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月桃の効果とその作用

月桃とは主に沖縄でみられるショウガ科の植物です。葉は40~70cmほどの大きさで光沢があり、蕾と実は下向きでちょうちんのような形をしています。沖縄では古くから馴染みのある植物ですが、全国的に注目されるようになったのはテレビドラマ「ちゅらさん」が放送された2001年以降。沖縄ブームと共に月桃ブームが広まりました。月桃から抽出したエキスには抗酸化作用が期待でき、現在は主に沖縄の琉球大学にて研究が進められています。月桃の種類や期待できる効果効能、作用のメカニズムや研究の歴史、摂取方法や副作用などの情報をまとめています。

月桃とはどのような植物か

月桃(ゲットウ)は沖縄や台湾に自生するショウガ科の植物です。花弁は陶器のように真白で、花弁の先は淡い桃色なのが特徴です。月桃は以下の3種類に分類されます。

1.月桃(学名Alpinia zerumbet)

代表的な月桃です。台湾、沖縄本島、石垣島、宮古島、奄美大島、鹿児島県など広域に分布しています。葉から抽出したエキスは化粧品やアロマオイルなどに用いられています。

2.ウライ月桃(学名Alpinia uraiensis)

台湾の北部に分布しています。ほかの月桃と違い、花が上向きに咲くのが特徴です。月桃やタイリン月桃に比べると、精油はあまり採れません。

3.タイリン月桃(学名Alpinia zerumbet var. excelsa)

ウライ月桃と月桃の交配種です。台湾、大東島、父島、母島、伊豆八丈島などに分布しており、タイリン月桃のほかにソーカやハナソウカという名前でも呼ばれています。①の月桃と同様に、葉から抽出したエキスは化粧品やアロマオイルなどに用いられています。

今回は、広域に分布している①月桃(学名Alpinia zerumbet)を主にご紹介していきます。

漢方では、月桃の種子を「白手伊豆縮砂(シロテイズシュクシャ)」という生薬として、整腸目的で使用しています。

ゲットウという呼び名は、台湾の名称「ゲイタオ」の発音が変化したもので、月桃という漢字は当て字だといわれています。[※1]

沖縄本島には、漢方生薬の縮砂の異名「砂仁(ジャニン)」がなまった発音で広まり、サニンやサンニンという呼び名で親しまれています。[※2]

月桃の効果・効能

月桃から抽出したエキスには、次のような効果効能が期待できます。

■美肌効果

月桃に含まれる化合物がシミやくすみ、たるみやシワの原因となる肌細胞の酸化や色素沈着を防ぎます。[※3]

■生活習慣病予防

月桃の葉や種子を使って煎れる月桃茶には、血液をサラサラにするポリフェノールが豊富に含まれており、生活習慣病の予防につながると考えられています。[※2]

■血圧を下げる効果

月桃茶に含まれるポリフェノールには、緊張している血管をゆるめて血圧を下げる働きがあります。[※2]

■尿の排出を促す効果

月桃の葉に含まれる成分には利尿作用があるため、摂取することで尿とともに毒素の排出が促されます。[※2]

■細菌の発生・増殖を防ぐ効果

月桃の葉から抽出したエキスは、カビやバクテリア、大腸菌や食べ物を腐敗させる菌などの発生・増殖を防ぐ効果が期待されています。[※5]

■鎮痛・抗炎症効果

月桃には、痛みや炎症を鎮める効果をもつ成分が含まれています。[※2]

■整腸作用

月桃の種子を使った生薬「白手伊豆縮砂」は、腸を整えたり下痢を止めたりする目的で服用されています。[※5]

■消臭効果

月桃・タイリン月桃ともに、葉や茎から抽出したエキスの消臭効果が認められています。[※4]

そのほか、月桃にはリフレッシュ効果や防虫効果があります。両方とも月桃の香り成分によるものです。

月桃特有のスパイシーな香りには人の心を落ちつける効果があるため、精油がアロマテラピーで用いられています。[※2]ただ、その香りは害虫にとって近づけないほど苦手な香りとなっているため、月桃に関する研究ではダニ除け効果が確認されているのだそうです。 [※4]

どのような作用があるのか

月桃には赤ワインの約30倍のポリフェノール(ケルセチンとケンフェロール)が含まれています。[※6]

月桃に含まれる「ケルセチン」は、活性酸素から細胞を守ってくれるポリフェノールのひとつです。[※7]

活性酸素は、脂肪細胞と結びつくと「過酸化脂質」になり、細胞を傷つけたり、動脈硬化や肥満を招いたりする非常に厄介な存在。月桃に含まれるケルセチンは、この活性酸素を抑える作用で老化や生活習慣病のリスクを低減してくれます。

月桃に含まれるもうひとつのポリフェノール「ケンフェロール」は、炎症や痛みを鎮め、神経バランスを整える働きをもっています。月桃の精油にはモノテルペン類(抗炎症成分)も含まれており、ケンフェロールとの相乗効果が生まれていると考えられています。

また月桃には、ポリフェノール以外にも抗酸化作用をもつ成分が含まれています。

月桃をはじめとするショウガ科アルピニア属の植物を使った実験では、活性酸素やチロシナーゼ(どちらもメラニン生成の原因となるもの)の働きが、月桃の葉に含まれる複数の化合物によって抑えられたと報告されています。[※3]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

抗酸化作用をもつ月桃は活性酸素から体を守ってくれるため、使う人を選ばない成分といえます。

活性酸素には代謝を制御する働きがあり、一定の量であれば人体への悪影響はありません。しかし、活性酸素が過剰に増えると細胞を傷つけ、シミの原因となるメラニンの生成を促すため、シミやくすみ、しわやたるみの原因となります。

さらに脂肪細胞を過酸化脂質に変化させて、動脈硬化やがんの発症リスクを高めてしまうため、活性酸素はやっかいな存在となるのです。[※8]

病気のリスクを抑える方法のひとつとして、予防的に抗酸化作用をもつ月桃を活用してきた歴史があります。

月桃の摂取目安量・上限摂取量

月桃が食品として用いられることはほとんどありません。そのため、食品としての摂取目安量や上限量はとくに設けられていません。

沖縄の一部の地域では月桃の花を天ぷらにしたり、葉をもちに混ぜたりして食べることもありますが、全国的には月桃茶や精油、生薬としての利用が一般的です。月桃の種子を使った生薬(白手伊豆縮砂)の用量の目安は、1.5~6gです。

月桃のエビデンス(科学的根拠)

月桃の研究は主に琉球大学と鹿児島大学で進められています。これまでに報告されているエビデンスをまとめました。

琉球大学農学部、鹿児島大学大学院、カセサート大学が共同で行った実験では、月桃(Alpinia zerumbet)由来の植物(アルピニア属)には、抗酸化作用をもつ複数の化合物が含まれていることがわかりました。実験では、月桃由来の植物に含まれる化合物によって、活性酸素や一酸化窒素の産生が70%以上阻害されたと報告されています。

研究者らは、活性酸素や一酸化窒素の産生を阻害する働きによってメラニン生成や過酸化脂肪酸の要因が減るため、色素沈着過剰症や肥満予防への効果が期待できると示唆しています。[※3]

また2004年に池間洋一郎氏と照屋輝一氏によってまとめられた研究データには、タイリン月桃の防菌・防カビ・防腐に関する内容が記されていました。実験ではタイリン月桃の精油によって、5種類のカビ、大腸菌、4種類の食品腐敗菌の成長が抑制されています。[※4]

琉球大学と鹿児島大学が合同で行った研究では、月桃の葉から抽出したエキスによる長寿効果が示唆されました。実験では月桃の葉から抽出したエキスのほか、抗酸化作用をもつレスベラトールやケルセチンが用いられました。

投与の対象となったのは多細胞生物シー・エレガンス(線虫の一種)です。実験の結果、月桃の葉から抽出したエキスは、レスベラトールやケルセチンよりもシー・エレガンスの生存率や平均寿命に良い効果をもたらしたと報告されています。[※9]

研究のきっかけ(歴史・背景)

月桃に関する研究がはじめられたのは1914年頃。当時は台湾で研究が行われており、日本は月桃の存在を知りませんでした。

詳しい時期はわかっていませんが、日本で月桃の研究が進められるようになったのは、月桃が台湾から沖縄に渡来してからです。現在は沖縄県工業技術センターや琉球大学などで研究が行われています。

ちなみに1994年に行われた研究と2004年に行われた研究では、月桃の抗菌性・抗カビ性に関する異なるデータが発表されています。

1994年には琉球大学教育学部所属の東盛清子助教授が研究を行いました。使用したのは、月桃の葉をミキサーにかけてろ過したのち、エタノールで抽出操作して濃縮したものです。研究では、月桃葉の抗菌作用はあまり期待できないという結果になりました。[※10]

しかし2004年に沖縄県工業技術センター所属の池間洋一郎氏と琉球大学地域共同研究センター所属の照屋輝一氏が行った研究ではでは、腸内細菌や真菌、食品腐敗菌などへの効果が確認されています。実験に用いられたのは月桃の精油でした。

大腸菌は0.5mg、食品腐敗菌は2mgで抗菌性が認められています。また濃度20~30%の精油を使った試験にて抗カビ性も確認されました。 [※4]

2つの研究の違いは月桃エキスの抽出方法や試験方法です。このような背景から、新しい抽出技術や試験方法が研究に用いられれば、今後も月桃の新しい有用性が見つかると考えられます。

専門家の見解

東洋医学研究所勤務、診療所所長、内科開設などの経験があり、漢方に関する書籍を多数執筆している鈴木洋医師は、月桃葉エキスについて自身の書籍に以下のように記しています。

「ゲットウ葉エキスには抗菌作用や美肌作用があるといわれ、石鹸や化粧品などに配合されている」( 医歯薬出版株式会社『健康食品・サプリメントの事典』より引用)[※2]

月桃葉エキスは美容業界への応用への応用が進められています。抗菌作用をもつ月桃葉エキス配合の石鹸や化粧品なら、細菌が原因の吹き出物への効果も期待できそうです。

また、月桃の葉と種子を使って煎れる月桃茶については以下のような記載があります。

「葉や種子を用いた月桃茶にケルセチン、ケンフェロールなどのポリフェノールも含まれているとして健康食品として市販されている」 ( 医歯薬出版株式会社『健康食品・サプリメントの事典』より引用)[※2]

お茶なら月桃を手軽に摂取できますし、温かな湯気と共に香るジンジャーのような匂いでホッと一息ついてリフレッシュできるでしょう。

月桃を使ったレシピ

月桃の抗菌・防腐作用は、温暖で食べ物が日もちしにくい沖縄の気候に適しており、沖縄料理で幅広く利用されています。沖縄名物のムーチー(月桃の葉で包んだもち料理)と月桃茶のつくり方を掲載しているので、月桃が手に入った際はぜひつくってみてください。

■ムーチーのつくり方

【用意するもの ※約10個分】
もち粉…250g
グラニュー糖…125g
月桃の葉…10枚
水…125ml

【つくり方】
1.もち粉と砂糖をボールに入れて、水を少しずつ足しながら手でこねます
2.耳たぶくらいの硬さになったら手のひら大の量をとります
3.月桃の葉の裏側にもちを乗せて、葉の根元側、葉先、葉の両側の順でもちを包みます
4.ひもで結んで蒸し器に入れ、15分ほど蒸したら完成です

月桃の葉に包んで蒸すことで、月桃ならではの香りがもちにうつります。材料はもち粉とグラニュー糖だけでとてもシンプルですが、月桃の香りと甘みがマッチして絶妙な味わいが生まれます。

■月桃茶のつくり方

1.月桃の葉と実を用意してよく洗います
2.葉は1~2cm幅にカットします
3.切った葉と実はザルに入れて数日間天日干しします
4.乾いた茶葉(5g)と実(10粒)を2,000mlの水に入れます
5.約10分火にかけて煮出したら完成です

月桃と組み合わせたい食品

月桃には消臭効果[※4]があるため、クセのある魚や肉と組み合わせるのがおすすめです。

独特な脂の風味がある養殖魚、羊肉やヤギ肉などは、月桃の葉で包んで蒸すと臭みが消えます。

また刺身の下に月桃の葉を敷くと、生魚特有の臭みがやわらぐほか、菌の繁殖を防ぐ効果が期待できます。[※5]

月桃に副作用はあるのか

植物由来の月桃エキスは、抗菌・消臭などの目的で用いられる合成品と比べて安全性は高いといえます。副作用に関しても、2018年4月時点では重篤な副作用の報告は見つかりませんでした。

2004年には、タイリン月桃の葉から抽出した精油と粉末の安全性を調べる動物実験が行われており、精油は弱毒性、粉末は無害だったと報告されています。[※4]

参照・引用サイトおよび文献

  1. 有限会社月桃農園「月桃とは」
  2. 鈴木洋著『健康食品・サプリメントの事典』(医歯薬出版株式会社 2011年2月発行 p62)
  3. Pham Thi Be Tu, Jamnian Chompoo, Tawata Shinkichi「Hispidin and related herbal compounds from Alpinia zerumbet inhibit both PAK1-dependent melanogenesis in melanocytes and reactive oxygen species (ROS) production in adipocytes」Volume 9 (2015) Issue 3 Pages 197-204
  4. 【PDF】総説「ショウガ科植物ゲットウ、タイリンゲットウの有効利用に関する研究」(2001-10-01 Journal of the society tropicalresources technologists, 20(1): 9-17)
  5. 鹿児島県薬剤師会『薬草の詩:自然とのふれあいをもとめて』(南方新社 2002年発行 p152)
  6. 佐々木薫『きほんのアロマテラピー』(主婦の友社 2016年6月 p96)
  7. 野菜等健康食品生活協議会事務局アーカイブ「ケルセチンの健康機能」
  8. 厚生労働省「e-ヘルスネット」
  9. Atul UPADHYAY, Jamnian CHOMPOO, Nozomi TAIRA, Masakazu FUKUTA & Shinkichi TAWATA「Significant Longevity-Extending Effects of Alpinia zerumbet Leaf Extract on the Life Span of Caenorhabditis elegans」Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry Volume 77, 2013 - Issue 2 p217-223
  10. 【PDF】東盛キヨ子「ゲットウ(Alplna speclosa K.Schum)抽出液の微生物に対する抗菌作用と変異原試験」(国立大学法人琉球大学 1994年 p311-314)