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キトサンの効果とその作用

キトサンは、カニやエビといった甲殻類やキノコ類に含まれる「キチン」に化学処理を施して生成された成分。免疫力の向上やコレステロールの減少、高血圧の予防に効果があると言われているほか、医療や畜産、漁業などさまざまな分野で利用されています。このページでは、キトサンの効果効能や作用のメカニズム、摂取目安量、副作用などについて解説しています。

キトサンとはどのような成分か

キトサンとは、エビの殻やカニの甲羅などにある多糖類の一種で、別名「キチン・キトサン」とも呼ばれています。

キチンは、カニやエビといった甲殻類の甲羅、イカなどの軟骨部分、虫や微生物の細胞壁に含まれている動物性の食物繊維のこと。グルコサミンと呼ばれる糖が複数つながった高分子多糖体で、カルシウムやたんぱく質などの成分を除去して精製されたものです。

そのキチンを体内に吸収・消化させるために化学処理を施して生成されたものが「キトサン」なのですが、化学処理を行う際にキチンをすべてキトサンに処理できず、多少のキチンが残ってしまうことから「キチン・キトサン」とも呼ばれています。[※1]

キトサンの効果・効能

キトサンには、以下のような効果・効能があると言われています。[※2]

■高血圧を予防できる

キトサンには、高血圧の要因である塩分を吸着し体外へ排出する働きがあることから、血圧の上昇を抑制する効果があります。

■コレステロールの減少

コレステロールの吸収を阻害、またコレステロールを原料とする胆汁酸を吸着して排出する働きがあります。その働きにより、肝臓は新たな胆汁酸をつくるために血中コレステロールを使用。その結果、血中のコレステロール値が下がります。

■免疫力の向上

キトサンには、免疫機能を担う細胞・マクロファージを活性化させ、免疫力を高める効果があります。

■解毒効果

体にある毒素を吸着して体の外へと排出するため、体のさまざまな不調を改善してくれます。

■脂肪の蓄積を抑える

小腸を通過する際に、腸内に残る食べ物の脂肪を吸着。そのまま体外へと排出する働きがあります。余った脂肪の蓄積を防げるため、肥満を予防する効果が期待されています。

ほかにも次のような効果があるとされています。

■整腸作用

■肝機能の強化

■抗菌効果

■デトックス効果

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

キトサンは免疫にかかわる細胞であるマクロファージを活性化させる作用があります。

マクロファージは、体内に侵入したウイルスや細菌を発見したときに、すぐに免疫にかかわるところに警報を発信。ウイルスや細菌をマクロファージへと取り込んで、酵素で殺菌処理を行ってくれます。その作用によって自然治ゆ力が向上し、病気にかかりにくい健康な体をつくれるのです。

また、キトサンはコレステロールからつくられる胆汁酸を吸着・排出する作用があります。胆汁酸が減少すると血中のコレステロールを新たに使用して胆汁酸がつくられるため、コレステロールを減少させることにつながります。[※3]

特に血管壁に付着するLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を減らせるので、心筋梗塞や動脈硬化の予防が期待されています。[※2]

また、キトサンは不溶性食物繊維でもあり、便秘改善作用と肥満予防にも役立つとされています。小腸で消化されないキトサンには、腸内にある余った脂肪を吸着してそのまま排出する働きがあるため、肥満予防にもつながるのです。

塩分過多な食生活を送っている人は、塩分に含まれるアンジオテンシン変換酵素の活性化によって高血圧になりやすい傾向がありますが、キトサンを体内に取り込むと食物中の塩素を吸着して排泄してくれるので、血圧上昇が抑制されます。[※4]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

キトサンには、コレステロール値を低下させる作用や脂肪の蓄積を防ぐ働き[※2]があります。そのため、コレステロール値が気になっている人や、脂肪の蓄積を防ぎ肥満を予防したいと考えている人は、キトサン摂取を意識すると良いでしょう。

また、キトサンには血圧の上昇を抑える効果や免疫機能を向上させる効果[※2]も期待できるため、高齢化や生活習慣の乱れによる健康状態が気になっている人にもおすすめです。

キトサンの摂取目安量・上限摂取量

キトサンの摂取量は、1日2g程度が適量だとされており、2gまでの摂取で健康に悪い影響を与えたという報告はされていません。[※5]

ただし、キトサンを大量に摂取した場合、栄養素の一部が吸収されにくくなったり、人によっては便秘になったりすることがあります。過剰摂取はせず、適正摂取量を守りましょう。

キトサンのエビデンス(科学的根拠)

桐生大学にて、キトサンをはじめとする食物繊維が、脂質分解酵素のひとつである、すい臓リパーゼの活性にどのような影響を及ぼすのか明らかにする研究が行われました。

研究では、ほかの食物繊維の胆汁酸吸着率が1~2%だったのに対して、キトサンの胆汁酸吸着率は60%と高いことがわかったのです。

この結果から、キトサンの胆汁酸吸着率はほかの食物繊維より極めて高いことが判明。そして、キトサンがリパーゼという酵素を阻害する働きは、キトサンが胆汁酸を吸着除去することで基質の乳化状態に変化を起こさせ、結果リパーゼ活性を阻害したのではないかと推察されました。[※6]

また、崇城大学薬学部薬学科で行われた慢性腎不全のモデルラットを用いた実験では、腎機能、酸化ストレスに及ぼすキトサンの影響についての結果が報告されています。

研究では、キトサンの投与4週間後における、生化学パラメータ(生物学的材料)の変動を調査し、キトサンを投与したラットの体重、血中グルコースの低下が確認されたのです。

このことから、従来報告されているキトサンの血清コレステロールの低下や血糖上昇抑制、脂質消化吸収抑制などの働きに起因すると考えられています。[※7]

北海道大学の甲田哲之氏によって実施されたラットおよびヒトによる実験では、キトサン摂取における脂質、脂溶性生体異物(生体にはない化学物質)の糞便中への排泄に及ぼす影響について調査が行われました。

その結果ラット、ヒトともにキトサンの摂取によって、経口摂取した脂質や脂溶性生体異物を含む便の排泄を促すことがわかりました。

脂溶性生体異物の排泄に関しては、糞便中への総脂質排泄量とプラスの比例関係が示されています。[※8]

研究のきっかけ(歴史・背景)

キトサンのもととなるキチンの成分名は、ギリシャ語で「封筒」を意味する言葉であり、フランスの科学者・A.オジールが名付けたと言われています。

キトサンは、かつて一部の研究者たちの間でのみ研究が行われていました。しかし、1970年代のアメリカではじめられた「未利用生物資源の活用」にて、キトサンが注目を集めるようになったのです。

日本では、1980年代に農林水産省の「未利用生物資源・バイオマス」開発10か年計画によってキトサンの研究が開始されました。[※2]研究を進めるなかで、キトサンの効能が広範にわたることがわかったのです。

現在キトサンは、漁業や畜産用の餌料、殺虫・殺菌剤、手術用の縫合糸など、さまざまな分野で利用されています。なかでも、キトサンは人間の細胞や生態となじみが良いため、皮膚の病気に対する治癒効果が高く、医療分野でも利用されています。

専門家の見解(監修者のコメント)

研究や調査が進められるなかで、コレステロールの減少作用や免疫力の向上、脂肪の蓄積を抑える働きなどの効果効能が明らかになったキトサン。そんなキトサンについて、日本キチン・キトサン学会会長の草桶秀夫氏は、次のようにコメントしています。

「キトサンは生理的機能の解明が進められ、生活習慣病の予防や治療のための健康食品や医薬品素材としての利用が注目されている」(キチン・キトサンの最新科学技術~ 機能性ファイバーと先端医療材料 ~より引用)[※9]

また、キトサンのもととなるキチンに関して、福井大学医学部の地域政策講座を担当する藤井豊教授は以下のように述べています。

「キチンの代謝循環は、地球の環境を保全する大きな原動力となり、病原性微生物などに対する人や動植物の自己生体防御機能を高めています。

そのため、越前ガニなどのキチンを使った健康食品の開発や、カエルツボカビから自然生態系を保全するための応用研究が、本学を含む大学・企業による産学官協働で進められています」(福井大学公式サイト キチン・キトサンの自然循環と健康な生活 より引用)[※10]

さまざまな研究機関が研究・調査を進め、キトサンは健康維持に欠かせない成分だとわかってきました。また健康面以外の効果も認められ、現在では医療分野や農業、環境など、さまざまな分野で利用されています。

健康面以外の作用に関してはまだ不明な点があり、現在でも研究が進められています。今後の調査・研究が注目されているが成分です。

キトサンを含むもの

キトサンは動物性食物繊維で、主にカニやロブスター、エビ、シャコなどの甲殻類に豊富に含まれています。ほかにも、昆虫の外皮、貝やイカなどの器官、キノコ類の細胞壁などにも含まれています。

一般的に、キトサンの原料としてカニの殻が用いられますが、その殻には約30%ものキトサンのもととなるキチンが含まれています。[※2]

一緒に摂りたい成分

キトサンと一緒に摂りたい成分は「水分」です。キトサンは水分を保持する働きが高く、適度な水分と合わせて摂取することで便を軟らかくしてくれます。

逆に、水分が不足してしまうと便が硬くなり、便秘になる可能性があるため、キトサンを摂取する際は十分な量の水を飲むようにしましょう。[※4]

キトサンの副作用

キトサンは食物繊維のため、摂り過ぎると下痢や便秘を引き起こすおそれがあります。胃腸が弱い人は、摂取を控えると良いでしょう。ごくまれなケースですが、体質によっては腹痛や吐き気、湿疹、倦怠感、眠気などを招くおそれもあります。[※11][※4]

また、キトサンは甲殻類の外骨格から採取されるため、甲殻類アレルギーのある人はアレルギー反応が起こる場合があるので注意しましょう。[※12]

妊娠中、または授乳期の女性に対する安全性についても十分な情報が報告されていません。そのため、安全性を考慮して摂取は控える必要がありそうです。

ほかにも、キトサンと脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンE、ビタミンDなど)を併用摂取すると、吸収を阻害する相互作用が起こり、脂溶性ビタミンの効果が減少します。脂溶性ビタミンを摂りたいときは時間をずらして摂取しましょう。

注意すべき相互作用

キトサンはワルファリンと併用すると、ワルファリンの効果を強めるおそれがあります。
ワルファリンは、血液の凝固を抑える医薬品です。

キトサンにも血液の凝固を抑える働きがあると考えられており、ワルファリンと併用すると出血や粘膜や皮膚の組織中に出血することで起きる紫斑(しはん)が生じるリスクが高まります。

そのため、ワルファリンを使用する際はキトサンの摂取を避けましょう。[※12]

参照・引用サイトおよび文献

  1. 三愛製薬株式会社 「キチン・キトサンとは?」 
  2. 「これは効く!食べて治す 最新栄養成分事典」(中嶋洋子、蒲原聖可 株式会社主婦の友社 2017年p156)
  3. 「もっとキレイに、ずーっと健康 栄養素図鑑と食べ方テク」(中村丁次 朝日新聞出版社 2017年8月 p250「キトサン」)
  4. 「最新版 医療従事者のためのサプリメント・機能性食品事典」(吉川敏一、炭田康史 株式会社講談社 2009年2月p118)
  5. 日本キチン・キトサン学会「キチン・キトサンQ&A」
  6. 榮昭博、関﨑悦子「膵臓リパーゼ活性の阻害に及ぼすキトサンの影響」【PDF】
  7. 平賀歩、安楽誠 ほか「慢性腎不全モデルラットにおけるキトサンの腎保護及び抗酸化効果」(キチン・キトサン研究 Chitinand Chitosan Research VoJ. 19,No. 1,pp. 24-27,2013)【PDF】
  8. 甲田哲之「キトサン摂取が脂質および脂溶性生体異物の糞便中への排泄に及ぼす影響」【PDF】
  9. 「キチン・キトサンの最新科学技術~機能性ファイバーと先端医療材料~」(日本キチン・キトサン学会編 技報堂出版株式会社 2016年7月)
  10. 福井大学「キチン・キトサンの自然循環と健康な生活」
  11. 一般社団法人日本サプリメント協会「キチン・キトサン」
  12. 「健康食品・サプリメント成[成分]すべて ナチュラルメディシン・データベース」(一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター編 同院書院 2012年10月 p187)