名前から探す

ナイアシンの効果とその作用

水溶性ビタミンの一種であるナイアシンは、血行促進や肌荒れの改善など、良い効果をもたらす成分として知られています。体内では代謝やエネルギー生産にかかわっていて、不足すると不調を引き起こすことから、体に欠かせないビタミンといえるでしょう。ここではナイアシンについて、効果・効能をまとめています。

ナイアシンとはどのような成分か

ナイアシンは体の中に最も多く存在する水溶性ビタミンで、糖質・たんぱく質・脂質など栄養素の代謝にかかわっている成分です。ナイアシンアミドと呼ばれることもあります。

動物から植物まで幅広く含まれているのが特徴。体内でもアミノ酸のトリプトファンを原料にして合成されます。

ただし生体内で合成されるナイアシンは1日の必要量に足りないため、食品から不足分を補うことが必要です。[※1]

ナイアシンはニコチン酸とニコチン酸アミドの総称で、動物性食品ではニコチン酸アミド、植物性食品ではニコチン酸として含まれています。

水やアルコールに溶けやすく、特に熱湯には非常に溶け出しやすいことから、煮物にしてしまうと70%近くものナイアシンが失われてしまいます。

反対に熱や光、酸、アルカリなどには安定的な性質を持つため、焼く・炒めるなどの調理で減ることはなく、保存も可能です。[※3][※4]

ナイアシンは生体内でさまざまな機能にかかわっています。脳神経のはたらきをサポートする、コレステロールや中性脂肪を分解するなど、健康維持に役立つ作用が多くわかっており[※1]、しっかり摂取するのが望ましい成分といえるでしょう。

ナイアシンの効果・効能

ナイアシンは多くの生理機能にかかわっていることから、さまざまな効果が期待されています。[※1][※2][※3][※7][※8]

■血行を良くする

ナイアシンには血行を良くする効果があり、血流が滞ることが原因の冷えや肩こりなどを改善する作用があります。

■肌荒れの改善

ナイアシンは体内で皮膚や粘膜の代謝をサポートし、健康な皮膚を維持する効果があります。

■生活習慣病の改善

研究から、ナイアシンには中性脂肪や血中の悪玉コレステロール量を減らすはたらきがあることがわかっています。

■二日酔いの予防

ナイアシンは二日酔いの原因となる毒素「アセトアルデヒド」の分解を促進してくれます。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

摂取したナイアシンは小腸で吸収されます。

ナイアシンの種類によって吸収の仕方が異なり、ニコチン酸アミドはそのまま肝臓へ、ニコチン酸として摂取した場合は肝臓でニコチン酸アミドに変えられてから肝臓に貯めこまれるか、血液からほかの組織に運ばれます。[※1]

その後、ニコチン酸アミドは酸化した細胞に水素を受け渡して還元する酵素NAD、NADPに変換されます。

NADは体内で栄養素の代謝を手助けし、食べたものをエネルギーに変える作用があります。肝臓でアセトアルデヒドの分解を助ける[※2][※3]ため、二日酔いの予防に効果的だといわれています。

NADPはNADからさらに変換された物質で、皮膚や粘膜の修復・再生にかかわっている成分。[※7]そのため、肌荒れの改善やシミ・そばかすの解消にも効果をもたらすと考えられています。

また、最近の研究ではナイアシンを摂取することで血中の悪玉コレステロール値が下がり、中性脂肪が減るという結果が報告されました。[※3]

血行を良くする効果もわかっており、高血圧や肥満などの生活習慣病を予防・改善できる効果が期待できます。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

ナイアシンは血行促進や肌荒れ改善などの効果を持っているため、生活習慣が乱れがちな人におすすめの成分だといえます。

深酒や夜更かしなどで生活習慣が乱れると、血行不良や高血圧などの症状が起こる場合がありますが、ナイアシンはコレステロール値の低下や二日酔いの原因である毒素の分解など、健康回復に役立つ成分であることは間違いありません。

ナイアシンの摂取目安量・上限摂取量

日本人の食事摂取基準(2015年版)では、ナイアシンの摂取目安量は成人で4.8mgNE(ナイアシン当量:ニコチン酸+ニコチン酸アミドの量)/1, 000 kcal、推奨量は11~15mgNE/1, 000 kcalとなっています。

高齢者においても摂取量と排泄量がほとんど変わらないことから、摂取目安量は4.8mgNE/1, 000 kcal、推奨量は11~15mgNE/1, 000 kcalです。

乳児の摂取量は、3mgNE/日と定められています。

乳児の体内においてトリプトファンからニコチン酸アミドは生成されないと考えられているため、摂取単位は1日あたりのmgNEとしているようです。

妊婦・授乳婦に関しては成人の推奨量データから必要量を算出したところ、1日8mgのナイアシン摂取が必要だとされています。

ナイアシンの上限量は15~29歳で250~300mgNE、30~70歳以上では250~350mgNEとなっています。[※4]

ナイアシンのエビデンス(科学的根拠)

ナイアシンの効果にかかわるエビデンスをまとめています。

Austin Hospital のTsalamandris Cらは、糖尿病および糖尿病ではない高脂血症の対象者33名に、高脂血症の薬(プラバスタチン)を使う治療法と並行してニコチン酸(ナイアシン)治療を行いました。

プラバスタチン(40mg/日)だけを与えたグループ、ニコチン酸(1500mg/日)だけを与えたグループに分けて12週間治療。

その後、薬の量を減らしてプラバスタチン(20mg/日)とニコチン酸(1000mg/日)を与えるグループに分け、さらに12週間治療を行っています。

実験前後は、総コレステロール、善玉コレステロール(HDL)、悪玉コレステロール(LDL)、トリグリセリド(中性脂肪)の数値を測定しました。

結果、プラバスタチンとニコチン酸の両方で治療を行った対象者は、善玉コレステロールが増加しトリグリセリドと悪玉コレステロールが低下したことがわかっています。

このことから、ニコチン酸にはコレステロール値を低下させる作用が期待できます。[※9]

骨関節炎に対するナイアシンの効果を調べた研究もあります。

試験では骨関節炎を患っている72名の患者を2つのグループに分け、プラセボ(偽薬)とナイアシンを与えました。試験は12週間続け、その後関節炎の症状と痛み、関節の運動性などを検査しています。

試験後、ナイアシンを与えたグループは炎症を軽減させ、関節の運動性を高めたことがわかっています。この結果から、ナイアシンアミドは関節炎の改善に役立つのではないかと考えられています。[※10]

研究のきっかけ(歴史・背景)

ナイアシンの一種であるニコチン酸が発見されたのは1867年。研究者Huberによってたばこに含まれる有害物質ニコチンを酸化することで、ニコチン酸がつくられました。

ニコチンを酸化して得られたことが由来となり、ニコチン酸と名付けられたようです。

その後、1935年にWarburgが赤血球から水素の受け渡しをする酵素の中に、ニコチン酸アミドが含まれていることを発見。1937年にはElvehjemが犬の黒舌病(ニコチン酸欠乏症)に効くことを明らかにしました。

この結果がもとで、ニコチン酸アミドが人間のニコチン酸欠乏症にも有効だと示唆されました。

現在は研究が進み、欠乏症の治療だけでなくさまざまな効果を期待して使われるようになっています。

専門家の見解(監修者のコメント)

ナイアシンはビタミンB群の中でも生体内に多く存在し、エネルギー生産や代謝にかかわっています。多くの生理機能で重要な役割を持つ、重要なビタミンだといえるでしょう。

近年はナイアシンを摂ることで、疾病が改善したという報告も多く出ているようです。

小早川医院の小早川裕之院長は、ナイアシンの効果について以下のようにまとめています。

「ナイアシンを積極的に摂取することで、症状の改善が認められた例が以前から多数報告されています。うつ病や統合失調症が改善したという報告が多く、また、変形性膝関節症の痛みが軽減したという報告もみられます」

(小早川医院「ナイアシン(ビタミンB3) | 院長ブログ」より引用)[※11]

小早川院長によると、ナイアシンは体のはたらきを保つだけでなく、疾病や精神的な症状の改善にもかかわっているとのこと。上記の疾病に悩まされている人は、ナイアシンを積極的に摂ってみるのも良いでしょう。

また、小早川院長は効果以外に、ナイアシンの欠乏についてもふれています。

「ナイアシンが不足すると皮膚の水疱・角化・乾燥、口角炎、口内炎、食欲不振、不眠症、神経症など多彩な症状が出現します」

「ナイアシンは主に肉、魚、特に刺身に多く含まれています。牛乳や緑黄色野菜、豆類、穀物などにも含まれています。日本人が主食とする精白米は玄米の1/13しかナイアシンを含んでいないので、主食の摂り方にも注意が必要です」

(小早川医院「ナイアシン(ビタミンB3) | 院長ブログ」より引用)[※11]

不足すると起こる症状の説明に加え、ナイアシンが含まれる食材についてもまとめられています。さまざまな食品に含まれているとする一方、日本人の主食である白米にはナイアシンの割合が少ないことも指摘。

十分な量のナイアシンを摂りたいなら、食事にも気を付ける必要があるとしています。

ナイアシンを多く含む食べ物

ナイアシンはさまざまな食品に含まれていますが、特にレバーや魚、豆などに多く入っています。[※6][※12]

ナイアシンを摂取する場合は、レバーや魚などを積極的に食べるとよいとされます。レバーや肉、魚などはたんぱく質が豊富で、ナイアシンの合成に利用されるトリプトファンも含まれています。[※6]そのため、より効率的にナイアシンを補えるからです。。

ただし、煮物や揚げ物にするのはNG。ナイアシンは水や油に溶けやすく、料理の際に煮汁や油に溶けだしてしまうのです。特に煮物は70%近いナイアシンが流れてしまうので注意しましょう。

スープとして汁ごと摂取する場合は問題ありません。

熱や光、酸などには強いため、焼いたり炒めたりする場合は問題ありません。

相乗効果を発揮する成分

ナイアシンは同じ水溶性ビタミンであるビタミンB群と合わせて摂取することで、相乗効果が期待できます。

ビタミンB1は糖質を代謝する作用があるため、併用でより糖質からエネルギーを生み出しやすくなります。

また、たんぱく質の代謝にかかわるビタミンB2との相乗効果で、肌や髪をきれいに保つ効果が期待できるでしょう。

ほかにもビタミンB6はナイアシンの合成を促進する作用があります。合わせて摂ることで、体内のナイアシンを増やすことが可能です。[※13]

ナイアシンの副作用

ナイアシンを過剰摂取すると、一時的な顔にほてりやチクチク感などが起こります。[※15]

痛風ぎみの人が多く摂取すると、痛風の症状が起こりやすくなると考えられています。

また、ニコチン酸アミドは、1型糖尿病患者や脂質異常症患者への大量投与で、消化器系の異常と肝臓障害を引き起こしたケースがあります。[※15]

ナイアシンは体に欠かせないビタミンですが、摂り過ぎには注意しましょう。

医薬品として用いられるナイアシン製剤の副作用は、顔や皮膚の赤み、吐き気などが確認されています。[※14]

ナイアシンの不足で起こる症状

ナイアシンが不足すると、「ペラグラ」と呼ばれるニコチン酸欠乏症が起こります。

ペラグラでは皮膚炎、下痢、認知症のような症状が出るようになり、ひどくなると末梢神経障害が起こることもあります。[※14][※16][※17]

基本的に体内でナイアシンを生成するトリプトファンが少ないトウモロコシを主食とする地域で見られることが多い症状ですが、アルコールを常飲する人に発症することもあるようです。

特に不規則な食事をする、お酒を飲む量・頻度が多い人はナイアシンが消費されやすく、欠乏症になりやすいといわれています。[※16]

参照・引用サイトおよび文献

  1. 則岡孝子監修『新版 栄養成分の事典』(新星出版社 2008年12月発行 p68-69)
  2. 川島由起子監修『カラー図解 栄養学の基本がわかる事典』(西東社 2013年5月発行 p132-133)
  3. 中村丁次監修『栄養素図鑑と食べ方テク』(朝日新聞出版 2017年8月 p120-123)
  4. 【PDF】一般財団法人日本食品分析センター「5-23 ナイアシンについて(2016年8月)」
  5. グリコ「ナイアシン | ビタミン | 栄養成分百科」
  6. 公益財団法人長寿科学振興財団「ナイアシンの働きと1日の摂取量|健康長寿ネット」
  7. 資生堂グループ「ニコチン酸アミド | 美容成分辞典」
  8. MEDLEY(メドレー)「ナイアシン製剤(ニコチン酸、ニコチン酸アミド) - 解説(効能効果・副作用・薬理作用など)」
  9. Complementary effects of pravastatin and nicotinic acid in the treatment of combined hyperlipidaemia in diabetic and non-diabetic patients. PubMed-J Cardiovasc Risk. 1994 Oct;1(3):231-9.
  10. The effect of niacinamide on osteoarthritis: a pilot study. PubMed- Inflamm Res. 1996 Jul;45(7):330-4.
  11. 小早川医院「ナイアシン(ビタミンB3) | 院長ブログ」
  12. 武田コンシューマ―ヘルスケア「ナイアシンの含まれる食べ物は? ビタミン・ミネラル事典 | タケダ健康サイト」
  13. 白鳥早奈英監修『最新版 知っておきたい栄養学』(学研プラス 2013年9月発行 p95)
  14. 田中消化器科クリニック「ビタミンの解説 | アンチエイジング」
  15. 【PDF】厚生労働省「日本人の食品摂取基準(2015年版) ナイアシン」p154-156
  16. 読売新聞「ニコチン酸欠乏症(ナイアシン欠乏症・ペラグラ) : yomiDr. / ヨミドクター」
  17. MSDマニュアル家庭版「ナイアシン - 11. 栄養障害」