稲毛病院 佐藤 務先生

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肉体だけでなく心も大事 人間を丸ごと見る医師

稲毛病院 健康支援科 部長 佐藤 務

経歴

1990年、国立宮崎医科大学卒業。同年、都内民間病院に入職。内科、外科、整形外科、麻酔、ペインクリニック、漢方、鍼灸などを研修。1995年、こもん会稲毛病院整形外科入職。1996年に漢方肥満外来、1997年にビタミン栄養療法外来、2000年に健康支援科を新設。現在は同院の整形外科・健康支援科部長、昭和大学医学部統合医学科講師も務める。日本ビタミン学会評議員。

インタビュー

佐藤先生の専門は整形外科医でありながら内科や東洋医学、予防医学を含む統合医療を展開。東日本大震災の時には被災者だけでなく被災地で活動しているすべての人にむけて「体」だけでなく「心」にまで配慮した栄養指導や健康補助食品の有効な利用法について、アドバイスや情報発信などを行ったことでも知られている。

ビタミン外来のなかで先生が留意されていることや
最近の患者さんの傾向があれば教えてください。

1997年にサプリメントの摂り方を指導するビタミン外来を立ち上げて以来、相談内容には時代に即し大きな潮流があります。一貫してあるのがダイエットの相談ですが、その内容も昔の「体だけ、今だけダイエット」が、現在は心も含めた心身両方の健康をコントロールするものに変化してきています。ビタミン外来で私が一番大切にしていることは人間を丸ごと診るということで、心身全体と人生全体という2つの観点から患者さんを診ていくことです。患者さんにも自身の健康状態を、臓器や今という部分や一点で判断するのではなく、心身全体を良くすることで部分を癒し、人生の中で今どこを生きていてその年齢にふさわしい健康づくりは何かを知っていただき実践していただく必要があります。

人間全体や人生全体を看るということは
サプリメント外来では心も診るということでしょうか?

サプリメントも医薬品もその研究開発は動物実験がベースになっていますが、人間と動物は異なりますから簡単に当てはめることはできません。一番大きな違いは人間には心があることです。人間の場合はむしろ体より心のほうが重要で、心をコントロールしなければ体もコントロールできず健康にはなれません。多くの医療者が「体が健康になれば心も健康になる」と思っていますが、それは大きな間違いです。

何より摂取した栄養素は心と体では使われ方が異なります。材料が違うだけであれば解決法は簡単です。問題はその材料がただ異なるだけでなく、相反したり拮抗したりすることです。つまり体を良くしようと何かを摂ると心を停滞させることがあるのです。その逆も然り。木を見て森を見ず、部分を改善することで全体の改善を期待しても難しいということ肝に銘じて健康づくりや治療法を構築していかなければなりません。

言われると理解できますが、体を良くしようとして
心を停滞させることがあるとは知りませんでした。

重要なことは人間の見方をこれまでの動物の延長線上ではなく人間独自のものに変える必要があります。それがビタミン外来で提案している人間独自の代謝「精神代謝」の概念です。本能で生きる人間以外の動物にとって脳(心)は体の一部(従属物)に他なりません。一方、本能が壊れた人間にとって「心」は体から独立し独自の代謝を有する生きる主体です。人間の心身を別々に分けて考えなければならない理由は、材料の問題だけではありません。実は成長のピークも異なるのです。身体の代謝は20代で成熟するのに対し、精神代謝のピークは60歳です。ということは健康づくりでいう栄養やサプリメントや運動法、睡眠の取り方が20歳と60歳で同じであるはずがないのです。動物実験のデータに加え、人間という種族共通のデータを揃え、それをすべての人間に当てはめようという考えがおかしいのは誰もがわかると思います。まず人間を知り、人間に対する正しい見方を構築することが重要ではないでしょうか?

心を元気に保つためにサプリメントを効率的に摂る方法はありますか?

まずはビタミン・ミネラルを不足させないことが重要です。ビタミン・ミネラルは心身両方の代謝に共通するだけでなく、体内での変換効率が低く、個々に代わりが効かない栄養素だからです。またタンパク質も心身両方に重要な栄養素です。

事実、栄養学では年齢を重ねるごとにカロリーを抑える必要はありますが、タンパク質とビタミン・ミネラルだけは減らしてはいけません。先に話したように心の成長のピークは閉経より先の60歳で人間の生きる目的は種の保存だけでなくむしろ心の満足にあるのです。心の維持は人間のすべての活動に関与しているのです。例えばダイエットが三日坊主に終わる理由も心が作れなくなるからです。ダイエットの際、カロリー制限で食事量を減らすと、カロリーだけでなくビタミンやミネラルの摂取量も減ります。その状況で運動をすると、運動時に最も必要な補酵素ビタミンB群(特にB3)は食事を減らしたために、すぐ枯渇します。するとそのビタミンを補うためにアミノ酸であるトリプトファンが変換され消費されます。このアミノ酸は脳でセロトニンという「うつ」を予防する物質、さらにメラトニンという睡眠を維持する物質になるため、これが不足すればうつ傾向、睡眠不足が出現、モチベーションを失いやる気が維持できなくなってしまうのです。人間のダイエットにはまず心の栄養が不足しないよう配慮する必要があるのです。

最後に読者へメッセージをお願いします。

もう一度一人ひとりが健康の定義をきちんと考え直す必要があります。多くの人が健康と病気を同じ土俵で語り「病気になりたくない」「病気は悪い事」と考えますが、病気にならない人などいませんし、病気は健康づくりのモチベーションになり、病気は健康の一部になり得るのです。例え病気であってもその時の「心の能力」と「体の能力」を最大限引き出し、自身の生きがいを追求する生活ができることが大切です。あるがん患者さんは、がんになってから自分の生きがいが山登りと気づきエベレストまで登りました。その生き方は生きがいを追求するだけでなく、多くのがん患者さんを勇気づけました。この方を不健康といえるでしょうか? 病気にならない人などいませんし、死なない人もいません。心と健康のバランスを保ちながら心と体の能力を十分に発揮し、社会のなかで生きがいを追求していくことが「真の健康」です。

基本情報

  • 所属稲毛病院
  • 所在地千葉市稲毛区小仲台6-21-3
  • 最寄り駅稲毛駅
  • TEL043-253-7211
  • ホームページhttp://www15.ocn.ne.jp/

著書