東京都健康長寿医療センター 金 憲経先生

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運動機能の改善が高齢者の健康を維持する

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター テーマリーダー
 金 憲経先生

経歴

1984年慶北大学校(韓国)体育学部体育教育科卒業、1994年筑波大学大学院スポーツ科学研究科修了後、1996年同大学体育科学系講師就任。1998年より東京都老人総合研究所(現:東京都健康長寿医療センター)主任研究員を経て現職。体育科学博士。

インタビュー

長年に渡り高齢者の運動機能改善の為の研究に携わってきた金先生。高齢化社会が進む日本で、その研究は今後ますます重要になるであろうことは容易に想像がつく。

教授が高齢者の運動機能改善の研究に進んだきっかけをお教えいただけますでしょうか。

競技としてではなく健康のためにどう運動すればいいのかに興味があって慶北大学校(韓国)体育学部体育教育科に進学をしました。きっかけという意味では大学進学時にその分野に進みたいと決めていたことになります。ただ、当時の韓国では健康増進の為の運動に関して社会的な認知度はあまり高いとは言えず、同校を卒業後、しばらくしてから日本の文部科学省の国費留学生となるチャンスを得て、筑波大学大学院スポーツ科学研究科に留学生として来日しました。筑波大学でも”運動処方”を専門とし、同院にて博士号を取得したのち、同大学の講師をしておりました。その後、機会があって東京都老人総合研究所に行くことになり現在に至ります。

東京都健康長寿医療センター研究所では
どのような研究をされているのでしょうか。

東京都健康長寿医療センター研究所は、1972年開設され高齢社会がもたらす諸問題の解決に向けた研究に先進的に取り組んでいた東京都老人総合研究所が、2009年4月に同じキャンパスにあった東京都老人医療センターと一体化するかたちで地方独立行政法人として再スタートを切った組織です。

私が当研究所に来たのは、当時研究所に居られた鈴木隆雄先生(現:国立長寿医療センター研究所所長)が骨の専門家で骨粗しょう症とか骨折などの研究に取り組んでおられており、その予防の為のプログラムを開発する為です。高齢者の骨折を予防する為には転倒を予防することになりますが、当時、研究所には症状を診ることができる医師の方は居りましたが、予防の為の運動プログラムの策定まではできていませんでした。そこで、私が筑波大学から当研究所に移って高齢者の転倒予防の研究を行うことになったのです。高齢者の転倒予防の為の運動プログラムは地域団体で実施されることが多く、そういった地域の各団体が活用できるようなプログラムを開発・策定しておりました。その後、高齢者の尿漏れ・失禁の改善の為のプログラムを策定、高齢者のサルコペニア改善のための研究をし、現在に至ります。

フレイルという言葉を最近、耳にしますがこちらについてお教え頂けますか。

日本老年医学会が、高齢になって筋力や活力が衰えた段階を「フレイル」と名付け、予防に取り組むとする提言をまとめました。これまでは「老化現象」として見過ごされていましたが、統一した名称をつくることで医療や介護の現場の意識改革を目指すためです。 フレイルは「虚弱」を意味する英語「frailty」からきていますが、健康と病気の「中間的な段階」で、提言では、75歳以上の多くはこの段階を経て要介護状態に陥るとしております。高齢になるにつれて筋量の減少に伴う筋力の衰えあるいは歩行速度の低下現象が「サルコペニア」と呼ばれ、さらに生活機能が全般的に低くなると「フレイル」となるのです。 米国老年医学会の評価法では、①移動能力の低下②握力の低下③体重の減少④疲労感の自覚⑤活動レベルの低下のうち、三つが当てはまると、この段階と認定しております。 ちょうど、この研究が終わったところで間もなく情報発信ができると思います。

以前、ロコモティブシンドロームについては本サイトで詳しくお話を伺いましたが、
今後、先生はどのような研究をされていかれるのでしょうか。

以前の研究がひと段落し、これからサルコペニア肥満についての研究を始めようとしています。サルコペニアが加齢による筋肉量の減少を指すのに対して、サルコペニア肥満は筋肉量の減少と肥満の両方をあわせもつ状態です。サルコペニア肥満は通常の肥満よりも高血圧などの生活習慣病などにかかりやすく、また運動能力、特に歩行能力を低下させるため、寝たきりになるリスクを高めます。また、サルコペニア肥満は高齢者だけが注意すればいい問題ではなく、若い人たちの間でも予備軍が見られます。さらに、隠れ肥満ではなく隠れサルコペニア肥満というものも問題になっております。隠れサルコペニア肥満は筋肉量が減少し、脂肪が増加するため、全体として体重や体型が変わらない場合があるため、外見上は気づきにくいことが多いです。そのため、発見が遅れがちで、生活習慣病などが進行しやすくなります。生活習慣病は後々、サルコペニア、そしてロコモティブシンドロームになる原因となりますので、若い世代の方はまずは生活習慣病にならないことを意識してください。

基本情報


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  • 所属地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター
  • 所在地東京都板橋区栄町35番2号
  • 最寄り駅大山駅
  • TEL03-3964-3241
  • ホームページhttp://www.tmghig.jp/