センナはマメ科の植物で、強い緩下(便通を良くする)作用を持つことから、便秘改善薬に配合されています。その効果や安全性は米国食品医薬品局(FDA)にも認められています。ただし、過剰摂取や長期間服用をすると副作用が起こるため注意が必要です。ここではセンナの効果・効能や副作用について、科学的根拠や専門家の見解をもとに解説しています。
センナはメディカルハーブとして用いられているCassia(カシア)属の植物です。別名番瀉葉(ばんしゃよう)とも呼ばれます。アフリカ原産の小さな木で、主に葉や茎、果実が薬として利用されます。
センナには似た種類の植物が多くありますが、主に使われているのはインド半島あたりで栽培されているチンネベリー・センナと、エジプトのナイル川流域で栽培されているアレクサンドリア・センナです。
センナは9世紀ごろから緩下(便通を良くする)薬として使われており、現在は葉と果実が米国食品医薬品局(FDA)に医薬品として承認されています。その強い緩下作用から、市販の便秘改善薬の原料となっています。
センナの葉と果実には緩下作用を持つセンノシド類が含まれていることから、便通を良くする緩下薬としての利用が一般的です。
茎は医薬品ではありませんが、葉や果実と似た作用が期待できるとして、健康茶に利用されています。
ただ最近では、センナの健康茶を飲んだことによる健康被害も報告されているため、飲む際は注意しましょう。
センナには以下の効果・効能が示されています。[※1][※2]
■便通を良くする
センナの葉や果実から腸の動きを活性化し、便通を良くする効果が得られます。ただしセンナを含む刺激性の下剤は慢性便秘の改善には不向きなので、長期的な摂取は推奨されていません。
センナを摂取すると、成分として含まれるセンノシド類が小腸や血液を通って大腸に入ります。センノシド類は大腸の細菌類に分解されて緩下(便通を良くする)作用を持つレインアンスロンに変化。[※5]
レインアンスロンは腸の粘膜を刺激したり、腸壁の運動を促したりするため、結果として排泄物が腸内を通りやすくなって便通を良くします。[※6]
即効性があるので、すぐに効果を得たい場合に使用するといいでしょう。ただし腸に負担をかけやすいため、腹痛が起こる可能性もあります。
便通を良くする効果があることから、突発的な便秘や月経に伴う便秘の人に適しています。効果が高いため、ここぞというときにだけ使いましょう。
あくまで急性便秘を改善するためのものなので、不規則な生活やストレスが原因で慢性便秘になっている人や、腸のねじれが原因で起こる便通障害の人には不向きです。
センナの使用目安量は、含まれている成分(センノシド類)の量に左右されます。
センナに入っているセンノシド類のヒドロキシアントラセン誘導体(センノシドB)は、1日あたり15~30mgまでの摂取が目安量として定められています。[※1]
センナを使用した医薬品を摂取する場合は、以下の摂取量を目安にしましょう。
【センナを主成分とする薬剤の使用目安】[※4]
センナはほかの便秘改善薬のように排泄物をやわらかくするのではなく、そのまま排便を促すので、腸や肛門に負担がかかりやすくなります。副作用を引き起こすおそれがあるため、過剰摂取や長期間の使用は推奨されていません。
現在、持病などで薬を服用している人はかかりつけ医に、薬局で購入する場合は薬剤師に使用上の注意を聞いて、適切に使用しましょう。
センナの効果について、小児と高齢者において臨床試験の結果が報告されています。
君津中央病院小児外科の村松俊範医師は、便秘で来院した患者6名を対象に、治療薬としてセンナエキスを処方しました。センナエキスは体重にかかわらず、1日1回寝る前に摂取してもらっています。
治療の結果、センナエキスを摂取した患者で、半数の症状が改善したことがわかりました。しかし、1年間摂取させたところ、症状が改善されない人が多くなり、逆に悪化した人も見られるようになりました。
このことから、センナエキスには便秘の改善効果があることと、長期摂取では逆に症状を悪化させてしまうことが明らかになりました。[※7]
グループホーム北淡に所属する高田富弘氏(介護福祉士)は、センナ茶を使った排便の改善を調べています。
毎日排便がなく下剤を使用している男性1名と女性1名を対象に、朝食後と夕食後にセンナ茶200mlを飲んでもらい、試験の前と比べて排便の間隔や下剤の使用量、便の状態を確かめました。
試験後は男性と女性の両方で排便の間隔が短くなり、下剤の使用量が女性は1/6、男性は1/16に減ったことがわかっています。便の状態も改善し、下痢便と軟便の割合が減ったと報告されました。[※8]
センナは古代エジプト時代からナイル川流域にあるアラビアで下剤として利用されてきた植物です。
エジプトで書かれた世界最古の医学文書といわれる『エーベルス・パピルス』(B.C.1552)に下剤として記載されており、アラビアの医者が11世紀ごろにヨーロッパへ広めたようです。センナのもう一つの産地であるインドの『スシュルタ本集』にも記述があり、薬用として使われていたことがわかります。
ただし、アラビア医学の古書である『ディオスコリデスの薬物書』には載っていなかったことから、アラビアで利用されるようになったのはそこまで古くないと考えられています。
センナが世界的に大きな人気を得たのはヨーロッパに伝わってからで、下剤が必要な人に頻繁に利用されました。センナは大黄やアロエと同じように、よく利用される植物性下剤のひとつとなっています。
日本では1820年に『和蘭薬鏡』でセンナの使い方が載っていることから、ヨーロッパで利用されていたものが伝わったと考えられています。明治22年(1889年)に発行された『日本薬局方第1版』には、瀉下薬(便秘改善薬)として掲載されました。
現在もお茶や粉末剤、シロップ剤として欧米で広く使われていますが、腸のはたらきを活発化するはたらきが強いため、日本では医薬品として扱われています。
センナの効果については研究が進んでおり、便通を良くする効果が認められています。最近は葉や果実が医薬品として使われるだけでなく、茎が健康茶にも利用されています。
センナの茎は食品に分類されるのですが、葉や果実と同じように便通を良くするセンノシド類が含まれています。そのため、センナ入りの健康茶による緩下作用が強すぎて、問題になっているようです。
星薬科大学の高橋美津子(現:横浜市衛生研究所)氏は論文内で、センナに食品と医薬品の部分が混ざっていること、センナだけでなく同じCassia属の植物にもセンノシド類が含まれることが問題だと述べています。
「医薬品『センナ』に関しては、その瀉下成分であるセンノシド A(SA)及びセンノシド B(SB)が検出されただけでは薬事法で規制できないという問題点がある」
(高橋美津子「健康茶中「センナ」の基原植物を異同識別するための指標成分の探索及び当該指標成分を用いた「センナ」識別法の確立」より引用)[※10]
センナは食品として扱われる部分と医薬品の部分が正確に分けられないため、健康茶にセンノシド類が入っていても規制ができず、健康被害を増やしてしまうことになりかねません。
しかも、健康茶の中にはCassia属の植物を使用している製品もあることから、完全に規制するのは難しいと考えられています。
高橋氏はセンナの有効成分を含む健康茶について、こうも述べています。
「SA・SB を含む市販健康茶が法規制できないまま市場に出回ることは、健康危機管理上、大いに問題である。日本医薬品集10)では、“SA(センノシドA)・SB(センノシドB) の服用について、特に妊産婦、乳児及び高齢者には注意を要する”、とされていることから、SA・SB を含んだ健康茶の品質を評価することは重要と考える」
(高橋美津子「健康茶中「センナ」の基原植物を異同識別するための指標成分の探索及び当該指標成分を用いた「センナ」識別法の確立」より引用)[※10]
高橋氏はセンノシド類を含む健康茶が法律で規制できないまま出回ることについて、健康の面から危機感を感じているとのこと。
センノシド類は腸を活発化する作用が強く、妊娠中・授乳中の人や乳児、高齢者が使用する際は注意が必要だとされています。そのため、センナを含む健康茶の品質を確かめ、副作用が起こるリスクをなるべく下げることが重要な課題となってくるでしょう。
センナの茎には少量とはいえ、有効成分が含まれています。過剰摂取すれば副作用が起こりやすくなり、健康被害をもたらすリスクも上がります。使う場合は医師と相談し、自分の体質に合っているか確認したうえで飲むようにしてください。
センナをそのまま摂取する場合は、細かく刻んだ葉0.5~2gをぬるま湯で煮出し、朝または寝る前にティーカップ一杯を飲むようにしてください。
効果が強いため、摂る場合はティーカップ一杯程度に留めておくことをすすめます。胃腸への効果が気になる人は、作用が強く出ない水出しで抽出するといいでしょう。
果実を使う場合、茶さじすりきり半分の量をぬるま湯150mlに10分ひたしてから、こして使ってください。果実茶もティーカップ一杯の摂取で十分な効果が期待できます。
センナと相乗効果を発揮する成分は報告されていません。単独で緩下(便通を良くする)作用が強いため、ほかの成分と合わせると体に悪影響をおよぼすおそれがあります。
センナは腸の動きを活発にするため、過剰摂取や長期間の使用で、胃の不調や腹痛、下痢などの症状を引き起こす可能性があります。[※5]
特に長期間の使用は腸の機能を低下させ、弛緩性便秘になるリスクを高めるので、2週間以上継続して摂取しないようにしてください。飲み続けると大腸内の色が黒くなる「大腸メラノーシス」の発症リスクを高めます。
また、体内のイオン物質が少なくなり、心機能の障害や筋肉の衰え、肝機能障害などの副作用が生じるおそれがあります。
もともと胃腸障害やいぼ痔、体内の電解質不足、脱水症状を起こしている人、下痢や軟便の傾向がある人は使わないようにしましょう。
また、妊婦においては子宮の収縮を促す作用があるため、流産や早産の危険性があります。植物性の便秘改善薬は胎盤を通り抜けやすく、赤ちゃんに影響が出る可能性があるため、妊娠中のセンナの使用は避けてください。[※12][※13]
また、授乳している人がセンナを配合した製剤を服用すると、乳児に下痢の症状が見られるケースもあります。なるべく服用を控える、もしくは授乳中は服用しないように注意が必要です。
センナを含む健康茶にも、同様の副作用が出ると考えられています。濃く煮出したり、一度に大量の健康茶を飲んだりすると副作用が起こりやすいため、独立行政法人国民生活センターでは注意喚起を行っているようです。
短期間の使用では安全性が高い成分として認められているので、摂取期間を見極めてうまく活用することが大切です。
センナを一部の利尿薬や心不全治療薬と併用すると、相互作用が現れることがわかっています。[※1]
センナにはカリウム量を減らす作用があると考えられており、カリウムを減少させる利尿剤と合わせて摂取すると、体内のカリウム量が低下しすぎるおそれがあります。
クロロチアジドやフロセミド、ヒドロクロロチアジドなどの利尿薬を処方されている人は、センナの服用を避けたほうがよいでしょう。
また、センナが体内のカリウム量を減らすことで、心不全治療薬に使われるジゴキシンの副作用を強くする可能性があります。リスクを避けるためにも、摂取する前に医師へ相談しましょう。