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銅の効果とその作用

人体に含まれる主要ミネラルの一つである銅。ここでは銅が私たちの体内でどのような働きをしているのかを詳しく解説していきます。銅の効果・効能だけでなく、不足すると起こる症状、あるいは過剰になった場合についても確認しましょう。銅は私たちの体にわずかしか含まれていませんが、とても大切な働きをしているのです。

銅とはどのような成分か

銅の原子番号は29、元素記号は「Cu」です。光沢を持つ橙赤色の金属で、電気や熱伝導率が高いことが特徴です。銅は人類が最初に用いた金属とも言われています。紀元前7000前にはすでに加工されたとされ、紀元前6000年頃の青銅器時代には多くの銅を用いた道具が使われていました。現在の日本では1円玉以外の硬貨で使用されています。江戸時代初期の硬貨には金や銀を用いていましたが、より安定した供給が可能で劣化しにくい銅が使われるようになりました。

銅は私たちの体内に存在するのはもちろん、動物や植物などすべての生き物に存在する金属です。銅はすべての生命に必要な金属であり、なくてはならない栄養成分です。かつては銅も有害な金属だとされてきましたが、多くの研究により酸化触媒による働きや、細胞呼吸には欠かせない金属[※1]だということが判明しました。

成人の体内には約80mgの銅が存在しており、約50%は骨や筋肉、約10%は肝臓に存在していることもわかっています。銅は赤血球の形成を助ける栄養素で、体内酵素の正常な働きや骨の形成に必要です。[※2]

銅の効果・効能

銅には以下のような効果・効能が報告されています。

■貧血予防

赤血球に含まれるヘモグロビンを作るのに銅は欠かせません。ヘモグロビンは全身に酸素を運ぶ役割があるため、銅が不足している人が摂取すると、銅欠乏性貧血対策につながります。

■殺菌・消毒作用

銅は昔から菌を繁殖させない道具の材料として用いられてきました。具体的には、銅を使った洗面器や台所の生ごみ受けなどに活用されています。銅の殺菌・消毒作用は、チフス菌やO-157にも効果的ということがわかっています。生活道具に銅を用いることで、食中毒予防が可能です。[※3]

■酵素の部品となる

銅は約10種類の酵素の合成にも必要不可欠な成分です。たとえば免疫に関わる酵素のシトクロムCオキシダーゼや、抗酸化作用があるSOD酵素、メラニン色素を作るために必要なチロシナーゼなどの合成に銅が使われています。そのため、銅は免疫力アップ、抗酸化作用強化、肌や髪の健康を守るために役立ちます。[※4]

どのような作用があるのか

銅は赤血球の形成を助ける金属のため、不足すると銅欠乏性貧血になります。全身に酸素を運ぶ役割となっているのが、血液中に含まれる赤血球です。赤血球内にはヘモグロビンという鉄を含んだたんぱく質が含まれており、鉄が不足することでも貧血になります。銅はヘモグロビンの形成に関わっているため、不足すると赤血球が形成できません。貧血と聞くと鉄不足をイメージすることが多いですが、銅不足の場合もあります。これらのことから銅は銅欠乏性貧血の治療としても使われているのです。[※3]

さらに銅は体内酵素とも関わりがあります。銅が十分体内にあると酵素の働きによって、活性酵素を除去する働きが得られるのです。特に健康維持に重要となってくるのが、SOD酵素です。赤血球にある銅のほとんどはSDO酵素内にあります。SDO酵素は体内に備わる抗酸化物質であり、活性酸素を除去し老化を防ぐためには欠かせません。[※4]

銅は骨の形成にも必要となる金属であり、子どもから大人まで幅広い世代の方が銅を摂取する必要があります。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

普通の食生活をしていれば、銅が不足することはほとんどありません。銅の摂取のほとんどは食べ物からです。地域によって多少摂取量が変わることはありますが、銅欠乏性症状が出るほど不足することは稀です。ただし、何らかの原因で栄養の吸収が阻害されている場合や、必要な栄養が摂れない状況にある場合は、意識して銅を摂らなければなりません。

銅を摂るべきなのは、遺伝的な原因で栄養が吸収しづらい状況の方です。遺伝の問題で銅が吸収できない症状のことを、先天性銅欠乏症と言います。X連鎖遺伝子の突然変異の遺伝により、生まれつき銅を吸収することができません。男子にみられる病気で、発生率は100,000~250,000分の1と非常に稀です。[※5]

また、後天的に銅が吸収しづらくなる原因もあります。具体的には、小児の頃に極度にたんぱく質が不足した場合、乳幼児の下痢が長期間続いた場合、スプルーや嚢胞性線維症で吸収阻害が起きている場合、胃の手術を受けた方、亜鉛の過剰摂取などです。[※5]

通常の食事を長期間とることができず、銅が欠乏している食事を続けている場合も注意しましょう。胃ろうを作っている人で胃に高カロリー輸液を流し込んでいる場合も、銅が不足していないか確認する必要があります。乳幼児の場合は銅が少ない粉ミルクにより、激しい下痢が続いた場合、銅の摂取が必要です。

銅の摂取目安量・上限摂取量

日本人の食事摂取基準(2015年)によれば、銅の1日の摂取推奨量は、18〜29歳の男性が0.9mg、30〜49歳の男性が1.0mg、50歳以上の男性で0.9mg、女性の場合は18〜69歳で0.8mg、70歳以上の女性で0.7mgに定めています。耐用上限量は18歳以上の男女とも10mgとなっています。[※1]

また、厚生労働省は、1日最低でも必要な銅の摂取量(最低銅摂取量)を0.79mgと発表しています。

乳幼児(0~11ヶ月児)の場合は、1日0.3mgが銅の摂取目安量です。また、妊婦の場合+0.1mg、授乳婦の場合+0.5mg付加量が加わります。

サプリメントから銅を摂取する場合も、1日10mgが上限と考えますが、その他の食事からの摂取もあるので、10mgより少なくて良いでしょう。。1日10mgの銅を12週間継続しても異常が出なかったという報告から、上限を10mgとしています。なお、ヨーロッパでは上限が1日5mg、北米やオーストラリア、ニュージーランドでは1日10mgが上限になっています。[※6]

10mgでは多いとしている国もあるので、自分で判断して摂取する場合も、過剰にならないように注意しましょう。

銅のエビデンス(科学的根拠)

銅は人の体内に存在する金属であり、約50%は筋肉や骨にあります。約10%は肝臓に含まれており、ほかにも脳や腎臓にも含まれている金属です。細胞に存在する銅はたんぱく質と結合した状態で存在しており、人体には欠かせない金属だということがわかっています。[※6]

銅は食事から摂ることができるため、普通の生活で不足することはありませんが、先天的な問題で銅が欠乏すると、ヒスチジン銅を用いた治療が必要になります。ヒスチジン銅は1歳になるまで皮下投与する治療法で、1日2回250μgの投与が必要です。3歳になると1日1回250μgの皮下投与が必要となります。このように先天的な原因で銅が欠乏する場合は治療が必要なことからも、銅は人体には欠かせないものだということがわかるでしょう。しかし、先天性銅欠乏に対しヒスチジン銅の投与を行っても、多くの場合で神経発達異常がみられてしまいます。[※5]

銅欠乏は貧血、疲労、白血球の減少を引き起こします。銅は骨の形成に必要な金属のため、不足すれば骨粗しょう症を招くことがあります。神経に損傷が発生すると、手足の感覚麻痺などが起こる可能性もあります。

また、銅はさまざまな酵素の働きに必要であり、活性酸素の除去に関係しています。銅の代謝に障害があるメンケス症候群では、重度の知的障害や嘔吐・下痢を伴います。そのほかにも骨粗しょう症による骨折や硬膜下出血などを合併することが多いです。生後3ヶ月以内にヒスチジン銅による皮下注射を行えば神経障害は予防できるが、結合織異常の改善には至らないのが現状です。[※6]

研究のきっかけ(歴史・背景)

銅が哺乳類に必要な成分ということは、銅貧血のラットへのヘモグロビン再生研究から明らかになっています。さらに銅には大動脈のエラスチン形成にも必要だという報告もあります。哺乳類に銅が必要だとわかる以前から、銅はさまざまな動植物の血中たんぱく質と結合していることが知られていました。さらに銅含有色素が呼吸系化合物として働くことも発見されています。銅の欠乏は牧草を食べる羊や牛にみられていることがわかり、飼料に銅を投与することによって、銅欠乏の症状は回復することがわかりました。[※7]

専門家の見解(監修者のコメント)

文献によると食事で銅が不足することはほとんどなく、銅の吸収の問題や排泄が過剰になったときに起こるものだとされています。

「一般の哺乳動物に銅の欠乏症がみられる。銅の欠乏症としては, 貧血, 成長障害, 胃の異常, 毛髪や羊毛の脱色素症, 異常な羊毛成長, 新生児の運動失調, 繁殖力の低下, 心機 能不全, 心血管の奇形, 胃腸障害 などを含んでいる。銅欠乏により多くの動物は貧血にかかりやすいが, ヘモグロビンの合成低下は, プロトポルフリンやヘム, あるいはグロビンの生合成における異常ないしは鉄代謝の異常から生ずる。ヒトに関しての欠乏症は, 食餌中の銅の不足はほとんどない。セルロプラスミン合成の欠陥, 吸収の減退, 排泄の過多, あるいは疾病と関連した障害によるものである。クワシオルコルでの銅不足血症は食餌中の銅量もしばしば低いが, たんぱく質摂取量の不足もその原因である。」(山根 靖弘 「生体中の微量元素の役割」より引用)[※7]

銅の欠乏が先天性の問題で起きた場合、成長が阻害されることや、運動機能の失調、内臓の問題などを考慮する必要があるでしょう。銅が不足する目安として使えるのが、貧血症状です。普通の生活で銅が不足することは考えられませんが、食事が摂れないときなどに貧血がある場合は、銅欠乏性貧血も疑ってみましょう。

銅を多く含む食べ物

銅は海苔やワカメなどの海藻類や、海老や蟹などの節足動物甲殻類、イカやタコなどの軟体動物に多く含まれています。魚介類1kgあたりの銅含有量が600~45,000µgと幅があるため、海老、蟹、イカ、タコ、貝類を選んで食べるとよいでしょう。

獣鳥類は筋肉部分に銅が多く、内臓にはさらに多くの含有量があります。卵は卵白より卵黄を選んで食べると、銅の摂取がしやすくなるでしょう。銅を多く含む野菜類はゴボウ、レンコン、果物はいちご、ぶどう、バナナなどです。ほかにもキノコ類からも銅を摂取することができます。[※1]

相乗効果を発揮する成分

タコやイカの血液にはヘモシアニンという成分が含まれています。ヘモシアニンはこれらの動物の呼吸酵素であり、銅の化合物が含まれているのが特徴です。そのため、効率的に銅を摂ることが可能です。[※3]

また、銅を吸収するためには、鉄分と亜鉛を一緒に摂ることがおすすめです。鉄分はほうれん草やひじき、鶏レバーなどに、亜鉛は牡蠣やチーズなどに多く含まれています。

銅に副作用はあるのか

銅は欠乏による問題はあっても、過剰摂取による影響はないと言われています。体内には銅を調節する働きが備わっているため、普通の食生活をするうえで銅が過剰摂取となる心配をする必要はないでしょう。銅鉱山などでも銅による職業病はみられていません。[※3]

ただし、銅の排出ができなくなるウィルソン病では問題が出る可能性があります。ウィルソン病とは遺伝子の変異により胆汁中に銅を排出できなくなり、銅が蓄積してしまう病気です。[※8]

ちなみに、近年の研究によれば、銅の不足によりアテローム性動脈硬化の原因になることや、過剰摂取が生活習慣病を悪化させる可能性があることを指摘しているものもあり、今後のさらなる研究が待たれているところです。