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酵素の効果とその作用

美容や健康によいものとしてよく名前があがる酵素ですが、意外に知られていない情報が多くあります。消化酵素や代謝酵素など、酵素は分かっているだけでも7,000種類以上あり、現在でも研究が進められています。
ヒトが生きるためのあらゆる化学反応になくてはならない酵素について、詳しく解説します。

渋谷DSクリニック 林博之先生監修

酵素とは

最近よく耳にする酵素という言葉。「酵素パワーで元気に」「酵素のチカラでダイエット」などの文句が巷にはあふれていますが、「そもそも酵素ってどんなもの?」と疑問を抱いている人も多いと思います。

意外に知られていないのは「酵素はたんぱく質の一種」であるということ。たんぱく質が分解されて小さな分子となったものが酵素です。生物の体内における反応のほぼすべてに関与し、なければ生物として成立しない物質、それが酵素です。

酵素はビタミン・ミネラルなどとは違い、栄養素ではありません。酵素の働きは「触媒(しょくばい)」です。触媒とは、それ自身は反応前後で変化をせず、別の物質の化学反応に作用することです。[※1]

化学反応を円滑に進めたり、速度を調節したりと、体内で行われているほとんどすべての化学反応には、酵素による触媒が必要です。

酵素はどんどん発見されていて、現在までに約7,000種類以上あると言われています。そして、それぞれの化学反応を触媒する酵素はそれぞれ異なります。[※1]

酵素は、ヒトの体内で合成される「体内酵素」と、食べ物などにある「外部酵素」に大きく分けることができます。[※2]

酵素の効果・効能

酵素は、体内のあらゆる化学反応をスムーズに進めるように働きます。「消化・吸収・代謝・排泄」にいたるまでのあらゆる過程には、ひとつひとつ酵素の力が必要です。

酵素のなかでも身近なのが、消化に関わる「消化酵素」です。消化酵素と一口に言っても、多くの種類があります。代表されるのは以下の3つです。

■アミラーゼ

アミラーゼは、おもに唾液のなかでデンプンをブドウ糖に分解する酵素です。別名ジアスターゼとも言います。

■ペプシン

ペプシンは胃のなかでタンパク質をペプトンに分解する、プロテアーゼと呼ばれる消化酵素のひとつです。パイナップルが肉を柔らかくすると言われているのは、プロテアーゼが含まれているためです。

■リパーゼ

すい臓のなかにはリパーゼという酵素が含まれ、脂肪の分解に作用しています。

消化酵素の働きで分解された栄養をエネルギーにするのは「代謝酵素」です。代謝酵素は細胞に栄養を届けたり、有害物質や毒素を体外に排出したりします。[※3]

また、体内には血圧を上昇させるACEや、血糖値を上昇させるAGHといった酵素も存在します。なんらかの理由でこれらの酵素が活性すると、高血圧や高血糖といった生活習慣病の原因を引き起こします。[※4]

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

酵素の触媒について、少し詳しく説明します。

酵素が化学反応に作用するさい、自分自身は変化も消費もされず、またふたたび同じ化学反応を起こします。これが酵素の触媒です。

酵素の触媒のおかげで、生体のあらゆる化学反応は、穏やかに、かつ速いスピードで円滑に進められています。

酵素の活性は、pH(酸性・アルカリ性の濃度)や温度の影響を受けやすく、それぞれの酵素に適した条件のもとでしか働くことができません。

また、酵素には決まった相手としか反応しないという基質特異性があります。イメージとしては鍵と鍵穴のような状態です。すべての酵素は基質特異性があり、反応する相手がしっかりと決まっているのです。[※5]

ただし、ヒトが進化するにつれて、そのままでは反応する形になれない酵素が出てきます。それが「アポ酵素」と呼ばれるものです。

アポ酵素が酵素としての反応を起こすために必要になるのが「補酵素」の存在です。アポ酵素は補酵素と結合することで、活性型の「ホロ酵素」となり、はじめて酵素として働くことができます。[※6]

補酵素として有名なものに、コエンザイムQ10があります。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

酵素についてのひとつの考えかたに、食べ物に含まれる外部酵素を口から摂取することで、体内の酵素を補うことができるという「酵素栄養学」があります。

しかし、酵素の作用で説明したように、酵素はその酵素に適した条件のなかでしか活性することができません。そのため、野菜の酵素はその野菜のための酵素であり、それを食べたからといってヒトの体内で働くことはないという意見もあります。

一方で、食品に含まれる一部の消化酵素が、ヒトの消化機能をサポートすることは考えられます。

たとえば大根にはデンプンを分解するジアスターゼという酵素が含まれています。そのため、大根おろしを食品に絡めることで、その食品の分解があらかじめ進み、胃にかかる消化の負担を和らげてくれる効果が期待されます。[※2]パイナップルやキウイ、塩麹などにもたんぱく質を分解する酵素が含まれています。

そういった意味では、胃腸の調子が優れない人、夏バテで食欲がわかない人などに、消化を助ける酵素の働きは役立つといえます。

酵素の摂取目安量・上限摂取量

酵素は栄養素ではないので、決められた摂取量などはありません。

酵素栄養学の考えは、「酵素は加齢により減少するため、外部酵素から補う必要がある」という説にもとづいています。

しかし、そもそも酵素は化学反応を起こしても、自身は変化も消費もされないという性質があり、補う必要があるものがどうかは、議論が分かれるところです。

酵素のエビデンス(科学的根拠)

「酵素を含む食品を食べると健康になる」という酵素栄養学を裏づける科学的根拠は、今のところ報告されていません。

食品から摂取した酵素が体内でもたらす効果については、今後のさらなる研究が待たれます。

研究のきっかけ(歴史・背景)

酵素で健康になれるという考えかたは、エドワード・ハウエル氏が1946年に執筆した専門書をもとに、1980年代に一般向けに編集された書籍[※7]によって広まりました。

酵素栄養学は簡単にいうと、

「酵素はからだに必要な栄養素のひとつ」であり「一生で使える酵素の量には上限があり、酵素が消耗されすぎると病気の原因となる」ため、「酵素を含む食品を摂取して酵素を補おう」

という理論です。

この理論にもとづき、1900年代から欧米を中心に広まったのは、食品から酵素をたくさん得るため生の食材を食べる「ローフード」です。

現在でもローフードはひとつの食スタイルとして一部の人に指示されていますが、その危険性を危惧する声もあります。

生の食べ物には食中毒の危険があるため、衛生管理を厳重に行う必要があります。また、ローフードを実践する人を対象にした調査によると、45歳以下の女性のうち30%に無月経症状があらわれていたという報告もあります。[※8]

日本でも酵素はメディアなどで話題にされてその名前が広まり、現在でも酵素に関連したサプリメントや健康食品が多く販売されています。

専門家の見解(監修者のコメント)

現在、多くの研究者や化学者の認識は、酵素の働きは触媒であるということです。

酵素の研究を長年続けている酵素学研究者の伏信進矢氏は、酵素を以下のように説明しています。

「酵素は触媒です。生き物が持っていて、つくりだす触媒になります。触媒とは化学反応を助けるものです。私たちの細胞の中ではいろんな化学反応がおこることが、生きていくために必要です。その一つひとつに専用の酵素が存在して、それらの化学反応をどんどん助けて、速めている。それが酵素です」

(NHK高校講座 生物基礎 第4回「代謝を進める酵素」より引用)[※1]

そして、酵素を研究することについて、以下のように話しています。

「たとえば南極にいる微生物とか、そういうものから酵素を取ってくると、低温で反応しやすいような形をしていて、そういうようなアミノ酸残基・タンパク質の形をしていることがわかります。

酵素の研究をすることは、それぞれの生き物がどのように居場所を見つけていって、そこに適応していったか、その痕跡を探るための手掛かりになるのではないかと思います」(引用)[※1]

酵素は発見されているだけでも7,000種類以上といわれていますが、その数は毎年増え続けていて、実際にはもっと膨大な数の酵素が存在していると考えられています。

今後も研究が進められ、酵素のさらなる理解が進むことが期待されます。

酵素を多く含む食べ物

一般的に、食べ物の外部酵素は生の野菜や果物に豊富に含まれているといわれますが、酵素を含む食品の摂取で、体内の酵素を補えるというデータは今のところありません。

酵素とよく混同されるものに、「発酵」があります。発酵とは、麹菌などの微生物の働きで、栄養価が高まる、保存性が増すなど、ヒトにとって役立つように食品が変化することをいいます。[※9]

そのため酵素と発酵というのは、言葉の意味合いとしてまったく異なります。

ただし、発酵させる過程で食品に含まれる酵素が増えるため、発酵食品は優れた酵素食品だとする考えも一方であります。[※2]

日本の伝統的な和食には味噌・醤油・納豆・漬け物などの発酵食品が豊富に含まれます。発酵食品には、腸内環境の改善や免疫力のアップなど、さまざまな効果が期待されるため、積極的に取り入れて健康維持に役立てましょう。

相乗効果を発揮する成分

酵素の合成や触媒によい影響をもたらす可能性があるのは、アミノ酸やビタミンBです。

酵素は、もともとたんぱく質が分解されたものです。たんぱく質は20種類のアミノ酸が構成していますが、食品によって、含有されるアミノ酸やアミノ酸の量は異なります。そしてその含有バランス(アミノ酸スコア)が高ければ高いほど、たんぱく質として利用されやすくなる特徴があるのです。

アミノ酸スコアは食品個別の評価ですが、アミノ酸の含有率が低い食品を食べたとしても、一緒にアミノ酸がたくさん含まれた食品を食べれば全体としては補うことができます。[※10]

また、酵素がスムーズに働くための補酵素は、ビタミンやミネラルとして知られていますが、なかでもビタミンB群がとくに重要な働きを担います。[※3]ビタミンBは、豚レバーやうなぎ・カツオや大豆製品など、さまざまな食品に含まれています。

酵素の副作用

酵素はもともと体内で合成されるものであり、副作用などの報告はありません。

ただし、酵素に関連したサプリメントには、さまざまな成分が一緒に配合されている場合があるので、使用のさいは原材料をよく確認しましょう。

酵素を効率よく摂取するために生食を推奨するローフード食では、食中毒や栄養失調などに厳重な注意が必要です。