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亜麻仁油の効果とその作用

亜麻仁油とは、亜麻という一年草の種子から抽出した油です。悪玉コレステロールを減らす効果があるため、健康目的で利用されています。ここでは、亜麻の種子の効果と亜麻仁油の効果、含有成分がよく似ているえごま油(しそ油)との違いを解説しています。また、亜麻仁油ならではの効果効能、作用、副作用の情報もまとめています。

亜麻仁油とはどのような成分か

亜麻仁油は、亜麻(アマ科アマ属の一年草)の種子から抽出された植物油です。古代ギリシャの医学者ヒポクラテスは亜麻仁油が健康に有効だとしていました。

亜麻仁油の原材料は亜麻の種子なので混同されがちですが、亜麻仁油と亜麻の種子では含有成分と作用が異なります。

亜麻の種子には女性ホルモンと似た作用をもつ成分や食物繊維が豊富に含まれているため、便秘・婦人疾患・体重減少などの効果が期待できます。対して、亜麻仁油を構成しているのは数種類の脂肪酸です。そのため亜麻の種子と同様の効果は得られません。

亜麻仁油は、主に「α-リノレン酸」という脂肪酸で構成されており、悪玉コレステロールの量を減らす効果が期待できます。[※1][※2]

また、亜麻仁油はえごま油(シソからとれる油)と主成分が同じです。どちらもα-リノレン酸、オレイン酸、リノール酸の順に多く含んでいます。

違いは含有成分の割合。えごま油の90%は脂肪酸(α-リノレン酸、オレイン酸、リノール酸)で構成されています。対して亜麻仁油を構成する脂肪酸は85%。残りの15%はビタミンAやβ-カロテン、ビタミンE、ビタミンKなどで構成されています。

脂肪酸とビタミンをバランスよく摂取したい人は、亜麻仁油を摂取すると良いでしょう。

亜麻仁油の効果・効能

亜麻仁油を摂取することによって次のような効果が期待できます。ただし、その確かな効果を立証できる研究結果はまだ報告されていません。[※1]

■高コレステロール血症の血圧低下

高コレステロール血症の人は、亜麻仁油を含むサプリメントの摂取が血圧低下に役立つ可能性があります。

■動脈硬化の予防

α-リノレン酸(亜麻仁油の主成分)は、悪玉コレステロール値を低下させ、血管を柔軟にするため、動脈硬化の予防につながると考えられています。

■心疾患の悪化を防ぐ効果

既に心疾患を抱えている場合、α-リノレン酸(亜麻仁油の主成分)を摂取すると死亡リスクが低下するといわれています。

■がん予防

α-リノレン酸(亜麻仁油の主成分)が多い人はがんの発症率が低いことから、がん予防に有効と考えられています。

■抗炎症効果

炎症を抑える成分が含まれているため、腫れやむくみの予防に効果的です。

■注意欠陥多動性障害の改善

亜麻仁油の摂取によって、子どもの注意力や衝動性が改善する可能性があるといわれています。

■ドライアイ改善

亜麻仁油の摂取によって、乾燥による目のかゆみや痛み、ドライアイなどの症状が軽減します。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

亜麻仁油の半分以上を構成するα-リノレン酸。亜麻仁油の作用のほとんどは、このα-リノレン酸によるものです。

まずα-リノレン酸には、悪玉コレステロールを減らすはたらきがあります。中性脂肪と悪玉コレステロールが増えると血栓ができやすくなり、血液の流れが悪くなります。すると、血を巡らせるために無理な圧がかかり、血圧が上昇します。そのため、悪玉コレステロールを減少させるα-リノレン酸の作用は、高血圧予防につながります。

くわえて、α-リノレン酸には血管を柔軟にするはたらきもあるため、血管のもろさや血栓が原因でおこる動脈硬化を予防します。

また、α-リノレン酸には、炎症を引き起こす物質のはたらきを抑制する作用もあります。そのため、炎症による腫れやむくみの緩和にも有効です。

α-リノレン酸は、体内でDHAやEPA(脳細胞にはたらきかける脂肪酸)に変換されます。脳細胞が活性化すると集中力が高まるため、注意欠陥多動性障害の改善につながる可能性があります。

また、どの成分によるはたらきか明らかになっていませんが、亜麻仁油を摂取すると涙がつくられ、ドライアイの症状がやわらぐという臨床試験結果も報告されています。[※1]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

普段の食事が肉中心の人は脂肪酸のバランスが偏っているため、亜麻仁油を摂ることをおすすめします。とくに青魚が苦手な人は、α-リノレン酸が不足している可能性が高いです。亜麻仁油にはα-リノレン酸が豊富に含まれているので、不足している分を補いましょう。[※3]

亜麻仁油の摂取目安量・上限摂取量

亜麻仁油の経口摂取の目安量は1日あたり15~30mlです。30ml以上摂取すると下痢や軟便がおこる可能性があるため、摂り過ぎに注意してください。[※1]

亜麻仁油のエビデンス(科学的根拠)

亜麻仁油だけを利用した研究データは残念ながら少ないようです。日本では、亜麻仁油をはじめ複数の食物油を混ぜたもの、または亜麻仁粉末を用いた研究データが多くみられました。

ここでは、亜麻仁油としての効果を知るために、海外の研究データをご紹介します。

1990年、Central Institute for Cardiovascular Research(心臓血管研究センター)に所属する研究者Singer Pらは、食物油摂取の比較実験を行いました。

実験の対象となったのは高血圧の男性患者44名です。被験者はそれぞれ、亜麻仁油・ひまわり油・オリーブ油を摂取するグループにわけられ、対象の油を1日20ml×3回、2週間継続摂取しました。

実験の結果、亜麻仁油とひまわり油は悪玉コレステロールと中性脂肪の値を低下したと報告されています。

また、亜麻仁油を摂取したグループのみ、総コレステロール値(善玉コレステロール含む)があまり低下しなかったことから、亜麻仁油は悪玉コレステロール値だけを下げる効果が期待できます。[※4]

また2007年には、Harokopio University(ヘロコピポ大学)の栄養学科に所属する研究者Paschos GKらが、食物油摂取による血圧への影響を調査しました。実験に用いられたのは紅花油と亜麻仁油です。

被験者は、紅花油を摂取するグループ(28名)と亜麻仁油を摂取するグループ(59名)にわけられ、12週間摂取を継続してもらいました。

検証後に2グループの血圧を比較したところ、亜麻仁油を摂取したグループの血圧が大幅に低下。この実験結果から、亜麻仁油には血圧低下作用があると考えられています。[※9]

研究のきっかけ(歴史・背景)

亜麻仁油は、古代ギリシャから健康によい油として重宝されてきた歴史があります。17世紀(1601~1700年)頃にアメリカ大陸へ渡り、江戸時代元禄(1688~1704年)に日本に伝わったといわれています。この頃、亜麻は中国から輸入するものでした。

日本での栽培は、1870~1960年にかけて北海道で行われました。しかし、当時は主に繊維の材料とし栽培されていたため、化学繊維が登場したことにより生産が途絶えました。

その後、2002年に北海道の当別町で亜麻の栽培が復活し、健康成分としても注目されるようになりました。

現在は亜麻の効果に関する研究が進められていますが、亜麻仁油としての研究データはまだ少ないのが現状です。[※5]

専門家の見解(監修者のコメント)

株式会社ツムラの中央研究所部長、国立がんセンター研究所のがん予防研究部第一次予防研究室室長、東京銀座クリニックの院長を兼任する福田一典氏は、亜麻仁油の抗がん作用について次のように解説しています。

「亜麻仁油、及び紫蘇油は、ω-3系不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富に含まれているのです。α-リノレン酸は必須脂肪酸で、体内でDHAやEPAに変換するので、DHAやEPAと同様の抗がん作用が期待できます」(『がんに効く食事 がんを悪くする食事』より引用)[※6]

必須脂肪酸とは、体内でつくれないため、食品から摂取する必要がある脂肪酸のことです。α-リノレン酸、DHA、EPAなどが該当します。

亜麻仁油を摂取するとα-リノレン酸を補えるほか、体内でDHAやEPAに変換できるので、必須脂肪酸を効率よく摂取できるでしょう。亜麻仁油に直接的な抗がん作用はありませんが、体内で変換されたDHAやEPAには抗がん作用が期待できます。

また、福田氏は、亜麻仁油のがん治療への応用について次のように解説しています。

「欧米では、亜麻仁や亜麻仁油が栄養や健康面から高く評価され、食生活に欠かせない食物として人気があり、実際、がんの食事療法を行う際にも、欧米では非常に多く使用されています」(『がんに効く食事 がんを悪くする食事』より引用)[※6]

日本ではまだあまり知られていませんが、欧米では亜麻仁や亜麻仁油を使った食事療法ががん患者に利用されているそうです。今後、日本でも亜麻仁や亜麻仁油ががんの食事療法に用いられることでしょう。

亜麻仁油の利用方法

亜麻仁油は加熱すると栄養素が抜けてしまいます。料理に使う場合は火にかけず、混ぜるだけで完成するドレッシングやソースに利用するのがおすすめです。

また、亜麻仁油を使ったオイルマッサージも人気です。ただし、亜麻仁油は酸化しやすいため、早めに使い切る必要があります。[※7]酸化したものを肌に塗ると、かぶれや炎症を引き起こす可能性があるため、注意しましょう。肌が敏感な人は、必ずパッチテストを行ってから利用してください。

一緒に摂るべき成分

亜麻仁油の主成分は脂肪酸(α-リノレン酸)です。脂肪酸は単体摂取してしまうと副作用が起こることがあるため、複数の脂肪酸をバランスよく摂取しましょう。

亜麻仁油を摂るときは、飽和脂肪酸やオレイン酸を意識的に摂取することが大切です。

飽和脂肪酸が多く含まれるのは肉や牛乳、バターなど。

オレイン酸はオリーブ油やアボカド、ナッツなどに含まれています。[※8]

亜麻仁油の副作用

亜麻仁油には排便を促す作用があるため、大量に摂取すると軟便や下痢などの副作用がおこります。

また、亜麻仁油には血液をサラサラにする作用があるため、出血性疾患を抱えている人は出血のリスクが高まる可能性があります。2週間以内に手術を控えている人が摂取すると、手術時に血が止まらなくなるおそれがあるため、使用を避けてください。

妊娠第2~3期の妊婦が亜麻仁油を摂取すると早産になるリスクが高まるという試験結果があります。安全性を考えるなら、妊娠・授乳中は亜麻仁油の摂取を避けましょう。

また、亜麻仁油を摂取するために亜麻の種子を食べる場合にも注意が必要です。亜麻の種子を水なしで摂取したり、腸の炎症があるときに摂取したりすると、腸のはたらきを妨げてしまうおそれがあります。[※1]

注意すべき相互作用

亜麻仁油と同じ作用をもつ医薬品を併用すると、作用や副作用が相乗するため危険です。

■血液凝固を抑制する薬・ハーブ

以下の医薬品・ハーブを使用中の人は出血リスクが高まるおそれがあるため、亜麻仁油を摂取しないでください。

医薬品 ハーブ
  • アスピリン
  • クロピドグレル硫酸塩
  • ジクロフェナクナトリウム
  • イブプロフェン
  • ナプロキセン
  • ダルテパリンナトリウム
  • エノキサパリンナトリウム
  • ヘパリン
  • チクロピジン塩酸塩
  • ワルファリンカリウム
  • キャッツクロー
  • クコ
  • イラクサ

■血圧を下げる医薬品・ハーブ

以下の医薬品・ハーブを使用中の人は血圧が下がり過ぎるおそれがあるため、亜麻仁油を摂取しないでください。

医薬品 ハーブ
  • カプトプリル
  • エナラプリルマレイン酸塩
  • ロサルタンカリウム
  • バルサルタン
  • ジルチアゼム塩酸塩
  • アムロジピンベシル酸塩
  • ヒドロクロロチアジド
  • フロセミド
  • アンゼリカ
  • クローブ
  • タンジン
  • ニンニク
  • ショウガ
  • イチョウ
  • 朝鮮人参

また、亜麻仁油と似た効果をもつ成分(アンドログラフィス、カゼイン・ペプチド、コエンザイムQ10、魚油、L-アルギニン、テアニンなど)を含むサプリメントの併用摂取も避けましょう。[※1]