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アラニンの効果とその作用

アラニンは体内で合成される非必須アミノ酸の一種で、エネルギーの代謝に重要な役割を担います。甘みとうま味を持ち、食品の味を引き立てるため調味料にも利用されます。アルコールの分解を促す作用も報告されていて、二日酔いに効果的な成分としても知られています。

アラニンとはどのような成分か

アラニンはたんぱく質を構成するアミノ酸の一種です。体内で合成される非必須アミノ酸に分類されます。アラニンはほぼすべてのたんぱく質に存在しており、細胞質、血液、肝臓、筋肉など、さまざまな組織の構成成分です。

エネルギーの代謝に不可欠なアミノ酸のひとつであり、最も利用されやすいエネルギー源だとされています。

アラニンはうま味と甘味を持ち、イカや貝類の味を構成しているアミノ酸です。過度の酸味や塩味、苦味などをマイルドにして、ほかの調味料の味を引き立ててくれる作用もあります。[※1]

アラニンには、「L-アラニン」「D-アラニン」「DL-アラニン」という3つの種類があります。アラニンに限らずアミノ酸にはL体とD体が存在しており、これまでヒトの体内で機能するアミノ酸はL体だけだとされてきました。

しかし、近年の分析技術の向上などからD-アミノ酸についての研究が進み、さまざまな効果が発見されています。DLアラニンとは、D-アラニンとL-アラニンの等量混合物です。[※2]

一般的に二日酔いにはアラニンを多く含むシジミがよいと言われていますが、二日酔いに効果的なアラニンはL-アラニンです。

また、β-アラニンという成分もありますが、上記のアラニンとは構造異性体(原資の結合順序が異なる物質)で、たんぱく質を構成するアミノ酸ではありません。筋肉中のカルノシン、アンセリンなどに多く存在している成分です。

アラニンの効果・効能

アラニンには以下の効果・効能が知られています。

■二日酔い予防や肝機能を高める効果

アラニンにはアルコールの代謝を促進する作用があるとされ、二日酔いを予防し、肝機能を効果が期待されています。

■持久力を高める効果

アラニンは運動時に必要なグルコースの産生にも深く関わっています。マラソンなどの持久力が必要なスポーツのエネルギー補給にも有効性が認められています。[※3]

■美肌効果

アラニンはコラーゲンを構成するアミノ酸のひとつです。そのためアラニンの摂取や、アラニンが配合された化粧品を使用することで、美肌効果が期待できます。[※4]

また、D-アラニンが角層内で美肌に作用しているという報告もあり、加齢による肌の老化を予防するためのスキンケア用品も開発されています。[※5]

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

アラニンがエネルギー代謝に重要だとされるのは、エネルギー源となるグルコースの産生に関与しているためです。

絶食時(飢餓状態のとき)、筋肉ではたんぱく質を分解して得たアミノ酸からグルコースを作ろうとしますが、筋肉では分解に必要な酵素がないためグルコースを作ることができません。

そこでアラニンが血液を介して肝臓に送られ、糖新生(注1)によってアラニンがピルビン酸に変換され、グルコースが産生されます。また、筋肉ではグルコースが解糖系(注2)によりピルビン酸に分解されて、アラニンが作られます。

このようにグルコースとアラニンは、血液を介して循環しているのです。お互いを生み出すこの回路のことを「グルコース・アラニンサイクル」と言います。[※6][※7]

そもそもアミノ酸にはアミノ酸基転移という反応があり、アミノ酸から別のアミノ酸を合成することができます。

ピルビン酸からアラニン、アラニンからピルビン酸が作られるのも、アミノ酸基転移反応によるものです。アラニンはピルビン酸にグルタミン酸のアミノ基を転移することにより体内で合成されます。[※6]

アラニンがアルコールの分解を促す仕組みにも、上記のグルコース・アラニンサイクルが関係しています。

アルコールと、アルコールの中間代謝物質で二日酔いの原因とされるアセトアルデヒドは、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という補酵素により分解されます。

分解のさい、NAD+はNADH(還元型)に変わり、次第にNAD+の量は減少して分解スピードが低下していきます。

アラニンは、グルコース・アラニンサイクルにおいてグルコースに変換される過程で、NADHをNAD+に戻す働きをします。そのためアラニンを摂取するとNAD+の量が増え、アルコールの分解をスムーズに進めてくれるのです。[※7]

(注1)糖新生とは、グルコースをグリコーゲンやデンプンなどの加水分解ではなく、アミノ酸など(炭水化物以外)から合成すること

(注2)解糖系とは、1分子のグルコースから2分子のピルビン酸を作り、グルコースを体内で使いやすい形に変換していく代謝過程のこと

どのような人が摂るべきか、使うべきか

アラニンは、普段からよくお酒を飲む人や、肝臓に負担をかけるような生活を送っている人におすすめです。お酒を飲むときには、アラニンが含まれる食品を意識して摂取すると二日酔いを予防する効果が期待できます。

スタミナを高める効果も認められており、疲れやすいと感じる人、体力レベルが落ちてきた高齢者、マラソンなどの持久力が必要なスポーツをする習慣のある人にも有用な成分です。

アラニンの摂取目安量・上限摂取量

アラニンの摂取量は定められていませんが、ほとんどのたんぱく質に含まれるため、基本的には通常の食事で不足することはあまりないと言われています。[※8]

アラニンが不足した場合の症状として、肝機能の低下により二日酔いが起こりやすくなる、エネルギー代謝が制限されることから太りやすくなる、疲労感があらわれる、などが考えられます。

アラニンのエビデンス(科学的根拠)

アラニンとアルコール代謝ついては、以下のエビデンスからもその効果が示されています。

10人の健康な成人男性にアルコール摂取前と後での血中のアミノ酸濃度を調べた試験データで、アラニンの減少量がとくに多く認められました。[※7]

また、22人の健康な成人男性にアルコールを摂取させ、その後アラニンとグルタミンを摂取したグループと、プラセボとして砂糖を摂取させたグループに分け調査をしたところ、アラニンとグルタミンを摂取したグループのほうが呼気中アルコール濃度の低下が早く、アンケートでも酔い醒めが3倍近くの差でよくなっているという結果が出ました。[※7]

これらの結果から、アルコールの代謝にアラニンが使われ、さらにアラニンを摂取することでまた代謝が活発になるということが分かり、アルコールの分解をスムーズにする効果が期待できそうです。

一方、D-アラニンの美肌効果については、2013年に資生堂が世界で初めて解明しました。[※5]

それによると、D-アラニンに、加齢によって機能が低下する基底膜(注3)の構成成分である、ラミニン 5 の産生を促す作用があり、肌のアンチエイジング効果が期待できるということです。

(注3)基底膜とは、表皮と真皮が接している部位で、非常に薄くデリケートな膜

研究のきっかけ(歴史・背景)

アラニンは1850年に、天然由来のものが発見される前に、ドイツの化学者ストレッカーにより化学合成されました。

その後1875年に天然の絹のアルカリ性分解物質から分離して見出されました。現在アラニンは絹のほかにも、貝類や海藻、肉、大豆など、さまざまな食品に存在することがわかっています。[※9]

また、甘みやうま味があることが知られ食品添加物や栄養の強化に使われるだけでなく、医薬成分として総合アミノ酸製剤などに活用されるなど、さまざまなジャンルで活用されています。

専門家の見解(監修者のコメント)

アラニンは身近なアミノ酸のひとつで幅広い用途があり、その機能性や性質については専門家により以下のように説明されます。

味の素(株)中央研究所基盤研究所の木村毅研究員は、アミノ酸にはそれぞれに味があり、アラニンには甘みと、

「高濃度では甘味のほかにうま味も呈する」

(Ajico news シリーズ“アミノ酸”No.9 アミノ酸の味[※10]より引用)

としています。さらに最近の研究で、

「イノシン酸とうま味の相乗効果を示すことが確認された」[※10]

ことに注目。うま味の相乗効果とは、うま味成分とほかのうま味を合わせることで、ひとつだけのときより、うま味を何倍にも強く感じることです。[※11]この現象は、アラニンがグルタミン酸の味覚受容体に弱く結合したことで起こったと考えられています。

アラニンはメイラード反応による褐変(褐色物質を生み出す反応)が少ないため、アラニンを加えても食品が変色しにくいという特徴があります。[※1]見た目だけでなく、食品の味を引き立てる食品添加物として利用しやすい成分でもあります。

またL-アラニンは、エネルギー代謝に欠かせない成分です。味の素(株)アミノ酸事業本部の馬渡一徳氏は

「アラニンは筋肉から肝臓に移行して糖新生に用いられ、新たな糖を生じることにより、生体は運動時に必要な糖を持続的に供給できる仕組みとなっている。長時間の運動時には筋肉や肝臓に蓄えられた糖の供給源であるグリコーゲン量が限られているだけに、このような糖新生の仕組みは重要である」

(Ajico news シリーズ“アミノ酸”No.15 アミノ酸の生理機能[※12]より引用)

と説明。運動時に重要な成分として、今後もスポーツ栄養食品などに活用されていくと考えられます。

また、最近ではD-アラニンの研究も進められています。D-アミノ酸研究会のホームページでは、

「哺乳動物脳内に高濃度に存在する遊離D-アラニンの役割は現在のところ不分明ですが、水性甲殻類などではD-アラニンがオスモライトとして機能することが知られています」

(D-アミノ酸学会 D-アミノ酸研究会趣意書[※13]より引用)

と言及。ヒトについては未解明ながらも、生命体へのD-アラニンの機能性を示していることから、今後のD-アラニンの研究の発展に期待したいところです。

アラニンを多く含む食べ物

アラニンは貝類に多く含まれています。とくに、ホタテやシジミといった貝類に豊富です。生のシジミには可食部100gに対して480㎎のアラニンが含まれています。[※14]

「二日酔いにシジミの味噌汁が効く」とよく言われますが、シジミはアラニンのほかにもオルニチンやグルタミンといった肝臓の保護に役立つとされる栄養素が含まれています。

貝と身のエキスを無駄なく摂取できるシジミ汁は、アラニンをはじめとした肝臓をサポートする成分が効果的に摂取できると考えられます。アラニンは、貝類のほかに、牛・豚・鶏のレバーなどにも多く含まれています。

相乗効果を発揮する成分

アルコールの代謝を調べる実験では、アラニンとグルタミンの摂取により、分解スピードが速くなるとの報告があります。[※7]

お酒をよく飲むという人は、アラニンとグルタミンが含まれるサプリメントや、これらが含まれる食品を摂取するとよいでしょう。

また、運動時には、アラニンと同じ非必須アミノ酸の一種であるプロリンを同時に摂取することで、マラソンの走行スピードを高めるなど、競技パフォーマンスを向上させることがわかっています。[※3]

アラニンに副作用はあるのか

アラニンには体内でも合成されるアミノ酸であり、副作用などの報告はありません。

過剰に摂取しても分解されて体外に排出されるため、過剰症の心配も少ないとされています。[※8]ただし多く摂れば摂るほど健康になれるというものではないため、ほかの栄養素とのバランスが大切です。

食事を三食きちんと摂ることを基本にし、それでも不足だと感じる場合にサプリメントなどを利用することをおすすめします。