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エゾウコギの効果とその作用

エゾウコギは高さ2~3mの落葉低樹木です。日本ではエゾウコギ、中国では刺五加(しごか)、ロシアではエレウテロコックという名で呼ばれ、薬用植物として親しまれてきました。冬季はマイナス30度、夏季は30度の寒暖差を生き抜く力強い植物。アイヌ民族の民間薬として使用されていた歴史があり、神聖な植物として扱われていたようです。生薬として使用するのは実や花ではなく、太くて逞しい茎と根です。

ここではエゾウコギの研究の歴史や実験データをもとに、期待できる効果効能、作用機序、適切な摂取目安量や摂取方法、覚えておきたい副作用や相互作用などの情報をまとめています。

エゾウコギとはどのような植物か

エゾウコギは医薬品や滋養強壮剤などに配合される薬用植物です。エゾウコギという名前は、かつて蝦夷地(エゾチ)と呼ばれた北海道に自生するウコギ科の植物であることが由来となっています。北海道が蝦夷地と呼ばれていたころ、アイヌ民族の人々はエゾウコギを民間薬として使用していました。

中国では、根茎は滋養強壮の生薬「刺五加(シゴカ)」として、根の皮は不老長寿の薬酒「五加皮酒(ゴカヒシュ)」として2000年以上使用されてきた歴史があります。[※1]

エゾウコギの別名はシベリア人参。同じウコギ科の高麗人参(オタネニンジン・朝鮮人参)と同種だと思われがちですが、エゾウコギはウコギ属ウコギ科の植物、高麗人参はトチバニンジン属ウコギ科の植物なのでまったくの別物です。有効成分も異なります。[※2]

エゾウコギの効果・効能

エゾウコギには次のような効果効能が期待できます。

■抗ストレス効果

心を安定させる成分が含まれているエゾウコギは、抗ストレス効果をもつ薬用植物として知られています。ストレス性の胃痛や肌荒れ、睡眠障害に対する効果が期待できるといわれています。[※2]

■疲れにくい体質になる効果

エゾウコギに含まれる有効成分には、疲労した体をランナーズハイのような状態へ導く効果があります。そのため、エゾウコギを摂取することで疲れにくい体となり、持久力や運動能力を高めやすくなると考えられています。[※2]

■免疫機能を活発にする効果

エゾウコギを摂取するとNK細胞が活性化され、ウイルスや細菌から体を守る免疫亢進作用があります。[※2]

■栄養吸収をサポートする効果

強壮作用をもつエゾウコギ[※1]は、滋養強壮剤にも配合されている成分です。滋養強壮剤は、食事に含まれる栄養を体が必要とする栄養素に変換し、弱っている体の回復をサポートします。

■血圧を下げる効果

エゾウコギを摂取したことで血圧が下がったという報告があります。

■血糖値の上昇を抑える効果

血糖値の上昇を抑える効果が確認され、糖尿病への効果も示唆されています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

エゾウコギの抗ストレス作用のカギを握っているのは、「エレウテロサイドE」という有効成分です。エレウテロサイドEは、モルヒネの80倍の鎮痛作用をもつ脳内物質「β-エンドルフィン」の分泌を促し、疲労や痛みを鎮めてくれます。[※2]この作用でストレスによる不安や緊張感をやわらげ、心を安定させることができるといわれています。

また、ヒトの免疫細胞(B細胞・T細胞)にはβ-エンドルフィンの信号を感知する受容体が存在するため、エゾウコギを摂取することでNK細胞(ナチュラルキラー細胞)が活性化され、免疫力を高められると考えられています。[※2]

人はストレスから解放されると集中力が増すといわれています。エゾウコギにより集中力が増し、さらに免疫力が上がると持久力も増すという好循環が生まれます。集中力と持久力の両方を必要とする運動に対しても、能力向上が期待できます。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

ストレス全般に効果を発揮エゾウコギは、ストレスを抱える現代人が摂るべき成分のひとつです。過度なストレスがある人は特におすすめです。

ストレスは体調や心を不安定にし、うつ病や自殺といった最悪の事態を招かないためにも、日頃の生活で苛立ちや不安を感じている人は、抗ストレス効果を体感してみると良いでしょう。

エゾウコギの摂取目安量・上限摂取量

また、エゾウコギは一気に摂取するよりも、1日2~3回にわけて摂取するのが好ましいようです。[※3]

エゾウコギのエビデンス(科学的根拠)

抗ストレスや免疫増強などの薬効をもつエゾウコギは、各国で研究が進められ、たくさんのエビデンスが報告されています。

北海道医療大学名誉教授の西部三省らが実施した実験では、ラットを長時間泳がせ続け、疲れるまでの時間を測りました。一部のラットにエゾウコギエキスを6回投与したところ、何も与えていないラットに対して、泳ぎ疲れるまでの時間が40分増えたことがわかっています。[※4]

また、免疫学や分子生物学などを研究するドイツのORPEGEN GmbHでは、エゾウコギの免疫活性作用に関する試験が行われました。対象者は健常者36人。エゾウコギが入った薬剤とプラセボ(偽薬)をそれぞれ別のグループに与え、経過を観察しています。4週間後にそれぞれのグループの血中T細胞(免疫細胞)を比較したところ、エゾウコギが入った薬剤を投与したグループの血中T細胞のほうが活性化したことが報告されています。[※5]

大阪にある自然科学研究所・プランタメディカでは、スポーツクラブに所属する男子運動選手(平均年齢21.5歳、平均体重66.5kg)を対象にした試験が実施されました。試験では8日間エゾウコギエキスを投与し、運動して疲労するまでの時間を測定しています。結果から、エゾウコギエキスを投与したグループの持久時間は、試験前から16.3%も増大したことがわかりました。[※6]

これらのエビデンスから、エゾウコギ摂取による免疫増強や持久力向上効果が期待できます。

イラつきやストレスに関するエビデンスは、1986年に出版された『診療と新薬』に記載されていました。試験は、イライラやストレスを訴える男女123人にエゾウコギエキス140mgを含む合剤を投与し、対象者にアンケートを実施する内容です。

摂取継続期間は4週間、合剤3錠を1日3回摂取することを原則としました。試験後のアンケートでは、70.7%の人が「抑うつ気分が中程度以上改善した」と回答。また、69.3%の人が疲労や倦怠感が中程度以上改善したと答えています。[※7]

研究のきっかけ(歴史・背景)

日本の北海道がまだ蝦夷地と呼ばれていたころ、エゾウコギは雑草として駆除される存在でした。硬いトゲをもつ植物として嫌がられ、ヘビノボラズという俗称(ヘビすらのぼらないという意味)で呼ばれていた時期もあったそうです。

そんなエゾウコギの機能性が注目され始めたのは1960年ごろ。旧ソ連の科学アカデミーが研究によって研究が進められ、1962年に強壮剤としての使用が承認されました。

エゾウコギエキスからなる強壮剤の生産が始まったのは1964年。1966年には旧ソ連アカデミー所属のブレフマン博士がエゾウコギについて発表を行い、高麗人参よりも優れた薬効をもつ薬草として知れ渡るようになりました。[※8]

日本でエゾウコギが研究されはじめたのは1973年以降です。極寒の地に生えるエゾウコギは北海道の気候に適していたことから、北海道大学と道立衛生研究所が中心となって研究が進められてきました。現在も引き続き、北海道の研究者たちが中心的役割を担っています。[※2]

エゾウコギが世界中から注目されるようになったのは1980年代。モスクワオリンピックでメダルを独占した多くの旧ソビエト選手が強壮目的でエゾウコギを飲んでいたのがきっかけです。エゾウコギの有効成分がドーピング規制の対象外だったことで、一気に注目が集まりました。[※1]

専門家の見解(監修者のコメント)

エゾウコギの研究を行っている北海道医療大学名誉教授の西部三省氏は、エゾウコギについて次のようにコメントしています。

「エゾウコギを飲むとβ-エンドルフィンの分泌が促されるという事実は、免疫増強の観点から非常に注目すべきことだと思っています。エゾウコギを飲んでβ-エンドルフィンの分泌が活発になって免疫力が上がれば、がんの予防効果も十分にあるのではないでしょうか」(『医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド【完全版】』pp318-325より引用)[※2]

エゾウコギが免疫機能を活性化することは以前より知られています。その免疫増強効果ががん予防に繋がるというのが、西部氏の見解です。

また西武氏は、エゾウコギの研究が進められる中で記憶力向上や胃潰瘍の予防、幸せホルモン(エストロゲン)と類似した効果などの新しい可能性が示唆されているとコメントしています。

「私たちは強いストレスを受けると記憶力が低下してしまうのです。ただしこの場合もβ-エンドルフィンが体内に多く存在すると、副腎皮質ホルモンの海馬を委縮させる働きが抑えられることが明らかになっています”」(『医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド【完全版】』pp318-325より引用)[※2]

「エゾウコギに含まれるエレウテロサイドEやクロロゲン酸という物質に胃潰瘍を抑える働きがあることがわかっています」 (『医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド【完全版】』pp318-325より引用)[※2]

「エゾウコギはプロラクチンという乳汁分泌ホルモンの分泌を促すということが最近わかりました。プロラクチンはお母さんが赤ちゃんに母乳を与えているときに分泌されるホルモンで、エストロゲンやプロゲステロンとともに乳腺の発達を促進します」(『医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド【完全版】』pp318-325より引用)

今後研究が進んでメカニズムが解明されれば、ますますエゾウコギが注目されることでしょう。

さまざまな効果が期待できるエゾウコギですが、あくまでも薬用植物であり、病気の治療を目的としてつくられた薬ではないということを忘れてはいけません。西武氏もエゾウコギと西洋合成薬の違いについて、次のように語っています。

「エゾウコギはいわゆる西洋の合成薬とは違うので、飲んですぐに効果が表れるわけではありません。持久力や免疫力に関する研究でも、実験の1週間前から飲ませるようにしています」 (『医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド【完全版】』pp318-325より引用)[※2]

エゾウコギに期待できる効果は、適正量を長期的に飲み続けたときに得られるものだと覚えておきましょう。

エゾウコギの摂取方法

エゾウコギの生葉は山菜のようにして食べることができます。天ぷらやお浸し、和え物や炊き込みご飯など、普段の食事に応用しやすい薬草です。

乾燥したエゾウコギの根の皮(80g)は、細かく刻んでグラニュー糖150gを加え、1000mlのホワイトリカーに漬け込むだけで不老長寿の薬酒「五加皮酒」が作れます。

お酒が苦手という場合は、乾燥したエゾウコギの根の皮(5g)を300mlの水を入れて半分の量に煎じて服用すると、同様の効果が得られます。[※9]

また普段の食事の栄養吸収を高めたい人は、エゾウコギが配合された滋養強壮剤を利用するといいでしょう。

エゾウコギと組み合わせたい生薬や食品

疲労やストレスから心と体を解放してくれるエゾウコギ。その日の気分に合わせて以下の組み合わせで摂取するのがおすすめです。

  • 疲れた体を癒したいとき…高麗人参や田七人参
  • 心を落ちつけて就寝したいとき…蜂の子や蚕

エゾウコギに副作用はあるのか

2018年4月時点では、エゾウコギの摂取による重篤な副作用の報告は見つかりませんでした。用量さえ守れば大きな健康被害はないとされています。

ただし、体質によっては頭痛や頻脈、不眠、じんましんや接触性皮膚炎などの症状が表れるケースもあるため、必ずしも安全とはいえません。妊婦・授乳婦・小児に関しても、安全性は確認されていないようです。

リウマチ性心疾患や心筋梗塞、ヒステリーや躁病(そうびょう)、統合失調症、高血圧の患者(180/90 mmHg以上)はエゾウコギ摂取によって症状が悪化する可能性があるため、使用を避けましょう。

注意すべき相互作用

エゾウコギとの併用摂取が禁忌とされている医薬品はありません。しかし理論的には、エゾウコギと似た作用もつ医薬品やハーブを併用摂取すると、効果や副作用を増強する相互作用が起こると考えられます。

【相互作用が起こると考えられる医薬品・ハーブ】

  • 血糖値を下げる効果をもつハーブや糖尿病薬
  • 鎮静作用のあるハーブや鎮静剤

相互作用を確認するために行われた臨床試験では、エゾウコギの摂取によって、CYP2D6やCYP3A4などの分子種(ヒトの代謝に必要な物質)に影響が及ぶ可能性は低いと報告されました。[※10]

しかし、閉経後早期モデルマウスに健康食品10倍量のエゾウコギを28日間与えた研究では、肝臓での代謝に必要な分子種(CYP2D)の働きが阻害されたと報告されています。[※11]このことから、エゾウコギと医薬品の相互作用は、エゾウコギを過剰摂取し続けた際に起こりうると考えられます。

ちなみに、これまでに日本で報告された相互作用の事例は1件です。乳がんの手術を受けた女性(61歳)が、術後に1日あたり600mgの抗悪性腫瘍剤(ドキシフルリジン)とエゾウコギ配合の健康食品を2か月間併用摂取した結果、心不全の原因となる「完全房室ブロック」が起こったと報告されています。[※12]

参照・引用サイトおよび文献

  1. 養命酒「生薬百選 97 刺五加(シゴカ)」
  2. 吉川敏一、辻智子編著『医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド【完全版】』(株式会社講談社 2004年8月発行 pp30-31,pp318-325)
  3. Brown,Don(Donald J.):Herbal prescriptions for better health:Rocklin, CA:Prima Pub.69-77,1996.
  4. Nishibe S,Kinoshita H,Takeda H,Okano G.Phenolic compounds from stem bark of Acanthopanax senticosus and their pharmacological effect in chronic swimming stressed rats. Chem Pharm Bull(Tokyo).1990 Jun;38(6):1763-5
  5. Bohn B.et al,Birr C.Flowcytometric Studies with Eleuthelococcus Senticosus Extract as an Immunomodulatoru Agent.Arzneim.-forsch.1987;37:1193-1196
  6. Asano K.et al,Effect of Eleutherococcus senticosus Extract on Human Physical Working Capacity.Planta Medica.1996:175-177.
  7. 西山宗之ほか「内科領域における各種不定愁訴に対するEnack錠の臨床的効果」診療と新薬(1986年8月 No.23 pp115-133)
  8. 千葉大学環境健康フィールド科学センター「日本の民間薬」(2015年2月 和漢薬No.751)【PDF】
  9. 『食べて効く!飲んで効く!食べる薬草・山野草早わかり』(主婦の友社 2016年3月発行 pp25)
  10. Donovan JL.et al,Siberian ginseng(Eleutheroccus senticosus)effects on CYP2D6 and CYP3A4 activity in normal volunteers.:Drug Metab Dispos.2003;31:519-522.
  11. 東泉裕子ほか「エゾウコギ摂取が閉経後早期モデルマウスの肝臓薬物代謝酵素および骨密度に及ぼす影響」(2017年 栄養学会誌 Vol.75 No.6 151-163)【PDF】
  12. 木島基ほか「ドキシフルリジンと健康食品リンパザイム®の併用で完全房室ブロックをきたした1例」(2011年 心臓Vol.43 No.8 pp1096-1101)【PDF】