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カモミールの効果とその作用

ハーブティーのほか、精油としてアロマテラピーなどでも親しまれているカモミール。フルーティーな香りが特徴で、リラックス効果や安眠効果、鎮痛効果が期待されている植物です。
ここでは、カモミールの効果・効能や作用のメカニズムなどを解説しています。相乗効果を発揮する精油や、カモミールの使用方法などもまとめました。

カモミールとはどのような植物か

カモミールとはキク科の植物で、ハーブティーに使用されることでも有名です。原産地はヨーロッパですが、現在は世界各地で栽培されています。

カモミールの香りがリンゴの香りに近いことから、古代ギリシャ語で「地上のリンゴ」を意味する「カマイ・メロン」が語源だといわれています。[※1]

カモミールには数多くの種類があります。そのなかでも薬用や香料として使用される代表的なものは、ジャーマンカモミールとローマンカモミールの2種類で、それぞれ香りや味が異なります。一般的にハーブティーに利用されているのは、苦みが少ないジャーマンカモミールです。

■ジャーマンカモミール

ジャーマンカモミールは、ヨーロッパ全域~アジア西部が原産のキク科植物。草丈が約30~60cmまで生長する一年草です。[※2]

ジャーマンカモミールの花は直径2cmほどで、成熟するにつれ白い花弁が反り返っていき、中心の黄色い部分が盛り上がっていきます。黄色い部分をつまむと可憐でフルーティーな香りを放ちます。葉に芳香はありません。

ドイツでは頭痛や風邪、下痢などの症状があるときに薬草茶として利用されてきました。また、ジャーマンカモミールに含まれる成分(カマズレンやアピゲニンなど)には抗炎症作用があり、ストレスからくる胃痛を抑えるハーブティーとして飲まれています。外用としては、うがい剤や入浴剤などに利用されています。[※3]

■ローマンカモミール

ローマンカモミールは、西ヨーロッパや北アフリカ、アゾレス諸島などが原産地で、草丈が30cmほどまで生長する多年草です。

ジャーマンカモミールの花と類似していますが、ローマンカモミールの花のほうが少し大きめ。中心部はジャーマンの花より平たくなっています。また、花だけでなく、葉や茎にも青リンゴのような香りがあります。

開花時期以外は草丈が低い状態で、横に広がって咲きます。踏みつけられても立ち直るたくましさがあるため、香りのある芝生として栽培されることが多いようです。[※4]

さらに、周辺の植物を元気にするはたらきがあるため、別名「植物のお医者さん」ともいわれています。[※5]

精油に鎮静効果があることから、アロマテラピーに利用されています。また、最近は化粧品にも使用されています。

カモミールの効果・効能

ジャーマンカモミールとローマンカモミールに含まれる成分は異なりますが、共通する効果・効能が複数あるので、ご紹介します。[※2][※6][※7][※8]

■安眠・リラックス効果

カモミールは、筋肉の緊張を解きほぐし、気分をおだやかにする効果にすぐれているので、リラクゼーションや不眠の解消に役立ちます。

■鎮痛効果

痛みをやわらげる作用と、体を温めて痛みを改善するはたらきがあるため、肩こりや腰痛、頭痛、歯痛などの痛みの緩和に適しています。

■婦人科系の症状の緩和

気分を落ちつかせて痛みをやわらげ、体を温める効果があるので、月経痛やPMS、更年期障害の症状緩和に用いられます。

■消化促進効果

消化を助け、胃腸の調子を整えるはたらきがあり、胃炎や消化不良、下痢の解消などに役立ちます。また、リラックス効果により、ストレスが原因の胃痛にも用いられます。

■肌の調子を整える

炎症を抑える効果があるので、湿疹や皮膚炎、日焼け、ニキビなどのケアに役立ちます。また、肌の弾力を取り戻すはたらきもあり、化粧品の原料として使われています。

■風邪の初期症状やアレルギー症状の緩和

体を温めて発汗を促がし、粘膜を保護するはたらきがあるため、風邪やアレルギー症状をやわらげるのに役立ちます。

■アンチエイジング

老化の原因とされるたんぱく質の糖化を防ぐはたらきがあり、糖尿病や骨粗しょう症、肌のシミやしわの予防が期待できます。

■歯肉炎、口臭の予防

炎症を抑え、粘膜を保護するはたらきがあるので、口内を健康に保つのに役立ちます。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

ジャーマンカモミールのもたらすリラックス効果は、アピゲニンという成分によるものです。

アピゲニンは、脳内の物質に働きかけ、興奮状態を鎮めてくれます。そのため、リラックス効果が得られるのです。

ローマンカモミールのもたらすリラックス効果は、アンジェリカ酸という成分によるものです。[※5]

アンジェリカ酸はローマンカモミール精油の主成分で、嗅覚を通して副交感神経に作用して興奮を鎮め、リラックスや安眠効果をもたらします。

また、カモミールの精油に含まれるカマズレンと呼ばれる成分には抗炎症作用があり、アレルギー性皮膚炎や火傷などに効果を発揮します。ほかにも、更年期障害や生理痛、肌荒れといった悩みにも役立ちます。[※9]

このカマズレンという成分は、植物中には存在しません。カモミールの花から精油を抽出する過程(分解・蒸留)で発生します。[※5]

ジャーマンカモミールとローマンカモミールの精油のどちらにも含まれていますが、量が異なります。子どもに利用する際は、含有量が少ないローマンカモミールを選ぶとよいでしょう。[※7]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

カモミールは、心をおだやかにする効果や婦人科系の症状を緩和する効果、鎮痛効果などをもつことから、以下のような人におすすめです。

  • 心を落ちつけたい人
  • 睡眠に悩んでいる人
  • 月経に関する不調を改善したい人
  • 肌の炎症を抑えたい人
  • 胃腸などの不調を緩和したい人
  • 乾燥肌をケアしたい人

カモミールの摂取目安量・上限摂取量

カモミールの摂取目安量および上限摂取量は、はっきりとわかっていません。適切に摂取すれば安全だとされていますが、多量に経口摂取すると嘔吐を引き起こす場合があります。

カモミールのエビデンス(科学的根拠)

2001年に、北海道大学大学院教育学研究科の森谷絜教授らによって、カモミールティーを摂取したときの自律神経機能と感情指標の変化に関する実験が行われました。

対象者となったのは健常な青年男性12名で、45分間のクレペリンテスト(一列に並んだひと桁の数字を足し算していくテスト)を実施してストレスをかけた後に、カモミールティーと白湯(同温・同量)を飲んでもらいました。

カモミールティーと白湯を飲んだときの自律神経機能やリラックス感、末梢温度などの違いをそれぞれ測定。

実験の結果、白湯を飲んだときよりもカモミールティーを飲んだときのほうが心拍数と興奮状態の神経活動がおだやかになり、末梢皮膚の温度が上昇して、リラックスできることがわかりました。[※10]

また、岡山大学大学院医歯薬総合研究科に所属する四宮一昭氏らによって、カモミールの催眠作用についての研究が行われました。

睡眠障害のあるラットを使い、ハーブ「カモミール」と「パッシフローラ」の催眠効果を比較する実験です。体重1kgに対して300mgのカモミール抽出物を使用したところ、寝つくまでの時間が短縮されました。

対して、パッシフローラ抽出物は体重1kgあたり3,000mgを使用しても、寝つくまでの時間に変化がありませんでした。

このことから、カモミール抽出物は眠れない、寝つきが浅いなどの睡眠障害を改善する効果が期待できます。[※11]

研究のきっかけ(歴史・背景)

カモミールは、4,000年以上前の古代バビロニアの時代から薬用として利用されており、負傷した兵士の傷をいやすために使用されていたようです。

また、世界三大美女の1人として有名なクレオパトラも、リラックス効果や美肌目的でカモミールを入浴剤に利用していたとされています。

カモミールが日本に伝わったのは江戸時代。オランダやポルトガルから渡来しました。江戸時代後期の本草学者で蘭方医の飯沼慾斎(よくさい)によって記された植物図鑑の「草木図説」には、カモミールのことが記述されています。[※2][※8]

専門家の見解(監修者のコメント)

一般社団法人日本アロマ蒸留協会の特別顧問と、一般社団法人日本産天然精油連絡協議会の理事を務める長島司氏は、ジャーマンカモミールの香りについて、自身の著書で以下のように記しています。

「ジャーマンカモミールの香りはロマンカモミールのフルーティーノートよりも、全体としてフローラルノートが優先される香りで、お茶を飲むときにその香りを吸入することで、リラックス効果や鎮静効果が得られます」(長島司『ハーブティーその癒しのサイエンス』より引用)[※12]

医学博士で日本整形外科学会専門医である千葉直樹氏もまた、自身の著書でローマンカモミールの香りについて触れています。

「数ある精油の中でも、作用が穏やかなものの1つで、子供に対しても安心して使用できることも、カモミール・ローマンの大きな特徴です。

子供の就寝時や、むずがゆがったり、癇癪を起したりしている時にも、カモミールの香りは助けになってくれます。心地よく眠りたいときの精油としても、ラベンダーやスイートオレンジ、マージョラムと並んでよく使用されます」(千葉直樹『香りで痛みをやわらげる』より引用)[※13]

鎮静効果があるとされるジャーマンカモミールとローマンカモミール。ジャーマンカモミールはハーブティーとして摂取することで心を落ちつかせることができますし、ローマンカモミールは芳香浴や入浴時などに使用することで、心のバランスを保つサポートをしてくれます。目的や状況に応じて使い分けてみると良いでしょう。

カモミールの使用方法

ジャーマンカモミールはハーブティーとして親しまれているほか、ローマンカモミールと同様、入浴や芳香浴、スキンケア、トリートメントなど、さまざまな方法で利用されています。カモミールの代表的な使用方法をご紹介します。

■カモミールミルクティー(2人分)

※カモミールミルクティーにはジャーマンカモミールを使用します

【用意するもの】

  • カモミールのティーバッグ…2個(ティースプーン大盛約2杯分)
  • お湯…1カップ
  • 牛乳…1カップ
  • マシュマロ…お好み
  • シナモンパウダー…お好み

【つくり方】

  1. 鍋にお湯をカップ1杯とカモミールのティーバッグをいれて、3分ほど煮出します
  2. 煮出したら(1)の鍋に牛乳を加え、再度火にかけます
  3. 沸騰する直前に火を止め、鍋にふたをして1~2分ほど蒸らします
  4. 温めておいたカップに注ぎ、マシュマロとシナモンパウダーをお好みでいれます
  5. 浮かべたマシュマロが溶けたら飲み頃です

牛乳と合わせるとカモミールの甘い香りがより引き立ちます。また、温かいカモミールミルクティーを飲むと体が温まるので、寒い冬や風邪を引いたときなどにおすすめです。

■アロマバス

【使用する材料】

  • ローマンカモミール精油…1滴
  • ラベンダー精油…1滴
  • サンダルウッド精油…1滴

【使用方法】

約37~39度の湯ぶねに使用する精油を1滴ずつ落として混ぜ、湯ぶねにつかります。精油が乾燥で生じたかゆみを抑えて、肌の炎症を鎮めてくれます。[※5]

相乗効果を発揮する精油

カモミールをオイルとして使用する場合、以下の精油と相性がよいといわれています。[※5]

■ジャーマンカモミール…イランイラン・クラリセージ

月経や更年期のトラブルといった婦人科系の悩みがある場合は、イランイランやクラリセージなどとプレンドすることで効果が高まるといわれています。

また、かゆみなどの皮膚トラブルはメリッサ、消化器系の不調には柑橘系の精油とブレンドすると良いでしょう。

■ローマンカモミール…ローズ・ジャスミン・ラベンダー

婦人科系の悩みで精油を利用する場合は、ローズやジャスミンとのブレンドがおすすめ。ラベンダーとの相性も良く、ブレンドするとリラックス効果が高まります。

カモミールの副作用

ジャーマン、ローマンともに適切に利用すれば安全です。

しかし、どちらもキク科植物のため、キク科の植物に敏感な人はアレルギー症状を引き起こすおそれがあります。

ローマンカモミールは、子宮収縮や月経促進など子宮を刺激する作用があるため、妊娠中の摂取は避けてください。

また、ジャーマンカモミールにおいても妊娠中・授乳中の使用に関して、安全性のデータが不十分なため使用は控えましょう。[※14]

注意すべき相互作用

ローマンカモミールと相互作用が起こる医薬品は、現在のところ確認されていません。

ジャーマンカモミールは、以下の医薬品との相互作用が懸念されています。[※14]

■肝臓で代謝される医薬品

併用することで、医薬品の作用や副作用を増強させるおそれがあります。

■鎮静薬

過度な眠気を引き起こす可能性があります。

■ワルファリンカリウム

血液凝固を抑制するワルファリンカリウムと併用することで、血液凝固の抑制が過剰になり、出血や紫斑(しはん)が生じるリスクが高まります。

■避妊薬(経口避妊薬)

避妊薬の効果を弱める可能性があります。

■タモキシフェンクエン酸塩

がん治療および抑制のために使用されるタモキシフェンクエン酸塩ですが、カモミールの併用によって効果が弱まる可能性があります。

■エストロゲン(卵胞ホルモン)製剤

エストロゲン製剤の作用を弱めるおそれがあります。

参照・引用サイトおよび文献

  1. 【PDF】角田(矢野)悦子 森谷絜「総説植物カモミールの摂食が心身に及ぼす効果」(北海道大学大学院教育学研究科紀要 第97号 2005年 12月)
  2. ジャパンハーブソサエティー著『ハーブのすべてがわかる事典』(株式会社ナツメ社 2018年4月発行)
  3. NHK出版 みんなの趣味の園芸「ジャーマンカモミールの基本情報」
  4. NHK出版 みんなの趣味の園芸「ローマンカモミールの基本情報」
  5. 梅原亜也子 著『新版 これ1冊できちんとわかるアロマテラピー』(株式会社マイナビ出版 2016年2月発行 p155,p166-p167)
  6. 榊田千佳子、渡辺肇子監修『いちばんわかりやすいハーブティー大事典』(株式会社ナツメ社 2011年5月 発行 P52、P164)
  7. 渡邊聡子監修『アロマテラピーのきほん事典』(株式会社西東社 2010年10月発行 P50~51)
  8. わかさの秘密「カモミール(カミツレ)」
  9. 佐々木薫『きほんのアロマテラピー』(主婦の友社 2016年6月発行 p91)
  10. 【PDF】森谷絜 ほか「カモミール茶摂取による自律神経機能と感情指標の変化一青年男性における検討一」(バイオフィードバック研究, 28:62-70)
  11. Shinomiya K, Inoue T, Utsu Y, Tokunaga S, Masuoka T, Ohmori A, Kamei C.「Hypnotic activities of chamomile and passiflora extracts in sleep-disturbed rats.」Biol Pharm Bull. 2005 May;28(5):808-10. PubMed PMID: 15863883
  12. 長島司『ハーブティーその癒しのサイエンス』(フレグランスジャーナル社 2010年12月発行 p42-p43)
  13. 千葉直樹『香りで痛みをやわらげる』(フレグランスジャーナル社 2011年12月発行)
  14. 田中平三ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)