名前から探す

チェストツリーの効果とその作用

チェストツリーは、紀元前400年頃から婦人系疾患の治療に用いられてきた植物です。チェストツリーの果実(チェストベリー)から抽出したエキスには、PMS(月経前症候群)や月経異常、母乳の出を良くする、バストアップ、不妊症対策などに効果があるといわれています。しかし、なかには信憑性の低い不確かな情報が混在しているほか、副作用や相互作用についてもあまり知られていません。ここでは、チェストツリーの効果効能、研究データにもとづいた作用のメカニズムについて解説しています。さらに副作用や相互作用、禁忌となる人の情報についてもまとめました。

チェストツリーとはどのような植物か

チェストツリー(和名:セイヨウニンジンボク)は、南ヨーロッパや中央アジア原産の植物で、高さ2~3mの落葉低木です。夏には淡い紫色の花をつけ、株全体からよい香りがし、葉の部分から精油が抽出されます。花が咲いた後にできる果実はチェストベリーと呼ばれます。

果実から抽出したエキスには女性ホルモンを調整する作用があり、ヨーロッパでは古くから婦人科系の不調の改善に役立てられてきました。またチェストベリーの種もすりつぶしてハーブティーとして飲めますが、苦味と辛味があるため、ほかのハーブとブレンドして飲みます。種はコショウの代わりとしても使われていました。[※1]

日本では、2014年にチェストベリーの乾燥エキスを有効成分とする医薬品が発売されました。これは生理前の不快な症状に対する効能を日本で初めて取得した医薬品で、PMS(月経前症候群)の症状軽減の薬効が認められています。[※2]

チェストツリーの効果・効能

チェストツリーは女性ホルモンがかかわる次のような症状・疾患に効果があるといわれています。

■月経前症候群(PMS)/月経前不快気分障害(PMDD)

乾燥させたチェストツリーの果実(チェストベリー)から抽出したエキスを摂取することで、PMSの症状(下痢や便秘、腹痛、頭痛、乳房やお腹のはり)やPMDD(怒り、気分の浮き沈み)が軽減するという実験結果が報告されています。[※3][※4]

■月経困難症

チェストツリーの果実から抽出したエキスを摂取することで、月経異常(生理周期の乱れや月経過多など)の改善が期待できます。[※5]

■不妊症

受精卵が着床しやすい子宮をつくる黄体ホルモンの分泌を促し、少しずつ妊娠しやすい体質に導いてくれます。[※6]

■ニキビ

チェストツリーから抽出したエキスには、ホルモンバランスを整える成分と抗菌・抗カビ作用をもつ成分が含まれているため、大人ニキビの改善に有効だといわれています。[※5]

そのほか、母乳の分泌量を増やす、乳がんを予防するなどの効果も期待されていますが、科学的な研究データは不十分です。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

チェストツリーには、フラボノイドやアルカロイド、イリドイド(ファイトケミカルの一種)などの有効成分が含まれています。これらの有効成分はホルモンを分泌する器官(脳下垂体)にはたらきかけて、女性ホルモンのバランスを整えます。

女性ホルモンには「エストロゲン」と「プロゲステロン」があり、どちらか一方が過剰に分泌する、または不足するとそのバランスが乱れ、体の不調が生じます。

チェストツリーに含まれる有効成分は、エストロゲンの分泌を抑制して、プロゲステロンの分泌を促す作用があるため、プロゲステロンが不足している人に有効です。ホルモンバランスが正常化することにより、PMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)、月経困難症などが改善されます。

プロゲステロンには子宮内膜を厚くして、受精卵の着床率を高める作用もあります。そのため、プロゲステロン不足が原因の不妊女性には、チェストツリーの摂取がすすめられています。

また、チェストツリーに含まれるアルカロイドには、攻撃的な感情を減少させるはたらきがあります。PMDDによる怒りやイライラが軽減するのは、アルカロイドの作用だと考えられています。

イリドイドは主に薬用植物に含まれる成分で、抗菌作用をもっています。フラボノイドがホルモンバランスを整え、イリドイドがアクネ菌にアプローチすることでニキビ改善に繋がると考えられています。[※7] [※8][※9]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

チェストツリーはPMS(月経前症候群)や月経異常など、女性特有の悩みを抱えている人におすすめです。ただし、チェストツリーはエストロゲンの分泌量を抑え、プロゲステロンの分泌を促す作用があるため、エストロゲン不足の人が摂取すると逆効果になってしまうケースもあります。

チェストツリーの効果を得るためには、事前に女性ホルモン検査を受けて、どちらの女性ホルモンが不足しているかを確認してから摂取しましょう。[※10]

チェストツリーの摂取目安量・上限摂取量

チェストツリーを経口摂取する際は、チェストベリーのエキスが含まれる製剤を利用します。

サプリメントの場合は製剤によってチェストベリーのエキスの配合量が異なるため、パッケージに記載されている目安量を守りましょう。

チェストベリーのエキスを含む医薬品(プレフェミン)は、1日1錠を服用します。ただし、18歳未満の服用は禁止されています。[※11]

チェストツリーのエビデンス(科学的根拠)

チェストツリーとチェストベリーの研究データをご紹介します。

ドイツでは、2001年に研究者Schellenberg Rがチェストベリーエキスを使った実験を行いました。被験者はPMS(月経前症候群)の女性170名です。

チェストベリーエキスを摂取するグループ(86名)と偽薬を摂取するグループ(84名)に分けてPMS症状の変化を比較したところ、チェストベリーエキスを摂取したグループは、PMSによる下痢や便秘、腹痛や頭痛、気分の浮き沈み、乳房やお腹のはりなどが改善しました。

ただしこの実験では、チェストベリーエキスを摂取したグループのうち4名と、偽薬を摂取したグループのうち3名が体の不調を訴え、試験を中断しています。

実験の結果から、チェストベリーエキスの摂取によってPMS改善効果が期待できるものの、体質によっては副作用リスクがあると考えられます。[※3]

2003年、トルコにあるFırat UniversityのAtmaca Mらは、PMDD(月経前不快気分障害)に対するチェストツリー抽出エキスの影響を調査しました。

実験で用意されたのはチェストツリー抽出エキスとフルオキセチン(うつ病やPMDDの治療薬)です。どちらを摂取しているか対象者には教えず、摂取後にPMDD改善度を測定。

実験の結果、チェストツリー抽出エキスとフルオキセチンの両方に効果がみられました。具体的には、チェストツリー抽出エキスは身体的症状をより軽減し、フルオキセチンは精神的症状を軽減したと報告されています。

このことから、チェストツリー抽出エキスはPMDD治療薬とは異なる有効性をもっていると考えられています。[※4]

研究のきっかけ(歴史・背景)

チェストツリーの実であるチェストベリーは、コショウの代わりとして生や乾燥させたものを料理に使い、世界各地で栽培されています。また、生理痛や生理不順、更年期障害などの婦人科系の不調に用いられ「女性のためのハーブ」とも呼ばれてきました。

中世ヨーロッパでは、性欲を抑える作用があるとして「修道士のコショウ」と呼ばれ、修道院で使われていたという歴史もあります。

近年ドイツなどで研究が進み、ホルモンに似た成分が脳下垂体に直接作用することが解明され、PMS(月経前症候群)の治療薬として認可されました。[※1]

19世紀のアメリカでは、生理不順や母乳の出をよくする薬として処方されたといわれています。

また日本には明治中期に渡来したといわれており、2014年に初めてPMSの治療薬として認可されました。[※2]

専門家の見解(監修者のコメント)

ポートサイド女性総合クリニック「ビバリータ」の公式サイトでは、清水なほみ院長が更年期障害とチェストツリーの関係を解説しています。

「更年期障害の症状を速やかに改善するにはホルモン補充療法が最も有効ですが、ホルモン補充療法の補助的役割やホルモン剤を使うほどではない場合に漢方薬やサプリメントを使うこともあります。

例えば、ホルモン補充療法でのぼせやほてりはなくなったけれどめまい感がなんとなくスッキリなくならないという場合、めまい対して漢方を追加で使ったりします」

「症状がそれほど強くはないけれど様々な不調がある場合や、ホルモン剤そのものに抵抗がある方の場合、症状と体質に応じた漢方薬を処方したり、サプリメントをお勧めしたりすることもあります」

「植物性の女性ホルモン様物質として大豆イソフラボンがあります。継続的に摂取することによって、更年期症状を改善する事は、学会でも報告されているんですよ。他にも、更年期の方によくお勧めするサプリメントは、ピクノジェノール・チェストツリー・ブラックコッホッシュ・グルコサミンなどです」

(ポートサイド女性総合クリニック~ビバリータ~公式サイト「更年期障害」より引用)[※12]

婦人科、女性心療内科、美容内科、女性内科を手掛けている清水院長によると、比較的症状の軽い更年期障害の場合、チェストツリーのサプリメントを食事療法に用いているそうです。

チェストツリーを上手に摂取するには

チェストツリー(チェストベリー)は、サプリメントで摂取できるほか、ハーブティーや料理などで摂ることができます。

PMS(月経前症候群)や更年期障害などの症状がつらいときに、温かいハーブティーにして飲むと体が温まり、症状を和らげるのに役立ちます。以下のレシピは、PMSや更年期障害の諸症状に効果のあるハーブのブレンドティーです。

ブレンドするジャーマンカモミールは痛みを和らげ、セントジョーンズワートはイライラや落ち込みなどの気分を安定させ、セージはほてりやのぼせを解消する効果があります。[※1]

■チェストベリーのティー(ティーカップ約3~4杯分)

【用意するもの】

  • チェストベリー…小さじ1
  • ジャーマンカモミール…小さじ1
  • セントジョーンズワート…小さじ1
  • セージ…小さじ1
  • 沸騰したお湯…約500ml

【つくり方】

  1. チェストベリーはすり鉢で細かくすりつぶしておく
  2. ハーブをティーポットに入れ、沸騰したお湯を注ぐ
  3. 3~5分蒸らし、ティーカップに注いでいただく

一緒に摂るべきハーブ

チェストツリー(チェストベリー)と同じように、婦人科系の症状に効果のあるハーブをブレンドし、ハーブティーで摂ると効果的です。以下のようなハーブの中から2~3種類を選んで、基本は等倍の比率でブレンドします。[※1]

  • アンジェリカルート
  • ラズベリーリーフ
  • レッドクローバー
  • レディースマントル など

このほかにも、ローズやラベンダー、ジャーマンカモミールなどのリラックス効果があるハーブをブレンドするのもよいでしょう。

チェストツリーの副作用

摂取した初月は、月経前の諸症状が強くあらわれることがありますが、ほとんどの人は翌月までに落ちつきます。

ただし、体質によっては発疹やかゆみ、月経異常などがおこりします。これらの副作用があらわれたら服用を直ちに中止して、医師にみてもらいましょう。[※13]

プレフェミン(チェストベリー配合医薬品)が禁忌となる人

次の項目に該当する人は、症状悪化や副作用が強くあらわれる可能性があるため、プレフェミンの使用が禁じられています。[※13]

  • 授乳中の女性
  • チェストツリーまたはチェストベリーのアレルギーをもっている
  • チェストベリーを含む食品・サプリメントを摂取している

また、以下の項目に該当する人は、プレフェミンを摂取する前に医師または薬剤師へ必ず相談してください。[※13]

  • 医師の治療を受けている
  • 過去に薬を飲んでアレルギー症状があらわれたことがある
  • 漢方製剤を服用している
  • うつ病患者
  • 慢性的な胸のしこり、はりがある
  • 月経不順

注意すべき相互作用

相互作用がおこる可能性がある医薬品は以下です。[※14]

■エストロゲン製剤

チェストツリーの作用によって、エストロゲン製剤の効果が弱まる可能性があります。■パーキンソン病治療薬(ドーパミン受容体作動薬)

パーキンソン病治療薬とチェストツリーは、どちらも脳に影響を与える物質が含まれているため、作用や副作用が強くあらわれるおそれがあります。

■抗精神病薬(ドーパミン受容体拮抗薬)

チェストツリーはドーパミンを活性化させるため、ドーパミンを減少させる抗精神病薬の効果が弱まる可能性があります。

■避妊薬(ピル)

チェストツリーと避妊薬を併用摂取すると避妊薬の効果が弱まることがあります。

参照・引用サイトおよび文献

  1. ジャパンハーブソサエティー著『ハーブのすべてがわかる事典』(2018年4月 株式会社ナツメ社発行 p132)
  2. 薬事日報「【新製品】月経前症候群の不快症状を緩和‐西洋ハーブ薬『プレフェミン』発売 ゼリア新薬」
  3. Schellenberg R. Treatment for the premenstrual syndrome with agnus castus fruit extract: prospective, randomised, placebo controlled study. BMJ. 2001 Jan 20;322(7279):134-7. PubMed PMID: 11159568; PubMed Central PMCID: PMC26589.
  4. Atmaca M, Kumru S, Tezcan E. Fluoxetine versus Vitex agnus castus extract in the treatment of premenstrual dysphoric disorder. Hum Psychopharmacol. 2003 Apr;18(3):191-5. PubMed PMID: 12672170.
  5. 健康食品データベース 第一出版 Pharmacist's Letter/Prescriber's Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳
  6. Gerhard I I, Patek A, Monga B, Blank A, Gorkow C. Mastodynon(R) bei weiblicher Sterilität. Forsch Komplementarmed. 1998;5(6):272-278. PubMed PMID: 9973660.
  7. 福岡市天神 産婦人科 荘田レディースクリニック「ホルモン分泌について」
  8. 【PDF】一般財団法人沖縄県薬剤師会「チェストツリー(チェストベリー)」(おきなわ薬剤師会報No.244 2010年1月号掲載)
  9. 【PDF】株式会社ファンケル「これからの『大人ニキビ』対策の新常識?!化粧品とサプリメントの併用で大人ニキビの減少を確認」
  10. 鶴川台ウィメンズクリニック「女性ホルモン検査でわかること1・性周期と無月経」
  11. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「プレフェミン」
  12. ポートサイド女性総合クリニック ビバリータ「更年期障害」
  13. 【PDF】ゼリア新薬「西洋ハーブ チェストベリー配合 プレフェミン」
  14. 田中平三ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)