フコイダンとは昆布やわかめ、もずくなどの海藻類に多く含まれる水溶性食物繊維の一種です。コレステロールの低下作用や血圧低下作用をはじめとし、がんに対する効果などの研究も進められ、健康食品としても活用されています。ここではフコイダンの効果効能・研究成果・摂取目安量などについて詳しく解説します。
フコイダンとは1913年にスウェーデンのウプサラ大学の教授が昆布のぬめり成分のひとつとして発見した成分です。[※1]
フコイダンは昆布、ワカメ、メカブ、モズクなど、海藻のなかでも「褐藻類」と呼ばれるものにだけ含まれる特有のヌメリ成分で、メカブ由来フコイダン、モズク由来フコイダン、昆布由来フコイダンなど、いくつかの種類があり、構造や構成、含有物質なども原料によって違いがあることがわかっています。
モズクからはフコイダンが豊富に抽出できるため、モズク由来のフコイダンがよく知られますが、メカブ由来のフコイダンはガラクトースや硫酸基といった機能性関与成分が多く含まれ、昆布由来フコイダンにはヌメリが強い、といったそれぞれの特徴があります。
フコイダンの原料は異なっても、主成分は「硫酸化フコース」と呼ばれる糖であり、フコースのほかにはガラクトース、マンノース、キシロース、ウロン酸(いずれも糖類)などが結合している「多糖類」であることがフコイダンの特徴です。つまりフコイダンとは「主成分がフコースである高分子多糖類の総称」といえます。
フコイダンは多糖類であるため、本来分子量が数万以上ありますが、近年、この分子量を500以下の超低分子にした「低分子フコイダン」と呼ばれるものが開発されています。
しかし「多糖」とは「糖が10個以上脱水結合して生じた糖類」という定義があるため、低分子化したフコイダンは2〜3つの糖結合となり「フコイダン」とは呼べない、という指摘もあります。
またフコイダンがさまざまな効果を発揮するメカニズムについては解明されていない部分も多いですが、消化されない高分子であるため腸まで届き免疫系を活性する、という考えがあり、高分子であることに意味がある、高分子だからこそ機能性が発揮される、という報告もあります。[※2]
一方、低分子フコイダンの方が消化管から体内への吸収効率が良い、高分子と低分子で比較した結果、「腫瘍の増殖抑制効果」については低分子のほうにより高い効果がある、といった報告もあります。[※3]
高分子、あるいは低分子のどちらが効果的なのかについての議論にはまだ決着がついていませんが、公益社団法人 日本健康・栄養食品協会の基準では、2017年7月に「フコイダン」=「高分子」ということが同基準の要件と定められました。[※4]
近年はフコイダンにほかの機能性成分を添加した場合の効果効能研究など、さまざまなフコイダン研究が現在も続いています。
日本人は特に古来より海藻を食し、海藻の健康パワーの恩恵を受けてきた民族です。今後ますますフコイダン研究が進み、その機能性が解明されることが期待されています。
フコイダンには以下のような効果・効能が期待されています。
■コレステロール低下効果
フコイダンは水溶性食物繊維であり、腸内で余分なコレステロールや糖分を吸着し、排出する作用が確認されています。[※5]
■生活習慣病予防効果
フコイダンは水溶性食物繊維として、血液中のコレステロール値の減少効果や、抗血糖、抗肥満効果などが報告されており、長期的な摂取で生活習慣病予防に役立つと考えられています。[※6]
■免疫力の向上効果
フコイダンの摂取でNK細胞やマクロファージといった免疫細胞が活性化することが報告されています。そのためフコイダンには風邪やインフルエンザの予防効果やアレルギーの抑制効果が期待されています。[※7]
■がんの予防効果
フコイダンにはがん細胞のアポートーシス(細胞の自然死)を誘導するため、がん細胞の増殖を抑制するのではないか、という研究が進められており、非常に高い注目を集めています。[※8]
■ピロリ菌除去効果
胃の中にフコイダンが存在していると、ピロリ菌が吸着され腸の方へ排出され、ピロリ菌の除去に役立つのではないかと考えられています。[※9]
ほかにもフコイダンにはアレルギー緩和作用、抗ウイルス作用、抗酸化作用、肌の保湿作用、肝機能向上作用など、数々の効果効能が報告されています。[※10]
日本では複数の国立大学や大手一般企業などでもフコイダン研究に力を入れエビデンスの蓄積、安全性試験、商品開発などを行っています。また海外でのフコイダン研究も日本以上に盛んに行われているようです。
フコイダンは10〜50万の高分子の多糖類であるため、基本的には腸から吸収されることは考えられず、フコイダンが効果効能を発揮するメカニズムについても解明には至っていません。現在考えられている説には以下のようなものがあります。
いずれにせよフコイダンが私たちの体内でどの細胞に働きかけているのか、どのようにさまざまな効果を発揮するのか、詳しいメカニズムの解明には至っていません。[※11]
フコイダンは以下のような人にすすめられます。
■免疫力を高めたい人
フコイダンには腸内環境を整え、免疫力を高める効果が確認されています。花粉症などのアレルギーに悩まされている方、アトピー性皮膚炎などに悩まされている方、インフルエンザが流行する1ヶ月程度前から予防的に利用すると良いでしょう。
■生活習慣病を予防したい人
フコイダンには水溶性食物繊維として、糖の吸収をゆるやかにしたり、血糖値の上昇を抑えたり、血中の過剰なコテステロールの排出を助けたりするため、生活習慣病を予防したい方にも適しています。
フコイダンの摂取目安量について、NPO法人フコイダン研究所では以下のように解説しています。
「当研究所が行った様々な研究の結果から、生活習慣病、がんなどの悪性の疾患に対する効果を得るためには、それぞれ1~2g以上、3~6g以上のフコイダンをお摂りになることをお勧めします。
また、免疫力を担う免疫細胞の活性は活動期(昼間)に高くなり、休息期(夜間)に減退します。そこで、1日4回(朝・昼・夜・就寝前)に分けてお摂りになることで、より効果的に免疫細胞を活性化すると考えられます」[※12]
また、がこめ昆布フコイダンのサプリメントを製造している宝ヘルスケア(株)では
「ガゴメ昆布フコイダンの1日の摂取目安量は50~400mgでございますので、その範囲の中での摂取をおすすめしております」[※13]
としており、製品ごとにばらつきがあるようです。
またもずくや昆布などをそのままいただくことも大切です。成人の食物摂取目安量は1日24g以上ですから、日々の食事の中に褐藻類を取り入れることも大切です。
フコイダンの研究は大学や、一般企業でも多数行われており、エビデンスの蓄積も進んでいます。ここではヤクルト製品工業(株)と理研ビタミン(株)による、臨床試験によるエビデンス(科学的根拠)を取り上げます。
■ピロリ菌抑制作用(モズクフコイダン)
ピロリ菌陽性の11名にフコイダン入りのお茶(100mg/日)を10日間継続摂取してもらう試験では、ピロリ菌数が平均で約半分まで減少したことが報告されています。[※9]
■胃潰瘍の改善作用(モズクフコイダン)
胃潰瘍のある6名の成人にフコイダン分包(0.5g/包)を1日2回食間に3か月の継続摂取してもらう試験では、6名中2名に胃潰瘍の病変改善が認められ、4人に症状の改善が報告されています。[※9]
■花粉症緩和作用(メカブフコイダン)
花粉症の自覚がある成人男女32名を対象に、メカブ抽出物を300mg含有するカプセルを花粉が飛散する1か月前より、11週にわたり毎日摂取する試験を二重盲検プラセボ対象試験により実施。
すると、フコイダン摂取グループはプラセボと比較し、目のかゆみ、と涙の症状が抑えられていることが報告されています。[※14]
■インフルエンザ予防
特別養護老人ホームに入所している男女70名を対象にメカブ抽出物を300mg含有する顆粒またはプラセボ顆粒を摂取してもらう二重盲検プラセボ対象試験を行っています。
いずれかの顆粒を9週間毎日摂取してもたった後、インフルエンザワクチンを1回摂取し、試食前の血液と、ワクチン接種後5週間の血液を比較しました。
その結果、フコイダン接種グループの方が、インフルエンザウイルスに対する抗体が多く産生され、さらにNK細胞などの働きも有意に高くなっていることが報告されています。[※15]
1913年にスウェーデンのウプサラ大学でKilyn教授という人物がフコイダンを発見したのが最初だといわれています。ここからフコイダン研究が始まり、1970年代にはフコイダンの抗がん作用について研究発表が登場するようになります。
日本では1966年に宝酒造株式会社がフコイダンの抗がん作用を「第55回日本がん学会」で発表したことがきっかけで、フコイダンの注目が一気に高まりました。
同じ頃、日本だけでなく世界各国で発生したO-157に対してもフコイダンを含むもずくに効果があることが、株式会社海産物のきむらやと島根大学の共同研究で発見されます。2005年には株式会社ヤクルト本社中央研究所がフコイダンのピロリ菌への効果を発表しています。
現在でも島根大学、九州大学や琉球大学などの国立大学や、産官学のネットワークである函館マリンバイオクラスターなどの団体においてもフコイダン研究が進められています。
フコイダンの臨床研究や、エビデンスの蓄積、商品開発で世界的にも評価の高い、島根県に本社がある海産物のきむらやの取締役部長兼開発室長を務める三木康成氏は、今後のフコイダン研究について、以下のように話しています。
「今後のフコイダンの研究は、最先端のバイオテクノロジーを用いた再生医療分野への応用をめざして大学との共同研究を進める計画です。
すでに、海外からも頻繁に問い合わせがありますが、当社が抽出・精製する『高分子もずくフコイダン』が、米国でFDAに登録された成分になれば、海外展開も一段と進むと期待しています。
フコイダンに関する学術的な関心は、近年は特に高まってきていて、過去20年間で科学論文の提出数が8倍になったと聞きます。2011年までに約1800論文が発表されるほどに注目度が高い分野です。日本で、企業として研究に取り組んでいるのは当社が1社だけではありません。
また、フコイダンの様々な効果効能を知っていただくために『高分子もずくフコイダン エビデンス』として、これまでの研究成果について専用のホームページを開設して公表していますが、今後も分かりやすい言葉で、研究結果を発表していきたいと思っています。」
(以上、ライブドアニュース 2013年3月11日より引用・抜粋)[※16]
2017年の9月には(公財)日本健康・栄養食品協会(JHNFA)によってフコイダン製品の定性試験法と同原料・製品に対する定量試験法が定められ[※4]、これからより安全性と質、そして確かなエビデンスのあるフコイダンが市場に流通することが期待されます。
フコイダンは海藻類の中でも褐藻類の中に多く含まれます。
■もずく
フコイダンが最も多く含まれるとされています。フコイダンだけでなく、必須アミノ酸やミネラル、カルシウム、ビタミンも豊富です。
■メカブ
メカブ由来のフコイダンは粘り気がより強いとされ、メカブに含まれるフコイダンの含有量はモズクについで多いとされます。アルギン酸やEPA、ミネラルも豊富に含まれます。
■がごめ昆布
強いねばりが特徴で、がこめ昆布にしかないフコイダンが存在していることが知られています。アルギン酸や昆布のミネラルや鉄分も豊富で、函館のお土産としても人気です。
■アカモク
「最強の海藻」「スーパーフード」としても注目を浴びるアカモク。かつてもずくに一番多くフコイダンが含まれているといわれていましたが、近年はアカモクにより多くのフコイダンが含まれていることがわかってきました。
フコイダン研究と商品開発に力を注ぐ宝ヘルスケア(株)では、フコイダンが活発に働くためには腸内環境が大切であり、そのためには乳酸菌によって腸内環境を整えておく必要がある、報告しています。[※17]
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所では、フコイダンの安全性について、サプリメントなどの濃縮物については十分なデータがない、としています。[※18]
一方で、NPO法人フコイダン研究所では、薬と一の併用でも問題がないとしており、他にも多くのフコイダン研究において、健康被害に関する報告はなされていません。
また、がんの治療を終えた人や、がんの治療中で抗がん剤やホルモン剤を服用中の人26名を対象にした安全性試験[※19]でも、ガゴメ昆布フコイダンの長期摂取(8週間)における健康被害は報告されない、といったレポートもあります。