシウムイオン濃度が上がると、神経細胞が死んでしまうケースが報告されています。[※1]