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EPAの効果とその作用

イワシなどの青魚に含まれる必須脂肪酸であり、オメガ3系(n-3系)の不飽和脂肪酸に分類されるEPA。医薬品や健康食品として幅広く利用されています。EPAは体内で合成できない脂肪酸であるため、食事から意識的に摂取すべき成分です。欧米ではサプリメントで摂取することが多いEPAについて、摂取目安量や効果効能・研究成果などについて詳しく解説します。

EPAとはどのような成分か

EPAとは人間の体内ではつくることのできない多価不飽和脂肪酸と呼ばれる栄養素のひとつです。正式名称をエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid)といいます。

人間にとって必ず必要な「必須脂肪酸」のひとつであるため、食べ物から摂取する必要があります。

EPAは1960年代にデンマークでイヌイットの食生活を研究したことがきっかけで知られるようになりました。

イヌイットの人々はアザラシや魚を主食とし、野菜などはほとんど食べていませんが、健康な高齢者が多いことでも知られます。

しかもイヌイットの人々には脳血栓や心筋梗塞による死亡率が、同じように高脂肪食を食べるデンマーク人よりはるかに少ないのです。

この理由を調べるためにイヌイットの食事研究が実施され、その結果、彼らが主食とするアザラシにEPAが多く含まれるからではないか、と考えられるようになりました。

さらなる研究の結果、イヌイットの血液中のEPA濃度は、デンマーク人に比べて非常に高い数値であることがわかりました。

以来研究が進められ、生活習慣病の予防を中心に、さまざまな効能が明らかにされつつあります。

そして多数の研究から日本ではEPAを主成分とした医薬品、特定保健用食品、機能性表示食品などが認められ、多くの人々に利用されているのです。[※1] [※2]

EPAの効果・効能

EPAには次のような効果・効能が期待されています。[※1][※2]

■動脈硬化の予防効果

EPAを摂取すると、血液中の中性脂肪の濃度が低下することが多数の研究論文によって報告されています。

■中性脂肪の改善効果

内臓脂肪の面積が大きい人ほど血中のEPAが少ない傾向にあることが報告されており、EPAには脂質の代謝を促進する遺伝子を活性する働きがあると考えられています。

■運動のパフォーマンスを上げる効果

EPAには赤血球の流れを良くする働きがあります。すると赤血球と一緒に運ばれる酸素も全身にスムーズに運ばれるようになり、運動時のパフォーマンスが上がり、運動後の疲労感が軽減することが報告されています。

■アレルギー症状の緩和効果

EPAには抗アレルギー作用があり、アトピー性皮膚炎や花粉症の症状を緩和する可能性も報告されています。

これはEPAにアレルギーの原因となるプロスタグランジンやロイトコリエンという物質を抑制する作用があるからです。

■高血糖状態の改善効果

EPAの摂取で2型糖尿病患者の血糖値やインスリン抵抗性の指標の改善が報告されています。

■抗炎症作用

過剰な免疫反応や、炎症を抑制する効果が確認されていて、歯周病が改善されたという結果も報告されています。

■ドライアイ対策に

EPAを含むn-3系脂肪酸(オメガ3脂肪酸)の摂取が多い人ほど、ドライアイを発症しにくくなることが疫学研究で報告されています。

■紫外線のダメージを抑制

紫外線による肌の炎症を抑制する作用が報告されています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

EPAは消化管から吸収されると、全身の血管や臓器に各細胞膜から取り込まれます。

そして各細胞に影響を与えることによってさまざまな機能性を発揮することが解明されています。

またEPAの体重増加抑制作用については、疫学調査での研究が主なものでした。しかし、2015年に京都大学によって魚脂(EPAとDHA)が脂肪細胞にはたらきかける仕組みを解明しています。

EPAが胃や腸管で交感神経を穏やかに活性することで、ノルアドレナリンの放出が増加し、それが脂肪細胞を褐色化。このことがエネルギーの消費(脂肪燃焼)につながる、という新たなメカニズムを動物実験で証明しています。[※3]

EPAは体内の代謝などをサポートするために消化管や細胞に取り込まれ、そこでさまざまな機能を発揮することがわかっています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

EPAは人の体内では合成されない必死脂肪酸ですので、すべての人が意識して摂取すべき成分のひとつです。

とくに年齢的にも中性脂肪や血管年齢が気になりはじめた人に有効です。また、普段の食生活で青魚の摂取が足りていないと感じる人にも大切な栄養素です。

ちなみに厚労省が発表している2015年版の「日本人の食事摂取基準」では、EPAとDHAを1日1g以上摂取することが望ましいとしています。

「欠乏すると皮膚炎などが発生する」と、そのリスクについても指摘しています。

EPAの摂取目安量・上限摂取量

2015年版の「日本人の食事摂取基準」(厚労省)では、EPAとDHAを1日1g以上摂取することが望ましいとしています。

また上限については、日本では1日5g、アメリカでは3gの摂取までであれば、問題ないとしています。[※4]

EPAのエビデンス(科学的根拠)

EPAの効果効能については多数のエビデンスが報告されています。

■特定保健用食品・機能性表示食品として

EPA単独ではなく、EPAとDHAを関与成分として「中性脂肪が気になる方に適した食品です」といった表示が許可された特定保健用食品、または表示が認められた機能性表示食品が多数あります。

■中性脂肪減少に関するエビデンス

血中中性脂肪値が120-200mg/dlを中心とした成人ボランティア計101名を対象に、EPA含有飲料(600mg)とオリーブ油配合飲料を対照飲料として無作為に分類し、それぞれ12週間飲用してもらいました。

試験後の血中中性脂肪の変化を調査したところ、EPA含有飲料を飲んだグループは血中中性脂肪値が摂取前値に比べ35.3~37.8mg/dl低下したことが確認されています。 [※5]

日本で行われた試験で、中性脂肪値が100~330 mg/dlの成人64名を対象とした二重盲検試験があります。

1日あたりEPA 200 mgを魚肉ソーセージから12週間摂取してもらう試験を行ったところ(またはEPAの含まれないプラセボ)、EPA摂取群は血中中性脂肪が有意に低下したことが確認されました。 [※7]

■花粉症に関する研究

大規模コホート研究によって、EPAの摂取量が高い人ほど花粉症のリスクが低下することが報告されています。

ただし、花粉症の喘息患者 (非喫煙者) 25名に、1日3.2g のEPA 経口摂取で、花粉症や喘息の症状 (喘鳴、咳、鼻症状など) を改善しなかったという報告もあり、今後のさらなる研究に期待が寄せられています。 [※6]

■アトピー性皮膚炎に関する研究

オーストラリアではアトピー性皮膚炎の妊婦40名にn-3系多価不飽和脂肪酸3.7 g (EPA 27.7%、DHA 56.0%) を含む魚油を20週間経口摂取する試験を実施しています。

その結果、子供のアトピー性皮膚炎の重症度が軽減されたことが報告されています。 [※6]

■運動機能向上に関するエビデンス

日本水産が順天堂大学の駅伝選手と共同研究しています。

EPAを1日1.6g、4か月間摂取したグループは、しなかった選手に比べて1万メートル走のタイムが有意に速くなったと報告しています。こちらも今後の研究報告に期待が集まっています。 [※6]

■前立腺がんとの関連性を示唆する研究

大規模コホート研究で、魚油を多く含む魚の摂取量が高いと前立腺がんのリスクが低下することが報告されています。EPAと前立腺がんとの関連性については、今後さらなる研究が待たれます。 [※5]

研究のきっかけ(歴史・背景)

EPAが注目されるようになったのは、1960年代に実施されたグリーンランドに住むイヌイットの健康調査の結果が発表されたことがきっかけです。

日本でも大手食品メーカー日本水産(ニッスイ)がEPAの効果にいちはやく着目し、1979年には大学の医学部、製薬会社との共同研究を開始しています。

EPA研究の最大のハードルは、EPAを豊富に含むイワシから、高純度のEPAを抽出する技術を開発することだったとされます。

この技術がニッスイによって完成したことで、現在は健康食品から医薬品の原料まで、純度の高いEPAを製造することが可能となっています。[※8]

また、EPAはDHAとセットで考えられることが多い成分ですが、じつはEPAには血管の異常収縮を抑える可能性がある、といったEPA単体の機能性についての研究も進んでいます。

専門家の見解(監修者のコメント)

消費者庁が実施した「食品の機能性評価モデル事業」というものがあります。この報告によれば、EPAと DHAは「心血管疾患リスク低減」や「血中中性脂肪低減作用」について「十分な根拠がある」と、総合評価を「A」としています(A〜Fの6段階で評価し、Aが最も高い評価)。

ちなみにこの調査では11成分が調査の対象となっていますが、A評価を受けたのはEPA/ DHAだけです。それだけあきらかな効果が認められているといえるでしょう。[※10]

また、晴山会平山病院 薬局長の小林悟氏は日経グッディのインタビューで

「調査の結果(先の消費者庁の調査)、農村と漁村ではEPAの摂取量がそれぞれ1日0.9gと2.7gで3倍の差がありました。血液粘度に加えて、虚血性心疾患や脳血管疾患の死亡率にも違いがあり、明らかに漁村のほうが低いことが分かりました」
「できれば1日3食のうち、1食は魚を食べるようにしてほしい。毎日の食事で摂る自信がないという人は、サプリメントを上手に利用するといいだろう。」(日経グッディ 機能性表示食品制度で注目集めるEPAって?より引用・抜粋)

とコメントしています。[※8]

EPAを多く含む食べ物

EPAはいわし、さば、あじ、さんま、まぐろ、かつお、タラなどの主に青魚に豊富に含まれています。

日頃から青魚や魚料理を積極的に摂るようにするとEPAの摂取量はアップします。

クジラ肉やアザラシの脂肪層にもEPAは多く含まれていますが、日本ではほとんど食べる機会がないと思います。

日本人は青魚から摂取するか、または魚を食べる機会が少ない人は、EPAが含まれる魚肉ソーセージ、さばなど魚の缶詰といった加工食品を利用するのもひとつの手段です。

EPAを摂取するために最も効率的な魚の食べ方は、お刺身です。焼き魚や煮魚など加熱してしまうと、油が変性してしまうからです。EPAの効果を得たいのであれば、生魚である必要があります。

EPAは酸化しやすい成分なので、酸化を防止するビタミンCやビタミンEが多く含まれる食品と一緒に摂取すると効率的に摂取できます。

毎日生魚を食べることができない、魚が苦手という場合は、EPA配合のサプリを摂るという方法もあります。

相乗効果を発揮する成分

DHAとEPAの両方を摂取することで、心血管疾患のリスク低減や中性脂肪低減、あるいは関節リウマチ症状緩和について十分な根拠があると報告されています。先に発見され研究が進んでいるのは、EPAです。

DHAとEPAには大きな違いもあります。DHAは脳や網膜などの組織を構成する成分でもあることから、脳の関門を通過し、脳や神経組織の発育や脳機能維持の効果があることが報告されています。これに対し、EPAは脳にまで達することはありません。

しかしEPAは体内でDHAに変化しますので、EPAが足りていればDHAが不足することはない、と考える説もあります。

またEPAは医薬品(閉鎖性動脈硬化症の治療薬)としてのデータも存在しています(DHAとEPAの両方を主成分とした医薬品もあります)。[※11]

摂取後に体内で摂取した分だけ増えるのがEPAであるのに対し、DHAはEPAほど体内で増えないという違いもあります。

どちらも密接に関係し合っているオメガ3系の体に良い油ではありますが、成人向けに「EPAは血液サラサラ効果」、乳幼児や高齢者向けに「DHAは頭を健康」という分け方もあります。

サプリメントで摂取する場合は、EPAとDHAが最適なバランスで配合されている製品が多いようです。

EPAに副作用はあるのか

食事から摂取する分には、EPAによる副作用の心配はほとんどありません。

ただし、EPAのサプリメントとお刺身などを同時に摂取する場合は、過剰摂取にならないように注意が必要です。

EPAは血液をサラサラにする働きがあるとされるため、大量に摂取するとケガをしたときなどに血が止まりにくくなる可能性もあります。

また手術を控えている、出産を控えている場合などもEPAサプリの摂取は避けるべきです。

EPAを含む魚油の大量摂取による副作用として、げっぷ、吐き気、鼻血、便がゆるくなる、などが報告されています。

できるだけ食事から摂取することで、そのようなリスクが回避できるでしょう。