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アスパラギン酸の効果とその作用

アミノ酸の一種であるアスパラギン酸は、疲労回復効果が有名な成分です。指定医薬部外品の栄養ドリンクの成分として聞いたことがある人も多いはず。L体とD体があり、L-アスパラギン酸はうま味調味料や化粧品などにも利用される身近な成分です。最近になり、D-アスパラギン酸の美肌効果なども注目され始めました。

アスパラギン酸とはどのような成分か

アミノ酸の一種であるアスパラギン酸は、アスパラガスから発見された成分です。体内ではトランスアミナーゼという酵素によって生合成されるため、非必須アミノ酸に分類されます。

アミノ酸にはL体とD体がありますが、生体の構成に関わるアミノ酸はおもにL体とされてきた歴史があり、一般的にアスパラギン酸として知られているのはL-アスパラギン酸です。

L-アスパラギン酸は疲労回復効果が知られている成分で、指定医薬部外品の栄養ドリンクなどでもおなじみです。そのままでは水に溶けにくいので、ナトリウムと結合させ「L-アスパラギン酸ナトリウム」の形で食品添加物に使用されています。医薬品として利用されているのはカリウムと結合させた「L-アスパラギン酸カリウム」です。

L-アスパラギン酸はグルタミンと同じくうま味成分でもあるため、うま味調味料などにも利用されます。L-アスパラギン酸には酸味があり、トマトの味をつくる主成分のひとつでもあります。

清涼飲料水やガムなどに使用される甘味料のアステルパームは、L-アスパラギン酸とフェニルアラニンが原料です。

D-アスパラギン酸についてはこれまであまり注目されず、L体に比べると研究が大幅に遅れていました。しかし近年の分析技術の進歩にともない、D-アスパラギン酸にも体内で重要な生理機能があるということが明らかにされつつあります。

すでにD-アスパラギン酸の美肌効果を利用した製品の開発も進められています。[※1]

アスパラギン酸の効果・効能

L-アスパラギン酸の効果として挙げられるものに、以下のものがあります。

■疲労を回復させる効果

アスパラギン酸は栄養ドリンク剤にも使用されている成分です。[※2]疲労の回復や、スタミナを向上させる効果が期待されています。

■利尿作用によるデトックス効果

アスパラギン酸には利尿効作用があるとされています。医薬品「L-アスパラギン酸カリウム」にも、利尿剤としての効能があります。[※3]

アスパラギン酸は有害なアンモニアを体外に排出することで、デトックス効果や肝機能を守る効果が期待できます。

■体調を整える効果

ストレスにさらされたり、病気にかかったりすると、体内でビタミンやミネラルが消費されます。アスパラギン酸にはカリウムやマグネシウムなどのミネラルを細胞に運ぶ作用があり、体のバランスを整えてくれる効果が期待されます。

■美肌効果

アスパラギン酸は体内のタンパク質を構成するアミノ酸であり、肌の新陳代謝を高める効果が期待できます。

最近の研究では、D-アスパラギン酸のコラーゲンへの作用が発見され[※1]、美肌づくりに重要な成分としても注目されています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

L-アスパラギン酸は、カリウム、マグネシウムなどのミネラルを細胞に運ぶ役割があり、クエン酸回路(注1)を円滑に回すことに役立っています。

「クエン酸回路」とは、言わばエネルギーをつくり出す工場のようなもので、食事で摂った栄養を取り込み、エネルギーに変換します。このクエン酸回路がうまく回らないと、体に不調があらわれ、乳酸などの疲労物質がどんどん溜まってしまいます。[※4]

クエン酸回路をスムーズに回すために必要なもののひとつが、カリウムやマグネシウムといったミネラルです。L-アスパラギン酸はこれらのミネラルを運びクエン酸回路に働きかけることで、代謝を促進して疲労回復に役立つとされているのです。

また、L-アスパラギン酸にはグリコーゲンの生成を促す作用もあります。グリコーゲンはエネルギーの貯蔵庫とも呼ばれる物質で、必要に応じてエネルギーに変換される成分です。

そのためグリコーゲンが増加することでスタミナのアップにもつながります。アスパラギン酸を摂取させたラットでの実験からも、グリコーゲン濃度が高まったという結果が報告されています。[※5]

L-アスパラギン酸には毒素であるアンモニアを尿として体外に排出する作用もあるため、デトックス効果による疲労の回復も期待できます。

このように、L-アスパラギン酸は、さまざまな角度から疲労回復に働きかけているのです。

また、L-アスパラギン酸には、中枢神経で興奮性神経伝達を担う興奮性アミノ酸としての側面もあります。[※6]この作用により、ストレスへの抵抗性を高める効果も期待されます。

D-アスパラギン酸は体内に単独で浮遊しているため、「遊離 D-アミノ酸」とも言われます。皮膚内や血中に存在しますが、なかでも皮膚の真皮の中のD-アスパラギン酸濃度がほかと比べて高いことが、明らかにされています。[※1]

肌の真皮のD-アスパラギン酸には、コラーゲン繊維を強固にする作用や抗酸化作用があり、ハリのあるみずみずしい美肌をつくるために効果を発揮します。

また、D-アスパラギン酸には、男性ホルモンであるテストステロンの合成を促す作用も報告されています。

ラットを使った実験では、性腺刺激ホルモン(注2)とD-アスパラギン酸を一緒に与えることで、性腺刺激ホルモンだけの場合より、テストステロンの合成や分泌が増強されたという結果が出ています。[※7]

D-アスパラギン酸は精子や精液、卵巣の卵胞液中にも存在することが近年明らかになっていて、ヒトの生殖機能への作用が示唆されています。

(注1)TCA回路、クレブス回路などとも呼ばれ、酸素呼吸をするあらゆる生物に備わっている。糖や脂肪の代謝に不可欠な生化学反応回路のこと。

(注2)性腺刺激ホルモンとは、精巣や卵巣に刺激を与えてその発育や機能などに多様な反応を誘発させるホルモンの総称

どのような人が摂るべきか、使うべきか

疲労回復の成分として知られるL-アスパラギン酸は、ストレスや疲れを感じている人、体の調子を整えたい人におすすめできる成分です。

L-アスパラギン酸は運動により消費されるので、スポーツをする習慣のある人も積極的に摂ることをおすすめします。スタミナを向上させる効果も期待できるため、日頃から疲れを感じやすい人も注目してみるとよいでしょう。

L-アスパラギン酸は皮膚の代謝を促進させるため、保湿や肌荒れ防止の化粧品やヘアケア剤にも利用されています。また、D-アスパラギン酸の美肌効果も注目されているため、肌のコンディションが気になる人にも役立つ成分と言えそうです。

アスパラギン酸の摂取目安量・上限摂取量

アスパラギン酸の摂取目安量などの規定は今のところありません。食品添加物としての利用でも、1日の上限量などはとくに決まっていません。

L-アスコルビン酸は欠乏すると疲れやだるさを感じやすくなったり、アンモニアが排出されにくくなり肝臓機能の低下などが起こったりする恐れがあります。[※8] 

アスパラギン酸は通常の食生活をしていれば欠乏症の心配はそれほどありませんが、偏食の人やダイエットをしている人は注意が必要です。また、アスパラギン酸は激しい運動でも消費されるので、運動の後は意識して摂取しましょう。

D-アスパラギン酸についてはまだ研究がじゅうぶんではなく、欠乏症などの報告は今のところありません。

アスパラギン酸は体内で合成できますが、その量は加齢により減少します。[※9]そのため食事からも積極的に取り入れることが大切になります。

アスパラギン酸のエビデンス(科学的根拠)

D-アスパラギン酸について、資生堂が興味深い研究を行っています。D-アスパラギン酸をとくに多く含むとされる玄米黒酢に注目し、玄米黒酢を配合した美容ドリンクを用いた臨床試験です。

21~45歳までの20名の女性に3か月間摂取させ、角層内のD-アスパラギン酸の量を計測しました。すると摂取から2か月でD-アスコルビン酸の量の増加が認められ、試験後のアンケートでも、乾燥やシワが軽減し、肌ツヤが改善したとの結果が出ました。[※9]

経口摂取したD-アスパラギン酸が肌の角層まで届くこと、そしてD-アスパラギン酸の美肌効果、この2点が上記の臨床試験によって、明らかにされました。

資生堂ではとくにD-アミノ酸に関する研究開発が盛んに進められていて、D-アミノ酸の代表としてD-アスパラギン酸に早くから着目してきました。美容成分としてのD-アスパラギン酸の今後のさらなる応用研究も期待されます。

研究のきっかけ(歴史・背景)

1806年にアスパラガスから発見されたアスパラギン酸。当初はL-アスパラギンの加水分解物(注3)とされてきました。その後1868年にL-アスパラギン酸はたんぱく質の加水分解物としても得られます。[※10]

一方、L-アスパラギン酸の研究や食品、医薬品への利用が進む中、D-アスパラギン酸については最近まであまり注目されてきませんでした。ヒトの体内で機能を持つのはほとんどがL体だと考えられていたからです。

しかし近年、D-アスパラギン酸にコラーゲンへの作用[※1]や、男性ホルモンであるテストステロンの合成を促す作用[※7]など、さまざまな生体への機能が報告されていて、D体に関する研究にも注目が集まりつつあります。

(注3)加水分解物とは、水の作用により分子が分解する反応で得られた分解物のこと

専門家の見解(監修者のコメント)

アスパラギン酸が発見された100年以上のあいだ、体に機能するアスパラギン酸と言えばほとんどがL-アスパラギン酸と考えられてきました。しかし最近になり、D-アスパラギン酸に対する評価は大きく変わってきています。

北里大学薬学部の本間 浩教授は、D-アスパラギン酸の研究が進まなかった原因について

「合成経路や酵素の解析が進展していないことや、D-Asp(D-アスパラギン酸)の標的タンパク質が同定されていないこと」(「哺乳類体内の遊離型 D-アスパラギン酸の振舞いと機能」生化学 第80巻 第4号[※7]より引用)

だと推測しています。

そしてテストステロンの合成や分泌を促す作用を中心に、D-アスパラギン酸の性質を多方面から紐解き、分析した結果を以下のように述べています。

「D-Asp が内分泌系の調節に深く関わっていることが示唆される。今後、哺乳類における遊離 D-Aspの研究が進展することが期待される」[※7]

また、D-アスパラギン酸をはじめとするD-アミノ酸の研究を行う「D-アミノ酸学会」のホームページにも、以下のような記述があります。

「D-アミノ酸は生命現象の様々な局面において重要な生理機能を有することが明らかとなって来ました。しかし、その代謝や生理作用の分子レベルでの研究はやっと緒についたばかりであり、D-アミノ酸の研究には今後のさらなる進展が期待されています。」

(D-アミノ酸学会 「D-アミノ酸学会設立趣意書」[※11]より引用)

アスパラギン酸を多く含む食べ物

L-アスパラギン酸を多く含む食材は、大豆や大豆製品、もやし、レンコン、サトウキビ、牛肉、鶏肉などです。

アスパラガスから発見されたためもちろんアスパラガスにも含まれますが、じつはほかの食材に比べて特別多く含まれているわけではありません。

アスコルビン酸は熱に弱い性質があるため、料理の際には加熱のしすぎに注意しましょう。

D-アスパラギン酸は黒酢や黒豆、醤油やチーズ、日本酒などの発酵食品などに多く含まれています。[※12][※9]

相乗効果を発揮する成分

アスパラギン酸は、カリウム、マグネシウムなどのミネラルを細胞に運ぶ役割をするため、これらのミネラルと一緒に摂ることが効果的です。

カリウムはバナナ、メロンなどの果実類、ほうれん草などの野菜類、イモ類、豆類、魚類、肉類などの食品に含まれています。またミネラルは豆やひじきなどの海藻、キノコ類などに豊富に含まれます。

どちらも幅広い食品に多く含まれますが、とくにミネラルは加工品ではなく、自然界の食材に含有される成分です。そのためこれらの食材を利用し、毎日の食事からバランスよく摂取することが重要になります。

味噌汁、焼き魚、納豆、根菜煮、お浸しといった、昔から私たちになじみのある和食には、ミネラルやアスパラギン酸がバランスよく含まれているのがわかります。

インスタント食品やお菓子などの加工食品をよく食べるという人は、最近疲れやすくなっていないか、注意してみましょう。

アスパラギン酸に副作用はあるのか

アスパラギン酸を食材から摂る場合の副作用の報告はありません。サプリメントから摂取する場合は、商品に記載されている摂取目安量や容量を守りましょう。