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γリノレン酸の効果とその作用

γリノレン酸は、体をつくるうえで欠かせない必須脂肪酸のひとつです。アレルギー性の症状やPMSの症状を緩和する効果が認められている成分で、おもにツキミソウオイルやボラージオイルに含まれています。γリノレン酸オイル製品の調剤ライセンスを取得している企業はごくわずかしかなく、[※2]日本ではツキミソウオイルやボラージオイルを手にする機会は少ないようです。ここではそんなγリノレン酸の摂取方法、効果効能と作用のメカニズム、副作用や相互作用などの情報をくわしく説明していきます。

γリノレン酸とはどのような成分か

γリノレン酸は体内で生成できない「必須脂肪酸」の一種です。主に植物油に含まれています。体内で代謝されるとホルモンのようなはたらきをするため、PMSや更年期症状の緩和にも役立つと考えられています。また、アレルギーを抑制する作用をもっています。

γリノレン酸は、多価不飽和脂肪酸のオメガ6(n-6)系に分類されます。

脂質の分類
大分類 特徴 中分類 小分類
不飽和脂肪酸(液状の油) 必須脂肪酸(体内で合成できない) 多価不飽和脂肪酸 オメガ3系
オメガ6系
一価不飽和脂肪酸 オメガ9系
飽和脂肪酸(固形の脂) 非必須脂肪酸(体内で合成可能) -

脂肪酸は、基本的に1つの炭素に2つ水素がくっついたものが鎖状に連なっている構造です。これを「飽和脂肪酸」といい、おもに動物性の脂がこの構造をもっています。

一方、脂肪酸の構造で炭素に結合する水素が足りないものが「不飽和脂肪酸」です。水素が2つ足りないものが「一価不飽和脂肪酸」、2つ以上足りないものが「多価不飽和脂肪酸」に分類されます。また、水素が不足している箇所によって3つの種類(オメガ3系・オメガ6系・オメガ9系)に分けられます。[※1]

γリノレン酸はオメガ6系脂肪酸です。食べ物にはほとんど含まれないため、同じオメガ6系脂肪酸の「リノール酸」を摂取しましょう。リノール酸は、体内で代謝される過程でγリノレン酸に変換されます。リノール酸が豊富に含まれている食品は、サラダ油やコーン油、ごまやくるみなどです。

ただし、脂肪酸の代謝機能が低い人は、リノール酸をγリノレン酸に変換できないため、健康食品から摂取する必要があります。[※3]

γリノレン酸の効果・効能

γリノレン酸を使った実験結果から、次のような効果効能が示唆されています。[※1][※4][※5]

■アトピー性皮膚炎

γリノレン酸の摂取によって、アトピー性皮膚炎の症状が改善したという実験結果が報告されています。

■炎症を抑える効果

γリノレン酸を摂取すると炎症を抑える物質がつくられるため、慢性・急性の炎症、筋肉痛、関節リウマチの軽減に有効です。また、炎症が原因の水ぶくれ(粘液のう胞)の予防にもつながります。

■うつ病発症のリスクを低減する効果

脳の炎症を抑える作用があり、うつ病にアプローチできると考えられています。

■糖尿病性神経症を改善する効果

γリノレン酸を半年から1年ほど摂取すると、糖尿病(1型・2型)による神経の痛みが軽減することがわかっています。

■PMSの症状をやわらげる効果

γリノレン酸を投与する実験にて、PMS症状(下腹部の違和感、頭痛、食欲増加など)の改善が確認されています。

そのほか、γリノレン酸には以下のような症状・疾患に有効だといわれていますが、効果を裏づける研究データはまだありません。

  • 脂質異常症
  • 全身性強皮症
  • 慢性疲労症候群
  • 注意欠陥多動性障害
  • 乳がん
  • 更年期の症状(ほてり)
  • 高血圧症

また、最近ではγリノレン酸を配合した栄養剤が急性呼吸窮迫症候群(呼吸不全)の治療実験に用いられていますが、今のところ救命率に差はないとされています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

γリノレン酸が体内で代謝されると、抗炎症作用をもつ物質「プロスタグランジンE1」がつくられます。このプロスタグランジンE1 は、体内で痛みや炎症を引き起こす物質「プロスタグランジンE2」のはたらきを抑え、炎症や痛みを鎮めてくれます。

皮膚炎や口内炎、関節リウマチなどは炎症によっておこる症状です。また、筋肉痛などの疲労も体内の炎症が原因だといわれています。γリノレン酸を摂取することで原因物質にアプローチでき、炎症によっておこる複数の症状を改善できるのです。

また、γリノレン酸を使った臨床試験では、糖尿病性による神経障害が改善したと報告されています。γリノレン酸には、悪玉コレステロールを減らし、血栓による血管詰まりを阻止する作用があります。そのため、血管障害によっておこる糖尿病性の神経障害が改善したと考えられます。

PMSの女性はγリノレン酸が不足している傾向があります。γリノレン酸を補うことで、PMSの症状があらわれにくくなるようです。[※1][※6][※7][※8]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

γリノレン酸は、普段あまり植物油を摂取しない人におすすめです。肉ばかりを食べていると脂肪酸のバランスが偏り、PMSや皮膚炎などの不調があらわれる可能性があるため、γリノレン酸が含まれる食品を適量、摂取するようにしましょう。[※2]

γリノレン酸の摂取目安量・上限摂取量

γリノレン酸をはじめとするn-6系脂肪酸の摂取目安量は、年齢ごとに厚生労働省の食事摂取基準(2015年版)で定められています。

1日あたりの摂取目安量
  男性 女性
生後0~11か月 4g 4g
1~2歳 5g 5g
3~5歳 7g 6g
6~7歳 7g 7g
8~9歳 9g 7g
10~11歳 9g 8g
12~14歳 12g 10g
15~17歳 13g 10g
18~29歳 11g 8g
30~49歳 10g 8g
50~69歳 10g 8g
70歳以上 8g 7g
妊娠中・授乳中 - 9g

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要」より[※9]

γリノレン酸が含まれるのは「月見草オイル」「ボラージオイル」など。普段の食事で口にする機会は少ないため、毎日必要な量を摂取するのは難しいかもしれません。

γリノレン酸を摂取できない日は、γリノレン酸と同じオメガ6系に分類される「リノール酸」を摂取しましょう。リノール酸は、体内で代謝されるとγリノレン酸とアラキドン酸に変換されるため、γリノレン酸が不足気味の方は摂取すべきです。[※10]

γリノレン酸のエビデンス(科学的根拠)

γリノレン酸の摂取によるアトピー性皮膚炎の改善効果と、PMS改善効果に関する研究をご紹介します。

1997年、イタリアの大学に所属するM Andreassiらは、γリノレン酸によるアトピー性皮膚炎の治療効果を調査しました。臨床試験に参加したのは、アトピー性皮膚炎患者60名です。1日あたり274mgのγリノレン酸を12週間摂取してもらったところ、アトピーによるかゆみや皮ふの赤みが改善したと発表されています。[※11]

また2001年には、日清製油(株)研究所に所属する櫻田美穂らが、γリノレン酸がPMSに与える影響を調査しました。

対象となったのは、日常生活に影響レベルのPMS症状が出ている女性54名(20~39歳)です。対象者は2つのグループに分けられ、片方にはγリノレン酸がメインの油を、もう片方には脂肪酸を均等に配合した油を摂取してもらいました。

対象者が記録した症状を比較したところ、γリノレン酸を摂取したグループはPMSによる下腹部の張り、頭痛、過食が大きく改善。また、一部の対象者には、肩こりや眠気、下痢や便秘、胸の張りやおりものなどの改善も見られました。

このことから、γリノレン酸摂取によるPMS改善の効果が認められています。[※12]

研究のきっかけ(歴史・背景)

1887年頃にリノレン酸という脂肪酸が3種類発見され、発見された順にα(アルファ)・β(ベータ)・γ(ガンマ)と名付けられました。

つまり、γリノレン酸は3番目に発見されたリノレン酸です。γリノレン酸は昔、ビタミンFと呼ばれていましたが、ビタミンではなく脂肪酸です。名称が変わった背景には、γリノレン酸の必要性を明らかにする研究がすすめられてきた歴史があります。

ビタミンとは健康維持に役立つ成分やほかの栄養素をサポートする成分の総称ですが、γリノレン酸が発見された当時は化学構造がわかっておらず、仮の名称として「ビタミンF」という名がつけられました。

のちの研究で、γリノレン酸が体をつくるのに欠かせない成分だとわかってからは、ビタミンFという名前は使われなくなっています。

専門家の見解(監修者のコメント)

東京都渋谷区にある予防医療専門の笹塚クリニックでは、γリノレン酸の摂取方法について、次のように解説しています。

「食物から摂取されたリノール酸は、普通、健康な人では体内にてγ-リノレン酸に変換され、細胞内に組み込まれます。そして、必要な時にいつでもプロスタグランジンに変身して活躍できるように待機しています。ところが、体の異常や食生活の偏り等により、何らかの阻害因子を持つ人は、リノール酸からγ-リノレン酸を体内でうまく作ることができません。

したがって、プロスタグランジン1を作る力も弱いのです。正常に変換できない理由には、遺伝的要素、有害化学物質、ストレス、生活習慣などが考えられます。また、変換に必要なビタミンB群、ビタミンCなどの栄養素の欠乏が原因となる場合もあります」(笹塚クリニック「アレルギー対策」より引用)[※3]

基本的には、食事から摂取したリノール酸が体内でγリノレン酸に変換されるため、γリノレン酸不足になることはまれです。しかし、近年はリノール酸をγリノレン酸に変換できない体質の人が増えているため、該当する人はγリノレン酸を摂取する必要があります。γリノレン酸の摂取方法について、笹塚クリニックでは、次のようなアドバイスもあります。

「自然界においては、母乳と月見草の種子にわずかに含まれています。人工的には微生物を利用して発酵生産されたものがあります。したがって、リノール酸から体内でγ-リノレン酸を作れない体質の人は、サプリメントで補給してください」(笹塚クリニック「アレルギー対策」より引用)[※3]

母乳や月見草オイルは、日常的に摂取する機会がないものです。安定的に摂取できるサプリメントを利用して、不足しているγリノレン酸を補いましょう。

γリノレン酸を多く含む食べ物

γリノレン酸を豊富に含んでいるのはボラージオイルと月見草オイルです。ボラージオイルには22.3%、月見草オイルには11.5%の割合でγリノレン酸が含まれています。[※8]

しかし、ボラージオイルと月見草オイルは、香りが強く酸化しやすい油です。加熱調理を避け、料理の仕上げにかけて食べることも可能ですが、日本で食用として販売されているボラージオイル・月見草オイルはほとんどありません。

そのため、γリノレン酸を摂取したい場合は、サプリメントを利用すると良いでしょう。

一緒に摂るべき成分

γリノレン酸の抗アレルギー効果を高めるには、アレルギーを引き起こす物質が体に侵入するのを防ぐ必要があります。粘膜のバリア機能を高めるβ-カロテンを摂取して、アレルギーを引き起こす物質の侵入を防ぎましょう。[※3]

また、脂肪酸はバランスよく摂取することが大切です。青魚に含まれるオメガ3系脂肪酸や肉に含まれる飽和脂肪酸を一緒に摂ると、脂肪酸全体のバランスが整います。[※2]

γリノレン酸の副作用

成人の場合、1日2.8gまでなら1年間継続摂取しても安全だと報告されています。ただし目安の量や期間を超えると軟便や下痢、消化管の不調(げっぷや腸内ガス)がおこる可能性があるので、摂取量と摂取期間を守りましょう。

また、γリノレン酸には血栓をできにくくする作用があるため、出血しやすい疾患をもっている人、または2週間以内に手術を受ける予定がある人は摂取を控えてください。[※1]

注意すべき相互作用

γリノレン酸は以下の医薬品、ハーブ、健康食品との相互作用が懸念されています。

■血液凝固を抑制する医薬品・ハーブ・健康食品

血栓ができにくくなる薬の作用が強まり、出血や紫斑などがおこりやすくなります。

【該当する医薬品】

  • アスピリン
  • クロピドグレル硫酸塩
  • ジクロフェナクナトリウム
  • イブプロフェン
  • ナプロキセン
  • ダルテパリンナトリウム
  • エノキサパリンナトリウム
  • ヘパリン
  • ワルファリンカリウムなど

【該当するハーブ・健康食品】

  • アンゼリカ
  • クローブ
  • タンジン
  • ニンニク
  • イチョウ
  • 朝鮮人参など

■抗精神病薬

「フェノチアジン」という成分が含まれる抗精神病薬を服用中の人は、口渇や便秘、代謝異常など副作用のリスクが高まります。[※1]

参照・引用サイトおよび文献

  1. 田中平三ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)
  2. J-オイルミルズ「脂肪酸の種類について」
  3. 笹塚クリニック「アレルギー対策」
  4. 株式会社エアーグリーン「γリノレン酸に関する各種研究報告」
  5. 【PDF】海塚安郎ほか「各論エビデンスに基づく病態別経腸栄養法~病態別経腸栄養剤の選び方と使い方~急性呼吸不全の栄養管理」(静脈経腸栄養 Vol.27 No.2 2012年 p37-48)
  6. 【PDF】安田斎 総説「糖尿病性ニューロパチーの病態と治療」(臨床神経学 49巻4号 2009年)【PDF】
  7. 城山薬品株式会社「γ-リノレン酸って何?」
  8. 日精オイリオ「<必須脂肪酸>γ-リノレン酸(オメガ6)」
  9. 【PDF】厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要」【PDF】
  10. 【PDF】厚生労働省「3.脂質」【PDF】
  11. Andreassi M, Forleo P, Di Lorio A, Masci S, Abate G, Amerio P. Efficacy ofgamma-linolenic acid in the treatment of patients with atopic dermatitis. J IntMed Res. 1997 Sep-Oct;25(5):266-74. PubMed PMID: 9364289.
  12. 【PDF】櫻田美穂ほか「PMSと健康食品ーy-リノレン酸含有油脂のPMS緩和効果に関する研究一」(日本女性心身医学会雑誌 Journalof JSPOG Vol.6 No.2 p230-233 平成13年12月)